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第20陣:生徒の為に

「それで、式は何時から始まる?」 

 

 大きな部屋に光輝くシャンデリア。そしてその場所で優雅な晩餐を慈しむ父アルグレッドとルヴァンが仲良く談笑していた。

 そんな晩餐の中で待ちに待った式の時間を聞くとルヴァンは嬉しそうな表情で口を開く。


「早くて3日です。アシュタレイ家の御当主にも許可は頂いたので当日は大変晴れやかな式として幸せの音色が帝国中に鳴り響くでしょう」


「ほほぅ。それは益々楽しみになってきたな。期待しながら待つとしよう」


「まずは披露宴で夫婦の認識をしてもらってから、挙式をあげます。普通のやり方だと反対になるのかもしれませんが」


「お前がそれで良いのなら、私は咎めんよ。お前達の晴れ舞台を楽しみにしている」


 しかし、当日の式が思いもよらぬ終りを告げる事になろうとは。この時に勝ち誇っていたルヴァンが知る由も無い。


※※※※


 ルヴァンとそれを取り巻く関係者だけが楽しみに待っている結婚式の日に俺は普段通りの服装で会場に訪れる。会場の中に入ろうとする人達から冷ややなか目線が俺を襲う。

 だが、そんな目線で送ろうが全く痛くも痒くも無い。今日ここに舞い降りたのは、ルヴァンの為にスピーチをするのでは無くレイピアの為し遂げたい目前を教官として支える為。

 例え、その行為が世間からしたら非人道的な行為だろうが容赦無く押し通る。


「お~い、無表情かつ無愛想なレグナス。こんな場所にいつまでも立っていたら皆からずっと嫌な目線を送られる事になるわよ」


「どうだって良い。どうせ、今日限りで舞台は終演を迎えるからな」


 とはいえ、こんな場所で留まっても意味は無いと思った俺は豪華な式会場の受付で名前を身元確認の為の名前を書き綴ってから式の舞台に潜り込むと式会場は大変に華やかなで盛大なムードが場内を包み込む。

 周辺で何人か束になってお話をしている連中共ハザード財団と知り合いに当たる関係者なのか、服装がかなり凝っているな。

 俺は今回の作戦で動きやすくする為にいつもの教官服。

 そして隣でうろうろと落ち着き無く周辺を見渡すレーナは0組の冬服から付き合いがあった頃に愛用している黒色のドレスに身を包んでいる。

 端から見たら俺達は随分と尖った服装をしていると今更ながら痛感しそうだ。

 まぁ、後悔しても意味は無いが。


「レグナス、レグナス。あれ、食べて良いかしら」


 指を指した方向にあるのは1つの立派な皿に乗っかっているこんがりとパリパリに焼けた肉。

 やはり会場の内装が凝っているお陰か幾つか皿に乗っている料理も大層豪華な仕様と言える。


「待て、せめて結婚式で花嫁が登場して落ち着き出した辺りで食べろ。今行ったらお前は周囲の来場者から大量の嫌な視線を送られるうえに関係者の俺が居ても立っても居られなくなる。だから、今は落ち着いてくれ」


「えぇ、つまんない」


「はぁ。頼むから、頼むから今は大人しくしていてくれ」

  

 作戦開始の前にこんな情況で大丈夫なんだろうか。レーナがこんな調子だと上手く成功する気がしないーー!?


「おいおい、嘘だろ」


「どうかしたの……って、あいつらは確か」


 見慣れた鼠色の軍服が何人か居る。あれは間違い無く帝国取締部隊。しかし、誰かが居ない。


「あの女、どこに居るのかしら?まさか、部下だけなの?」


 メーデンは不在か。だったら、逆に好都合だ。あいつが居たら先手を打たれるような気がしてならない。


「そうみたいだな。ある意味助かったぜ」


「何が助かったのですか?」


「なっ!いつから俺の背後に!」


 メーデンめ。やっぱり居たのか。居ないと思って安心した矢先に現れやがって!


「さっきまで居ましたよ。詳しく話すとあなた達が会場をうろうろしている時には既に居たのですが」


 メーデン・スワイス。まさか、結婚式の会場に相応しい服装で来場するとはおもわなかったぞ。

 しかし……いざ、考えてみたらメーデンが指揮する取締部隊という名のアグニカ帝国における犯罪者取り締まり部隊がこんな場所に訪れてくるとは、果たして一体何の目的でこんな辺境な場所に来やがったのか?


「ハート大尉、あなた達0組がこの場所に来たのは、やはりレイピア・アシュタレイさんを祝福する為に来たのですね」


 その通り……な訳あるかよ。俺は木っ端微塵にこの結婚式を壊す為に来たんだ。

 悪いが、お前が相手となって立ちはだかろうとも手加減抜きで倒してやる。

 

