第13陣:瞳の中にある憎悪に俺は問い掛けない
人物辞典
メーデン・スワイス:茶髪の髪を綺麗に伸ばしている女性。
レグナス・ハートよりも4歳下の20歳でありながらも、豪快に振るう大剣と明確に動くというきっぱりした正格が直結して僅か半年にして大尉に昇進。
慣れないながらも帝国取締部隊の指揮官として身を収める。
ちなみに彼女の美貌は帝国取締部隊を通り越して帝国軍にも伝わっており、密かに恋い焦がれる人達も居るとか居ないとか……
じりじりと距離を詰める複数人の人物。顔はフードで覆われている為に人相などは伺えないが、腕から出ている肉質を見る限り全員男性だろう。
正体は恐らくマルクス宰相の首と帝国その物を破壊を望む革命派の連中と言った所か。
だとしたら革命派の連中の1人と打ち合わせをしていた人物は誰だ?
「レグナス!」
レーナの声に反応した俺はその場て一回転して周囲の敵をあしらってから6人居る連中の内の1人の元へと高速で駆け抜けて黒い剣と自営用に備えている太刀の2つの剣を使って縦横無尽に薙ぎ払う。
そして俺の力に若干怯んでいる2人をそこらにある建物の壁を足場にしてから勢いを付けて一気に薙ぎ倒すと同時に恐れを知らない2人の人物が得意とする斧と良くある形をしている剣で勢い任せに振り回す。
「武器も録に使えない奴が俺に戦いを挑むとはな」
「うるさい!マルクス宰相に遣える犬はこの場で果てろ!」
振り回す片手剣を足で上空に蹴飛ばして、右手に備えている太刀で男の腹を切り裂く。
それから斧を乱暴に扱う男を太刀とレイヴン・セイバーの二刀流で十字に断罪すると残りの人数は一瞬にして1人となった。
「ふははっ、やるな。だが!こんな場所でおめおめとやられる訳にはいかんのだ!」
付き従えていた部下が倒され形勢が悪い方へと流れた最後の1人は不気味な笑いを口に出しながら己が得意とする槍を構えて猪の如く、真っ直ぐに突っ込む。
動きは単調で相手の顔を見たら次の動きが分かる程の簡単な攻撃をしている。
これなら0組で最初に居合わせたレイピアの方が槍の扱いに長けている。
相手の突き攻撃に飽き飽きしていた俺は頃合いの所で振り掛かる槍を受け流し、一撃の力で相手を沈めるとボロボロに朽ち果てた相手は身体を頑張って起こそうと両手を使うも俺が振り回した斬撃に直で喰らった影響か力果てて倒れた。
「勢いだけは、良かったな。動きとしては三流以下だが」
「なっ、馬鹿な」
「槍で上手い奴なら1人居るくらいだ。お前はそいつよりも動きが単調で何よりかわされやすい。良くそんな実力で俺に挑めたな……俺の知り合いと戦っていたら容赦無く返り討ちにあっていただろうな」
「うぐっ!」
さて、さっきまで随分と粋がっていた連中も一瞬にして沈んだ。後は帝国取締部隊に通報して身柄と聞き出した内容を伝えてからドミニオン大佐に同様の連絡を伝えておくだけだ。
俺は基本的に0組の教官として、この街を訪れている以上……教官の職務を下手に逸脱する訳にはいかない。
「それにしても大した事の無い連中ね。こんな奴、帝国取締部隊が力を合わせれば終わるんじゃない?」
「どうだろうな。この位の実力なら大きな問題にはならずに早急に終わらせそうだが」
レーナを剣から人型に戻してからしばらく待っていると、帝国取締部隊のリーダーと思われる人物と共に部下を引き連れて俺が倒した連中を引っ捕らえて事情を聞く為に別の場所へと歩いていく。
「お怪我はありませんか?」
やや長身でスレンダーな体型であり綺麗な茶髪を長く伸ばした女性。
この女は確か帝国取締部隊では部隊を取り締まるエリートだったか。
帝国取締部隊の象徴となる紋章が刻まれている鼠色の軍服が彼女の存在を更に大きくしている。
「いいえ。特に怪我は無いです」
