表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/47

第5陣:きっかけ 

「俺がルーンに謝罪?謝る事は何一つ無いかと思われますが」

 

 みっちりと書いてあるレポートと円状の記録媒体を貰った俺はどうにか心の傷を受けているアイリスに謝罪しろと説得するも当の本人であるハルトは悪い事は一切していないと謝罪を拒否する。


「お前は昨日、アイリスに足手まといだと発言をした。それからのアイリスは本調子が出ないのか戦闘に支障をきたしている。俺としては心の傷を受けた原因を作ったお前を謝罪させる必要性が生まれた。それに……俺がアイリスだったら、お前の言葉が気になって授業に専念出来ないからな。ハルト……お前には今日中にアイリスに昨日発した言葉の撤回と謝罪をしてもらう」


 授業に専念できないというのは三時限におこなった授業の終わり間際にレイピアから聞いた事だ。

 アイリスはどうやら授業中にどこか考え事をしていて、たびたび教官に注意を受けているらしい。だから俺としては早急に事態を解決させる必要が出てきた。

 しかしハルトは昨日の発言が人を傷付ける悪い言葉だと自覚していない。

 このままでは、どう話し込もうが奴は謝罪すらせずに終わらせるだろう。そうなってはアイリスの心の傷は膨れ上がり、最終的には……どうなるだろうな。とにかく早期解決を図らなければ。


「足手まといなのは紛れもない事実でしょう。昨日アイリス・ルーンは考えなしに無闇に突進して、ハート教官に簡単に捕まったんだ。俺としては使えないというのは間違い無いかと思いますが。あの時にもし、アイリス・フォーンでは無く俺がハート教官と対峙していたら時間稼ぎくらいは出来たでしょうね」


 反省する気は無さそうだな。このまま話を進めても平行線に続いてしまいそうだ。


「確かにお前がやれば傷を受けた人員の撤回に関して想定すると多少の時間は稼げるかもな」


「だったら、アイリス・ルーンはーー」


「お前の性格が災いして、招いた惨事だと言う事を自覚しろ!言い訳は戦場では通用しない。それに俺が上官の立場ならハルトはチームから外す。お前はチームを乱す独断専行の塊だからな」


「っ!だとしても、俺は」


 ハルトにとってアイリスは足手まといだと呼ばれている。ならばアイリスがマグナスに一泡吹かせる事が出来たのなら……だが、これは一か八かの賭け事だ。

 やるのは俺では無くアイリスとハルト。しかし何事もやってみなければ分からない。


「ハルト、もし今日中にアイリスの許しがあれば明日の放課後にトレーニングルームでアイリスと正々堂々の一対一で戦ってもらう。それでお前が勝てば……」


「勝てば?」


「足手まといという言葉を気に入らんが、謝罪はしなくて良い。ただしアイリスが勝ったら……床に頭をつけて土下座だ。異存は無いな?」


 後でアイリス・ルーンにはキチンと説明しておく必要がある。勝手に戦いを設定している俺は自己中その物だからな。


「ふんっ、良いでしょう。どうせ勝つのは俺ですけど。では、次の授業があるので失礼します」


 さて、ハルトに謝罪をさせる準備は整った。次はアイリスに直接説明するだけだな。

 俺はしばらくの間トレーニングルームに入って精神を統一させてから、昼時に食堂で美味しそうなご飯を食べているアイリスに昼食後に後で屋上に来いと告げると同時に軽い食べ物で済ませる。

 その後に東校舎から出て入り口の近くにある魔法で常時冷やされている魔法販売機からオレンジの炭酸を購入を2つ買ってから再び階段を上がった先にある屋上の扉をこじ開けて日陰がある場所で昼寝を始める。


「ふ~ん、良いご身分ね」


 俺の鼻孔に甘い香りが漂うと同時に毛先が触れている。これは目を開けなくともレーナに違いない。この独特な匂いだけは間違いないからな。


「神妙そうな顔を浮かべているわね。これは何か雨でも降るかしら?困ったわね、傘なんて無いのだけど」


「降らねえよ。俺はこれから……ある賭けをする事になった。それが結果的にどう転ぶか不安になっているだけだ」


 戦いの舞台を提案したが、どちらにせよこの戦いはアイリスとハルトの気持ちが鍵となる。

 最終的にはハルトに一泡吹かせれば充分な成果であるが……資料を読み漁る限り、ハルト・レーヴンはどの数値も安定しているオールラウンダーと呼べる。

 対してアイリスは攻撃力とやらには人一倍秀でてはいるが、決断力や冷静さに置いては余り良い数値とは呼べない。

 だが俺が上手くアドバイスしてやれば、勝てない事も無い。何故ならマグナスは自分が強いと疑わない馬鹿だからだ。満身創痍している野郎は必ず痛い目を味わう。


「その感じ、心の中で何かを決めた表情を浮かべているわね。一体何を仕出かしてくれるのかしら?」


「今からアイリスと二人で話す。お前はこの場から去るかもしくは見えない所で俺達の会話を覗いていろ。ただしお前が出てきたら話が変に拗れるから終わるまではじっと待っていろ」


