第31陣:相対する刃
マリアント要塞の入口で待ち構える門番に挨拶を告げてから、無駄に広すぎる玄関と共に要塞の責任者と話し合っているマルクス宰相。まさか、こんな場所に居たとは。
「マルクス宰相閣下!」
クロノが初めに敬礼をすると、後から付いてきていたアイリスとレイピアが同時に真似る。
宰相が居る中で無愛想にしていれば周辺に居る優秀そうな軍人に八つ裂きされると思った俺はここは敢えて素直に敬礼をしておくとマルクス宰相は俺達を見渡すようにしてから生徒に言い渡す。
「ほぅ。君達もマリアント要塞に来ていたか。生徒諸君、この実習ではどんな結果にせよお前達の将来性とやらを見据えていく事になる。今日の実習で今後の糧になるように本日行う訓練をしかと見届けるが良い」
何だ?やけにすんなりと帰っていきやがったな。もう用事とやらは済ませたのか?
「レグナス、ぼさっとしていないで先を急ぐわよ」
「あぁ、そうだな」
今回の実習は生徒達にマリアント要塞が行う月に1度の模擬訓練。
想定としては敵側の魔装大砲車が要塞に接近した際に新たに弾を新たに威力を更に向上させた帝国の魔装大砲車で迎撃するというケース。
更に魔装大砲車などの武器を使わずに人間同士が戦うといった敵側をとにかく意識した訓練を執り行う。
だが、訓練が始まるにはまだ早いとの事でその前に責任者と共にマリアント要塞の施設を案内される。
やけに進入禁止エリアが多いので入れない事が多々あったが、魔装エレベータを介して地下へ案内された魔装大砲車の倉庫には俺でさえも驚かされる。
「こちらが我がマリアント要塞における重要施設……魔装大砲車のドッグとなります。くれぐれも魔装大砲車を不用意に触らないようにお願いします」
「ふ~ん。私達の知らない間に沢山の武器が製造されていたようね」
「魔装大砲車はアグニカ帝国にとっては、肉弾戦よりも効率的な武器として一目置かれている上に、この最下層の地下では魔装大砲車の一番のベースとなる装甲の部品が眠っているとよ」
「どこ情報だ?」
「ん?無論裏情報に決まってんだろ。こういうの帝国機密扱いになってんだから」
アイリスとレイピアは魔装大砲車の見学に集中している中で俺は適当に見学しつつ感想を聞く事にする。
こういうのは帝国軍に所属している俺達よりもまだ軍関係に入っていない生徒から聞いた方が客観的な意見が聞ける。
「アイリス、レイピア。このデカブツを見てどう思う?」
「素直に凄いと思いますわ。これなら人手も要らずに操作さえ覚えてしまえば簡単に制圧出来そうですわ……ただ、人間よりも動きの柔軟性が下回っているので動き方については改善した方が良いかもしれません」
「私は純粋に怖いと思いました。やっぱりこういう機械を通して行う戦争ほど怖いものはありませんから」
魔装大砲車に対しての反対意見と賛成意見。両者共に意見が食い違っているが俺からしたら、その意見はどちらとも正しい。
やはり魔装大砲車などを通せば武力制圧も時間が掛からない上に肉弾戦よりも効率的。
しかし一方で機械などの無慈悲な物を通して行う制圧だと戦争の悲惨さを味わえない上に被害は人の手が実行するよりも遥かに斜め上に被害が出る。
「レグナスだったら、こんな物に頼らずとも私を無理矢理にでも連れ出す……そうよね?」
「俺は元より、乗り物の操作とかに関しては苦手だからな。お前と一緒の方が何倍も使いやすい」
「そうね。やっぱりレグナスには私が必要よね」
「何か機嫌が良いな」
「別に~」
「訓練の準備が出来たとの事ですので、訓練場に案内します」
地下に置いてある幾つ物魔装大砲車の見学を切り上げて、いよいよ実習目的である訓練を見届ける。
