84:ライネルの衰退
彼方はセレスとティアのコンビが居るから大丈夫だろう、元々セレスは慎重だし、ティアは猪突猛進ぽいが結構考えて行動するタイプ、そもそも心配が必要なレベルでも無いが、罠に掛かっても罠ごと噛み破るだろ。
俺はアレッサに抱っこされ飛び立つ、加速、減速、加速、着地と条件を変えながら指示を出すがそつなくこなした、これなら大丈夫と言う事で上空を高速で飛び回り【ライトニングランス】の曲射で片っ端に始末した。
なぜ曲射になったのかと言うと、飛行速度と俺の認識ではズレが生じ直線では狙えない為だ、我が家を中心に円に飛び徐々に外へと範囲拡大するという手法で殲滅する、当然地下部は放置になったが群島の大部分は時間内に処理が出来た。
そして昼からは屋敷に誰か残る訳でもなくライネル東門前に転移し手続きをするも騎士では無い人物が立っていた。
「騎士では無い様だがどうしたのだ? 騎士達はどうした?」
「あんたは確かユリウス陛下の・・・」
「甥だ、それでどうして騎士ではないのだ?」
「騎士達、いや、国王に仕えてる全般の人達がこぞって退職し此方に割く人員が居なくてな、冒険者ギルドに仕事の斡旋が来たって訳さ、詳しい事は別の者に聞いてくれ、此処で話し込んでは後ろの者が入れないのでな」
「確かにな、では失礼する」
東門だしな、俺達以外にも交易商が後ろに順番待ちをしている為別の者に聞く事にし、その場は素直にライネル内へと入った。
〈それではここからばらけるぞ、俺は防具店と鍛冶屋に行ってそれから帰るよ〉
「偶にはご一緒して構いませんか? マグロ様」
〈シャロも変わらないな、敬称不要なのに俺の嫁なんだからさ、それはさておき一緒に行こうか〉
先に防具屋へ行き店員へシャロが身分用を提示、【真摯の断罪者】の一員であると証明をして発注していた防具の進捗状況をうかがう。
「鎧下ですが何分細かい作業ですので、現在二着目を製作中でございます、他の部位でしたら全て製作が完了しておりお渡しする事が可能となっております」
「それでは受け取らせて頂きます、それと鎧下の製作ですが中止をお願いします、現在製作中の品も含めてです、お詫びと言っては何ですが、返金は不要です」
そう、遅い事は予想していたがあまりにも遅い、それで鎧下は制作中止とし新たに発注する事としたのだ。
「それでは鎧下を省きましてすべて準備させましょう。
返金不要なのは此方としては大変助かるのですが、細工師の方を予定期間雇っていますので遊ばせるわけにもいかず何かご予定は御有りではありませんかな?」
「それは丁度よろしいですね、クランの人数が増えましたので新たに発注をお願いしたいと思っていました」
ブレイズドラゴン製のフルセット七着とストームドラゴン製フルセット七着を新たに発注し素材と料金を先払いして後にした。
ちなみに俺と一緒に行動しているのはシャロのみ、彼方はダイアンが着せ替え人形になるだろうな、などと考えてるマグロであった。
そしてロンバルトの鍛冶屋へと赴いた。
「お早うございますロンバルト様」
丁度良い所に店舗に居た様だ、俺だったら確認もせず入りながら呼ぶ為ウルセエと注意を頻繁に受けるんだけどな。
「様は必要無いぞって、久しぶりに声を聞いた気がするな、確かシャロだったか。
それでそのちび龍は? とうとうマグロに子供が出来たのか?」
〈子供じゃないよ、そのマグロ本人だって、訳アリでこんな姿になったんだよ〉
「おいおい、如何やったらそこまで小さくなるんだ・・・・・ちょっと待て、今話してなかったよな?」
〈念話って直接頭に伝えるスキルだよ、それで、弓ってできてる?〉
「できてるぞ、すぐ来ても良い様に俺が持ち歩いていた、これだ」
〈セレスのと比べたらどうなんだ?〉
「アマリアだったか、彼女に合わせて製作したから若干グリップ部分が違うのみで性能は一緒だ」
〈そのアマリアは使わないからな、後からもう一度調整する事は可能か?〉
「可能だな、そうだな二時間までは掛からんと思うぞ」
〈調整が必要になったらまた来るよ、それじゃ〉
「待てマグロ、今噂が飛び交っているが真意はどうなんだ?」
ん? 噂? それらしいのは先ほど行ってきた防具屋で何も聞かなかったがな、ま、入り口では何やら公務の者が辞めているとは聞いてるが、それと関係あるのかな?
