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後日譚

「そういえば、どうして騎士にならなけれよかったなんて言ったの」

 無事、テンリの騎士号は復活し、これからも城での勤務が許された。バンワンソ子爵の執務室を退室し、テンリは騎士としての訓練を行うために、騎士と兵士が勤務する合同兵舎へ。メイラは司教としての務めを果たすために地下にある聖堂へと向かっていた。途中までは道が同じであり、意図的に分かれて向かう必要もなかったため、二人で廊下を歩いていた時、その言葉はメイラの口から発せられた。

 先ほどまでの怒りはすっかり治ったようで、城の中のイメージに沿った穏やかな表情での問いかけだ。

「あぁ、そりゃあ・・・・・・」

 メイラの問いかけに、何も考えずに騎士をやめたいと言うに至った経緯を話そうとして、テンリは口を閉ざした。

「ちょっと、どうしたの?急に口なんか閉ざして。子爵様の部屋に何か忘れ物したのを思い出した?」

「な、なんでもねぇよ!!」

「そう?なんでもないなら話して?どうして騎士にならなければよかったなんて言ったの?最近は昔みたいに騎士が嫌になって脱走しようとしたり、不名誉除隊狙って下着泥棒を働いたりしなくなってたのに」

「いや、下着泥棒の件はいい加減忘れてくれよ・・・・・・」

「無理。だってその被害者私だし。あの下着かわいいからお気に入りだったのに」

「だからちゃんと返したし、あのあと買い物に付き合って新しいの買っただろ?!」

 いま思い返してもどうして下着泥棒で除隊されると思っていたのかわからない。しかもよりにもよってメイラの下着を盗むなど。いままでわからなかったが、もしかするとメイラに構って欲しかったのかもしれないな、と考えた。考えるだけで実行する勇気は今のテンリにはないが。昔のオレ、スゲェ・・・・・・バカだ。そんなことをすればメイラに嫌われる可能性の方が高いというのに。

「へぇ・・・・・・開き直るんだ」

 メイラの声のトーンが下がったことで、あ、虎の尾を踏んだかも、と後悔するが、口から出た言葉は飲み込めない。一体何を言われるだろう、とヒヤヒヤする。目の前には、聖堂へと向かう地下への階段がもう見えており、メイラと一緒なのはそこまでだ。いつもなら二人で歩けることを嬉しく思うのに、今はなぜだか息苦しい。今ここで、登城するのが遅くなったから、俺もう行くわ!とメイラを置き去りにして兵舎の方へ駈け出しても構わないが、そんなことをすればこのあともずっと軽蔑される気がする。なにしろメイラが言いたいことを言っていない。言っていないことを聞くことなく逃げた時に、メイラがどのような態度になるのかは察しがつく。

 せっかくメイラと同じ職場に残ることができたのだ。ここで逃げ出しては、午前中どうにかしようと頑張っていた自分に申し訳ない。

「い、いや開き直ってるわけじゃないんだけど」

「そうよね。じゃあはじめの質問に戻るわ」

 はじめの質問・・・・・・?はて、自分はどうしてこんなことをしているのだったか、と思いを巡らせる。

「どうして騎士にならなければよかったなんて言ったの?・・・・・・まさか私もたったそれだけの発言でクビになるとは想像もしてなかったから、もっと気をつけなさい、とは言わないけど」

 どうやら言い淀むと過去の出来事を掘り起こし、そこから発掘したものでテンリに大打撃が加わるシステムらしい。長い付き合いだ。きっと掘り出すものは秋の銀杏の実より多いだろう。

「・・・・・・最近、ちょっとすれ違い気味だっただろ。だから、忙しいお前に合わせられないような仕事ならやらなきゃよかったな、と思ってよ」

「はぁぁぁ・・・・・・」

 長い溜息をつくと、メイラは歩調を早め、テンリの先を突き進んでいく。突然早まった歩みに、メイラに置いていかれるテンリ。

「お、おい!!どうしたんだよ!」

 テンリの声に応えることなく、メイラは地下への階段を下っていった。テンリはクビをかしげるが、どうやら先程の自分の発言で、何か急ぎの仕事を思い出したのかもしれない、と思い、特に気にすることなく自分の目的地である兵舎へ向かって進んでいった。





 テンリが階段の前を通り過ぎ、城の外にある兵舎へ向かって行くのを階段の陰から確認すると、溜息と共に階段の踊り場にへたり込む。

「はぁ・・・・・・もう。ほんとに。なんでもない顔してあんなこと言うんだから」

 へたり込んだ状態で頬に手を当てる。そこはいつもより熱を持っていた。


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