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第21陣:招かれる対談

 乾杯を終えて、ゲスト達によるスピーチが執り行なわれる。スピーチは無論ルヴァンに強制的に押し付けられてしまった俺が皆の代表として舞台に立つ事になったが、初めから色々と目立っていたお陰か余り皆の視線はにこやかでは無い。

 何とも気まずい空間に晒されている事に苦い顔で耐えながら新郎新婦に向けてドミニオン大佐のアドバイスで作り上げた文章を元にして淡々と読み上げる。

 しかし、このまま披露宴を成功させるように持って行くつもりは全く無い。ここからが……本番。

 ルヴァンには悪気は無いがあんたの築き上げる理想はお釈迦になってもらう。


「さて、私の話は以上とさせて頂きます。長らくのご静聴ありがとうございました」


 文章を読み上げて、形式的な拍手共に自分が元居た場所へと戻ると司会者は次に新郎新婦の言葉を始める。


「レイピア」


 普段の服装とはかけ離れたドレス姿で何かを決心したような固い表情で立ち上がり、先に文章を読もうとしているルヴァンを静止して皆の前で丁寧なお辞儀をする。


「皆さん、今日は遙々遠い所から披露宴にお越しいただき誠にありがとうございます。そして豪華な料理と舞台を用意してくださったルヴァンには頭が下がらない思いで一杯です。この後は化粧直しをしてから挙式を運ぶという流れに移行します……が、私はこの場である決断を申し上げます」


 静まる会場。レイピアは何度か呼吸をしてルヴァンと親族に深いお辞儀で頭を下げてから決意を込めた表情で大きく宣言を告げる。


「ルヴァン改めてありがとう、だけどごめんなさい。父様母様、今日という日をお許しください。私は、私は目標として帝国取締部隊の部隊メンバーとして帝国の力に……願わくばメーデン・大尉の片腕として、ハート教官の元で力を付けたい!だから私はこの日この時間を持ちまして去ります!」


 皆の表情が酷く驚いた中でレイピアは一目散に会場の出口を目指していく。しかし唯一、この事態に落ち着いていたメーデンは部下に指令を下す。


「取り押さえなさい!今すぐに!」


「メーデン大尉、ごめんなさい!」


 レイピアは謝りながらも取り押さえに掛かる部下に対して自身の扱う槍で華麗に対処する。俺はその間にテーブルを飛び台の道具として高く跳躍。

 出口付近に着地した瞬間に複数人の部下を体術で凪ぎ払ってレイピアを会場から何とか出すとメーデンはいつの間にか履き替えていた靴と共にドレスには大変不似合いな大剣を持ち出す。

 ここからはレイピアが遠くまで逃げ出す時間稼ぎ。

 この会場から外に出ると、予め待機させておいたアイリスとハルトが待っている。

 合流を果たせば3人だけでも充分に強いから逃げれる筈だ。


「最初から企てていたのですね」


「何の事だかさっぱりだ。今日俺は初めてレイピアが結婚に納得していないのが分かった。レイピアがこの結婚式を酷く嫌っているのなら、教官として生徒を守るのが勤めだ」


「なるほど。実に合理的です。それなら……あなたが責められる資格は無い。しかし、私としては今回の事態は全てレグナス・ハート大尉が仕組んだと睨んでいます。同じ同胞として刃を向けるのは少々辛いですが、お覚悟を!」


 大剣を大きく頭上から解き放って地面を大きく切り裂く。

 避けた瞬間に続けて切り裂こうとするメーデンの目の前で黒い棘が何発も地面に突き刺さる。

 俺は後を任せて、まだしぶとく立ち上がる部下と俺相手に武器を使って捕らえに掛かる部下を体術だけで打ち倒す。


「くっ!」


「あらあら、ご自慢の部下もレグナスが相手にしたら一瞬で終わっちゃったわね♪」


「スワイス大尉、心配するな。あんたの部下については治療費込みで俺がサポートしてやる」


「ハート大尉……せっかくの良い機会が台無しになりました。こんな場所で刃を交える事は私にとっては心苦しいというのに」


 隣に並んだレーナを媒体として黒い剣へと姿を変えたレイヴス・セイバーを構えると辛そうな表情を浮かべながらも部下がやられた事に怒りを抑えきれないメーデンは表情を改め、大剣を両手に構えてから予告無しに突っ込む。

