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第14陣:振り切る覚悟

 昔の俺は呪いとして与えられたライアの力を使って、ユダヤ打倒の為に力を付けていた事。

 そうしてユダヤとようやく対峙した時に戦いの最中にライアの力が崩壊。

 そして殺されると悟った時に空から初めてレーナと名乗る紫色の髪を長く伸ばした召還獣と出会いを果たす。最終的にはレーナの力を借りてユダヤをこの手で沈めたという出来事をありのままに伝える。

 ハルトは俺の話に一言一句しっかりと黙々と聞いていた。俺はなるべく短く終わらせるつもりだっだが、少しヒートアップしてしまったお陰で少々話が延びしまう。

 しかし話を最後まで飽きずに聞いていたハルトに疲れの表情は見えない。


「悪い。もう疲れただろう?」


「いいえ。今日は俺にとって大変ありがたい話でした。今後の参考にさせて貰います」


「そうか。なら、しっかりと身体を休めてくれ。さっき話の最中で入室してきた医者から2日後には普通に歩けるだろうという話があった……が、お前はじっとしていろよ」


「ふっ、善処します」


 話し込んで数時間。やや夕方に近づきつつある頃合いの時間に差し迫った俺は病院の廊下で待機しているアイリスとレイピアに自習を中止する事を宣言する。

 この状況の中で続行は難しいと判断したから。しかし、2人の口からは思わぬ言葉が飛び出す。


「ハート教官、やらせて下さい!こんな所でおめおめと帰るなんて嫌です!」


「アイリスの意見に賛成です。せっかくの実習を為し遂げられないのは不服ですし何よりハルトさんが反対すると思いますわ」


 お前ら……そこまでして、実習を為し遂げる覚悟があったのか。

 

 今回の実習では改めてチームの団結力と個々の才能を遠くで判断し、自分達が実際に感じた経験をこれからも培っていこうというのが0組だけに与えられた実習だ。 

 だが、こんな事態が起きてしまったから俺はすぐにでも実習を切り上げてハルトが退院次第速攻アグニカ軍事学校に帰投するべきだと考えていたのにも関わらず……こいつらは


「レグナス、諦めなさい。この2人の瞳と熱意は嘘では無いわよ」


「あぁ、分かってる。そんな事くらい俺でも感じている」


「だったらーー」


「校長には連絡する。今回の事態をうやむやに隠すのは教官としてあるまじき行為だからな。その上でアイリスとレイピアが続けるという意思を校長に伝える。それで上手くいくかは知らねえが」


 俺はその場で校長にハルト・レーヴンが実習最中に洞窟で暴れる召還獣によって首を噛まれて病室に運びこまれたと敬語でありのままの詳細を一言一句に噛まないようにしっかりと伝えてから、沈黙している校長に向かって謝罪の言葉を告げる。

 すると今まで黙っていた校長からは怒りの声を荒げるという事無く優しい口調で諭される。


「君が責任を背負う必要は無い。それに今回行われる実習は基本的には君を頼らずに0組のメンバーだけで戦闘や今後の街の見方に対する勉強をしていくのが目標なのだよ。だから、君が悔やむ必要性は全く無い。これも立派な軍人になる為の一歩だからね」


「……はい」


「しかし、今回の事でハルト・レーヴンを覗いた生徒以外が怯えているのなら私としては帰投してくれても構わない」


「アイリス・ルーン、レイピア・アシュタレイは共に続行したいと仰っています。私としても2人の意見に賛成するのと同時に2人が怪我を負わないように、しっかりと見守る所存です」


「ふむ。2人の意志が固いならこれ以上余計な事をするつもりは無い。レグナス・ハート教官、0組の事はお任せしますよ」


 今回の一件に対して寛大な対応で済ませた校長に俺は敬意を払ってから、デヴァイスをしまう。

 それからはレーナにアイリスとレイピアを宿に送らせて、俺はただ一人で病院の屋上へと向かうと案の定柵にしがみついて暗い顔をしているミューが俯いている。

 驚かせないように声を掛けると自分が遅れて駆け付けてきた事に罪悪感を感じたのか謝罪を述べる。


「ごめん。もっと私が自覚を持っていればーー」


「こんな事にはならなかった……か。ミュー、お前が自分を責める必要は無い。何度も言うが、今回起こした事案は俺の甘ったれた判断が原因だ。俺がもう少し注意力があれば起きなかっただろう」


