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第15陣:大義の為に

 周辺を囲んで一斉に動き出す牛型の機械獣に対して俺は生徒を守るようにして乱雑に切り裂いてバラバラに分解する。

 その後も続々と襲い掛かる機械獣に接近して跡形も無いように真っ二つにして黙らせてからアイリスとレイピアを人影の無い場所へと連れ込む。


「ここでなら休憩は取れる。いつ襲ってくるかは分からないが」


「何でこんな事に」

 

 狙いは魔装大砲車に必要なエンジンの確保。今回の件で強奪に成功したら新たに増産して帝国を落とす為の力を手に入れる算段か。


「ハート教官、この後どうしますか?」


「取り敢えずお前達を安全な場所へと連れ込む。とにかく、事態が落ち着くまでは俺と一緒に居る事になるが良いな?」


「特に異論はありません」


 今回起こった事態は東の洞窟へと向かっていったミューとクロト。そして現在迎撃作戦を実行していると思われる帝国取締部隊並びに帝国軍に期待する。

 俺も本来ならライトストーンが収容されている倉庫へ駆けつけたいが教官の仕事柄、そんな勝手な行動は出来ない。


「くそっ、どこも敵だらけか」


 一般住宅の敵の徘徊が凄まじい。この感じだと、既に俺達が泊まっている宿は敵が徘徊しているせいで向かっていった所で安全に待機する事が出来ない。


「無理矢理にでも突破するか」


 レイヴン・セイバーをその場で放り投げて、剣の姿から元の姿へと戻るレーナは投げられた事にご不満の表情を浮かべている。


「ちょっと、乱暴に投げないでくれない?」


「その場で投げただけだ。それよりも手を貸せ。俺とレーナであそこの奥で戯れている機械獣を蹴散らーー」


 言葉を続けようとした瞬間に右肩を軽く叩かれる。振り替えるとアイリスとレイピアは意志を固くした表情で首を縦に振っている。

 もしかして俺と共に戦ってくれるのか?人を躊躇無く殺しかねない機械獣相手においそれと任せたくないのが心情なのだが。


「ハート教官、私達もやらせて下さい。私にも充分な力はあります」


「教官だけ任せるのは人任せですわ。私とアイリスも全力でサポートします」


 はぁ、本来なら俺とレーナが敵の囮になって、アイリスとレイピアだけでも敵の目が届かないような安全な場所へと誘導する手筈なのだが……思い通りにはいかないな。


「レグナス、ここは2人の意見を受け入れましょう。戦力は多い事に越した事は無いわ」


 それも一理あるか。レーナの言葉を持って吹っ切れた俺はやる気充分のアイリスとレイピアに一応の説明を話して、敵の死角になっている家と家の間の隙間から飛び出すと案の定敵の気配を感知した機械獣が仲間を呼び集めて唸り声を上げ始める。


「ウォォォン」


 体格は丸型で、時々見せつける牙はかなり恐ろしい見た目を味わう。

 死角から飛び出した俺は携帯端末装置デヴァイスをポケットから取り出して、鞘から太刀を引き抜いてから機械獣の群れに突きつける。 


「さぁ、ここからが出番だ。お前達を遠慮無くぶった切らせて貰う」


「この私と恐れを知らない純粋な生徒が組み合わせれば、どんな敵であろうが血溜まりにして終わらせて上げる♪」


 手加減という物を知らないレーナは背中から黒い翼を生やしてから空中を舞って繰り出す黒い刺にザクザクと刺されていく機械獣。

 そんな中でアイリスとレイピアは隙を伺いながらも距離を取りながら遠距離魔法で牽制する。


「どこに向かいますか?」


 向かうならラストピアから離れた場所が適切だろうな。ここから徒歩でも数分いけば到着する駅にも機械獣が徘徊していると読んで……


「この街から出るぞ。此処に居たら殺されるのも時間の問題だ」


「ハート教官、ハルト君はどうするんですか?」


 まずいな……ハルトをあのままにして俺達が逃げるのは良くない。格なる上は迎えに行くしかないか。


「無表情かつ無愛想なレグナス。ハルトの事は私に任せて先に逃げてなさい」


「お前、1人で行くつもりか?」


「無論ね。私が一時的に居なくてもあなたなら大丈夫だと思うわ。無表情かつ無愛想なレグナスはアイリスとレイピアを外に連れ込んで、じっくりと待機しておくことね」


 一々無表情かつ無愛想という言葉には勘に障るが、ハルト・レーヴンについてはレーナに一任する事が何よりの最善策か。


「分かった。ハルトについてはお前に任せる」


 レーナをハルトの元へと向かわせてから俺は右手に構えている太刀で向かってくる機械獣を次々と足を進めながら、斬っていく。

 その光景を間近で支援しながら見ていたアイリスとレイピアの表情はひきつっている。

 