 俺は外野から騒ぎ出す悲鳴を余所に降り掛かる大剣をレイヴス・セイバーでがっしりと受け止めてから、会場を潰さないように最低限の出力でメーデンの持つ大剣を潰しに掛かる。

 油断が敗北に繋がる1体1の攻防戦で悲鳴をあげる客人と違って新郎になる予定であったルヴァンは口を大きくあんぐりさせている。

 多分、予想してもいなかった異常事態に頭が追い付いていないのだろう。レイピアの両親もルヴァンの父も顔が酷く固まっているのが何よりの証拠だ。


「会場を潰すつもりか。随分と思い切った決断をするんだな」


「潰すつもりはありません。あなたが大人しくお縄につけば被害を最小限に抑える事が出来るのですが」


「それは無理な相談だ。俺がそう易々と負けたら生徒に顔を出せないしな」


 戦闘を繰り広げる度に荒れる会場に客人は一斉に逃げるようにして会場を後にする。

 取り残されたのは倒れている部隊のメンバーと親族関係者だけ。

 その中でルヴァンの父と思われるアルグレッドは静かなる怒りをたぎらせるとデヴァイスを通して己の得意とする曲刀を構えてから、一気に駆けていくと凄まじい勢いで振り下ろす。


「貴様!よくもよくも!私の息子の披露宴を台無しにしてくれたな!絶対に只では済まさんぞ!」


 厄介な男を敵に回してしまった。しかし、これは自分が受け止める罰だ。

 今回の件で俺が誰かに憎まれるというのは想定出来ていた事。

 

「レイピア・アシュタレイはあなた達の結婚には反対の気持ちで一杯だった!しかしアシュタレイ家とハザード財団による強引な結婚の運びで彼女は無理矢理に仕舞い込もうとしていました!しかし、当日になって彼女は耐えられない気持ちが募り……最終的には自分から殻を破ったのです!」


「しらばっくれるな!前から会っていたがレイピアさんは逃げずに結婚については承知していた。今日になって逃げ出すなどとあり得ない事が起きたのは、間違いなくお前が原因である事は目に見えているぞ!この、教官風情がぁ!」


 剣の使い方は悪くはない。だが、余りにも技量が違いすぎたな。

 財団のトップであり魔装大砲車のマネージャーであるあんたと4年間レーナと共に戦場を嫌程駆け巡っていた俺とは実力の差が断然に違う。

 だから、俺は敢えて手加減抜きで彼を壁まで追い込んでから死なないように切り倒した。 

 これで、しばらくは黙っていてくれる事だろう。


「親族にまで……ハート大尉、あなたは手加減という言葉をご存じ無いのですか?」


「何を今さら。俺は降り掛かってきた敵だけは冷静に対処する。あの人は戦場に舞い降りた……来たからには手加減無しで対応するのが筋だ」


 だが、さすがの俺も少しは手加減している。

 本気でやったら恐らくアルグレッドは病院行きだ。


「何故、何故……こんな事を。あなたはスピーチを快く承諾。レイピアも私の示す愛を受け止めた筈だ。それなのに、一体何が!」


 ルヴァン、これから新郎になる予定であった男はレイピアが宣言する破棄宣言で建物が崩れるように大ダメージを受けたようだな。

 さっきの軽快な表情が一気に青ざめた表情になっている事から精神的ダメージをかなり受けていたのが嫌程分かる。


「レイピアさんはあなたの婚約を破棄してまで目指したい夢がある。その夢はたどり着けないようでたどり着く夢。願わくば俺はレイピアさんの目指す夢……目標という物を傍で支えたいんです」


「帝国取締部隊。そんな部隊を目指した所で何になる?それよりも私と共に財団を支えていくのが最善だ!私の妻はレイピア・アシュタレイ!彼女以外あり得ない!」


 自分の主張が正しいと思っているみたいだな。どうやら、一発教えてあげなければならないようだ。


「レグナス!前!」


 うぉ!危ねえ。余所見は死に繋がると言ったばかりだというのに。ルヴァンの言葉に耳を傾け過ぎたな。

 この場は後にして、存分に戦える場所でメーデンとケリをつけてやる!