「それは良かった。私はこのアグニカ帝国全土で犯罪を取り締まる帝国取締部隊の指揮を担当しているメーデン・スワイスです」
メーデン・スワイス大尉。彼女が欲しい欲しいと騒いでいるクロノの話ではスワイス大尉は部隊に指示を送る優秀な人材として注目されている。
おまけに俺よりも4つ下の20歳の癖にして、高位な魔法や自前の大剣を器用に扱う上に誰もが羨む美貌の持ち主である事から帝国取締部隊の連中やアグニカ帝国軍の連中の虜になっていると言われているらしい。
「この場で起こった事を事細やかに話して下さい」
裏の道で2人の話をこっそりと聞いてから脱出すると6人居る連中に囲まれて、実力行使で全員倒したとありのままに伝えるとメーデンは何とも言えない表情を浮かべている。
「お名前を聞いても良いですか。無論隣に居る女性もお願いします」
「レグナス・ハート。今はアグニカ帝国の中心地に位置するアグニカ帝国軍事学校で教官を勤めている」
「私はレーナ。レグナスとは相棒みたいな関係よ」
俺とレーナによる簡単な自己紹介を終えると、メーデンは軽い咳払いをしてから自分なりの自己分析を披露する。
「では、ハートさんはさっきまで倒れていた連中と戦闘を繰り広けて倒した。彼等の傷を見る限りでは随分と手馴れた強さをお持ちなんですね」
この女、妙に勘が良いな。
「それなりの鍛練はしている。それと今日の夜かは定かでは無いが、聞いた話によると奴等はこの街のある場所に襲撃を実行するらしい。実際には聞いただけで、本気でやるかは分からないが……帝国全土を取り締まっているのなら用心しておく事を推奨する」
これ以上この場に留まっていたら、面倒になりそうだと感じた俺はメーデン・スワイス中尉に警告という名の忠告をして明後日の方向へと歩き出すとまだ質問があるのか俺が背中を向いている時に俺の正面に回り込んで、行く手を妨げる。
「まだ、聞きたい事があるのですが」
「これ以上は時間の無駄だ。伝える事だけ伝えた以上そろそろ0組の所に戻らせてもらう。あいつらに何かあったら、俺の責任は重いからな」
現状ミューからの連絡は来ていないが、良い加減に0組の様子を確認しておかなければ。
「……そうですか。では、私も戻る事にします。あなたの話が真実であれ嘘であれ確認しないわけにはいきませんから」
後ろに振り返って、何処かへと消え去るメーデン・スワイス中尉を余所に俺とレーナは一度明るい場所へと戻ってデヴァイスの電話帳にあるミューに繋げようとした瞬間に。
「ミューから来たか」
振動が鳴り響くデヴァイスを通話状態にしてから耳に当てると、ミューにしては随分と落ち込んでいるのか暗いトーンで口を開く。
「……ごめん。私」
ここは慎重に聞き出すか。
「ミュー、一旦落ち着け」
「レグナス」
「落ち着いたら、何があったのかを丁寧に語れ。ミューのトーンからしてロクでもない事が起きているのが分かるが……」
俺の言葉に対して素直に深呼吸をした後に間を置いたミューはありのままに話す。
内容は0組の幾つかの依頼の内の1つにある洞窟の奥で暴れる熊型の召還獣退治。
アイリスとレイピア並びにハルトは息を合わせて撃破しようと実行に移すが、戦闘の最中で倒れていた2人を守っていたハルトが首元を強く絞められたらしい。
最悪だ。まさか、俺が見守っていない最中に。
話をしっかりと聞いた俺はドミニオン大佐にさっきまで起きた件の報告をメールで端的に済ませてから全速力でラストピアの中心部にそびえ立つ大きな病院へと駆け込んで窓口の女性にハルト・レーヴンはどこに居るのかを早急に伺うと窓口の女性はすぐに調べてハルト・レーヴンは現在5階の隅っこの部屋で過ごしているとの情報を頂く。
場所が分かった俺は一言礼を告げてから魔装エレベーターに乗り込む。
