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番外1陣:彼女の1日

 今回は犯罪方面を取り締まっているメーデン大尉のお話。いつものように任務に赴く彼女の視点が描かれていますが……実は乙女な持ち主だった事が判明します(笑)

 そんな彼女のとある1日をどうぞ!

 帝国を震撼させた出来事から数年の時が過ぎ去り、早くも帝国暦005年6月の初め。

 連絡を受け取った私はお気に入りの抱き枕を隅っこに置いてから召集された場所へ向かう。

 一応これでも部隊の代表として名に恥じぬように勤めなければならないので皆から見ても何も問題無いように服をきっちりと着こなす。

 ただ、最近帝国取締部隊として日々の仕事に明け暮れている私には化粧というお洒落な事は滅多に出来ないのが今のちょっとした悩み。


「メーデン大尉。朝早く呼びつけて申し訳無い」


 帝国取締部隊に置いて任務の発注及び具体的な指令を与えるポジションを担当するマーキュリー中佐。

 彼は普段帝国軍部のエグナス少将の秘書官でありながらも日々訪れる任務を稀に自らが調査に赴いているらしい。

 因みに私は何度かマーキュリー中佐に食事を誘われているが上手く回避している。

 何故と言われても、はっきりとは分からない。でも何となく私を狙っているような気がしてならない。

 考えすぎかもしれませんが。


「いいえ、構いません。私が呼び出されたという事は何か重要な事があると見受けられます」


 本当なら非番という大変貴重な日なので、後数時間は熟睡しておきたかったのが本音なのですがここは黙っておく事にしましょう。

 実際私が上手く会話を進めている事によりマーキュリー中佐の話が円滑に運んでいますので。


「では、非番として申し訳無いが君に緊急任務を下す。手始めにこれを見てくれ」


 渡された書類には今回の任務における概要。ペラペラと捲ってみると、最近帝国中に広がり始めたマヤクと呼ばれる違法植物を密かに売り捌いている男がアグニカ帝国の中央部から西に外れた都スタンスで見掛けたという情報をキャッチ。

 今回の私に任された任務は違法なマヤクを売り付ける取引の阻害と取引に立ち会った人物の身柄確保。

 

「まぁ、君ならその程度の人物は瞬く間に制圧出来るだろう……しかし残る問題は」


「男が取り引きを開始する時間ですね。この書類には一切記載されていないようなので写真に写っている男を知る者に、調査を悟られないよう慎重に聞き込みをしていく他ありませんね」


 そうなると、私が基地に戻るのは早くても数日。ようやく事態も落ち着いた中で早くもこんな事件を起こしてくれる犯罪者には私なりの鉄槌を振り下ろすしかありませんね。


「張り切っているみたいだけど余り無茶をしないでくれよ。君は帝国取締部隊に置いて一番に優秀な人物でありながらも……」


 何か言おうとした所で口を止めるマーキュリー中佐。

 一体何を言おうとしたのか気になる所ではありますが、任務内容からして急がないと取り引き先の情報とやらも掴めないので先を急ぐとしましょう。


「身支度をしてから現場に向かいます」


「あぁ。何か困った事があったら連絡してくれ。私は必ずや君の力になろう!」


「はい。それでは失礼します」

 

 多分今日中に戻れそうも無いので携帯食糧などの最適かつ軽い物をリュックサックに入れておく事にしましょう。

 それと、制服姿では任務に大きな支障をきたすので一般人に溶け込めるようにカジュアルな服に着替えておく方が良さそうですね。


「うーん。妙に悩みますね」

 

 服の選択は意外と難しい。いつも制服を身に纏っている私にとって数ある服の中から1つだけ選ぶというのが頭を悩ませます。

 こういう時は他人の目線から見て頂いた方が参考になるのですが。

 例えばレグナス・ハート大尉。あの人なら私情を選ばずに公式的に選んでくれそうです。


「と言っても、レグナス大尉には既にレーナという厄介な方が居ますので、私から電話を掛けたら後々面倒な事になるという可能性も考慮しなければ」


 はぁ、なんでしょう。レグナス大尉の話をしていたら胸が苦しくなってきました。

 変な事は考えずにここはスパッと決めて現場に向かいましょう。


「うん。これなら人目に付きませんね」


 選んだ服は私の髪と同じく茶色のシャツ。そこに空色のダウンジャケットを羽織って下に茶色のジーパンにしましたが、これで大丈夫でしょうか?