「しかし、ハート大尉とレーナさん以外の生徒さんが見当たりませんね。まさか欠席ですか?」


「アイリスとハルトなら後で来る予定だ。多分今頃は準備をしているだろう」


「そうですか……では、会った時に私の方から挨拶を交えておく事にしましょう」


 それにしても、普段軍服で活動している軍隊の人間が鮮やかな水色のドレスに身を包んでいるだけでかなり印象が変わるんだな。


「ふっ、どうですか?私の服装は?」


「悪くはな……あっ、しまった!」


 少ししか見ていないのに関わらず、俺の考えが筒抜けになっているとは。この女は油断ならない。


「そうですか。いざ出掛ける際に似合うかどうか良く分かっていなかったので、第3者目線からそう言って頂けると嬉しいものですね」


「レ・グ・ナ・ス。どうもあなたは私が居ない間に随分と親しげになっているようね。ふ~~ん」


 振り向くな。今振り向いたら多分レーナに別の意味で殺されかねない末路に辿ってしまう。


「気のせいだ。メーデン・スワイス大尉は暴動の際に多少行動を共にした……いわば、たまたま利害関係が一致した同志。ただ、それだけだ」


 有り余る本音を必死に話すと背後からおぞましいオーラを漂わすレーナのオーラは大人しくなる。

 ふぅ、何とかぎりぎりの所で免れたな。

 しかし俺は何でこんな事で馬鹿みたいに必死になっているんだか分からんな。

 取り敢えず疑問に思った事をぶつけて去ろう。

 レーナが居る前でこいつと喋っていたらレーナが何故か不機嫌になるし。


「スワイス大尉。本日あなたが部下を連れて、このような場所に来た意味をお聞かせ願いたい」


 恐らく、アグニカ帝国を支えているハザード財団で日頃からお世話になっているから万が一の守りとして帝国取締部隊を派遣したのかもしれないが。


「アグニカ帝国の強固な力を裏で支えているハザード財団。私達一同は帝国軍内部の者として祝わなければなりません。それ故に私達帝国取締部隊は参上をつかまつりました……ただ、本音をもう少し喋ると何分か遅れて来られるマルクス宰相の護衛として来たと言うのも事実です。私としてはこの披露宴が何事も無く無事に終われる事を祈ります。そうなると次は結婚式にも警戒した方が良さそうですけど」


 マルクス宰相も来るのか。よりにもよって、作戦を結構するのに厄介な奴が来やがるな。


「顔色が優れていないようですが、何か心配事でもありますか?」


「別に。それじゃあ、俺達はこれで」


 これ以上居る意味を見出だせない俺は話を切り上げて、予め用意されていた豪華な椅子に座り舞台が開幕されるまで無言で待つ。


「名前を間違えていたら、ご容赦願いたいのですが……あなたはレグナス・ハート教官でお間違い無いですか?」


 後ろから声を掛けられた。誰だと思って振り向くとレイピアと雰囲気が良く似ている男性が居る。

 多分父だろうな……軽い挨拶はしておくか。どうせ、後で恨まれるのが目に見えるが。


「はい、私がレグナス・ハートです」


「おぉ!そうでしたか!いつもレイピアがお世話になっております。私は娘のレイピアの父ホッパー・アシュタレイと申します。本日は娘の披露宴に足を運んで頂きありがとうございます。是非ともレイピアを祝ってやって下さい。あぁ、勿論結婚式にも足を運んで下さいね!結婚式会場はそれほど遠くはありませんので。それでは、またお会いしましょう」


 娘のレイピアのドレスを確認する為に去ったか。それにしてもレイピアの父に当たるホッパーに祝ってやってくれという言葉を頂いてしまったな。

 皮肉な事に今回は披露宴もろとも結婚式は崩壊する事になるんだが。隣で一言も喋らずにホッパーと共に去っていくレイピアの母にも何だか申し訳ない


「ホッパー・アシュタレイ。レグナス、今日で沢山の人を敵に回すことになるわね」


「そうだな」


「まぁ、世界中の人があなたの命を狙おうが私は命が尽きるまで守ってあげるから感謝しなさい」


「はいはい、そんな事になるとは思わないがいざとなったら宜しく頼む」


 しばらくレーナと適当な話を交えていると開幕時間の9時になる。幕を開ける舞台。

 いよいよ2週間前に俺とレーナとレイピアそして力を貸してくれる0組の生徒を共にした結婚阻止作戦が火蓋を切る。


「始まったわね。何も食べていないから早く食べたいたわ」


「もう少しで終わる、そしたら鱈腹食って良いぞ」


 司会者の話に欠伸が止まらないレーナは退屈そうに話を聞いてるような聞いていないような態度を取る事により周囲の一部の人達から嫌な注目を浴びている。


「それでは、間もなく新郎新婦として人生を歩むお2人方の登場です。盛大な拍手でお出迎え下さいますよう宜しくお願いします!!」


 新婚夫婦、レイピアとルヴァン。

 会場へと足を踏み入れる扉がスタッフに開かれたと同時に真っ白な純白のウエディングドレスに同じく白に染められたタキシードのような服装。

 ルヴァンの満面の笑みとは対照的にどこか顔が固いレイピアは奥の席に2人同時に着席すると間もなく新郎新婦の親の挨拶が交互にスピーチをしてから乾杯を終えるとレーナは目を輝かせている。やれやれ、こいつは本当に落ち着きが無いな。

 俺はレーナが食べそうな食材をバランス良く揃えて、テーブルで待っているレーナに渡すと嬉しそうな顔で食べ物を頬張る。


「うーん、このお肉!実にエクセレントだわ!無表情かつ無愛想なレグナスにしては良いセンスをしているわね。ありがと」


「それはどうも。ただ無表情かつ無愛想というのは良い加減にやめーー」


「美味い!」


 駄目だ。これは全く話を聞いちゃいないな。まぁ、美味しそうに食べている事だし放置して置けば良いだろう。

 そうして、こうしている間にも針が動き出す。いよいよ始まりの時だ。

 ルヴァンが執り行う幸せの披露宴……悪いが、終わりにする。

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