85:リル・ファルツ陥落
翌日朝、とりあえず食事を済ませ、そのまま今日の調整に入る。
〈ダイアンは見違えたな、それなら指揮官としても申し分ない〉
全身水色と薄青の中間といった感じの色で統一された装備を身に着けている為かなり目立つ、下手な金属鎧より確実に防御力は上だろう、特に刃に対する防刃は突出してるだろうな。
「本当に宜しかったのでしょうか、皆様より優れた防具を頂いてしまって」
〈問題無い、俺達の場合素っ裸でも問題無いんだよな攻撃は一切受けないから、それは兎も角、セレス、ティア、シェル、ファサラ、アレッサは表立って動いてもらうから同じ装備で身を固めておけ。
それと昨日話さなかったけど、防具をクラン員全員分発注して来た、ブレイズドラゴン七セットとストームドラゴン七セットだ〉
「ブレイズドラゴンの素材も宝の持ち腐れだったものにゃ、防具だけじゃなく他にも使い道は無かったのかにゃ」
〈そこは余裕がある時で良いだろ、とりあえず着替えてもらって六人と一匹で制圧に行くぞ、完了し次第、カエラ、シェロ、クリニス、クララ、アンナ、護衛5名を迎えに来るからな。
其方は2方面で動いてくれ、四人は一緒に行動してくれ、レベルが高いから全く心配はいらないと思うけど最初の仕事では心配だからな。
カエラ達六人は現状の把握を頼む、税率は帝国と同じに下げるつもりだが、税金収集をどの時期から開始するかの判断材料が欲しい、質問はあるか?〉
「マグロ、情報の拡散と言いますがどうするんですか? 諜報活動などした事が無いので全く分かりませんが」
〈そうだなぁ、俺達が制圧した直後から税制面の改革を訴えて一気に減税する事を冒険者ギルドと商業ギルドに協力を要請して情報の拡散をする、同時に税金収集も止めさせる。
この事を拡散してほしい〉
「相互監視の状態では簡単にその手の話題には触れないのではないですか?」
〈もちろんそうだ、だからその会話にもって行くように堂々と話してほしいんだよ、話せる環境が整いました、とね。
ダイアン様がこの都市を手中に収められた、この調子で国王になって頂きたいものだな、そうすれば税も下がり、傲慢な貴族を根絶やしにしてくれるだろ、せいせいするぜ、とかな〉
「話しても問題無い環境になったとアピールしながらダイアンの宣伝もするのだな」
〈情報を流したからと賞金貰いに行くような馬鹿も現れるだろうが、その時は容赦なく排除してやれ、ま、突き出す場所はその時点ですべて潰しておくけどな〉
アンジェ達は早々に出発、彼方は人を待たせてしまうからな。
着替え終わるのを待ち、ティアの使う【ゲート】で向かうも、行先に通じる街道が無い為にファサラに龍化してもらい運んでもらい人通りの途切れた街道に着陸する。
大半は都市から出る人達だ、早朝なため入場する者はほとんど居ない、俺はセレスの肩にとまり、ダイアン先導の元、カラドラス第二、第三の都市とも言われるリル・ファルツに向かう。
聞いた話では人口十五万から二十万、隣国のアラニス王国との交易が盛んらしい、最大の玄関口でもある為、交易による物と人の集まる大都市へと成長したという訳だ。
北は山の為に道は無いが、魔物の駆除と山からもたらされる資源確保の為に出入り口は当然ある、騎士と冒険者以外で利用する者は居ないが。
東西南は街道と繋がっている、この都市から西へ向かえばアラニス王国、西門はかなり厳重に警備されている、空間探知範囲から判断するに都市の直径は六kmほど、国の守りの要と言う事も有り都市をぐるりと取り囲む外壁も五mほどと他の都市と比べてもかなり高い部類に当たる。
俺達の前には二十名程度で全員が徒歩だ、交易商の類では無い事が分かる、十分も待つ事無く俺達の番となる。
『冒険者か? 素晴らしい装備だな、それに、ちい、さい、ドラゴ、ン、【真摯の断罪者】か!』
「なかなか目ざといが私に気が付かぬはよほど間が抜けていると見える」
『・・・・・隊長、その者、もしや指名手配されているダイアン=ストレング=カラドラスでは』
