第7陣:動き出す陰謀
ここから私の趣味にある恒例のネタが入っておりますが……気にしないで(笑)
あの日、漆黒の死神という言葉に引っ掛かりを覚えたハルトに問い詰められた俺は機密の存在である特案室の事を告げずに帝国軍に所属していたからその名が知れていると無理矢理に誤魔化す事で事なきを……得てはいないか。
勘が妙に鋭いハルトから余計に怪しまれている。だが俺にはやるべき事がある。
6月に開催される軍事祭とかいう帝国軍事学校独特のトーナメント方式で優勝を果たすという目標。
俺が教官になったからには必ず0組を勝利へと導かせてもらう。手を抜くのは俺の性分では無いからな。
「よし、今日はこれで切り上げる。明日までにはしっかり身体を休めて火曜に幕が上がる軍事祭に備えておけよ」
2ヶ月。数字だけで見るとこの数字は指で数えてしまえば、あっという間に過ぎ去ってしまうが実際に体感すると長い感覚を受ける。
アイリスが勝利した祝杯をあげてから指導していくと様々なトラブルに見舞われる事も多々あったが、そこは俺が助言するわけでもなく生徒同士で解決したりなど俺としての立場が危ういと感じる時もあった。
特にアイリスは3人の中では元気もあってか皆のまとめ役も担いながら、士気を上げるなどの活躍ぶり。
そして黄色の長い髪を度々自慢するレイピアは一日一日の戦いを事細かに分析して、二人に改善策などを提案する。
最後にいつも真顔で表情を変えないハルトは二人の後ろに立ちながらも静かにサポートをしていく。
日にちが経つにつれ次第に3人の力は強力になっていく。最初は簡単に捻り潰せたが、最終的には俺の持つ太刀では立ち向かうのが難しく感じるくらいには結集していた。
「それにしても、惜しかったですわ。後もう少しでアイリスがあの場面で間合いを取れば……勝てたかもしれないのに」
「教官が動きが俊敏だったので、対応が遅れちゃった」
「もしハート教官が負けたら、教官としての立場が無くなる恐れが充分に高いが」
ちっ、こいつら……俺に勝てたからって随分と図に乗っているじゃねえか。言っておくが、この毎日授業でおこなわれる試合は1体3の不利なバトルなんだぞ。
大体3人で俺に向かって本気で魔法やら武器やらを引っ提げて殺しに掛かるのだから対応するにも、それなりの動きをしないと対応出来ない。それで、余計な体力を使うのだが。
「余計な言葉を投げ掛けるのなら、お前達の内申点を下げてやる。それが嫌なら早々に立ち去れ」
「それ、職権乱用ですよ」
「良いから、さっさと去れ。明日早いんだから早く寝ろ」
生徒3人を部屋から出して部屋が静まるのを確認してから、俺はその場で倒れて何にも変化しない天井を呆然で見つめていると右腕に何か固い物がぶつかる。
これは……水か。
「お疲れ。随分と痩せ細っているじゃない」
「あいつら、日に日に腕が上達している。これなら明日の軍事祭で優勝は待ったなしだが、あの3人を相手にするには身体に堪える。次にやるとしたら」
レーナの力を借りて、立ち向かうしか無い。この太刀では限界を迎えるからな。上半身を起こして、レーナが買ってきたと思われる飲料水を半分まで飲み身体全体を起こして身体をほぐしていく。
「明日に軍事祭。ふふっ、どうなるかしら……」
「勝ってくれないと困る。俺が指導したからにはな」
「そうね。けど、さっきからあなたの表情は固いまま。一体何があったのかしら?」
俺が2ヶ月前に出会った中年の男性。奴は何者で何が目的だ?未だに姿を現さないが、俺が不用意に発した軍事祭という一言で奴はかなり興味深い表情かつ怪しい表情を見せていた。
もしかしたら会場で何かを仕掛けてくる可能性は大いにあり得る。だが、俺が他の教官や校長にどう伝えようが否定されるのは結果に見えている。
今は様子見しかないか。とにかく明日の軍事祭であいつら3人が優勝を果たすと信じよう。
「今日は寝る。当日になったらお前は何処かで応援しとけ。お前は学校では部外者扱いとして扱われているからな」
「ふ~ん、分かったわ」
話を真面目に聞いているのか、あいつは……面倒そうな感じで部屋から立ち去ったレーナ。
