第1陣:教官着任命令
この度は「漆黒教官と巻き起こる陰謀劇は何処に流れて」を閲覧頂き誠にありがとうございます。
この作品で何か至る事が多いかとは思いますが楽しんで頂けたらなと思います。
基本的にはバトル有り構成かつ恋愛構成で作製しております。
※前々回の殺し合いよりマイルドかと思われます(笑)
タイトルも変更! 何か読みづらい上にあんまり読者に伝わらないと思ったので・・
兵士達を切り裂く鮮血の刃。青年は冷たい目で片付けていき、やがて俺と見事に鉢合わせになる。
「お久しぶり……でも無いですね。数日ぶりです」
「お前とこうして出会ってしまうとはな」
青年は血に染まった真ん中の棒の両端にある刃を頭上に大きく振り回すと、見せしめのように武器を披露する。
「これは双覇刀。ハート教官に言われた指摘から新たに武器を変えて戦闘スタイルを変えさせて頂きました」
爆音が鳴り響く中、俺と青年はただ一点に睨みつける。
「本当に……良いんだな?」
「今の俺は、誰よりも強い。あなたでも勝てるかは正直微妙なラインですね」
「随分と言うようになったな」
服装も学校指定の鼠色の上着から一転して黒のコートに身を包んでいる上に非常に危険な雰囲気が漂う。
俺は一歩ずつ歩み始める。レーナと繋いで形を変えた黒き刃を構えて。
青年も歩み始める。学校の時とは違い武器を新たに変えた双覇刀を構えて。
「この要塞は俺の家族を壊し、あろう事か故郷すらも占領する憎しみの塊。だから、今回ばかりはあなたを越えてマルクスを殺します」
「お前を止めてやる。最後まで……それが教官としての勤めだ」
「ハート教官。漆黒の死神と呼ばれし特案部隊の筆頭……ここから先は!」
「実力勝負だ」
黒き刃と白き刃。2つの相対する刃は金属音を鳴らして一切の妥協も許されない戦場と化す。
やがて激しい斬り合いの中で俺は黒き刃であるレイヴン・セイバーに魔力の元となるルナを入れ込む。
青年は一度距離を取って、双覇刀の刀身の不気味な色をしたオーラを解き放つ。
「レイヴン・クラスター!!」
「双覇連獄斬」
振り下ろす黒き閃光と交互に左右する禍々しき閃光。ぶつかり合う事で周囲が激しく吹き荒れる。
俺と青年が出会うのは半年前。この日まで俺が出来なかった事に激しく痛む。あの日、あの時、あの場所で俺がしっかりと教官として青年の苦しみを止めていれば。
※※※※
帝国暦004年。
街は随分と進歩していく姿を見せつけていく。
4年前にあった王国を排除して帝国が築き上げた優秀な帝国軍の兵士により、カイエル大陸の中央に広くあるアグニカ帝国はもはや基盤となっていた。
しかもアグニカ帝国の頂点に立つロイド閣下は誰よりも不自由の無い暮らしを政策によって実行していく。
殆どの市民はロイド閣下の素晴らしい姿勢と素早い実行力に感服を受けている為に大変な好評を頂いているとの事だ。
ここまでの出来事なら、誰もロイド閣下を襲う必要は無いし絶対にアグニカ帝国は永久的に平和と言える。
だが、現実はそう上手くは運ばない。
むしろ戦火は荒れるばかりで王国の生き残りと思われる連中がこれみよがしに迫る訳で帝国軍の特案部隊として勤めている俺はたった今、奴等のアジトに忍び込んで壊滅作業を進めていく。
道中に会う一部の連中は俺の顔を見るだけで、震えて怖がりそして去っていく。
そうして活躍している内に敵からは漆黒の死神と呼ばれる存在になった。
まぁ、あだ名なんて気にしてはいないが。
「これで、全部か」
あらかた掃除は終わった。今回の任務は大陸にあった王国に勤めていた反乱軍の騎士を叩く任務。
どうやら魔法だけで無く大砲を備えた車を使ってアグニカ帝国に甚大なる被害を与えようとしていたみたいだが、俺達が居るからにはそう上手くはいかねえぞ。
「ぐっ、あと少しの所で」
「残念だったな。自分の運の無さを呪っておけ」
表面では平和を保っているアグニカ帝国。しかし裏では王国で働いていた連中が武装して今かと今かと狙いを定めている。
だがそれだけに飽きたらず、街の外に潜んでいる召還獣の頭部などを頂いて自分達がコントローラみたいに自由自在に命令可能な機械獣を作り出す始末。
全く人という奴はよっぽど争いが好きな連中だらけだ。もう少し利口になれないのだろうか?
