表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/47

第4陣:指導開始

 朝。窓のカーテンをあらかじめ閉めていた俺はカーテンを乱暴に開いて学校周辺の景色を軽く眺めてから、正装に着替えて扉に近づくと自動で開く。

 そういえば朝飯や昼飯そして晩飯に関しては自由という指定だった筈。昨日はレーナと一緒に晩飯を食っていたから生徒達がどう過ごしていたのかがさっぱりだ。後で落ち着いた時に聞いておく事にしよう。


「おはようございます」


 誰だ?このいかにも学校に相応しくない立派な衣装を着ている年配は?


「あぁ、失礼。私は本日付でレイピア嬢様から雑用等を任される事になりましたクラウスと申します。以後宜しくお願い致します」


 レイピア・アシュタレイに仕える執事か。レイピアは勝手に部外者を招いていたのか。だが、雑用等を実行してくれるのならばかえって好都合。

 クラウスは丁寧に腰を曲げて目の前で深くお辞儀をして顔をあげたと同時に俺は自ら名前を名乗る。これからお世話になっていくかもしれないしな。


「レグナス・ハート。あなたの仕えているレイピア・アシュタレイの教育と他2人の教育を担う武術教官だ。以後お見知り置きを」


「ほぅ、あなたが……ふむ、確かにあなたの背中からただならぬオーラを感じれますな。これは相当に鍛えていたのでは?」


 クラウスの言っている言葉は何一つ間違っていない。俺は4年前までは自身に呪いを与えて、去っていった人物と対峙した際に必ず討ち果たしてやろうと躍起になっていた時代が存在していた。恐らくそのオーラと呼ばれる物を感じ取ったという訳だろう。


「さて、レグナス殿。一階の食堂に参りましょう。すでにあなた以外の生徒さんは着席して待ち構えておられますので」


 起きるのが遅かったのか。あいつらは無駄に体力だけは頑丈に出来ているみたいだな。話が終わると俺とクラウスは共に一階に降りてトレーニングルームの隣にある食堂室へと向かいながらも気になる質問をしてみる。


「学校からの許可は頂いたのですか?基本的に生徒と教官以外は立ち入り禁止とされている筈ですが」


「なにやら教官以外が一切立ち入らない不穏な教室に入ってしまったと伺いましたので、昨日私は急いで夕方頃に許可を取って雑用係として参った次第なのです」


「そうですか。迷惑を掛けると思いますが、宜しくお願いします」


「いえいえ、とんでもございません。私は仕事をするのが何よりの生き甲斐でございますので」


 扉が開くと縦一列に並ぶテーブルに朝にしては豪勢な料理が並んでいる。そこにアイリスとレイピアとハルト……


「おい、なんでなに食わぬ顔で朝食にありついている?」


「別に良いでしょ。私もここで暮らしていくつもりだし」


「ハート教官おはようございます。この紫色の女性はハート教官の知り合いなのですか?昨日も居ましたし」


 まさか、食堂にまで乱入するとは思っても見なかった。生徒もこいつの存在を気にしている事だし、朝食に入る前に軽く紹介しておくか。


「そこで遠慮無しに朝食を食べている子はレーナ。俺のパートナーとして活躍している」


「雑な説明ご苦労様。私はレーナ。エイジから生まれた召還獣で今は無表情かつ無愛想なレグナスと一緒に生きている可憐な乙女よ。皆さん宜しく♪」


 要らない事を喋るな。お前が召還獣だと言う事は基本的に口外しないと言ったばかりだろうが!


「召還獣って……けど私と同じーー」


「私は召還獣としては大変珍しい人間型として認識されているわ」 

 

 俺はレーナを睨み付けながら向かい側の席に座って、朝食を食べる前に今後の事についての話をしておく。

 レーナはまだ話があったのか無言の圧力を掛けてきたが俺は無視して話を進める。


「アイリス、レイピア。基本的な体力、魔力はこれから見ておく事にして今後は俺が指摘出来そうな箇所を指摘して6月に開催される軍事祭に備える。今は4月28日だが2ヶ月はあっという間に過ぎるから覚悟はしておけ」


「はい!」


「えぇ!」


 アイリスとレイピアの気合いは充分だな。


「ハルト、お前については状況が落ち着いたら指導していく。アイリスとレイピアと共に戦う為にな」


「分かりました」


 口ではそう言っているが、納得している表情ではないな。まぁ、昨日あんな事があったから俺とは喋りたくないのだろう。

 それにまだ使えない発言をして心の傷を受けたアイリスに謝罪をさせていない。

 どうにかしてハルトの口から謝らせないとな。


「うーん、美味しい!」


「レーナァァ、腹が空いているからと俺の朝食を取るな!クラウスさんが作ってくれた俺の分が無くなるだろうが!」


「えぇ、だってあなた。随分と物思いに耽っていたし良いかなと思ったから頂いたのだけど」


「勝手に取るな。今度その行為をやったら、俺もそうさせてもらう」


「それは勘弁して欲しいわ」


 忠告を終わらせ、俺はレーナに食べ物を幾つか奪った朝食にあり一度部屋に戻ってから授業のプログラムを確認しておく。どうやら俺は三時限を担当するらしい。

 それまでは経済学や歴史学があるから、必要な準備だけは済ませておくとするか。

 後は実習を始める為に実習地での交通網を確保したり、その場所で実際に起こっている問題を依頼として解決させるように手当たり次第に声を掛けていく必要がある。

 俺の場合は0組だけの武術教官だから、ある程度は自由に動けるが他の教官は厄介だな。15分の間に広い学校を行き来しなければならないという点に置いて。


「暇だな」


 準備は色々と差し迫っている。しかし、特案部隊の仕事よりも遥かに暇だ。部隊で在中していた時は王国復興との絶え間無い戦闘をさせられていたし、休憩は全く与えられなかったが。