俺は明日に備える為に雑用を難なくこなすクラウスさんが作って頂いた夕食を食べて、準備を軽く済ませて就寝に入る。
これから起こる暴動を知らずに。
※※※※
「準備完了。後はお前が指示を出せば突っ込むように出来ている」
帝都ナグナロクの中心街を一望出来る山岳に潜む3人の人物。1人は複数待機している狼型の機械獣に自由自在に動かせるようにコントロールする。
そしてもう1人は明日に備えて紫色の怪しき色彩を放つ刀身を鋭くする為に研いでいる。
「明日には大きな花火が上がるでしょう。忘れない歴史が刻まれる素晴らしき瞬間を!」
「ドレイク、あんた……あの男に出会ったんだろ?この作戦を阻害される可能性があるんじゃないか?」
片目の女性は刀を研ぎながらも漆黒の死神が居る事に警戒心を示す。
しかし、直接この目で出会ったドレイクは至って冷静な表情で分析する。
「問題はありません。例え、死神が居ようと……この作戦は必ず成功させます。私を地獄に落としたあの男に天罰を下さなければならないのでね」
「それは、同意だよ。あいつのお陰であたいの故郷は」
獣の声が蠢く山岳に潜む3人は夜が明けるまで時期を待つ。
全てはあの男に天罰を下す為に。
※※※※
6月半ばの温度が妙に熱い朝。いよいよ1年の生徒達が今か今と待ち望んでいた軍事祭が幕を開く。
場所は中心校舎の左手にある会場のような広さを誇ったドーム型で観客席は生徒と教官、そして観客席よりもワンランク高い特別観客席にはアグニカ帝国で帝国軍全体の管理を束ねるハーマン少将と帝国軍に置いて知将と呼ばれているマッカン少佐が在席している。
どうやら警備も厳重で二人の護衛に複数人が守りを固めている。そんな張り詰めた状況の中で開催された軍事祭の最初の対戦相手を俺を含めた4人は特別観客席の頭にある電子ボードを眺めて確認する。
「相手は3組。確か、連中は魔法よりも武器専門の実力主義者で担当の武術教官の名前はマイアス教官だったな」
「強いんですか?」
武器の扱いに置いては優秀な人材が多いと風の噂で流れているが……0組に限っては眼中に無い程の雑魚。
この3人が力を合わせれば簡単に瞬殺されるのは目に見えている。
「ふっ、お前達にとっては雑魚同然。軽く捻り潰してやれ」
「はい!やってやります!ハルト君、レイピアさん!お互いにベストなプレイで力を合わせて優秀目指しましょう!」
円を囲むようにコンタクトを送るアイリスに対してレイピアは恥ずかしながらも指示に従う。
一方のハルトは無言で近づき円円を囲こむ準備をしているアイリスとレイピアのそれぞれの手を繋ぐ。そして……
「皆、ハート教官そして私達の為にも必ず!優勝を果たすそう!!」
「負けるつもりは無い」
「勿論!」
意気込みを確認する3人。一回戦はいきなり俺が指導する0組と武器に長けた3組の火蓋が切られる。
「第34回アグニカ帝国軍事学校祭が開幕です!まず最初に戦いの場に立つのは……物理で薙ぎ倒す3組!そして今年から新たに創設された謎だらけの0組だぁぁ!」
0組の存在は無論1組から7組に知れ渡っている。しかし0組は中央校舎から離れた東校舎で他クラスとは関係を一切持たないが故に学校の生徒から謎のクラスとして認識されており、その教官である俺も注目されている。
試合開始は作戦を決める猶予が予めあるので5分間は試合が始まらない。
だからその間に俺は観客席へと席に着こうと思っていたのだが、携帯型のデヴァイスからよく知る人物のメールが届く。
「こんな時に」
試合が始まる時に会場から出ろだと。ガン無視しようと決めもうとした瞬間に同じ内容のメールが何件もひっきりなしに届くので仕方無しに会場を出て軽く辺りを見渡すと俺の後ろから何か重い物がのし掛かる。
「おい、こら。離れろ」
「久しぶり」
良いから、さっさと離れろよ。背中にしがみつくミューを追い払う事に躍起になっているといつの間にか現れてきたクロノが笑顔で手を頭上に持って左右に振る。
「教官になって2ヶ月かぁ。いやあ、懐かしい再会だな!あはははっ!」
「レグナスが居ないから部隊が締まらない。クロノだと煩いから任務に集中できない」
そうか……よ!!
