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19.動き出す、あざやかな刻

「カリヨンのアナエルくん!」

思いがけない再会に、セリエの顔が輝きました。翼と法輪はあるけれど、それを除けば普通の男の子っぽいその天使は、自分を見つめるセリエの姿にびっくりして言いました。

「人間さま?僕が見えるの?どうして僕を知ってるの?それに君は……エリシャ?」

傍らにいるエリシャはアナエルの勘違いに吹き出しそうになりました。でも無理もありません。だって、となりにいるセリエはびしょびしょドロドロで、さっきまでどろんこ遊びしていた女の子にしか見えないのですから!

「エリシャ、この子の守護天使なの?大変そうだね……」

「アナエル、忘れちゃった?ほら、わたしと一緒に勉強してたセリエだよ!」

「えー!?あのおさぼりセリエ?」

それを聞いたセリエは、ほっぺたをぷーとふくらませて彼につめよりました。

「おさぼりじゃないもん!おそらとおはなししてただけだもん!」

頭の羽根をぴんぴこ動かしながら、セリエはアナエルにくってかかります。アナエルは人差し指でおでこをついてセリエを仰け反らせるとけらけら笑いはじめました。

「はは!びっくりだなぁ!ほんとにセリエだ……でもどうして下界にいるの?まだ天使じゃないみたいだけど」

「そ……それはぁ……」

「もしかして追い出されちゃった?へへ、鐘楼からはよく見えてたっけ、セリエがお昼寝してるのが」

「ううぅぅ……いいなぁ……みんな天使になれて……」

「アナエル!」

エリシャはアナエルをにらみつけました。すらっとした体つき、ちょっとやんちゃさが残るけど、でも一人前の天使の姿です。自分たちと同級ながらカリヨンを任されたほどのしっかり者で、今や下界の国家や時間を支配する要職に就いている彼に気後れを感じながらも、エリシャはアナエルを放ってはおけません。

「セリエはね、ラファエル様の特命で或る人を救済する為に降りてきたの!あなたがとやかく言う事なんかないわ!」

「え?エリシャ?」

突然の詭弁にびっくりしているセリエにウインクしながら、エリシャはアナエルにそう言いました。今はいちいち説明している時じゃないってこともあるけど、何よりエリシャはセリエの落ち込む顔が見たくなかったのです。でもアナエルも何となくそれはわかるみたいで、もうそれ以上の詮索はしませんでした。羨ましさと憧れで、ぽぉ〜の表情のセリエを横目に感じながら、アナエルは入り口のドアの解かれた方陣の様子を確かめに行きました。

「はぁ、こりゃひどい、思いっきり引きちぎっちゃって……これじゃ元には戻せないよ」

無残に破られた言霊のかけらを拾いつつ、アナエルはおおきなため息をつきました。それを見ていたエリシャはちょっと気の毒だなと思いましたが、マオくんの為にもこのまま時間を止めておく訳にはいかないと、わざと鼓舞するようにアナエルに頼みました。

「あなたの術なんでしょ!なんとかならないの?いっそ方陣ごと壊しちゃうとか」

「壊すだって?人の苦労も知らないでよく言うよ!君たちのおかげで地上まで時間が止まっちゃってるんだぞ!」

「え……でも、そんなこと言ったって……わざとやったんじゃないのよ!」

「それで?それでこのまま放っておくわけ?無責任すぎない?エリシャ」

「もう!だからこうやって頼んでるじゃないのよ!」

「やめてッ!エリシャ!アナエルくん!……」

その声に振り向いた二人の前に、今にも泣きそうなセリエが小さな手をぎゅっと握って立っていました。

「おねがい……みんな、まおにーちゃんをたすけてよ……みんなとまっちゃって……ぐす、セリエ、どうしていいかわかんないのに!」

涙目で訴えるセリエの姿に、二人は些細な事で言い争ったりした事を恥ずかしく思いました。たしかに、今は力を合わせてこの問題を解決しなければいけない時ですね。エリシャは感情を閉じ込めたセリエの手をやさしく握りしめました。

