第11陣:実習地、光の都ラストピアへ
特別実習:アグニカ帝国軍事学校が独自に行う1から7組。
そして帝国暦004に新しく創設された0組も含めた特別なカリキュラム。
基本的に、数ヵ月に1回開催され、数人(上限5人)を1組に纏めたチームにまとめてから学校以外の場所で独自の依頼をこなすシステム。
なお、この実習の目的としては一人一人の個々の力並びにどんな人でも切磋琢磨に協力出来るかという団結力が試されているので特殊な事情が無い限り教官の加勢は許可されない。
但し、教官並びに教官に任された人物による同行などは認められる。
暑さが次第に増してきた7月5日。服装が夏服に切り替わるのを期に俺は新たにパートナーとして共に戦ったレーナを0組に編入させる。
当初から馴染めるのか内心ヒヤヒヤしていたがレーナの性格がさっぱりしているからか上手くアイリスとレイピアと仲良しになったようだ。それに比べてハルトは人と極力関わる傾向にある為に未だレーナと喋っている様子を見た事が無い。
しかし特に何も大きな問題は起きなかった中で7月13日による実習日が行われる日の早朝に俺達は光の都と呼ばれしラストピア行きの電車に乗車して目的地へと目指す事となった。
ラストピアはアグニカ帝国北東部に位置する中規模ながらも建物の並びと行き交う住人と今月夜にライトアップされる壮大なる建物が一挙にされるのが大きな特長とされている。
「しかし、暇ね。到着するまで何も出来ないわ」
暇そうな顔で車窓から流れてくる景色を適当に見つめるレーナ。そんな様子にいち早く気付いたアイリスはわざわざ気を使って話しかける。
「レーナさん。せっかくですからトランプしませんか?こんな時こそ、何かをして楽しまないと!」
トランプを見せつけるアイリスにレーナは興味津々の表情を浮かべる。
「良いわね。あなたの言う通り、目的地に到着するまではたっぷりと遊んであげるから……精々地獄に落ちないように頑張りなさい」
「うーん。トランプでそんな事を言われるのは初めてだよ」
若干レーナの言葉を引きずりつつもレーナの許可が取れたアイリスは一番後ろの電車の車窓の見物から帰ってきたレイピアを無理矢理に誘ってから、女子3人だけでトランプゲームを楽しみ始める。そんな姿を隣の席で眺めているハルトは呆れた様子で見ている。
「あいつら、呑気ですね」
「そうか。息抜きは身体に良いと思っているが」
「……光の都ラストピア。ハート教官はどこまでご存知なのですか?」
何が言いたいのかはすぐに分かった。ハルトは裏で何が起きているのかを詳しく知りたいのだろう。
確かに俺なら特案で手に入れた情報をハルトの前で話すという事は出来る。
しかし只の生徒であるハルト・レーヴンにそんな情報をベラベラて話す必要は無い。
「さぁな。知りたければ、自らの足と頭脳とやらでしっかりと学んでこい」
「はい、そうさせてもらいます」
トンネルを幾つか抜けていくといよいよ二日間実習する目的地である光の都ラストピアが姿を現すと同時に駅員のアナウンスが到着のお知らせをする。
目的地へと近づいてきた俺は最初に席を立って生徒全員に対して。
「お前ら、忘れ物は無いようにしておけよ。もうすぐ到着するからな」
目的地であるラストピアは時間にしておよそ三時間。随分と待たされた。
俺達はすぐに駅に足を踏み入れて切符を使って出口に向かうと、綺麗な街並みと行き交う一般人と観光客らしき人の真ん中の噴水の場所で特案部隊に所属するミューが眠りながら立っている。
「寝ているようだな」
この暑い時期に白のマフラーをしていているの相変わらず。しかし俺も銀色のコートを羽織っている以上人の事は言えない。それにても中々に寝込んでいやがるな。まぁ、寝ているなら無視して先に行っても構わないだろう。
どうせ一ヶ月前に依頼が書かれている封筒を持っている事だしな。
「……!」
立ちながら眠っているミューの横を通りすぎようとした時、俺は腕を引っ張られる。
こいつは手加減を知らないから凄く痛い。
「何で先に行くの?」
「お前が寝ていたからだろうが。あと腕を引っ張るな」
「ごめん。それよりも早いんだね。もう少し掛かるかと思った」
腕を離したミューは案内係のようで俺達に付いてきてと促して先へと進む。
「これからどこに行くのでしょうか?不安で仕方がありませんわ」
「安心しろ。今から向かうのは恐らく俺達が一日だけ過ごす場所だ」
光の都であるラストピアのホテル。幾つか経営ビジネスとして建っているが、どれも高級な場所が多い。
しかし、今回ミューが向かう先はその中でも比較的に安価な値段で依頼の一つである洞窟内で暴れまわる熊型の召還獣の近くにある場所。
「到着」
太陽に照らされた看板には光の宿と木の看板に文字が掘られている形で描かれている。
ミューに続いて宿の中に入っていくと長老の婆さんが出迎えに来てくれた。
「あらあら、いらっしゃい」
「始めまして。0組の教官を担当しているレグナス・ハートです。今日から二日間だけとなりますがお世話になります」
俺の挨拶に続いて、アイリスから順番に挨拶をしていくと長老の婆さんは久し振りのお客さんなのか嬉しそうな表情で部屋を案内する。
部屋の振り分けは6人なので丁度2人ずつ分けられた。
「でも、これじゃあ面白みが無いわねぇ」
「婆さん。この振り分けで充分です。就寝に男と女で寝るのは良くないので」
「えぇ。せっかくなんだから私と一緒に寝たら?」
「余計な事を喋るな」
「おやおや、仲睦まじいね」
どうしたら、そういう風に見えるんだよ?