〈噂って何だよ、聞くならもうちょっと砕いて聞いてくれ〉
「マグロがライネルへ戦争を仕掛け滅ぼすと噂が流れてる、それに王宮の隣の惨状だ、それを恐れた公務の者達がこぞって退職してる」
〈東門から入って来たけど冒険者が立ってたのはそれか、うーん、他の嫁さん達も居た方が良いのかねぇ、とりあえず説明だけはするか。
噂以外で知ってる事ってあるのか?〉
「屋敷の件でマグロが激怒しあの惨状になった、これ以外はさっぱりだな」
〈なるほどな、それだと経緯がさっぱりで結果のみで噂になってるのか。
あの当時、少し前だが俺のクラン員って俺含めて十三人だったんだよ、それで住んでた家が十人用の家でな、めっさ手狭で家具が置けずにベッドを余計に置いてたと思ってくれればいい。
当然冒険者として活動してるんで全員で顔を合わせて話し合う事も少なくない、だけどなこれまた狭いんで全員座る処か一部の人は立ってないと入れないんだよ、食事に関しても似たようなもんだな、立ち食いする訳にはいかないから応接室も使って二部屋で食べてるわけだ。
それで家を早急に買わないと不味いって話し合っててな、その際にクリニスもクランに入る事になって十四人になるだろ、丁度その時にファサラがあの土地と建物を貰ったんで、あの家を切り取って住んでいた家と交換したんだよ〉
「家が狭ければ不便だからな、その選択肢は当然か、大量の魔物を持ち歩けるマグロならではの対応だな」
〈屋敷を切り取った翌日なんだが、これまたもう一人住人が増えてな、服やら身の回りの雑貨を買う必要がでて嫁さん達はライネルに、俺は帝国にと分かれた。
俺の用事が済んだ後にライネルへ迎えに来たんだが、その時に城に呼ばれた訳だ、まぁ、ファサラとクリニスも城に呼ばれてたからな〉
「それで一悶着なったわけか?」
〈平たく言えばそうだな、俺が通された部屋に二人とも居てな、セルがかなりご立腹の様だったと聞いていた。
いざ謁見となった訳だが此方の事情を説明したらセルは納得した、だが、その取り巻きが納得しなくてな、ライネルの資産だから持ち出すなライネルで使えと言われたよ、これじゃ個人の資産だろうとライネルの資産だと言い張り、使用制限を強引にかけられた状態って訳だ。
当然だがセルは家も切り取り持ち運べる事は知っているし、契約書にもその手の使用制限に関して利用法も含めて制限は書かれていなかった。
その場で言い合ってもらちが明かんから突き返す事で戦争仕掛けると通達して帰った訳だ。
簡単に言えば、彼方が権力を振りかざすなら、俺は力を振りかざすって選択しただけだ。
まぁ、ファサラに懇願されて戦争の件は撤回すると伝えて屋敷は返したが、それだと俺の気が収まらん、だから屋敷の代わりに土を貰って帰ったって訳だ〉
「なるほどな、俺がマグロの立場なら、鍛冶屋はライネルの資産だと言われ、引っ越ししようとした場合鍛冶に必要な道具一式を、強引に引き留められる訳か。
セルラルファはマグロの後ろ盾で国王に上りつめたが、マグロに対する姿勢すら引き締めが出来ていないんだな」
〈引き締めうんぬんは必要無いんじゃないか。
そもそもユリウス達を捕まえた際に散々力を見せつけた訳だし、俺に対する態度などは説明せずとも各自注意するだろ、そのうえで注意しなければならなとなったら相当な頭が逝かれてるからな、流石にそこまでの馬鹿は騎士にしてないと思うだろセルも。
