81:御開帳
「助かりました有難うございます」
「有難うございました、いやぁ、一月から二月掛かると言われた時には内心死んだ方がましなんじゃねえのと思ってたんですよ、今回の報酬の半分も使わず治療できるとは天の助け、皆さんに来て頂けて本当に助かりました」
と七名からお礼を言われる一行。
「俺、【漆黒の剣】から抜けるわ、最初の出会いが悪かったとはいえ、マグロさんが手を差し伸べてるのに意地を張って突っぱねたおかげで、あんな低ランクの魔物に殺される寸前、狭量にもほどがあるしな」
「あら、意見が合うわね、意固地になった挙句に死にかけたんじゃ笑い話にもならないわ、愛想が尽きたわ」
「それに、入りたいクランが出来たんだわ、今からお願いするんだけどね」
「気が合うわね、私も丁度お願いしようと思ってたのよ」
「「俺を(私を)クランに入れて下さい、ティアさん(ちゃん)」」
俺達との出会い頭に喧嘩を売るわ、挑発されてまんまと頭に血が上りメンバーに無理やり戦わせるわ、食事をしていけばいいのにそのまま出て行くわ、ついでに死にかけて呪いのおまけもガッツリ貰ったらそりゃ愛想が尽きるか。
「マグロどうするのにゃ? ティアは拒む理由が無いにゃ」
「同感じゃな、軽率な行動が目につきすぎたからの、歓迎するのじゃよ」
〈俺にも拒む理由はないな、それなら治療費は取るな、面倒を見るのはリーダーの務めだからな、金欠になられたら困る〉
「マグロからの返事にゃ、うちに来るなら治療費は要らないと言ってるにゃ、と言う事でだにゃ、冒険者ギルドに行くからついでに登録も済ませるにゃ」
「治療費は受け取って下さい、クラン員と言えども貸し借りは禁物です、其方は良いのですがマグロさんからの返事って、此処に居ませんよね?」
仲間になるのなら隠す必要は無い、ミストルが居るけどどうも出来ないからとその場で暴露、右手を上げて「クルァアアア!」と挨拶しておいた。
二人の登録を済ませてツガットを強引に連れ出しキャンプをした地に転移した。
ちなみに二人は恋人同士、男性が前衛で名前はバルド、女性は弓使いの後衛で名前はエリーナ。
ここから念話は絞らなくて良いな、全員で良いだろ。
「それでマグロ、強引に連れ出した訳を教えてくれるんだろ?」
「これにゃ」
とズドーンと豪快に取り出すティア。
〈もうちょっと丁寧に扱えよ、爆発したらどうするんだ〉
「今ので衝撃では爆発しないのが実証されたにゃ、一石二鳥にゃ」
ティアなら傍で爆発されようと無傷だから良いようなものの、ツガットと新規加入した二人は規模次第で負傷したかもな、幸い爆発はしなかったけど。
「ほう、宝箱があったのか、報告で言わない辺り成長したな」
「何と比べて成長したと言ってるのか分からないのじゃがな、マグロが開けるのじゃろ?」
〈開けるよ、ちょっとティア、鍵穴が地面に接触する様に横に倒してくれないか?〉
「お安い御用にゃ」
これまた豪快な事で、左足を引っ掛け上部を押し倒した。
俺は鉋をかけるように【ホール】でうすーく何度も削りながら横腹に位置する部分に穴を空け、一度回収して穴を空けた面を下にして地面に置いた。
〈これで良いな、ツガット、オープンする前に言っとくぞ、一部で良いから持って帰れ、俺が強引に返してなければ報酬を受け取る一人なのに違いは無いからな〉
セレスとシェルに持ち上げてもらい御開帳、全身鎧の標本の様なフルプレートメイル一式と本二冊が出て来た。
「本は兎も角フルプレートメイル一式では使える者がおらんのぉ」
〈これ若干青白いからアダマンタイトじゃねえの?〉
「それなら余計に使える者が居ませんね、重すぎて動けないのではないですか?」
「兎も角ばらしてみるかの」
持ってみた感じ全然重くは無いが俺達は力が強すぎるって事でバルドとエリーナにばらしてもらう事に。
「これ、売ってるプレートメイルより若干重い程度だな、しかもアダマンタイトとなれば世紀の発見じゃないか、ま、値段が付かない貴重品だわな」
と兜をすっぽり外すとジャラジャラと硬貨が出て来た。
「おいおい! こんなもんが詰まってたら重いわなぁって見た事のない硬貨だな、材質は金か。
お、ものすげー軽い、結局これって金貨の重さがあったから重かったのか、これ、相当強力な軽量化の魔法が掛けられているな、その点だけでも装備できれば鉄壁じゃないか」