「はいはい、そうさせてもらうわ。部外者の私が居ても邪魔になるしね」


 やれやれ、これでレーナを追い返せたか。後はアイリスが来るまで……


「ハート教官。すいません、少し遅れました!」


「全然大丈夫だ。それよりもアイリスにこれをやる」


 俺は息を荒くして扉を開けたでアイリスに事前に炭酸ジュースを渡す。これは俺が屋上に上がる前に気づいて購入した物だ。

 アイリスは嬉しそうな顔でお礼を告げてから適当に座れそうな場所でゴクゴクと飲み干していく。

 一気に飲んで気持ち良さそうな顔を浮かべる表情を横目で見て少し安心出来た俺は単刀直入に話す。こういうのは変に溜めるよりもスパッと話した方が潔い。


「アイリス、お前……昨日から授業に専念出来ていないようだな。このままだと成績も危ういぞ」


「そんな事無いですよ!今でも私は軍事祭の為に精一杯ーー」


「強がりはよせ。お前はやはり昨日の一件で自分でも気付かない間に心の傷を受けている。原因は……ハルトが告げた一言だな?」


 ハルトという言葉に反応。どうやら外面だけは必死に元気なフリをしていても内面は嘘がつけないらしい。

 表情が固まっているアイリスに俺は続けざまに告げると話を黙っていたアイリスは耐えられないのか突然立ち上がり扉の方へと逃げようとしたので俺は次の一言でアイリスに機会を与える話を下す。


「アイリス、お前が望むのなら……明日の放課後にハルトと一対一の真剣勝負で戦って貰う。無論アイリスが無事に勝てばハルトは昨日の言葉の撤回と謝罪をする」


「そんな事をして、何の意味があるんですか?」


「お前は初めて組んだ相手に馬鹿にされている。こんな状態でアイリス・ルーンは屈辱の言葉を平気で告げるメンバーと組んで軍事祭で勝てると思うか?答えは否だ。お前にはどうにかして、あの馬鹿にしたハルトを越える必要がある。お前が首を頷けば俺は今日中にあいつと渡り合えるくらいのヒントくらいは詰め込ませられる。どうだ、この話を受けるか?」


 アイリスは目を深く閉じて黙り込む。そうして何分かの時が続くとアイリスは突然デヴァイスを前に突き出して己が得意とする灼熱の片手剣を頭上に掲げて、息を整えてから口を開く。


「ハート教官!私……やります!このままじゃハルトに足手まといだと馬鹿にされ続けるだけです。そんなのは御免です!私はハルトに一泡吹かせてギャフンと驚かせます!」


 その意気なら、勝てるかもな。後は今日中にじっくりと叩き込んで、明日に備えさせてやるだけだ。


「アイリス、お前の気合いは充分に見させて貰った。放課後の空いた時間に基礎を叩き込んでやるから覚悟はしとけよ」


「はい!」


 決意に満ちたアイリスは昨日までは見せた事の無い無邪気な笑顔を俺に見せて、嬉しそうに去っていくと同時に死角に隠れていたレーナがつまらなさそうな表情で俺を見つめる。


「良かったわね。二人だけの放課後が出来て」


「その言葉には語弊がある。俺はただ、アイリスの受けた傷を倍にして屈辱を受けたアイリスが決闘で勝利してハルトの考えを改めさせるように話を持っていったに過ぎない。それに……」


 自身の強さを疑わないハルトに強いきっかけを与えてあいつの性格は少しでも丸くなるなら、やらない訳にはいかない。

 取り合えず話したい用件を伝えてハルトに一泡吹かせるきっかけをアイリスに与えた。後は俺が勝利する確率を上げる為に背中を押す。


「ふ~ん、生徒の事についてそれなりに考えているようね。何か安心したわ。教官をやる前はとにかく無表情かつ無愛想で尚且つ襲い掛かる敵を滅多斬りにするレグナスだったから」


 考えてみれば、おかしいな。確かに教官職に就く前は襲い掛かる敵を考え無しに躊躇らわずに倒していた思いでしかない。後はレーナの小言に仕方無しに付き合うくらいか。

 今では状況もある程度落ち着いているからか、落ち着いた対応が出来るようになった気がする。全く……教官一日目でこんなに人が変わるとは思ってもみなかったぞ。


「さて、お昼も終わるし俺はそろそろこの場所を離れる。お前はこれからどうする?」


「私はしばらく空を眺めるわ。ここに来てやる事は余り無いしね。生徒の事はあなたに任せるから頑張って頂戴」


 放任か。まぁ、元々こいつは俺の付き添いという形で付いてきているだけだしどうでも良いか。


「言われんでも分かっている。やるからには本気でやるだけだ」


「それと、アイリス・ルーンが可愛いからと手を出さないようにね。そんな事をしたら教官職どころか人生を永久に失うわよ」


「誰がするか!」


 あいつは最近、暇があれば俺にちょっかいを出しやがる。最初に出会った頃はエイジにご執心だったが、今じゃあ隙さえあれば……駄目だ。落ち着いて平常心になれ!今は明日の戦いに備える為に放課後に短時間でどう指導すれば勝利に導けるかを考えろ。

 攻撃力と気合いは充分あるアイリス・ルーンをどうにかして勝たせる方法を。

 俺はもう一度部屋に戻り、ハルトの資料を読みながら勝つ為のヒントを時間が許さるまで目を通しながら考えを幾つか纏めていく。


「ハルト・レーヴン、悪いがお前には負けて貰うぞ。アイリスの為に……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