表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/47

第12陣:痛みの戦慄

「まずはどれから片付けようか?」


 洞窟内で暴れまわる召還獣と薬草の材料探し並びに猫探しとどれにしようか決めかねている中、ハルトは皆に提案する。


「最初は手早く薬草探しと召還獣から片付ける方が良いだろう。猫探しは時間を要するから後回しにしておく方が身の為だ」


 そうかもしれないと思ったアイリスはすぐさまハルトの提案を承諾する。

 一方のレイピアは心非ずの表情を浮かべていたがアイリスの説得によりやむ無く受け入れる。

 そんな光景を無言で見つめるミューは暇そうな目で遠くの景色を見ている。


「どうかしたんですか?」


 暇そうにしているミューに対してすぐに近づいて気を使うアイリスであったが、話し掛けてもミューはまるで聞いていないかのように無表情丸出しなのでさすがのまとめ役であるアイリスも諦めてしまう。


「えぇと。じゃあ最初は洞窟内に潜んでいる召還獣から片付けよう!」


 アイリス一行は手始めに光の都ラストピアから東へと離れた街道へと足を伸ばす。

 そこは何処かで鳴いている鳥のさえずりや動物の鳴き声など鳴いているが、その一方で獲物を食らう容赦無き召還獣が徘徊している。


「弱肉強食と言った所ですか」


「あまり関わらない方が良い。厄介事に巻き込まれてしまうからな」


 徘徊している召還獣に見つからないようにアイリスは召還獣退治の際に予め購入した地図を片手に目的地である洞窟を目指す。

 しかし洞窟の周りでうろうろと徘徊している犬型の召還獣によって道を断たれてしまう。

 アイリス達は取り敢えず見つからないように場所に隠れて待機する。


「どうしようか?」


「一気に突っ込むしかないわね。私なら、そうするわ」


「それなら俺が奴等と戯れる。その間にアイリスとレイピアは先に行け」


 ハルトは自分が囮になると告げる。しかしアイリスはその提案に否定的だった。


「もう一気に片付けよう。3人一緒でやれば怖い物は無いよ」


「けど、万が一の事態が起きてしまったら」


「大丈夫。その為にハート教官は……」


 ハート教官が万が一の為に残しておいたミューで最悪の事態はどうにか脱する事が出来るとアイリスとレイピアは期待を寄せていた。

 しかし本人であるミューは眠たげに目を擦っているので、ハルトとしては余り信用できる人物として見ていないが。


「君達の意見には賛成。私は遠くで見物……ふあぁ」


 一言だけ呟いたミューはその場でぐったりと寝息を漏らす。こんな状況でのんびりと寝るミューに対してハルトは酷く呆れる。


「このミューという子は大丈夫なのか?正直体つきもそうだが……強いとは思えない」


 ミューはアイリスとレイピアに比べると、一番小柄でかつやる気の無い性格をしているのでハルトにとって信頼に値しない人物だった。

 そんな状況下でアイリスは呆れているハルトをなだめる。


「まぁまぁ。きっとミューさんは疲れているんだよ。その間に私達がさくっと依頼を片付けよう」


「そうですわね。時間な無限では無いので急いだ方が良いですわ」


 アイリスの意見に賛同したレイピアとやむ無く承諾したハルトはミューをその場で寝かせてから自分達は得意とする武器を携帯型のデヴァイスから呼び出して、目標の召還獣が潜んでいるとされる洞窟の入り口へと立つ。

 すると入り口で徘徊していた犬型の召還獣は敵を発見したのか警戒心を露にした。


「ガルルルゥ」


「これ以上近づいたら襲うつもりだな」


「けど、勝つのは私達ですわ」


「皆行くよ!」


 アイリスの一声でで突入を開始するレイピアとハルトは洞窟内の入り口を塞ぐ犬型の召還獣に対し、それぞれが得意とする武器で薙ぎ払うと僅かな時間で消滅するも奥の方から鳴き声が鳴り響く。

