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第3陣:今後の方針

 一階の一番奥に入れば、自由に戦い合う事が可能な充分すぎる程のスペースがある。更に壁はコンクリート出来ているので、どんなに強力な攻撃でもヒビは入らないという頑丈さ。

 余りにも危険な魔法を放ってしまえば崩壊する恐れはあり得るが。俺

 はただの四角の飾りのないスペースを見渡してから定位置で待機していると扉から黒いドレスを着て軽やかな動きで歩く女が目に写る。

 あいつ、さっきまでぶらつくとかほざいていた癖に俺の跡を付けてきやがったな。


「あらあら、なんか一人で寂しい事をしているわね」


「ぶらつくのは止めたのか?」


「レグナスが体育館に居る間はぶらぶらと遊んでいたわ。その最中にウザい奴等がしつこく声をかけてくるから、探索を切り上げてレグナスの跡を付けてきたら何やら面白そうな事を聞いたのよ」


 俺はレーナに対して手短に説明をすると、話を聞いていたレーナはワクワクしているのか頬を緩ませる。


「面白いわね。無表情かつ無愛想なレグナスが3人の生徒とバトルロワイヤルというのは」


「あくまでも軍事祭の為の訓練でやるだけだ。ついでに個人の能力もな」


「精々ボコられないように気を付けなさい。ハート教官♪」


「殴るぞ、てめえ」


 拳に力を込めて殴りかかるとレーナは一瞬で背中に黒い羽を生やして後方へと退避する。相変わらず逃げるのがお上手だな。


「まぁ、期待はしているわ。レグナスは私が居なくても基本的には強いから」


「お前の力は借りない。だが、折角の機会だからこの場所で見物してろ」


 断っても良いと思っていたので、対して期待はしていなかったが珍しく見物していると返答するレーナは壁際の隅っこに移動する。そしてしばらくしてから3人の生徒が顔を出すとやはり隅っこに目立った服装で立っているレーナに気になったようだ。


「ハート教官。あの女性は?」


「あいつは俺達の戦う姿を遠巻きで見物する客みたいなもんだ。今は俺との訓練に集中しろ」


 適当な所で話を無理矢理に切り上げてから、3人の生徒であるアイリスとレイピアとハルトに簡単なルールの説明だけをする。

 ルールは至って単純で誰が先に倒せるかというのがルール。俺の場合は3人をリタイアさせれば勝利で3人の生徒は俺が床に膝を付かせば勝利というハンデ付きのルールにさせる。これで3人のモチベーションは若干上がる筈だ。


「よし!教官を倒すぞぉぉ!」


 元気だけは立派だな。その調子で皆を先導しろよ。


「私が居るからには勝ちにいきますわ」


 槍の将軍の娘として裕福に育ったレイピア・アシュタレイはどんな槍捌きを披露するか見物だな。


「下らん。さっさと終わらせるに限る」


 最もやる気を見せないハルトは二人の波長に合わせずに一人大きく前に出て俺を睨み付ける。こいつは俺の何が気に入らないのかは知らんが溜まったもんじゃないな。


「準備が出来たら武器を抜け。俺が武器を抜いたら一斉に攻撃をしても構わない」


 3人は俺の言葉を聞いて躊躇う事無く、帝都製のデヴァイスで登録していたそれぞれが得意とする武器を取り出す。

 デヴァイスは王国時代に使われていたタブレットとは違い、どこでも通信が可能であり更に登録した1つの武器をデータとして収納や取り出しが可能な物で戦地では大活躍をしている。

 そんな中、活発なアイリスは灼熱の炎を纏う片手剣を取り出し豪快に振り回す。対してレイピアは落ち着いた表情でお得意の武器と思われる槍をデヴァイスから呼び出し、綺麗な動きで披露する。最後にハルトはデヴァイスを取り出して2つの双剣を俺に突き付ける。


「覚悟は決めたな。これより軍事祭に必要な授業を執り行う。俺に対しては魔法も組み合わせて全力で掛かってこい。ただし俺もそれなりに本気を出すからリタイアするなら、さっさと言えよ」


 俺は3人に忠告を促してデヴァイスから鞘がある太刀を取り出し、勢い良く刃を降り払うと3人は見た事が無い武器に唖然としている。


「太刀は東国から伝わる刃が長い武器だ。使い勝手が良いから採用している」


「太刀であろうが、3人まとめて掛かれば簡単に終わりますわ!お二人とも行きますわよ!」


 先に仕掛けてきたのはレイピア。俺はレイピアが勢い良く連続で放つ槍の攻撃を太刀で受け流していく。

 その間に背後に回って俺の背中を狙うハルトは勝ち誇った表情で双剣を頭上に掲げて勢いをつけて振り下ろす間に俺は加速魔法ソニック・スピードを使用してハルトの後ろに回って手加減無しで振り下ろすとマグナスは横に転がって退避する。ほぅ、これで終われるかと思ったが……思い通りにはいかないな。


「その程度の攻撃なら俺でも出来ますよ」


 レーナの奴、何クスクスと笑っている。たくっ、俺も生徒から舐められるとは。これは本気で相手をしなければならないようだな!