「制圧完了。レグナス、帰投指示が出ている。この場は帝国軍に任せて帰るぞ」
「了解」
軍事車両に乗り込み、基地へと目指していく最中俺はふと悩んでいた。
人は争いを決して止めない。それどころか被害は増していく。一体どうやれば世界は恒久和平を実現するんだ?考えても結論は簡単には出ない。
「あっ!そうだった。この後からの連絡でレグナスは一度特案室に訪れよとの事らしいから忘れんなよ」
特案室。俺が従属している特案部隊が指示などを行う作戦室の通称。それにしても任務終わりにお呼び出しか。
「面倒な事で無いと祈るばかりだわ。無表情かつ無愛想なレグナス」
長く腰まで届いた艶のある紫の髪を持ったレーナ。出会ったのは4年前で現在でも俺の名前の前に無表情と無愛想を入れたがる。
ときどき何回か注意はしているが聞き入れない為に俺は最近になって諦めている。
「レーナ、お前は特に大人しくしていろ。余計な事を喋ったらーー」
「しばき倒す。でしょ?分かっているわ。なるべく善処してあげる」
「なるべくじゃなくて、絶対だ」
「え~、どうしようかな?」
「レーナァァ」
スレンダーな体型に繊細な肌。レーナは凛々しい瞳をじっと見ていたら今でも見惚れてしまう。
だが、俺は決してその言葉を口に出さない。
理由はレーナに馬鹿にされてしまうという恐れと何よりも俺が一番恥ずかしいからだ。
「ほんと仲良いね、お前ら。俺も会話が弾む彼女が欲しいよ」
「話し相手ならくれてやる。こいつと話すのは本気で疲れるからな」
おい、なんでそんなに苦い顔を浮かべているんだよ?彼女とやらが欲しいんだろ。
俺が話し相手としては良いって言ったんだから遠慮無く受け取れよ。
「いや、あのさ……まぁ、その遠慮するわ!お前達の輪に入るのきついし!」
もう良い。俺は仮眠する。さっきの戦闘で俺の身体は疲れているからな。今の内に休ませておく。
「そうか、じゃあ俺は今から寝るから着いたら起こせ」
「はいはい」
今回の標的である場所は基地から約30分辺り。大体敵が潜む場所は近くにたたずんでいる。
理由は近い方がアグニカ帝国を叩きやすいから。何とも馬鹿馬鹿しい理由だが、俺達が放置するという訳にもいかない。
俺とお調子者とレーナと静かなる風と呼ばれし緑の短髪の少女はそういう武装戦力を撃退する任務と暴れまわる大型の召還獣等の面倒な仕事を片付けていくのが主。
ときどき運んでくる風に当たりながら30分後に俺達は特案室に任務の報告を伝えて俺とレーナだけが残る。
端っ子に静かなる風が2つあるダガーを丁寧に磨いているが大佐に限っては全く気にしていない。
「さてさて、君とレーナがここに来てから三年。君達は私達に多大な戦火を残してくれた。そんな中でも君達には、ある特殊任務に身を寄せて欲しいが為に残ってもらった」
40歳辺りの無精髭を生やしたドミニオン大佐が渡したのは何枚か紙が分厚くかさ張った茶色の封筒。
「開けたまえ、その封筒には君がやってもらう仕事が入っている」
上司が目の前に居るので、俺はご丁寧に封筒を開けて中身を取り出すと目に疑う光景が移る。
レグナス・ハート大尉、明日付けを持ってアグニカ帝国軍事学校の教官として着任する。なお付き人としてレーナの同行も許可する。
「これは……何かの冗談ですか?」
嘘だろ。俺みたいな敵をただただ排除していた輩がある日を境に先生になれだと。頼むから誤りだったと言ってくれ。
「明日にはここを離れて中央部に位置するアグニカ帝国軍事学校の教官として着任してもらう。勿論最低限の雑用代などは申請さえすれば遠慮無く出す」
そういう問題じゃない。俺がまず教官として学校に勤めるのがおかしい。
それに軍人勤めの俺がわざわざ学校で生徒と接する事は職から離れていると言いたい。
「何故軍人が学校の教官をしなければならないのですか?軍人は戦う事が使命の筈」
「そうなんだけどね。今回から軍事学校の特殊なクラスが設立されるから、その代表として戦果も素晴らしく優秀で冷静な性格を持った君が上層部が集う会議で選出されたんだよ」
上層部絡みか。厄介な事をしてくれるな。しかも軍事学校に設立された特殊クラスの担任を受け持つという事は楽な仕事では無いかもな。
「へぇ、無表情かつ無愛想なレグナスが教官。ふふっ」
何がおかしいのか知らんが所構わず笑い出すレーナに俺は殴りたい気持ちが働いたが、今の状況下で殴るのは大人げないと思ったのでひとまずは見逃す。
「うん。という訳で明日からは頼んだよ。晴れて教官として着任するレグナス君。そして君が指導していく新入生徒を未来ある軍人にしたまえ」
勝手に話を進められた俺は自室に戻って書類を一通り確認してから就寝して朝まで待つ。
今から断る段取りを作ろうとしたが、大佐と上層部が話を進めている時点で不可能に近いと感じたので諦める。
全く……こんなに愛想の無い俺が教官として勤まると思っているのか?