「それでも……ごめん」


 はぁ、こいつは1回自分が悪いと思い込んだらとことん謝らないと気が済まない性格だったな。


「ふぇ?」


 うじうじしているミューには、こうやって何回か頭を撫でてやれば立ち直ってくれるだろう。

 馴れ馴れしいとは思うが、嫌だったら殴り飛ば……さないだと。


「悪い。お前がそんな顔をするのも飽き飽きしてたから、やってしまった。怒ってるなら謝る」


「良い。別に私は怒ってなんかいないから」


「そうか」

 

 妙に気まずい空気になった明け方の空。しばらくすると怪しさ満点の真っ暗のコートを着こなしているクロノが扉を開けて俺の姿を発見するや否や嬉しそうな表情で足を進める。


「よぉ。なんかミューと良い雰囲気になっちゃってるレグナス教官」


「茶化すな。お前が此処に来たのは……例の案件だな」


 クロノは俺がドミニオン大佐に手短に提出したメールを見せつけてから、両手で柵にもたれ掛かる。


「どうも、キナ臭い事件が起きるぜ。2、3時間前にレグナスが秘密裏に怪しい人物から聞いたとされる情報。これをドミニオン大佐に送ったレグナスのメールから特案室で独自に調べてみると嫌な事が判明した」


「何が起きようとしている?」


「ライトストーンが収容されているラストピアから西に離れた重要倉庫。多分奴等はそこを襲撃してありったけに強奪する。襲撃が成功されたら帝国に一部損害が発生するのが免れなくなる」


 ライトストーン。確か名前の通りに黄色に光る石のような物体で、上手く加工すれば大砲が搭載された車両や普通の車両などのエンジンとして活用出来る。

 更にクロノの発言によると、ラストピアに住んでいる一般人の目には届かない西に離れた倉庫で一部ではあるが魔装銃を何倍物威力にして筒を大きくさせた魔装大砲車なる軍事車両が収容されている事から奴等は併せて狙っている可能性が高い。

 だがあの倉庫は重要な物がある事から警備が非常に厳しく帝国軍に派遣された精鋭の兵士が監視しているという情報がある。

 果たして、そんな難しい状況でどうやって突破して強奪するつもりなのか。


「恐らく、正面突破を図るつもりなのかもしれない。相手側にも確か帝国軍から奪取した軍事車両があった筈だからなぁ。俺は一応レグナスから頂いた情報を倉庫の皆さんにお伝えして、厳重警戒態勢として備えさせているが……半信半疑かもしれないぜ。倉庫の連中、負け知らずの兵士が多いし責任者も半分鼻で笑ってたしな」