「アイリス、レイピア!ぼさっとするな!」


「は、はい!」


 アイリスとレイピアが襲われないように最低限守りながらラストピアの中心街から南の方角にある門へと足を早める。

 しかし、そこには既に待機させていたのだろうか多くの機械獣が道を阻む。


「ちっ、門から出させる気は無しか。どうやら徹底的に俺達と一般人を外に出すつもりは無いらしいな」


 狙いはラストピアの西側にある倉庫のくせに、何故ここまで徹底的に封鎖する?相手側の狙いが読めないな。

 門の出口で立ちはだかる無数の機械獣。俺は太刀を構えながらも引くべきか引かぬべきかを思慮していた。

 このまま突き進んで行くのも結構だが、相手側が用意周到の人物であれば外で待ち伏せされている可能性は充分にある。

 しかし、逆に引けば……ラストピアの西にある倉庫の強奪が完了するまでは奴等との時間勝負に持ち込まれる。

 帝国軍の特殊案件部隊に配属している俺ならある程度の体力はあるが、まだまだ発展途上のアイリスとレイピアの体力が持つかどうかと言われると否だ。

 無理に巻き込ませるのは現時点では良くない。


「進むも引くも地獄ですわね」


「進んでも機械獣が居ないとは限らない。それに引いたら追いかけ回されるかも」


「さて、どうするか……」


 進退極まりし状況。そして俺達の姿を捉えた犬よりも狂暴な容姿を誇る20体程の機械獣がじりじりと足を進める。

 この状況では抗うしか無いと悟った俺は覚悟を決めて、戦闘態勢に移行する。

 だが、そんな状況の中で大剣を肩に担ぐ1人の女性が爽快と屋根から飛び降りてくると有無を言わせぬ速度で軽快に凪ぎ払って跡形も無く全てを葬り去ると部下らしき人物が駆けつける。

 しかし、その光景にレイピアだけは1人の女性に釘付けになっている。あの、眼差しは一体。


「どうやら、間に合ったようですね」


 さっきまで門の出口を守っていた機械獣をすんなりと片付けた1人の女性もといメーデン・スワイスは振り回すのも苦労しそうな大剣を特に重そうな表情を出す事も無く肩に担ぐ。


「メーデン・スワイスか」


「えぇ、危ない場面に遭遇していたので救援に駆けつけた次第です」


 あの大きな剣を片手で軽々と振り回すとはな。帝国軍では確か剛健の乙女とか噂されていたが……その意味が分かった気がする。

 それにしても、何故帝国取締部隊のリーダとしての位置に居るメーデン・スワイスがこんな場所に居るんだ?


「スワイス。あんたが此処に居る理由は何だ?」


「今回の件で私はある方に0組を守るように指示されました」


 0組を守るだと?ただの生徒の集まりなのに、随分と俺達は守られているんだな。


「ハートさん、あなたには私と一緒に事件の早期解決を。アイリスさんとレイピアさんについては私の信頼する部下に安全な場所まで連れて行かせます」


「ちょっと、待て!俺は教官だぞ。あんたらの仕事を手伝う必要性はーー」


「時間がありません。グラード、ワイド!お二人を安全な場所へと避難させてください!」


「承知しました!」


「えっ、ちょっと!」


「そんなぁ、せっかくお目にかかれたのにぃ」


 どこに向かうつもりだ。


「お待ちください。あなたには私と共に成し遂げて頂かなければならない任務があります」


「俺を引き留める権利はあんたには無い。だからさっさとーー」


「アグニカ帝国軍事学校0組担当教官……いいえ、アグニカ帝国軍特殊案件部隊の筆頭に所属するレグナス・ハート大尉。事情はある方から既に聞かされていました」


 こいつ、俺の正体に気づいていたのか。最初から俺の存在を知っていた上でコンタクトを図っていたんだろうな。


「これも大義の為です。アグニカ帝国を守るにはあなたの力を借りる必要があるのです」


「言っておくが今の俺はお前達が期待する力は無いぞ。あの力は今は遠くに出払っているから使えない」


「結構ですよ。ラストピアの全門を敵に封鎖されて帝国軍の力が借りれない以上漆黒の死神とお呼ばれになっているレグナス大尉。是非とも私とその部下に類いまれなる力を見せつけて下さい」


「俺が出ずとも、特案部隊のクロノとミューが居るだろうが。悪いがそいつらを頼ってくれ」


 無駄な足掻きだと分かっていたが俺は仲間の名前を出して、そいつらに頼るように話を持っていく。

 あいつらが今、どういう状況になっているのかは具体的には知らないが俺はこのメーデン・スワイスとかいう女と帝国取締部隊の連中に極力関わりたくない。

 どう考えても面倒な事を任されると思ったからだ。


「残念ですが、彼等は私が一部向かわせておいた部下と共に迫り来る敵を凪ぎ払っている最中です」


「敵は何者だ?はっきり言って今回のやり方は異常そのものだぞ。ここまでして実行させるメリットが見当たらない」


「長話は落ち着いた時にでも……今はラストピア西側のひと目につかないライトストーン収容庫に向かいます」


 走りながら収容庫へと向かうメーデン。俺は後ろから黙って黙々と走っていく。

 やがて、どこからともなく出没してきた機械獣が姿を見せてメーデンへと狙いを絞ると俺は前に出て真っ二つに切り裂く。


「お見事……と言いたい所ですが」


 まだ、来やがるのか。あいつら、どこまで戦力を保持していやがる。


「私達を倉庫へと行かせる気は無さそうですね」


「だとしても押し通らせてもらう。お前には聞いておきたい事が山ほどあるしな」


「良いでしょう。この事態が落ち着いたら幾らでも答えて上げます」


 自前の大剣を振りかざすと同時に先行して機械獣を叩き潰す。その時のメーデンは誰から見ても優雅でいて豪傑と呼べる姿が目に写った。

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