第一、俺はそれほど頭も良くなければ人当たりも良くない。
「寝つき悪いけど、大丈夫なの?」
「よく分からん任務を押し付けられて、スヤスヤと寝れると思うか?てか俺の部屋に勝手に入るな。自室に戻れ」
「一人は暇だし。誰か居ないと落ち着かないわ」
「……はぁ」
結局、レーナは俺が寝るまで居座っていた。とんでもなく迷惑な奴だ。寝る時くらいは一人にさせてくれ。
※※※※
窓もない壁だけが包まれているシンプルな部屋に予めセットしておいた朝のアラームが鳴り響く。
俺はうだる身体を起こして、夜にほどいておいた青髪を後ろに束ねてから棚に吊るしてある自衛用の東国から伝わる太刀をデヴァイスにしまって、白シャツの上に帝国黒特案部部隊専用の黒ジャケットを羽織ってから最後に書類を詰め込んだクリアファイルを黒鞄に入れてから部屋を出ると事務員の女性がカバンを持って指示を出してきた。
「着替え終わりに申し訳ありませんが、こちらのカバンの中にある服に変えてください」
「何故だ?これでもいけるだろ」
「学校の教官の服としては印象が悪いとの大佐からの指示です」
カバンを受け取って中身を確認するとメモ一式と銀色に染められた立派なコートと同じく銀色のズボン、そしてズボンに取り付ける真紅色の革のベルトが入っている。
再び俺は服を脱ぎ捨てからカバンの中にある銀色のズボンに革のベルトを巻いて最後に白シャツの上に銀色のコートを羽織ってから部屋を出て、外に出るとレーナと部隊で共に戦ってきた仲間が待ち構えていた。
「ほぇー、違う服を着ると中々格好いいじゃん。いつも真っ黒で恐いイメージが染み付いてたから丁度良いぜ」
「クロノ、お前もそのダサい服装を変えておけ。軍事用の服を着ている時は良いが、普段からそれだと嫌われるぞ」
「考えとくわ」
この感じだと変える気は無いな。クロノからハイタッチをしてきたので俺は適当に合わせてから静かなる風と呼ばれる緑の髪と白いマフラーを後ろに回しているミューに軽く別れを告げる。
「しばらく留守にする。この部隊の事は任せた」
「任せて。レグナスが居なくなっても立派にやっていく。けど、ちょっと寂しい」
意外だな。まさかいつも無口な性格をしているミューが寂しいという感情を抱くなんてな。
「戦い相手のサンドバックが居なくて」
「クロノと遊べ。俺と違ってたっぷりと付き合ってくれるぞ」
「えっ!嫌だよ!俺は心が繊細なんだから本当に止めて!」
「うん、良いかも」
さて、行くとするか。いつまでも喋っていたら約束の時間を過ぎるからな。
俺はワイワイガヤガヤと喋り出すクロノを放置して、先に行くとレーナも歩き出す。
目指すはアグニカ帝国中央部に位置するアグニカ帝国軍事学校。
ここから徒歩で20分という頑張れば行ける距離にある由緒正しく規律に厳しいとされている学校。
「緊張してきた?」
「どうだろうな。まぁ、変な生徒に当たらないように願うばかりだ。じゃないと居心地が悪くて仕方が無いからな」
歩くペースを早めにして、しばらく何キロか歩くと石造りのカラフルな一軒家が立ち並んでいたり真ん中にロイド閣下の石像が置いてあるのが見受けられた。
ここはアグニカ帝国中央部としてはそれなりに有名な帝都ラグナロク。そして一軒家の周りを囲む石像の奥に大きく存在感をアピールしているのが、俺が赴くアグニカ帝国軍事学校。
まるで城のような要塞を誇っている。確かジェネシス学園でも大きかったが、こいつは一味違うみたいだ。
「はぁ、しんどいわ。私は生徒でも何でも無いから適当にぶらつく。何かあったら戻るわ」
「おい!」
逃げやがったか。まぁ、俺一人でも問題は無いだろう。
「行くか」
俺は今日から教官として生きていく。任務期間は生徒が無事に卒業するまで。
面倒な気持ち半分期待半分の俺は緑の木々が風によってさらさらと心地良い音を出す一本道を歩いていく。