「ごめん、セリエ……あなたがからかわれてるのが我慢できなくて……」

「……確かに、方陣が修復できないなら、この術詛自体を無効にするしか手はないな」

アナエルはエリシャを気にしつつ、セリエに笑いかけながら話しました。

「やれやれ、セリエのめそめそ魔法にだけは敵わないよ……フッ、大丈夫、元に戻してやるって」

「ほんとに?」

上目遣いでアナエルを見ていたセリエの顔に俄に明るさが戻ってきました。その表情は新しい希望が生まれた心のように晴れやかに輝きはじめて、見つめられているアナエルはその春の陽のような気の放射に「あたたかくておおきな存在」を感じずにはいられませんでした。

「……セリエ、君は変わらないでほしいな……」

「なーに?」

「アナエル、出来るなら早くとりかかってよ」

「え?何でもないよ、さて、依頼主はと……」

エリシャの言葉に、アナエルは花時計の機関部の中心、あのロッキンググェアーのあるところへ向かいました。

「依頼主?」

「もともとこの術詛は頼まれて置いた物なんだ。だから依頼者の許可がないと撤去することはできないのさ」

「誰なの?その依頼主って?」

「ほら、そこの椅子に座ってる……あれっ?……どうして?」

誰も座っていないロッキングチェアーを見て、アナエルは戦慄を覚えました。


 何もかもが静止した無音の世界に、おおきな黒い影が翻ります。天使のなりをしてはいますが、漆黒の翼を広げて下界を俯瞰するその姿はどちらかというと悪魔のような無気味さに満ちています。聖なる護りの効力を失わせる護符が彫り込まれた腕には、自分の身長の倍はあろうかという特大の鎌が携えられていて、黒衣からわずかに覗く髪と瞳は、まるで金属のような重い、鈍い光を放っています。

「……時間が止まれば、人間の思考も止まる。厄介なことをしてくれたな……」

黒衣の天使は、この止まった時間の中で結界も張らずに飛翔しています。それだけの力を持った天使はごく一握りの、もっとも主に近い階層の面々のみのはずですが……町の中心部の、横断歩道のない3車線の道路を横切って渡っている、今にもトラックに跳ねられそうな男性の傍らに降り立ったその天使は、

「しかし、やりやすくはあるな、一応感謝しておこう」

そう言って手にした大鎌を振りかざすと、鋭い振りでその男性の胸を貫きました。

「……主が許されても私は許さない、この腐りきった人間ども……お前に転生する資格はない」

勢い良く振り抜かれた鈍色の鎌は仄かに朱く染まっていて、それは地上から一つの魂が、永遠に葬り去られたことを物語ります。黒き運命を纏ったその姿……それはまさに「死の天使」と呼ぶにふさわしい厳かで邪悪な聖者なのでした。

「さて……いつまでもこのままという訳にも行くまい、元凶を探らなければな……」

大鎌が魂を喰い尽くしたのを見届けると、死の天使は再び時の止まった大空へと翔きました。天空で、まるで蛇のような縦長の瞳孔で周囲を見回しているうち、その視線はある建物の庭にあるおおきな時計で止まりました。

「時系術を封じ込めていたとは……かなりの腕前だな。何せ私が今まで気付かなかった位だから……しかしッ!」

死の天使は翼から黒い光を撒き散らしながら、マオの家の花時計に向かって一気に降りていきました。


「えー!それじゃ、ここの時間を止めてくれって頼んだの、マオくんのお父さんなの?」

セリエとエリシャは、アナエルの話す予想外の事実に思わず顔を見合わせました。

「うん……お母さんは嫌がってたけど、もうあんまり長くなかったみたいで……」

「それじゃあ、あの本棚にあった術書は……」

「たぶん……お母さんのだよ。それで僕を呼んだみたいなんだ」

まだ新しい光沢を放つロッキングチェアーを囲む三人の目に、座した婦人と、難しい顔をしている主人の姿がありありと浮かんできました。

「……時間を止めて、お母さんを永遠に生き続けられるように頼んだのね、マオくんのお父さんは……」

「おかーさん……」

「でも……ここにいないって事は……?」

「うん、お母さんには天使の力があったみたいなんだ。ここの言霊の乱れを見てわかるんだけど、それでも止まった時の中で、しかも方陣を破綻させずに抜け出すのはかなり大変だったと思う……」