しかし俺の心は妙に落ち着かない。
「大事になったわね」
「俺が見ていない状態で起きてしまったからな」
「これからどうするの?」
どうするもこうするも、まずは落ち着いた時に校長先生に連絡して状況次第では実習を中止しなければならないだろうな。
今回起こしてしまった問題は俺が責任を持って対処せざるを得ない。
「ハート教官!」
「アイリスか。ハルトの容態は?」
5階に到着した魔装エレベーターが開いた時、近くで待っていたアイリスとレイピアが出迎えに来たが……ミューが見当たらない。
どこに居るのかしらないが、まずはハルトの容態を確認しないとな。
「さっき、治療が無事に終了して容態は非常に落ち着いています。お医者さんが言うには安静にしていれば、すぐに身体の調子が良くなるとの事です」
「そうか」
俺は幾つかの病室のネームプレートにハルト・レーヴンと書かれてある部屋を確認して隣に居るレーナを置いてから、ノックで叩いてから入室すると身体を起こしてじっとつまらなさそうに曇が多い窓の向こう側を眺めているハルトが居た。
「随分と遅かったですね。自分はご覧の通り……召還獣にしてやられましたが」
包帯でぐるぐるに巻かれて動かないように固定されている首の部分を人差し指で当てるハルトの表情はそこまで深刻という事ではないらしい。
俺はハルトがくつろいでいるベットの隣にあるパイプ席に座って首を痛めた経緯をハルトに直接聞いてから頭を深く下げる。
今回の一件は間違いなく俺の読みが甘かった。
もっと慎重にこいつらの事を見ておくべきだった所を……0組の実力からして出来ると勝手に杞憂してしまった俺は馬鹿だと思う。
しかし、頭を下げてもハルトは俺を責める事は無い。むしろ自分自身の実力を責めている。
「俺は……負けました。俺の力が足りないばかりに」
「ハルト。前から思っていたが、どうして力に拘る?力を求めてどうするつもりだ?」
ハルトは右手の掌をしばらく眺める。やがて何かを悟った表情で天井を見ながら語る。
「力が無いと俺は前に向けない。目的を為し遂げる力が欲しいんですよ……そんな状況であんな奴に負けてしまうのは夢のまた夢という事です」
どこか憎悪に満ち溢れた瞳を俺は知っている。何故なら俺も過去に一物抱えていたからだ。
「何故お前がそんなに力に対して固執するのか……瞳を見て分かった」
「瞳で分かるんですか?」
「ハルト・レーヴン。お前は以前の俺と同じだ。力を求めて力を求めて、何かと対峙しようとしている」
読みが当たったのかハルトは頭を抱えながら微笑する。この部屋で俺しか居ないと確認したハルトは改まった表情で語り始める。
「ハート教官の仰る通りです。俺がアグニカ帝国軍事学校に入学したのは……力を付けて、確実に目的を果たす為。その為に俺は日々魔法や武器の扱いについて我流でやってきました。しかしハート教官に渡された実習に行けばこのザマです。いかに自分が未熟だったのか思い知らされましたよ」
「お前は0組の中では一番に長けた実力があると同時に自分には力があると若干自惚れている所がある。そこがハルトの唯一の弱点だ。そこを克服してまえば、更に前に進める」
ハルトの口から語られる目的の詳細は敢えて聞かない。聞かなくても分かる……こいつは、誰かを殺す為に力を求めているんだと悟ったから。
4年前に俺が使徒ヨダヤに与えられた呪いと共にユダヤだけを殺すだけに力を求めていたレグナス・ハートが実際に居たからだ。
「お前には話してやる。俺の過去話を……長くはなるが寝たいと思ったら寝てくれて構わない」
「ハート教官」
俺は時間の許される限りに教えた。途中で医者が乱入しようが何とか説得して追い返してから語るに語る。
そうして時間はあっという間に過ぎていく。