「この都市はダイアン=ストレング=カラドラスの手により解放する! 我に下るならば命は助けよう、即刻武器を捨てよ!」
『閉門せよ! 即刻関係各所に連絡しろ! 救援が来るまで防戦せよ!』
そうだろうな、と言っても都市から出ようとする者達がかなり居る、無理に引き返そうとする者と後ろから並んでる者達でごった返す結果となる。
とりあえずこれを使えとダイアンにストームランスを1本投げて渡す。
〈範囲魔法を使うなよ、単体魔法で確実に仕留めろ、なるべくなら遺体の回収もしてくれよ、放置すると邪魔だからな。
セレス、ダイアンに張り付いて守ってくれ〉
〈だけどにゃ、張り合いが無いんだよにゃぁ、もっと気合の入ってる相手が欲しいにゃ〉
と言いながらメテオブレイカーを片手にとっくに突貫してるティア。
〈都市内に入る程度でジワジワ頼むぞ、他の場所の連中をここに引き付ける感じでな、乱戦に持ち込むのも有りだが、引き付ける方が混乱しないからな〉
厚みが増したら倒し、薄くなったら引き、と倒しながら時間を稼ぐ、俺だけ足元をチョロチョロと移動しながら遺体の回収ついでにテレポーター用魔石を剝がし取り収納しておいた。
中にはティアの豪快な戦闘に怯え逃げ出す者も居たが敵前逃亡と見なされたのか、同じ騎士の手により殺されていた。
こうして約一時間後、都市内の騎士と衛兵の大半を平らげ、後は入口三ヶ所に居る連中と南門のテレポーターを利用して向かって来る者のみになる。
俺とシェルで各入口の衛兵と西入り口のテレポーターを潰し、ティアとファサラで南入り口のテレポーターから転移してきた者達を排除し、セレスとアレッサとダイアンはザースバルス=ストレングの屋敷前に陣取ってもらう、位置的には都市のど真ん中付近だな。
屋敷と言って良いのか怪しい規模だ、元々小国を平らげて大きくなった国だ、そのうちの首都であり城だったのかもしれない、その城を自宅として使用しているようであった。
各方面の処理が済み次第セレス達に合流し最後の仕上げへと入る。
「ザースバルス=ストレングに告ぐ、私の軍門に下り投降しろ! さもなくば逆賊と同列と見なし即刻処刑する!」
『・・・・・』
〈本人は王都に居ていないんじゃないの?〉
「一旦全員を拘束でお願いします、家族と使用人を選り分け、家族は公開処刑します」
「それじゃ突入するにゃ」
門から入った直後に左右から挟撃されるが分かっている為あっさりと取り押さえ、セレスとダイアンのみがペアで後は各自分散、俺は各部屋を見て回り値の張りそうな品を回収、ついで収支報告書などの書類も確保。
抵抗しない者は外まで誘導しアレッサが監視、抵抗する者は意識を刈りとられロープで拘束した後外まで運び出す。
そして全員を鑑定し家族と使用人を区別した。
〈とりあえずこの都市は手中に入れたな、それでどうするかね?〉
「まず、家族はさらし者にし明日にでも公開処刑を、使用人は個別で事情を聞き出し、信用のおける人物なら雇い入れたいと思っています」
〈では、一応全員を拘束した後口裏合わせが出来ない様に猿轡をはめ別の部屋で一人ずつ尋問を。
俺は家族の方を広場に連れ出し足を固定させ晒し者にする。
セレスとティアで商業ギルドと冒険者ギルドに要請を出してこの情報を拡散、それと商業ギルドへは税率を決定するまで収集するなと伝えてくれ。
シェルとアレッサはダイアンに協力を、良いかな?〉
「それは良いのじゃがな、固定して晒し者にしては反感を持ってる者になぶり殺しにされるのではないかの?」
「アレッサさんの指摘は最もですが、それでも良いのです、彼らが善政を行っていれば助け出され、悪政をしていれば殺されるでしょう、それにより此方の理解者が一人でも増えれば今後の統治にも有利でしょうからね」
〈助け出すのは無理だろうけどなぁ、鉄でかなりを埋めちゃうし〉
「其方もですがマグロ様、生活用品などは回収し、我が家の品を持ち込む方がよくありませんか?