アナエルは巧みに縫いあわされた方陣の組成を辿りながら、その苦労のあとを偲びました。

「まさか……自分で出て行っちゃったっていうの?どうして……死んじゃうってわかってるのに……」

セリエは二人の話を聞いているうち、あの「冥」での茜とのできことが胸にあふれてきました。あんな所に堕とされても後悔一つせず、絶えずやさしい心の灯で私たちを導いてくれた……その心にふれたセリエには、永遠よりも大切な物を守った茜の気持ちがよくわかるのでした。

「おかーさん、しんじゃうのはこわくなかったとおもう……けど、まおにーちゃんにあえなくなっちゃうのは、すごくこわくて、かなしいことなんだ」

「セリエ……」

ロッキングチェアーの傍らで、幼いマオの写真を見ていたセリエは、二人に向かって静かに話しはじめました。

「だって、セリエ、すごくさびしいの……このままとまったままだったら、もうまおにーちゃんとおはなしできないんだよ……だっこも、スキスキもしてもらえないんだよ……そんなのいや……もし、あしたしんじゃうっていわれても、セリエはまおにーちゃんといっしょにいたい……」

「……セリエ……そうか、君はあの子のことが……」

俯くセリエの視線の先に、動かなくなったマオの姿がありました。アナエルはそれを見て小さく息を吐くと、地上へと伸びる花時計の機関部を見上げて呟きました。

「主が永遠を人間さまに与えなかったのは、彼等は僕らより劣る存在だからだと思っていたけれど、それは浅学だったみたいだ……限られた時を歩むひたむきな魂であったからこそ、人間さまは数多くの福音を獲得できたんだね……セリエ、君にはそれが見えるんだ……」

セリエは顔をあげると、アナエルと同じように機関部の先を見上げました。それは「冥」の底で仰いだ時のように漆黒の中へと溶け込んでいって、セリエは辛いあの時を思い出してしまって、ちょっと怖くなってしまいました。

「くらいの……なんかヤダな……」

「しかし、依頼主がいないとなると、ここは……えぇッ!」

「何!?」

「きゃあ!」

何の前触れもなく、頭上に広がる闇がまるで覆いかぶさるように三人の上へと落下してきました。それまで見えていた本棚や扉や花時計の機関部はまるで黒く塗りつぶされたように光を失って、無気味な冷たい空気が三人のまわりを覆いました。

「見えない?何も見えないわ!」

「こわいよぉー!!」

「何だッ!この気配はッ!」

……この術詛を築いたのは、あなたですか?……

闇の中に、突き刺さるような強い意志が響き渡ります。心を握りつぶされそうなその威圧感に、セリエとエリシャは声も出せずに、ただ手を握りあってぶるぶる震えていました。でもアナエルはひとりその気配に向いて立ち、凛とした声で答えます。

「僕はアナエル、プリンシパリティです。この方陣は僕が依頼を受けて設置しました。あなたは誰です?」

「申し遅れました、わたしはサリエル、今は階級はありません……」

無機質な声が冷たい空気を通じてアナエルへと放たれ、途端にこの部屋を取り囲んでいた闇がある一点へと吸い込まれていきました。みるみる凝縮してゆくその漆黒はやがて2枚のおおきな翼へと姿を変え、その中から黒衣をまとった長身の男が姿を現しました。あらゆる光を覆い隠す闇の翼を背中に頂き、長大な鎌を手に三人の目の前に姿を表した黒の聖者……それは惑うことなきあの「死の天使」サリエルの降臨なのでした。