 どうやら洞窟の入り口を守っていた犬型の召還獣の内の一匹が最後に遠吠えをあげた事で奥で寝ていたであろう召還獣に気配を悟られたようだ。


「来るぞ。一気に突っ込んで片付ける」


 ハルトは二人を守るようにして先へと進み挑んでくる敵を片っ端に薙ぎ払う。

 一方ハルトの後方で警戒しながら進んでいくアイリスとレイピアは得意とする魔法を全力で解き放ち、襲い掛かる召還獣を完膚無きまでに倒す。

 それからは一切を持って静まり返った洞窟をしばらく進んでいくと奥の方から呻き声が響く。


「この声って……」


「依頼書に書いてあった目標の召還獣か」


 目標の召還獣は人よりも少し背が高い熊型で武器として持つ強力な爪は一度食らえば大出血を起こしかねない程の威力を誇る。

 そして洞窟内でいつまでも居座る熊型の召還獣はラストピアなどの街で街道の光の材料として必要なライトハルコンなる黄色に目映く光る石を食らう為に放置しておく事は非常に好ましくない。

 アイリス、レイピア、ハルトは見つからない場所に身を潜めて軽く打ち合わせをしてから行動を開始する。

 最初はアイリスが最大威力で炎の斬撃を解き放つと続けてレイピアは手先の魔法陣がブリザードを直接浴びさせる。

 しかし人よりも一回り背が高い熊型の召還獣は凍り付く瞬間に身体を激しく動かしブリザード攻撃を凌ぐと大きな爪でレイピアを場外まで吹き飛ばす。


「ぐはぁ!」


「レイピアさん!」


「アイリス、前を見ろ!」


 レイピアが壁まで飛ばされた事に気を取られていたアイリスは熊型の召還獣による振り上げた拳で何回か地面をゴロゴロと凄まじい速度で転ばされていく。

 唯一1人だけ自由に動けるハルトは広範囲に魔法陣を展開して、雷の雷撃をこれでもかと浴びさせると熊型の召還獣はヨロヨロと倒れていく……

 しかし、意外にも渋とく立ち上がる熊型の召還獣は咆哮を精一杯上げるとハルトに向かって急接近。

 この行動に対して守りを固めるハルトは正面に守りの魔法を展開して自身は双剣を前方に掲げ、出来るだけ大きなダメージを直接身体に受けないように徹底して防御に徹する。


「こいっ!」


「ウォォォ!」


 防御の魔法陣を打ち破り、武器をもはね飛ばす熊型の召還獣は大きな口を開けて声を高らかに叫びながらハルトの首の根っこを片手だけでいとも簡単に持ち上げる。

 無論この状況から離脱しようとハルトは徹底的に抗うが、恐ろしく冷淡な熊型の召還獣はハルトを強く睨み付け首の根っこを強烈な力で絞めていく。首を絞められ身体の自由が効かなくなったハルトはどうにか離脱しようと足を使って数回蹴り飛ばすが、ダメージを受け付けない。

 もはや、どうにも出来ないと悟ったハルトは自身の未熟さに絶望し後悔する。


(まだ、俺は……死ねないというのに)


 己の目標に辿り着く事無くこの場で果てるのかと悟った時、背後からアイリスとレイピアが自身の得意とする武器を使って召還獣の背中に斬り傷を付けると熊型の召還獣は呻き声を上げると同時に掴んだ手を離して背中に攻撃を当てたアイリスとレイピアの方へと方向を転換させて腕を振り回す。

 しかし、その行動は既に予想済みだったのか背中に攻撃を当てた瞬間に距離を離していたアイリスとレイピアは攻撃を受ける事無く済んだ。

 ハルトはその間に落としてしまった双剣を拾い上げて距離を離す。


「がはぁ。はぁはぁ……助かった」


 首を絞められた反動で首の根元を擦りながら武器を構えるハルト。

 状況としては優勢とはいかないが劣勢でもない。


「ハルト君!」


「まだ何とか立てる。ここで終わらせるぞ」


「えぇ、終わらせましょう!」


 レイピアは地面から発生させた水色の魔法陣から自身が使役している召還獣を呼びだすと呼び出された召還獣は立派な牙を出しながら正面に立っている熊型の召還獣を鋭い眼孔で睨み付ける。