 人目に入らないように地味な服装にしてみたつもりなのですが。


「行ってきます」


 本来ならあそこにある抱き枕も宿屋の寝泊まりの際に持っていきたかったのですが、荷物の邪魔になりそうなので仕方無く我慢をする私。

 それよりも今回の任務調査に当たる都スタンスはここからだとそんなに遠くは無いので徒歩でも充分に行けそうです。

 暑さが過ぎ、少し寒さがちらつく朝日に歩いてく最中に見掛ける最寄りの駅の列車に乗り込み約10分間揺られる事で都スタンスに辿り着く。

 そこは帝都ラグナロク程生活は豊かな方では無く風の噂によれば違法な仕事をこなしている一般人が居るとか居ないとか。

 違法な仕事を生業をしている人も居るという意味では光の都ラストピアに負けてはいませんね。


「そこのお嬢さん。凄く美人だね!一体どこから来たんだい?」


 早速私に話し掛けるとは。ここは普通に話して上手く逃げるように持ち込み……いえ、こういう人からばれない程度に情報を拾っておく方がマヤクを売り捌いている男の筋が掴めるかもしれません。


「帝都ラグナロクから来ました」


「へぇ。ここに来たのは何か理由があるのかい?」


「観光目的で」


 ちょっと無理があったでしょうか?こんな場所に観光で来るというのは少々痛かったかも。

 案の定怪しい男が変わった目で見つめていますが、どうやら回避は出来たようです。


「ふ~ん。じゃあ、せっかく俺達の街に来たんだから楽しい所に連れて行ってあげるよ」


 私の許可無しに手を繋ぐとは大した度胸です。その点に免じて直接骨に叩き込んであげたい所ではありますが、この場所は私を避けて座り込んでいる人が多数。

 人が教われているのに助けようとしないのは感心しませんが、今は怪しい男の言いなりになっておきましょう。

 どこか落ち着いた所でケリを付けさせて貰います。


「あぁ、名前とか聞いて良いかい?」


 メーデンの名前は裏の人から知られている可能性があるので、ここは偽名で済ませておきましょう。


「メリアンです」


「メリアンか。名前に似合わず本当に美人だね」


「そんな事ありませんよ」


 怪しい男の質問に粛々と答えていく私が連れ込まれた場所は複数の若者。

 私が逃げられないように囲んでいるので、これは確実に私を襲うつもりですね。


「あの、これは」


「かなりの大物じゃねえか」


「そうだな。今日は最高についてる!」


 足を踏み出す複数の若者。余り手荒な事をしてしまうと任務に支障を起こしそうですが、教われても仕方無いのですが教われたく無いのが本音なので防衛行動に入らせて貰います。


「おいおい。見ず知らずの女の子を獣のように襲うのは感心しないなぁ」


「あぁん?てめぇ、誰だなんだよ?」


 複数の若者の足を止めた赤髪の青年は軽い挑発してから複数の若者をあっという間に体術だけで殲滅する。無事にけがも無く制圧すると赤髪の青年は私ににこりと微笑む表情を向ける。


「大丈夫でしたか、スワイスさん?」


 確か、名前はクロノ・ウェイクで階級は大尉。特案部隊に所属しているレグナス大尉の仲間であり中々にお調子者ではありますが腕は確かな実力を誇っています。

 そんな彼がこんな場所に訪れた理由には何か訳があるのでしょう。


「ウェイク大尉。お久し振りです」


「いやいや、そんな改まらなくても良いですよ。それよりも、どんな任務で来たのですか?」


「答えなくては駄目ですか?」


 基本的に他の部隊に任務を告げるというのは許されてはいないのですが。


「別に構いませんよ。俺も大佐に下された任務でこの場所に来たので。出来れば任務完了次第さっさと帰って遊びたいというのが心情なのですが」


「そうでしたか。では、互いの任務が無事に終わるように検討しましょう」


 ウェイク大尉のお陰で助かった私はお礼を告げてから調査を再び進めようとする私を何故遮るのでしょうか?