地下から上がって外に出て広い訓練場の見学席に座った俺は厳かな雰囲気に言葉を気軽に発する事が出来ない。
「いよいよマリアント要塞ご自慢の乗り物がお披露目されるという訳だな」
「それにしても物騒な実習ね。こういう実習は実際好き嫌い分かれると思うわ」
「将来の帝国の未来を守る若手達だからな。好き嫌い言っている場合じゃ無いぜ!と言っても、学校時代に教官から連れてこられた時は肉弾戦好きの俺にとっては当時卑怯だという考えがあったから当日上手く隙を突いてボイコットしてやったけど」
そんな性格でよく帝国軍に入れたもんだな。
まぁ、肉弾戦に置いては類いまれなる運動能力を誇っていたから結果的には特案部隊に配属されたという事にはなっているが。
それにこいつは少々手を抜いているだけで本気を出せば、確実に強い。
「これより、第44回マリアント要塞における迎撃訓練を執り行う!なお、今回敵側として想定している魔装大砲車には自動装置。我々マリアント側には最新鋭の弾を装填した魔装大砲車を扱う物とする」
号令と共に開催される迎撃訓練。
特に何事も無いように順序良く進んでいき如何に帝国軍の最新鋭で作られし弾が今までよりも場違いな威力を誇っているのかを肌で感じる。
訓練を見学している際は生徒達もしっかりと目に焼き付ける。
クロノとレーナに限っては終始無言で訓練を眺めている。
訓練の際に流れていく大きな爆音の落ち着かない感じが数十分続くと迎撃訓練は次に肉弾戦。
マリアント要塞に配属された優れた兵士同士が行う戦闘は凄まじい程の激闘を繰り広げる。
「マリアント要塞の奴等も随分としっかりした戦闘をするもんだな。てっきり戦闘で手抜きをするもんだとばっかり」
「お前と違って手を抜く訳が無いだろ。これはマリアント要塞に攻めてきた敵を迎撃するという訓練であり尚且つ0組の生徒に見せておかなければならないからな。見本として」
だが、肉弾戦の最中に近くの方から大きな爆音が鳴り響く。戦闘を中断する兵士一同。
どうやら迎撃訓練をしている最中に敵が隙を突いてマリアント要塞に一撃を加えたみたいだ。
「くっ、おのれ……今すぐにでも最新鋭の魔装大砲車を向かわせて迎撃せよ!」
部隊の指揮官に焦りが募るのと同時に要塞の責任者もこればかりに汗が吹き出す。責任者は急いで脱出するようにと言葉を残すとそそくさと足を早めて、どこかに去っていく。
「仕掛けたのは、王国派の連中かな……あと正義の鉄槌も1枚噛んでいたりして。取り敢えずアイリスちゃんとレイピアちゃんは教官様の指示に従いながら要塞から脱出しときな。この迎撃されちゃっている要塞については俺とそこらに居る兵士で対処するからよ」
デヴァイスを通して取り出した鎌を変幻自在に振り回すと要塞に突撃してきた魔装大砲車が何台も引き連れて姿を現す。
クロノは魔装大砲車から放つ弾丸を直撃しないように避けていきながらも未だに放つ弾丸を撃ち落としつつ、距離を狭めて魔装大砲車の弱点であるエンジンを切り裂くと物の見事に跡形も無く木っ端微塵に爆発する。
「乗り物なんか頼っても俺をぶっ殺せるのは随分と浅はかだよな~」
正面の方は……恐らく敵側が大勢居るだろう。
それに脱出が上手くいっても列車が動いているかどうかが定かでは無い。
「教官!上を見て下さい!」
アイリスの上擦った声に首を上げて見上げるとそこには2台の魔装艇。
魔装艇は俺達が居る広い訓練場に降り立つと反乱軍の兵士が要塞側へと突撃を掛ける。
しかし、俺にとってはもっとも目の意識が変わる相手が今までとは違う服装と雰囲気を醸し出して堂々と姿を現す。
訓練場で戦闘し血肉を荒らそう兵士達は魔装艇から出てくる人物を見るや否や一斉に目掛けて突撃を掛ける。
前方を近距離戦に後方を前方のサポートとして魔法攻撃で支援する。