「それよりも依頼が書かれている書類を渡してください。時間はそんなに無い筈です」
ハルトの言葉で気付かされた俺は宿の婆さんを退出させて自分が寝る部屋で事前に持ってきた黒鞄から依頼が入った封筒を0組の生徒に渡す。
代表で受け取ったアイリスは2人に確認してから封を開けると依頼が書かれた文章をじっくりと眺めている。
今回、特案部隊のクロノとミューが発注したと思われる依頼は基本的な依頼しか書かれていない上に依頼の数は3つしかない。
「召還獣退治に猫探しそれと薬草探しですか……」
「全部完了したら、今回終えた依頼をレポートにして提出だ。基本的に猫以外はそこまで時間は掛かるとは思えないが、無理だと感じたら俺に報告しろ……と言ってもお守り役にミューが付いてくる予定だから早々事故は起きないだろう」
今回実習するに当たってミューから0組で一緒にやってみたいと言われた。理由は0組の力を間近で見ておきたいとの事だが。
「宜しく」
とにもかくにもミューが付き添っていれば、何とか依頼はこなせるだろう。その間に俺はいつのまにかにふらふらと消えやがったレーナを探す事にしておく。
「じゃあ、後の事は頼んだぞ。ミュー、何か予期せぬ事が起きたら必ず知らせろ」
「了解」
0組をミューに任せてから狭い宿の扉を出る。レーナの姿は全く見当たらない上にどこに居るか見当すら無いが、取り敢えず街の住民から情報を聞いて探し出すとするか。
「すいません。少し良いですか?」
建物が密集しているお陰で日が当たらない場所に居る俺は周辺を適当に目的も無い住民から片っ端に質問するも、残念ながら全く見た事が無いとの情報。
「あいつ、どこ行きやがった」
ラストピアは潜入任務の時に一度しか訪れていないから、あまり場所に詳しくない。
色々と適当な場所に行って探し回るが案の定見つからない。
それに着信しても応答しない上に送ったメールも見ていないのか返信が来ない。
もうかれこれレーナを探すのに、休憩を挟んで1、2時間は経過している気がする。
「たくっ、手間が掛かる女だな」
「手間が掛かるのはあなたよ」
ラストピアの中心街である幾つかあるベンチの一つでくたびれていると隣に俺に散々の迷惑を掛けている事に反省しないレーナが堂々とした表情で居座る。
「レーナ、今まで何処に行ってた?」
「ふらふらと遊んでいたわ。生徒になったとは言え真面目になるなんて無理だし。本来なら制服も着たくなかったものよ」
はぁ。そうだった……レーナは元々気分に左右されやすい性格だったな。
「お前の事を侮っていた。だが、手間が掛かるのはレーナの方だ。俺はマシだ」
「ふ~ん。だったら」
俺の顔まで急接近してきたレーナの表情は頬を若干赤らめて両頬を掴む。
心無しか俺の心臓の鼓動が妙に早くなっている気がしてならない。
「ねぇ。いつになったら……あなたは私を見てくれるの?」
行き交う通行人がチラチラと見学しているような気がする。ここは一旦レーナを速やかに落ち着かせておくに限る。
「レーナ、その話の意味は後で聞いてやる。今はここを離れるぞ」
通行人にジロジロと見られている姿に耐えられなくなった俺はレーナの手を掴んでから人気の無さそうな場所に連れ込む。
ここなら落ち着ける筈だ。そう確信してさっきの言葉の意味を確認しようとした時に何処からひそひそ話が聞こえてきた。
これは良からぬ事だと思ったレーナは相手に聞こえないような声量で口を開く。
「レグナス、誰かが怪しい話をしているわ」
「あぁ」
内容は良く聞こえないが……こんな時間に小声でしか言わないのは非常に怪しい。
「俺の後に続けてこい」
レーナを後ろに連れてきた俺はある曲がり角の付近で怪しげな格好をした2人の人物を目撃する。どうやら取引現場と鉢合わせになったみたいだな。
「明日の夜にあの塊を奪う。お前はWの方向から仕掛けろ」
「了解」
仕掛ける場所の詳細は……ちっ。やはりそう簡単には吐かないか。
「レグナス」
レーナが俺の名前を小声で呼ぶ同時に1人の男がこちらに足を踏み入れてきたので俺はレーナと一緒にゆっくりと足音を立てないように去っていき、さっきの薄暗い路地裏のような場所から出るとそれぞれが得意とした武器を手に取る複数人の人物が待ちわびていたかのように表情を浮かべていた。
「気付いていたのか」
「結界魔法で異質な存在だと言う事だと既に気づいてはいた。私達の計画を聞かなければ逃していたが……仕方ない」
「ふんっ、悪いが俺が居る以上はお前達が築き上げた計画とやらは壊してやる」
「この計画は、上手く運べば次のステージに近づく一歩となりうる物。失敗は許されない」
1人の男性らしき人物が手を頭上にあげると俺とレーナを囲んだ複数人の人物はお得意の武器を見せつけながら接近。
こうなると詳細はあの男から情報を巻き上げた方が良さそうだな。ここで逃せば、ろくでもない計画を阻止出来ない。
「レーナ」
「分かってるわ」
既に腰に備えていた鞘から太刀を引き抜いたと同時にレーナの片手を繋いで黒い剣として姿を変えたレイヴン・セイバーを手にして両手に武器を持った状態で俺達を囲んだ複数人に見せ付ける。
「やれ。本気で殺せ」
掛かってこい。全力で問答無用で相手をしてやる。