「さすがに女性1人を放置するのは俺として無理なんで協力させて欲しいですね?」


「メリットが無いと思いますが。それに私の任務に付き合っていたらあなたの任務が出来ませんよ?」


「大丈夫大丈夫。そういうのは上手く調節すれば良いし今は何よりもスワイスさんを1人だけにしたく無いのさ。いつまた、どこで襲われるか分からないし」


 断固お断りした所でウェイク大尉は私が行う任務に着いていきそうなので、仕方無く協力させておく事に。

 しかし調査している最中に話す時に階級を付けて話すのは人目に触れてしまうので任務が終わるまでは名前で呼び合う事にしました。

 それにしてもウェイク大尉が居るお陰で人避けにはなっているので結構助かりますね。

 けど、頑張って調査を進めようともマヤクを売り捌いている人物の名前でも思ってはいたのですが、結局名前も判明しないままに終わってしまったのは私としての誤算です。


「今日はお付き合い頂いてありがとうございます」


「いいや。気にしなくて良いよ。俺の方も俺なりに調査してやるからさ」


「あの今回私が調査する任務については」


「言わないですよ。言った所でどうにもならないので」


 何かと私を気に掛けるウェイク大尉に感謝しながらも調査を進めている私。

 数日間どれだけ調査をしていこうともマヤクを売り捌く場所や売人の名前も拾えないという状況。

 そんなモヤモヤとした中で固いベットを後ろ目で見ながら起きた私は身支度を整えてから宿屋を後にして、今日も手掛かりを発見しようと足を進めていく最中にウェイク大尉が私の肩を叩いてドヤ顔をしています。

 

「おはようさん。今日はスワイスさんに耳寄りな情報を差し上げよう!」


 クロノから提供された話によればマヤクという違法物を世に知らしめていく売人の名はハインド。

 どうも、取り引きは今宵の真夜中にスタンスで一番近付きがたい場所にある港の倉庫といういかにも取り引きに最適な場所で決行されるらしい。

 しかし、これ程の情報をどうしてこんなにも早く……第一、私にそこまでするメリットが無いというのに。


「どうして、そこまでするんだという顔を浮かべているねぇ。まぁ、詳しい理由は実際の真夜中の現場で説明するから楽しみに待っていてくれ。それじゃあ、今日はゆっくりと真夜中まで休んでくれ!俺は適当にぶらつくんで!」


 どこで集合するのか言おうとしたのに行ってしまったウェイク大尉。連絡先も交換していない私は考えた結果、真夜中に差し掛かる10分前に宿屋の入り口に待っていれば大丈夫だろうと判断してから色々と準備を済ませた後にベットで身体を休めつつ夜中の半月に満ち欠けた頃。


「さぁ、行きましょう」


 今は真夜中に差し掛かる12時50分。宿屋の扉を開けると眠たそうな顔で出迎えるウェイク大尉。


「ふぁぁ。まだ眠いわ」


「遊んでいたのですか?」


「いや、ちょいと他の任務に回っていたら真夜中になっちゃって案の定睡眠も取れないという事態に。緊急だか何か知らんが人使いが荒いぜ……」


「それは、そのご苦労様です」


 眠たそうな顔を浮かべているウェイク大尉には申し訳無いと思いながらも私はウェイク大尉の案内で港の倉庫の裏側の扉に入って売人と取引を持ち掛けた相手を待つ事数分。


「来たか」


 疲れきった表情で静かに見守るウェイク大尉の視線の先にあるのは2人の人物。

 2人は極力人目に晒さないように徹底的に顔を隠していたり地味な服装で誤魔化してはいますが、そうはいきません。

 今日この場で締め上げさせて貰いまーー


「待て。まだ動いちゃ駄目だ」

 

 相手に聞こえないように私の耳に指令を下すウェイク大尉。別に一緒の部隊に入っているという事では無いので命令を放棄して取引を押さえるという手段も構いませんが、ウェイク大尉には調べて貰ったという恩義があるので耐える事にしましょう。