「レグナス、危ない。そんなに振り回されたら回避せざるを得ない」
「いつまでものし掛かるな!それよりもお前達は何の御用で来た?まさか鑑賞する為にわざわざ来たんじゃないよな?」
特案部隊がこの場所に来るという事は余り良い知らせでは無いのは確か。こいつらはどんな任務で来やがったんだ?
「ちょっと、野暮でね。俺達の任務は特別鑑賞席で優雅に辺りを見渡すハーマン少将とマッカン少佐に忍び寄るとされる敵を警戒する為に会場周辺を散策しているって所かな」
昨日のあいつが仕掛けてくる可能性が出てきたな。こいつら特案部隊を直接動かしているのは、最近髪の毛が全く生えてこないと自分の頭皮を心配しているドミニオン大佐。今回の一件……どこまで掴んでいる?
「心配するなよ。俺達はあくまで念の為の保険だ。レグナスは自分の指導している生徒を心行くまで眺めていれば良い。その間に俺達は周辺を一応警戒するからさ」
「レグナス、いつになったら戻るの?どうしたら戻るの?」
「俺は0組の生徒が卒業するまでは戻れない。それまではクロノと仲良くしていろ。あと……くっつくな」
腕をきつく掴むミューに対して俺は何とか振り回すも中々離せない状況に陥る。
くそっ、今さまにあいつらの戦いが始まっているというのに。
「はい、そこまでだ。いい加減にしないとレグナスが怒るぞ」
「ちぇ」
クロノの仲介で何とか切り抜ける事が出来た俺は会場の方へと戻る。急がないと試合が終わってしまうからな。
「じゃあな、レグナス教官!」
「ばいばい」
頼むから何事も無く終わってくれという願い。そんな願いを抱き試合している様子が良く見える位置に立つと試合は0組が押している状況が良く見える。
というか3組の選ばれた生徒は一方的にやられている様にも見えていてトドメにハルトが容赦無く張り倒している。
その試合の様子に釘つけになった生徒や怯えている生徒など多種多様に見学している。
そして最後によれよれと身体を頑張って起こすリーダーらしき人物はアイリスの灼熱魔法で今度こそ死なない程度に昇天した。俺が再び会場へと足を運んでおよそ4分。
3組など相手にならないくらいに圧倒的な完全勝利。
会場は短い時間であっという間に終わった試合に対して沈黙をしていたが、俺が静かに手を叩いた拍手で次第に音が響き渡る。
「勝者は0組!3組相手に物怖じせずに圧倒過ぎる実力を見せてくれました!」
しかし、教官の視線が妙に痛いな。3組の教官の交遊関係とやらが広いだけあって。
「0組が勝ったとなると、最後に戦う相手は」
トーナメント方式で枝分かれしている線。そこに一回戦の0組が無事に勝った。
恐らくこのまま順調に進んでいけば、魔法と武器を難なく使いこなす強豪をナイン教官が指導する1組と優勝の争いをする事になるだろう。
0組が大いに盛り上げて、一回戦目から会場内が熱に包まれる軍事祭を俺は淡々と見物していく。