 今ではそれなりの自由がある。これは良い事なのかは分からない。


「あと2時間、授業を執り行う前にあいつらの資料に目を通しておくか」


「その前に私の個人部屋に案内して貰えないかしら?昨日は部屋に案内してくれなかったら、外にある適当な木で寝ていたのだけど」


 そういや、勝手に俺の部屋に侵入してくるレーナに部屋を案内しなかった。

 どうせ、こんな場所に寝泊まりするとは思えなかった事が頭に入っていたからかもしれんが。


「昨日の事を言いそびれていたな。お前は俺の隣にある倉庫で寝てろ。布団などの最低限な物は準備しているが、必要な物があれば俺に逐一報告すれば届けるようにはしておいてやる」


 壁に掛けていた鍵を外してレーナに投げて一通りの連絡を済ませた俺は何の変化もない景色の風を浴びる。今は何だか涼みたい気分になっていたからだ。


「何しているの?」


「見て分からないか?俺は休憩している。お前はさっさと隣の部屋で寝てろ」


「はいはい、そうさせてもらうわ。精々無表情かつ無愛想なレグナスは生徒の指導とやらに力を注ぎなさい」


 たくっ、何をそんなにカリカリしているんだか……レーナを部屋から追い出してしばらくの休憩を挟み資料を読み耽ると三時限の時間に近付きつつあったので、俺は生徒全員に朝食終わりに指定しておいたトレーニングルームへと向かい、アイリスとレイピアそしてハルトと合流を果す。


「ハート教官!」


「5分前か。良い心がけだな」


「えへへ、それほどでも無いですよ」


 照れてるアイリス。対してレイピアとマグナスはつまらない表情を保っている。


「ハート教官、これからどうするつもりですか?」


「今から行うのはアイリスとレイピアの個人的な指導。マグナスについてはこれを渡す」


 壁際にもたれ掛かるハルトに一枚のディスクを渡すと渋々受け取ったマグナスは疑問を浮かべる。


「何ですか、これは?」


「主に帝国軍が他の勢力と戦う事を想定した想定演習だ。お前はこれから2階にある教室の2個先にあるモニタールームでその動画を見て実習しろ。後見ているか分からないから、動画を見終わったらこの書類をレポート形式で提出。分かったか?」


 ハルトには、個人で戦う事がどれだけ危険性を込めているか教える算段でいく。

 この前の思考で独断専行をされるとたまったもんではないからな。

 クロノとミューなどの相当の実力を担っている者ならば話は別になるが。

 俺の言葉に耳を傾けたマグナスは一礼をしてから部屋を去る。しばらくハルトについてはディスクなどの記録媒体で学んでもらうがアイリスとレイピアに関しては急ピッチで軍事祭までには間に合わすつもりでいく。


「じゃあ、今から始める」


「宜しくお願いします!」


 俺と二人の生徒であるアイリスとレイピアは向かい合わせに立って一礼をしてから今後の方針を大雑把に伝える。

 方針としては気合い充分で突撃に向いているアイリスにはチームの前方役。

 レイピアは槍というリーチの特性を生かして牽制役。

 そして資料を拝見した中でもアイリスとレイピアを比べて特に全般的な基礎体力などが優れているハルトには砦役として6月の軍事祭までに協力プレイで各チームを各個撃破してもらうという事を伝えるとレイピアは特に異論無しで満足していたが、アイリスに至っては暗い顔をしている。

 やはり昨日ハルトに言われた事を引きずっているらしい。


「私は、ハルトさんに足手まといだと言われました。そんな私が……前方役として出撃しても大丈夫なのでしょうか?」


「気にするな。あの発言はまだ知り合って間もなかっただろうし、少しばかり機嫌が良くなかったのだろう。いずれにせよ、お前の気にする所はそこじゃない。今は授業に専念してくれ」


「は、はい」


 ハルトめ。落ち着いた時に直接謝らせてやる。大分アイリスもやられているようだしな。

 今は6月に開催される軍事祭に向けて一肌剥いてもらう。お前は特にチームの中でもアタッカー役として役をこなして貰いたいしな。暗い顔をしているアイリスを多少気遣いながらも特訓を始める。二人とも飲み込みは非常に優れていて、上手く調節してやれば優勝の確率はぐっと上がりそうだが……


「うわっ!」


 ときどき力を注ぎすぎているお陰か放った炎の斬撃があらぬ方向へと向かって爆発する。


「おい、大丈夫か?」


「あははっ……ごめんなさい」


 ふぅ、これは計画変更だな。あいつには早急に謝らせてやる。アイリスの心の傷が大きく膨れ上がる前に。

 アイリスのやるせない表情をこっそりと窺っていた俺は終了間際で訓練を切り上げてから映像を見てレポートを書いているであろうハルトの元へと向かう事にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