「私も行った方が良い?」


「そうだな、ちょいと付き合ってくれ。明日の夜までには帰れなくなる可能性が高いかもしれんが」


「構わない。むしろ奴等の好きにさせるつもりは毛頭無い」


「俺は悪いがーー」


「あぁ、言わなくとも分かってるさ。レグナスは上層部から任命された教官をしっかりと勤めてくれ!俺とミューはこのラストピアで最小限に被害を食い止める」


「具体的な案はあるのか?」


「レグナスが言っていたWの方角にある場所を調べてみて攻め込んでみる。そこで半分くらい戦力が減れば多少勝目はありそうだがな……はてさて、上手くいくのやら」


 クロノは大きく腕を空高く伸ばして欠伸を出しながら去っていく。残された俺とミューは顔を合わせて互いに別れを告げる。


「それじゃあ、教官頑張って」


「あぁ。お前も無理はするなよ」


「うん」


 別れを告げて解散した俺はただ一人、ミューに案内された宿まで戻って宿主が提供してくれる料理とお風呂をありがたく頂いてお開きとなった。

 やがて夜となる満月が綺麗に映し出される窓を眺めながらも明日の事を想定する。


「薬草探しと猫探し。時間を掛けなければすぐにでも終わるだろう」


 夜までには終わらせて、状況が落ち着き次第急いで0組を安全な場所に誘導しなければならない。

 その為にも一応フィルターらしき場所などを予め調べておいたが、今でも入室しているハルト。

 そしてアイリスとレイピアをどう説得してやるかが問題だな。

 ハルトは無理に身体を動かすという訳にはいかない以上レーナに見張りなどをさせる必要がある。

 しかし意外と根性があるアイリスとレイピアに対してはどうやって説明してやろうか。

 ありのままに話したら、そのまま勝手に命令も聞かずに突撃しにいきそうで怖い。


「取り敢えず、寝るか」


 考えれば考えるほどに眠気が襲い掛かる俺に目を開く力は残されてはいない。

 やがて眠気が急激に溜まった瞳をゆっくりと閉じて、何だか良く分からない空間に漂う間隔に浸った為に両目を開けて飛び起きると既に空は眩しく輝いている。


「っ、朝かよ」


 寝た気がしない。変な夢のお陰で寝つけなかった。


「ハート教官、おはようございます!」


 寝付きが良くない身体を起こして一階の食事部屋に降りると、元気に挨拶を交わすアイリスと黙々と朝食を味わっているレーナとレイピアが木製の椅子に着席している。

 俺は一言挨拶を交えてから本日の依頼の段取りを連絡して、アイリスとレイピアの動向を離れた所で観察していく。

 万が一にも怪我を見過ごす訳にはいかないからだ。


「レイピア!もうちょっとで、そっちに逃げ込むよ!」


「任せなさい。アシュタレイ家の誇りに賭けて全力で捕まえてやりますわ」


 互いの無線から聞こえるアイリスとレイピアの土気は充分に高い。しかし、そんな状況の中でも済ました表情を浮かべている。

 そんな中でようやく捕まえた犬。

 しかし噛まれようが気にもしないアイリスは犬を上手く手懐けていく。一方のレイピアは動物が苦手なのかひきつった表情を浮かべている。


「はぁはぁ。少し休憩したいですわ。さすがに体力の限界」


「まだ、1つあるんだから頑張ろうよ!こんな所で休憩する暇なんて無いよ!」


「鬼が居ますわ……」


 どこまでやる気を出すアイリスとは対照的に息が荒く身体をヘトヘトにしているレイピアとどうでも良さそうな態度で壁にもたれるレーナ。

 アイリスやレイピアの傍で様子を伺っていた俺はさすがに疲れの表情を出しているレイピアを気遣う事にした。

 

「おい、しんどかったら休めよ。倒れたら元も子も無いからな」


「お気遣いありがとうございます。しかし、アイリスと一緒にもう少し頑張りたいと思います……あそこで壁にもたれているレーナはどうするのか知りませんが」


「やるわよ。やるからには徹底的にやりたいし」


 3人の意志が集まり、最後の依頼である薬草探しに必要な草を探すために昨日の洞窟と同じく東方向にある平原へと足を進める。

 しかし、俺のデヴァイスから鳴る一件の電話で終わりを告げる事になる。


「何の用だ?」


「レグナス!今すぐにでも、生徒を連れてラストピアから離れろ!もう間もなく奴等がラストピアを潜り抜けて倉庫へと向かってくるぞ!」


 夜に仕掛けてくるんじゃなかったのか?大方クロノにやられた連中達が作戦決行を早めたという線が有効だが……


「ハート教官!」


 アイリスの声で我に返った俺は正面を見つめる。


「嘘だろ」


 洞窟方面からドシドシと響く足音。そこから徐々に大きな物体もとい特殊な音を鳴らす機械獣が押し寄せる。

 街をぶらぶらと歩いている一般人は突然の出来事に本能のままに逃走するが足の早い機械獣によって亡骸にされていく。


「酷い、街の皆を」


「アイリス、構えないと……私達もやられるわよ」


 一瞬で囲まれた俺とレーナと2人。俺は無言でレーナの手を握って黒い片手剣として凄まじい威力を誇るレイヴン・セイバーを構える。


「この場から切り抜ける。その後は全速力で逃げるぞ」


「了解!」


「かしこまりましたわ!」


 後の事は落ち着いた時に考える。今はこの状況下で上手く撃退しながら逃げる事に専念する。

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