で、今回の件で完全に彼方とは縁を切ったからな、話を持ち掛けたら即戦争に移行すると脅してある、これを考えたら噂も全然的外れって訳でもない訳だ〉
「馬鹿な真似をしたものだな、ストレイルの何だったか、一領主のやった件と被って見えるな・・・ライネルは終わったな・・・俺も身の振り方を考える時が来たわけか」
〈俺が言うべきことじゃないとは思うが、維持する人材が少なくなれば遅かれ早かれ国としての対面は保てなくなるだろうな、俺も帝国ライネルストレイルとトラブルばかりだからな、距離をおこうかと考えてる。 ま、買い物やダンジョン程度には行くかもしれないが相当な理由でもない限り手は出さないつもりだ、今は準備段階だけどな〉
冒険者を辞めてもPTを組む方法が分かった今、そっちに執着する必要すら無くなった訳だしな。
スタンピート対策はどうするかな、短時間で大量に倒せるからかなりのメリットがあるっちゃあるんだよな、その時に考えるかな。
「何処に引っ越すつもりなんだ?」
〈バルカント諸島、灯台の核も手に入れた事だし、時間が出来次第に手を加えていく予定だよ、まぁ買い物だけ何処かに転移して調達ってのも有と言えば有りだが〉
「何方も選択肢の一つとしては有りだな、開発すると選択をした場合、クラン員だけで暮らす訳でもないだろ 移住を希望した場合はどう対応してくれる?」
〈開発すると完全に決めたらと前段階があるけど、今回ライネルともめたからな、その関係者はすべからく断るつもりだ、後は犯罪者判定でふるいにかけるだけ、と言っても一月やそこいらじゃ無理だな、一番問題なのは下水処理の設置か、排水をそのまま海に流し込むわけにはいかんからな〉
「それなら商業ギルドに話を持ち掛けたらどうだ? もうこの国はもたん、遠慮なく引き抜くのも有りだと思うぞ」
〈それは俺だけでは決められないな、ファサラにクリニスが居る手前、弱体化を促進させるのをどう見るかな〉
「どう転んでも悩みは尽きず、か」
〈そうだな、生きていくうえで人とのつながりを完全に断てない以上、多かれ少なかれ悩む事になるさ〉
「当然だな。
先ほどの件だが開発すると舵を切ったら教えてくれるか? あの地なら航路としても申し分ない、商売として目を向けたら魅力的な地だ」
〈ロンバルトには世話になりっぱなしだから声を掛けるよ、いざ引っ越しするのも建物ごと収納すれば数分で完了するし気張って準備も必要無いしな〉
「それは有難いな。
マグロは龍族だろ、服屋と防具屋は確実に勧誘した方が良いんじゃないか? 将来の為にも」
〈あー、確かにな、離散でもされたら厄介だ、将来着る服が無くなるかも〉
「其方は任せてくれ、それとなく打診しておく」
〈お願いするよ、明日から忙しくなりそうで当分来れないかもしれないから助かる〉
「そうか、理由は聞かない方が良さそうだな」
〈今回も国がらみとだけ言っておくよ、それじゃお暇するかな〉
早々に群島に戻りチュリーロッサの収穫へと繰り出した、かなりの本数が未収穫だった為だ、だが手がちっさい上に爪が長いだろ、と言っても爪は3cmほどだが、もぎ取るんじゃなく枝から切り取る方法を取った、こうしないと傷が入るんだよな、下手するとぶっ刺してしまう。
そんな感じでその日は就寝し翌日朝を迎えた。