「まさか……死の天使さま……!」

「うううぅ……こわぃ……エリシャ、このまえあったっていってたの、このひと?」

「さ……サリエルさま……お、お元気そうで……クロいんですね……私……それ、イイと思います!……っていうか……」

サリエルには前に一度会った事のあるエリシャですが、今日の悪の魅力に満ちたその姿の前ではとてもまともに話は出来ないようで、珍しくしどろもどろで意味不明なおしゃべりをしてしまっています。サリエルはそんなエリシャを気にも止めずに、アナエルの目を凝視しました。

「申し訳ないのですが、ここの術詛を解いていただけないでしょうか……跡形もなくね……」

「しかし……依頼者の承認がないのに勝手なことは……」

「私は頼んでいるのではないのですよ……」

サリエルの細い瞳孔が朱色を帯びて丸く開いて、アナエルはその瞳の奥に映った自らの像が不気味に微笑むのを見ました。息を飲んで見守るセリエとエリシャの前で、アナエルはその像に胸を貫かれました。

「くっ……邪眼!」

「あれは確か……いけない!アナエル!言う通りにして!」

提言するエリシャを、サリエルは冷たく笑って見下ろしました。

「関わらない方が良いといったでしょう……あまり私のことを調べるのは感心しませんね、可愛い天使さん」

「は……はぃ……」

穏やかな、でも限り無く冷たいサリエルの言葉に心を見透かされたエリシャはもう一言も話せません。胸を押さえたアナエルはよろよろと覚悟を決めたように方陣の真ん中に立つと、光の指で胸の前に抽象的な図形を書きはじめました。

「……わかりました、だからこの二人には手を出さないで……マルクト、アナエルの名において命ずる、イェソドより、ケテルへの途を開きたまえ……」

今まで見えなかった、部屋の中一面に張り巡らされた方陣の言霊がうっすらと発光しはじめて、それはまるで古代遺跡の壁画ののような、あるいは電子回路のよう幾何学模様でまわりを覆いました。セリエとエリシャはその壮麗な光景に、怖さも忘れて見入ってしまいました。アナエルは焔のように揺らぐ胸の前の図形と、その中に現れた小宇宙を壊さないように慎重に手に取りました。そしてそれを方陣の真ん中に置くと、図形の左右に「00」と記述して吟唱を始めました。

「ここに封じられし時をもってアイン・ソフとすることを許されたい。YHWH、メタトロン……」

「……!」

途端に部屋中に張り巡らされた言霊が一斉に鬨の声を上げて、方陣の中心の小宇宙が閃光とともに爆張を始めました。閉じ込められた無数の記憶、意思、感情がまるで光の嵐のような勢いで四散して、天使達は、その眩いばかりの無限光に飲み込まれていくのでした。


「……光ってないな」

……またどっか行っちまったんじゃないだろうな?

「うううん……」

はあ……生きてたか……爆睡ってやつなのか?

「むにゃ……まおにーたん……」

「おい!セリエ!こんな所で寝るなよ」

肩を揺すられて、床に横たわっているセリエは目を開けました。ぼーっとした耳に、何かが動いているような低い音が響いてきます。「うにゃ?」と上体を起こした寝ぼけ顔のセリエの目には、戻ってきた鮮やかな色彩と、心配そうな顔のマオが映っています。そーっと顔を寄せて、暫くまじまじとマオの姿を見ていたセリエは、やがて翠玉色の瞳をおおきく見開いて言いました。

「……まおにーちゃん……とまってないの?」

「うん、びっくりしたよ、ここの機械は動いているんだ。それより何でこんな所で寝てんだ?」

「まおにーちゃん!」

セリエは跳ね起きて、勢い良くマオの胸に飛び込んできました。何の構えもなくそれを受け止めたマオは反動で後にひっくり返ってしまいました。

「あたた……何だよ!怖い夢でも見たのかよ」

「あのね、あのね!ぶんぶん……あれ?このおとは……?」

セリエは立ち上がって後を振り向きました。そこには規則的なうなりを上げて動作している花時計の機関部と、ややくたびれたロッキングチェアーが薄明かりの中で揺れていました。セリエは走っていってその椅子の上の、埃かぶった写真立てを見つけると、ニコッと笑ってマオの所へ戻ってきて言いました。