「約束の物だ。ここに1ケースみっちりと入っている」


「ご苦労。報酬はこれに」


 互いに物々交換していき、後ろに振り変えってその場を離れていこうとする売人。

 取引の現場を片時も瞑る事無く懸命に見物していたウェイク大尉は私に指示を下す。


「売人だけを狙ってくれ。ケース男は無視で」


 冗談も大概にして下さい。私は取引の阻止をする為に両方の人物を……


「頼む」


 手を互いに合わせて決死の願いをする姿に心が折れた私は突入すると同時にデヴァイスから大剣を呼び出してハインドが発砲する魔装銃の止まない弾丸を打ち落としつつ距離を狭めてから、得物と思わしき魔装銃を木っ端微塵に真っ二つして剣先をハインドの首に持っていくとハインドは両手を挙げて降参。

 手持ちの手錠で両手を動けないように固定しているとケースを持つ男性は戦闘をしている最中に逃げ出す。


「ま、待ちなさい!」


 追いかけようとした先にウェイク大尉が立ちはだかる。彼は私がどう進もうとも行く手を遮るので私は仕方無しに諦める事に。


「大丈夫。あいつの件は俺達に任してくれ!」


「それはどういう」


「ケースを持った男に明け渡す人物は俺達特案においてアグニカ帝国内部で今もなお活動している政治家の可能性が高いのさ。今回は泳がせておくのが一番。勿論逃げて行った奴はミューに追って貰ってるから心配する必要は無しだぜ!」


 なるほど、私とは別の特案部隊の狙いは売人では無くケースを購入した男の裏で繋がる人物でしたか。

 それでウェイク大尉は私に手を回してくれたのですね。


「まぁ、でも……ありがとうございました。今回の一件にて無事に逮捕出来たので良かったです」


「おうよ。そんな事でお礼を言われるのは今日一番の最高の日だぜ!」


 ウェイク大尉はどうも舞い上がっているようですので、売人を引き連れて帰投する事にしましょう。

 しかし帰るにも列車が運行していない様子。ここは取締部隊が所有する魔装艇で迎えに来て貰いましょう。

 それで私はようやく心地良い眠りにつけますが一点だけ聞いておきたい事があるので聞いておく事にします。


「つかぬことをお聞きしますが、最近レグナス・ハート大尉はお元気にしていらっしゃいますか?」


 レグナス大尉とは2月以来……あぁ思い出すと顔から火が吹き出しそうです。とにもかくにも、私は!

 

 任務の影響で3ヶ月間も会っていないという状況。

 

 別に寂しいとかそんな事は微塵にもありませんが、せっかく特案部隊のメンバーが居る事ですし聞いておいても損は無いでしょう。


「レグナスは去年の10月には少佐に昇進しちゃう上にあの手に負えないレーナにプロポーズもするし。はぁ……偉く俺の先を行ってくれる奴になっちゃったよ。あぁ、俺も早く作らないと」


 …………えっ?


「おいおい!武器落としてんぞ!」


 そんな。いや……でも、レグナス大尉とレーナを見掛けた際に何か私の手に届かないくらいに仲がよろしかったので万が一という可能性もありましたが。ここにきて、不器用そうなレグナス大尉が自分からプロポーズ!?

 何でしょうか?ウェイク大尉から話を聞かされたお陰で私の心がポカリと空いた気分です。


「ど、ど、動揺なんかしてません。寧ろ収まる所に収まったと感心しています、はい」


「いや、けどさ……」


「こ、こ、これ以上ここに居ても意味が無いので私は別の場所で魔装艇を待つ事にします。それでは!」


 今日は早く帰って一刻も可及的速やかに寝ましょう!嫌な事はベットの中で消し去るのが何よりの手段!


「あががが!首が!首がぁぁぁ!」


「あちゃー。余計な事を話しちゃったな」


 その後無事に帰還した私の顔を見て心配そうにするマーキュリー中佐を上手く払い除けた私は寝付けない日々を1週間過ごす事になりました。

 しかし、これは決してウェイク大尉が話した内容に深く傷付いたという事でありません。

 今回の一件に置ける売人と取引現場を阻害するという任務に疲れ果てただけです!

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