「レイピア。奴が今回の敵か?」


 身体が全体的に水色で形成されていて、尚且つ立派な羽毛を備える四足歩行型の肉食系の召還獣は落ち着いた声でレイピアに問い掛ける。


「その通りよ。アズラエル、あの召還獣にあなたなりのおもてなしをしなさい」


「難しい注文だが……なるべくは善処しよう」


 四足歩行型の召還獣アズラエルは立派な羽毛をたなびかせて、目の前に居る熊型の召還獣に突進しながらも前足に付いている肉片を散らす強力な爪を使いながら連続攻撃を掛けると熊型の召還獣はアズラエルの容赦無き攻撃に狼狽えながら後方へと少しずつ下がっていく。


「さぁ、今ですわ!」


「レイピアさん、ありがとう!これで最後にします!」


「……ふっ」


 アズラエルの攻撃によって身体に大きな傷口を受けて遂にその場で動けなくなった熊型の召還獣は最終的にアイリスとハルトの息が合った同時攻撃で倒れた。

 戦闘が無事に終わりを告げるとレイピアはアズラエルを戻してアイリスにハイタッチをする。

 一方のハルトは緊張の糸が通れたのか、ふらふらとその場に倒れる。


「ハルト君!」


「大丈夫だ。少し首が痛むが何とか立てる」


 じりじりと痛む首を抑えながら心配させまいと身体を起こすハルト。

 しかし思ったよりも首を締め付けられたお陰か予想を覆すほどの激痛が走る。


「ぐぁぁ!」


「これは重症ですわ。急いで、切り上げますわよ」 

 

 ハルトの苦しそうな表情を見て、かなり状態が悪化していると判断したレイピアはアイリスと一緒にハルトの肩を持って身体を引きずりながら歩いていく。


「レイピアさん。ハート教官に連絡は?」


 アイリスの問いに対してすぐさま片手でデヴァイスを取りだしてから電波を繋げる……が何かあったのか応答が無い。


「くっ、出ませんわ」


「えぇ!よりによって!?」


「仕方ありません。ここは私とアイリスさんで力を合わせながら出口へと目指すまでです」


 しばらく無言で歩き続けていると、光差す出口が見えた。しかし到着すると思っていた矢先に何処からか湧いて出てきた犬型の召還獣がうようよと声を上げてアイリスとレイピアの周辺を瞬く間に取り囲む。


「嵌められた!」


「こうなったら、私だけでも先攻しますわ。あなたはそのままレーヴンを連れて速やかにお逃げなさい!」


「そんな事出来ないよ。レイピアさんは私達のクラスメイトなんだから!少なくとも私はレイピアの事を友達だと勝手ながらに思っているよ!」


「嬉しい事を言いますわね。これは益々頑張らないといけませんわ」


 アイリスの言葉に嬉しそうな表情で感謝の意を告げたレイピアは動けないハルトをアイリスにいちにんしてから、お得意の武器として扱っている槍をデヴァイスから取り出して周辺を一瞬にして取り囲んだ召還獣に対して分かりやすい挑発を促す。


「来なさい。私が華麗に終わらせて上げますわ」


「ガルルル!」


 この悪い状況でレイピアが先攻を仕掛けようと動こうとした瞬間にレイピア達を取り囲んでいた一匹の犬型の召還獣がバラバラに引き裂かれる。


「すぐに片付ける」


 両手でワイヤーのように伸縮自在にして操っていたダガーを自身の手に戻してから救援が遅くなってしまった事に申し訳無さそうな表情で謝罪するミュー。

 助走を付けてレイピアの場所に馳せ参じると時間の流れを感じさせない程の圧倒的な秒殺を見せつける。


「急ごう。出口はもうすぐ」


 ミューの先導にて光差す出口へと無事に辿り着いた0組は、急いでハルトをラストピアの中心地から少し離れた場所にそびえ立つ病院へと運び込む。

 しばらくして連絡が取れなかったレグナス・ハートが病院へと駆け込んだのは結局の所アイリスからの連絡となってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