「うえにもどろうよ!きっととけい、うごいてるよ!」

「え?でもさっきは止まってたじゃないか」

「いいからいいから、はやくはやく!」

セリエに手を引かれて階段を駆け上がり玄関へと戻ってきたマオは、眩しい陽光の下で時を刻む花時計を見て目を丸くしました。

「動いてる……間違いない、けどどうして……」

振り向いて自分を見ているマオに、セリエはニコニコしながら話しました。

「きっとね、おかーさんをしあわせにしてあげたからだよ!まおにーちゃん……カーネーションさんもすごくよろこんでる!へへっ」

セリエはホースの蛇口の所へ走っていきました。それを唖然と眺めている、まるで狐につままれたような顔のマオを見てエリシャはセリエに言いました。

「ねえ、やっぱり、本当のこと言った方がいいんじゃない?」

「ううん、いわなくてもたぶんわかってるよ!だって、だからふたりはここへもどってこれたんだから!」

「クス、みょーに説得力があるのよねぇ、最近のセリエは……」

「よーし!セリエがんばっておみずあげちゃうぞぉ!そおれ!」

勢い良く蛇口を開けすぎて、またホースと踊っているセリエを笑って見ていたエリシャは、それでも心にひっかかる黒翼の天使のことを忘れられずにいました。

「そっか、やっぱり、何も言わない方がいいかもね……」

「まおにーちゃーん!あついでしょーっ?」

またセリエはマオに水を飛ばそうとホースを手繰りました。マオは庭の入り口の鉄の扉のところで、訪ねてきたサツキと話しています。

「こんな時間に何だよ」

「あのねえ、もう夏休みなんだよ、真桜も閉じこもってばっかりいないでたまには陽に当たりなさいよ。あ、天文部の部長がどうしても来てくれって言ってたよ。「今年はM8だ!」だって……今度の土曜日らしいけど」

「散光星雲かよ!赤道儀も合わせられないくせに派手好きだな、相変わらず……カメラもいるんだろ、どうせ」

「それとね、担任変わったよ、写真やってるみたいで真桜に会いたがってるよ。そうだ、家庭訪問するっていってた!えーと……」

「何だよ、その職権乱用野郎は……うわわっ!?」

サツキと向かい合うマオの頭の上から、大量の水しぶきが降り注いできました。あわてて後ずさりするサツキ。びしょぬれになったマオは花壇の方を振り向くと、大声でどなりました。

「ぷっ……こら!セリエ!こっちに花なんかないだろ!」

サツキはびっくりしてしまいました。今までマオがこんな明るい大声を出してる所を、サツキは見た事がなかったからです。鉄の扉をすり抜けて庭に入り込んだサツキは、目を奪わんばかりに真っ赤に咲き誇るカーネーション畑と、悠然と時を刻む花時計の運針に2度驚いてしまいました。

「すごい……真桜……どうしちゃったんだろう」

「あ!おねーちゃん!おねーちゃんもあついでしょー?」

「おい!こら!いい加減にしないか!……ぶぶっ」

「あははっ!天の橋だよー!あか、あお、きいろ〜♪」

「このやろ、くらえっこの!」

マオは足下の鉄の蓋を開いて、中の散水栓をひねりました。本来花壇に設けられていたスプリンクラーから、ホースとは比べ物にならない程の強烈な飛沫が噴出して、四方から放水を浴びたセリエは笑い転げながら逃げ出しました。

「はぁはぁ……もう!まおにーちゃん、ずるーい!アハハッ」

「フン!お前も人の事いえるかよ!」

まるで兄妹のように無邪気に戯れる二人を見て、サツキの心の中の何かが、クスクスと笑いはじめました。

「真桜……優しいね……好きなんだね……うらやましいな……」

降り注ぐ強い日差しのもとで躍動するマオの姿を見つめているサツキは、不思議な予感を感じている自分を可笑しく思いながらも、その笑顔をいつまでも見ているのでした。

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