「だったら、見せてやる。教官が生徒に負けるのは恥ずかしいからな」


 右手の拳を開けて、左手で押さえながら強力な砲撃魔法アルテマ・カノンを放射すると思わぬ反動で後ろに下がる。

 くそっ、やはり俺は魔法の技術とやらには余り適正が無いらしい。今も左手を離せば狙いが大きくずれるだろうな。しかも案の定、ハルトはすぐにヒラリと避けやがった。こうなったら……


「これで、終わりにしてやる!」


「いいえ、私こそが!」


 二人して張り合いか。見事に隙だらけだ。俺は再度加速魔法で間合いを詰めて一気に振り払うと妙な場面でいがみ合っていた二人は勢い良く後方に転がっていく。

 その間に赤髪のアイリスが片手剣を勢いをつけて休息を与えない程の波状攻撃を仕掛けてきたので俺は太刀で防御しつつ壁まで近づいてきた所で受け流してアイリスが驚きの表情を浮かべた時に顔を掴んで勢いを付けて床に倒してから刀身を首が当たりそうな所で止める。


「動くな。こいつを助けたいと思うなら……武器を捨てろ」


 これでお前達二人の動きは止まったも同然。さっさとリタイアでもしてるんだな。俺の脅しに屈するレイピアは苦い表情を浮かべながらも自前の槍を床に降ろす。後は……お前だけだ。


「どうした?早く武器を降ろせ」


「ふん、舐められたもんだな」


「何?」


 こいつ、武器を置かないつもりか。非情にも程があるぞ。ハルトは俺の脅しに屈する姿勢を見せずに双剣にルナと呼ばれる魔力を身体から伝えて、一気に加速してくる。

 俺は首元に当てていた太刀を地面から引っこ抜いてハルトを問答無用のレベルで切り伏せると敢えなく倒れる。


「ぐっ、まだ……俺はこんな所で負けるつもりはない」


 戦いを中断し、武器を鞘に戻してからマグナスの顔面を思い切りにぶん殴る。今回は訓練にせよマグナスが脅しに逆らって攻撃を実行したのはチーム戦に置いては非情にも程がある行為。実際にそんな事をすれば人質は死んでいただろう。


「お前のやり方でアイリスは死んでいた。お前はもう少し、その個人プレイを控えーー」


「足手まといに用は無い。俺は俺だけで大元を叩けば問題は解決する」


 この野郎……頭に血が上りそうだ。俺の言葉を遮ってでも自分のやり方を信じて疑わないつもりだな。


「ハート教官。俺は自分の掲げる目標を成す為にこの学校に入学しました。こんな所でおちおちと遊んでいる暇なんて無いのです」


 しばらく俺とハルトのにらみ合いが続く。このまま下手をしたら戦いが始まろうとした時に壁際で黙って見物していたレーナが輪に入ってきた。


「今日はこれで終わりにしなさい。時間もそんなに無いんじゃない?もう一時間は切りそうだし」


 そういえば今日は午前授業で学校は終了だったとレーナの言葉で気付かされた俺はハルトとの無言の睨み合いを止めて、教室に戻ってから3人の生徒と別れる。

 教室に取り残された俺は一度中央校舎にある校長室で報告等を交えて東校舎へと戻る。歩いている最中に脳裏をよぎるのはあの時に俺が脅しをかけて試そうと思っていた事が予想から大きく超えた勝手な行動。

 あれは完全に自分だけの考えで動いた最低の行為で仲間を見捨てる行為。仲間を重んじる帝国軍でその行為を知られたら直ぐに処罰の対象に成りかねない事を平然とやっている。

 しかも反省すらしないのだから、直すのは非常に難しい。どうにかして2ヶ月後にある軍事祭までには矯正させる必要がありそうだが。


「悩んでいるわね。一人で抱え込むくらいなら、私に話なさい」


 東校舎に帰る道中、俺はベンチでくつろいでいるレーナに声を掛けられたのでここは素直にレーナの隣に座る。


「俺はかつてない事に悩んでいる。自分の事でも無いから、どう教育させてやるかが問題だ。まぁ、ハルトだけで無く他の二人にも教育していかなければならないが」


「ハルトはあなた以上に闇が深そうだから、慎重に扱った方が良いと思うわ。他のお二人さんに関してはもう少しチーム力を上げる方向で良いんじゃない?まぁ、私なら一人だけで抹殺出来るけどね」


 そうなると、まずはアイリスとレイピアからか。この二人に関しては上手く指導すればお互いの波長を合わせる事が出来るかもしれない。

 そして最終的にはハルトの性格をある程度軽くさせて認識を出来る限り変えさせれば勝利はもぎ取れる。

 性能とやらは途中で中断させたから、まだまだ調べる必要があるが充分な強さはあるからその部分については心配は要らないだろう。


「お前が出場したら、一瞬で終わるかもな」


「でしょうね……さて、話もここらで区切って、今日はレストランに連れていきなさい!相談して解決したお礼も兼ねてね♪」


 それが狙いか。この女は。気軽に相談するべきでは……いや、今日はこいつと話した事で気持ちが若干和らいだな。


「ちっ、大方ぶらついた時にリサーチをしていたんだな。場所はどこだ?暗くなるまでには帰るぞ」

 

 心の中で相談に乗って貰ったレーナに感謝しつつ、俺はレーナが行きたかったレストランで飯を奢って東校舎に到着して戸締まりを軽く済ませて自室に戻って次の日に備える事にした。


「ん?そういえば」


 レーナに部屋の場所を告げるのを忘れていたな。まぁ、告げようと思っていた帰り際にどこかにフラフラと飛んで行ったから明日に伝えれば良いだろう。

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