「待ちなさい!」


 メーデンの言葉を無視して2階の会場のドアを蹴破る。

 その後真正面にあるガラスを突き抜けて、広場のような場所に着地。

 俺の跡を追うメーデンも同じくその場所から飛び降りて無事に着地する。


「レグナス・ハート並びにレーナ。今回の一件に基づき取り調べを受けて頂きます。どうか神妙にお縄について下さい」


「お断りよ。私達はあなたに捕まる程弱くはないわ」


「我々を敵に回すつもりなら、今すぐにでも大人しくして下さい」


 どうする?メーデンの言う通りに捕まるというのも策だ。これ以上荒らした所でどうにもならない。

 それにもうレイピアは無事に遠くまで逃げ出せているだろう。


「スワイス大……いやメーデン。悪いが俺の嫌なプライドが負けを譲れないと叫んでいるようだ。だから!」


 全力で倒す。この場が戦いの場であるなら……手加減は無しだ!


「良いわね!それでこそ無表情かつ無愛想なレグナスよ」


 レイヴス・セイバーの出力が段々と上がっていく様子を見て、引き下がらないと判断をしたメーデンは大剣の出力を全快にして駆け抜けると同時に俺も駆け抜ける。

 互いの刃が周辺の物を吹き飛ばし両者共に力のぶつけ合いに移行する。

 

「そこまでだ、諸君!その大層な武器を収めろ!」


 迫力のある一喝。俺とメーデンはほぼ同時に振り向くとその場に堂々とした態度で事態を見据えるマルクス宰相が立っている。

 すぐにレイヴス・セイバーを手離して人の姿に戻ったレーナは何事なのかと一喝した人物に目を向けるとさすがのレーナも表情と共に固まる。


「今日はアシュタレイ家のご息女とハザード財団のご子息の祝いの場だと聞いていたが……随分と荒れたプログラムを用意していたようだな」


「大変申し訳ありません。私は今回の件でレグナス・ハート大尉に取り調べを受けるように忠告をしたのですが……」


「ほう。そういえば、貴公がレグナス・ハートか。ようやくお目にかかれた……漆黒の死神と呼ばれし者よ。そして漆黒の死神を傍からサポートしているレーナなる人物よ」


 動けない。この男の見据える迫力ある目付きに俺とレーナは足が止まる。


「今回の一興、私から事情を受ける事にしよう。この男とはゆっくりと話す機会が欲しかったからな。メーデン・スワイス大尉は部下を引き連れて下がれ」


 帝国取締部隊を退散させるつもりか。

 この男は俺とレーナを連れて対談の場を設けるつもりなんだろう。

 隣で不愉快にしているメーデンはかなり不服そうな表情を浮かべている。


「どうした?さっきの言葉が聞こえなかったのか?メーデン・スワイス大尉……この現場から去れ」


「……承知しました」


 その場で敬礼をして、怒り肩で去っていくメーデン。一方のマルクス宰相は余裕綽々とした態度で俺の瞳を見据える。


「今回の一興については私の部屋でじっくりと聞こう」


 逃げられないと悟った俺はマルクス宰相に断りを入れてから0組の生徒に連絡をしようとしたが、マルクス宰相は不意に笑う。


「あぁ、そういえば……貴公が指導する0組の生徒については我々が保護した。移動最中に純白のドレスが酷く目についたからな。電話をした所で無意味だと思うぞ」


 マルクス宰相。やはり反乱軍の敵の的として活動している冷徹宰相は油断ならない。

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