「双覇円陣」
黒のコートに身を包む青年が呟き投げつけた武器が弧を描いて回転していきながら前方の兵士を薙ぎ倒して再び戻ってきた武器を手に取って、目に見えぬ速さでマリアント要塞に配属された兵士達を切り裂く鮮血の刃。
青年は冷たい目で片付けていき、やがて俺と互いに学校生活を共にした生徒達に目を合わせる。
「お久しぶり……でも無いですね。数日ぶりです」
「ハルト。お前とこうして出会ってしまうとはな」
ハルトは血に染まった真ん中の棒の両端にある刃を頭上に大きく振り回すと、見せしめのように武器を披露する。
「これは双覇刀。ハート教官に言われた指摘から新たに武器を変えて戦闘スタイルを変えさせて頂きました」
爆音が鳴り響く中、俺とハルトはただ一点に睨みつける。
「本当に……良いんだな?」
「今の俺は、誰よりも強い。あなたでも勝てるかは正直微妙なラインですね」
「随分と言うようになったな」
銀色の髪を以前は綺麗に揃えていた髪も不規則になり服装は学校指定の鼠色の上着から一転して黒のロングコートに身を包んでいる上に非常に危険な雰囲気が漂う。
俺は一歩ずつ歩み始める。レーナと手を繋いで形を変えた黒き刃を構えて。
ハルトも歩み始める。学校の時とは違い武器を新たに変えた双覇刀を構えて。
「この要塞は俺の家族を壊し、あろう事か故郷すらも占領する憎しみの塊。だから、今回ばかりはあなたを越えてマルクスを殺します」
「お前を止めてやる。最後まで……それが教官としての勤めだ」
「ハルト君!君がそんな事をしても家族が悲しむだけだよ!」
俺の正面に立つアイリスの説得。
しかし言葉に耳を聞き入れないハルトは手に構えている双覇刀の一撃でアイリスを軽く吹き飛ばす。
「アイリス!」
「あなた……本気でやるつもりなの?」
「俺はハルト・レーヴン。家族の犠牲でのしあがるマルクスの存在を断じて許さない。その為に阻む障害は跡形も無く消し去る」
覚悟を決めたハルトに俺はもう止める事が出来ない。やれるとしたら実力でこいつを黙らせる他無い。
「ハート教官。漆黒の死神と呼ばれし特案部隊の筆頭……ここから先は」
「実力勝負だ」
黒き刃と白き刃。2つの相対する刃は金属音を鳴らして一切の妥協も許されない戦場と化す。
やがて激しい斬り合いの中で俺は黒き刃であるレイヴン・セイバーに魔力の元となるルナを入れ込む。
ハルトは一度距離を取って、双覇刀の刀身の不気味な色をしたオーラを解き放つ。
「レイヴン・クラスター!!」
「双覇連獄斬」
振り下ろす黒き閃光と交互に左右する禍々しき閃光。ぶつかり合う事で周囲が激しく吹き荒れる。
もはや言葉は不要の戦場。俺とハルトを見守ることしか出来ないアイリスとレイピア。
特にアイリスは戦いを避ける事が出来なかった自責の念で地面に両手を付かせる。
「さすがに教官相手だと簡単には勝てないですね。こちらもそれ相応の力をお披露目させて頂きます」
ハルトは戦闘を中断して右手に刻み込まれた印を媒介として、背中から邪悪な波動を身に纏う怪物がこの地に誕生する。
その時、上空は晴天とは打って変わって真逆の大雨となる。
「我はサタン。お前の実力とやらを試させて貰おう」
低い声で悪魔のような羽を展開し圧倒的な強さを見せつけるサタン。
後から合流してきたクロノはサタンの登場に歯軋りを立てる。
「くそっ、またやばい召還獣かよ。こいつだけは本気でシャレにならねえ」
「特案部隊筆頭レグナス・ハート。そしてレグナスに並ぶ強豪クロノ・ウェイク。是非とも俺に戦闘の見本とやらの手解きを教えて下さい」
もはや別次元に立つハルト・レーヴン。
俺とクロノは無言で目配せをしてから邪悪な雰囲気を醸し出すサタンに突撃を掛ける。