誰とも知らぬ者が使用した寝具を使用したくは無いのですが」
〈それもそうだね、迎えに行くついでにもって来るよ。
ああ、そうだ忘れる所だったな、ダイアン、隣のアラニス王国に一時的に関税を全て撤廃するから食料供給の量を増やしてくれって頼んどいて、国が安定したらその時改めて決めましょうと〉
「確かにそうですね、それでは私も商業ギルドに行きましょう」
俺は拘束されているザースバルス=ストレングの家族を掴みあげ屋敷を取り囲む塀沿いに【アイアンウォール】で膝辺りまでがっちり固定する、完了したら猿轡も含めて拘束を外した。
親子三代で総勢十三名、嫁三人子供五名、孫五名だ。
適当な路地裏へと移動し【ゲート】で我が家へと転移した、応接室に集まっているようなので俺も其方へと合流する。
〈ただいま、こっちは受け入れ態勢が整ったよ〉
「お帰りなさいマグロちゃん、調査員の迎え入れは終わりましたわ、彼らは早速調査に向かいましたわよ」
〈なるほど、総勢十八名か〉
「魔物のランクが分からないので今日は一塊で動くそうですわ、判別出来次第班分けすると言ってましたわね」
〈慎重な様でなに寄りだ〉
「マグロ、其方は良いのですが、カラドラスの事で一つ懸念があります」
〈どの方面で?〉
「食料問題ですよ、周りが全て敵では苦労するのではないのですか?」
〈そうだろうな、ダイアンにお願いしてアラニス王国に掛け合ってもらっている、関税を一時的に撤廃するから食料の供給を増やしてほしいってね〉
「手は打ったのですね、合わせて周囲の都市をいくつか手中に収めてはどうですか?」
〈解放だけなら簡単なんだけどね、もしかすると未来の支援者だったなんて事もあり得るから現時点で一方的に攻めるのは憚られるんだよな〉
「振るいにかける必要があるのが一番のネックになってるのですね」
〈そうだな、強攻策もあるにはあるが敵が残るんだよな、その方が早く片が付くから早急な安定という意味では良いのかもしれないが〉
「国王を捕らえてダイアン主導で公開処刑ですか?」
〈そうだ、そのまま乗っ取りある程度の地位にある者を排除する、その後下級役人を徴用する事で短期間で乗っ取れる、後は少しずつ意識改善すれば良いが腐敗してる部分が結構残るだろうな。
後から処理するよりいっその事乗っ取る次点で排除したいんだが難しいな〉
「先ずは税金を下げ、民に負担を強いている現状を解除するのが先決ですよね、其方を最速で解決した方がよくないですか?」
〈優先順位か・・・・・俺の意思のみで決めていたからダイアンには確認していないな、もう一度話し合い優先順位をはっきりさせよう、それで行動を調整しようか、それで良いかな?〉
「その方が良いでしょう。
意識改善も必要ですから俺達四名は決めた通りで良いでしょうね」
〈決まった所で移動しようと思うけど、クララはくれぐれも注意してくれよ、状況が悪いと思ったら都市の中央が俺達の拠点になってるからそこに来てくれ。
もし、王都を落とす事になったらその時は改めて伝える、念話は常時繋げておくからそっちでも良いから連絡を怠らない様にな〉
〈はい、此方で連絡をすれば良いのですね〉
〈そうそう、作戦期間中は繋げっぱなしにしておくからよろしくな。
と言う事でダイアン、途中の会話が聞こえてないと思うけど一気に乗っ取るかどうか検討しよう、其方の用事が済み次第調整しようか〉
〈此方は事情の説明に時間が掛かります、少しお待ち頂けますか?〉
〈了解、屋敷で待ってるよ〉