〈軽量化の魔法か、馬車に軽量化を施してもらった事が有るが、常時魔力供給が必要不可欠だった、今の体系とは別の魔法が有ったのかもしれないな、強力な付与魔法か・・・」
「それは兎も角この金貨わらわも見た事が無いのお、わらわの両親に聞いても分かるかどうか怪しいの」
〈骨董品って事か、これじゃ価値がさっぱりだな。
ツガット、鎧や本はやれないがこの硬貨を百枚程度持って行け〉
「いやいや、俺は付いて行っただけで魔物一体たりとも倒してないぞ、受け取る訳にはいかんだろ」
〈ツガットも強情だな、それじゃ代わりにこれでも持って行け〉
とアダマンタイトのインゴット一kgを放り投げて渡す。
「おいおい! アダマンタイトかよ、これまた厄介な品を持ち歩いてるな、それなら硬貨百枚頂いて行くぞ」
〈そうしてくれ〉
とアダマンタイトを回収した。
「婿殿、この本、文字が古すぎて読めないのじゃ」
〈そうか? 読めるぞ、えーと、タイトルは古代語魔法上巻と下巻だな〉
確認を取るとセレスとティア以外が読めない、俺が転生して文字の読み書きに不便が生じない様にとくれたスキルのせいだろうと当たりを付けた。
「これ、魔法の発動方法が書かれて無さそうだにゃ、どうも理論を総まとめにして書かれた報告書の様だにゃ」
〈それじゃ今とは別系統の魔法があったのか、そもそも今の魔法の基礎になった魔法書なのかって感じかね、これまた発表したら厄介そうな品だな・・・死蔵しよう〉
「マグロ、厄介なら神様に奉納したらどうにゃ?」
〈それもなぁ、手放したら二度と手に入らないって事だけは確実だろ、それは何時で出来るからその内考えようか〉
「つくずくマグロ達と行動をしていると飽きないな、厄介な匂いがプンプンしてるぞ」
〈言われなくても俺自身が一番感じてるって、箱はどうするかな、金で出来てるのは確かだしこの状態のまま売り払うか?〉
「ツガットの報酬が少ないのにゃ、丸投げするにゃ」
「それは良いですわね、ツガットさんお持ちくださいな」
「それはそれで死蔵決定な気がするな、表に出したら厄介そうな品だ、中身を聞かれるから余計に質が悪い」
鎧に詰まっている硬貨を全て出しそれぞれ収納した。
〈さてと、倒した魔物の検品もついでにするか?〉
「後回しにしたらそのまま死蔵しそうだからにゃ、ついでにやっとくにゃ」
魔石に骨もついでに取り出して小山に、デスアーマーの魔石に巨大な両手剣に兜に小手にレッグアーマーにガッチガチの金属製だからグリーブの1式、全てダマスカス製だ。
三十階層の魔物がリッチ系だったのか魔石と杖とマントをティアが取り出した。
「マグロ、魔石は兎も角全部呪われているぞ、放置すれば砂漠の二の舞で直ぐに毒沼になりかねん、直ぐにしまうか浄化しろ」
そうだなと【ホーリーライト】を発動して浄化を完了させ、武器と防具はどうでも良いが骨が気になる。鑑定すると基本4属性のドラゴンの骨である事が判明した。
鑑定
ファイアドラゴンの骨
エアードラゴンの骨
アースドラゴンの骨
アクアドラゴンの骨
光属性が混ざって無いのは大体予想はつくけど闇属性が混ざって無いんだよな、てっきり闇ばかりだと思っていたが、闇属性のドラゴンって居ないのかね、ブラックドラゴンとか、ダークドラゴンとか、ダークネスドラゴンとか、それっぽいのが居てもよさそうだけどな。
それに無属性のシルバーとゴールドもだな、どうなってるんだか。
「マグロさん、これは属性分けされた最下級のドラゴンの骨ですね、ライネルで使役されているファイアドラゴンのランクです」
〈なるほど、それなら利用価値がありそうだな〉
「ありそうだなんてとんでもないぞマグロ、武器製造の素材に用いればその属性が宿る魔剣に、金属鎧であればその系統に対する魔法防御力が大幅に上がる。
それにこれはあまり大っぴらには出来ないが魔力草を越える魔力が宿っている為に、MP回復ポーションの効能を上げる為に利用されている。
こちらは属性分けされていないドラゴンの骨が主流で属性ドラゴンの骨はもちいらないがな」
〈ああ、なるほどな、魔力草程度の魔力混融量では到底あの回復量には届かないと思ってたけど、大量に含んでるドラゴンの骨から抜き取ってたのか〉
「そう言う事だな、それでどの程度の量を持っているんだ?」
〈そこに出してるから正確じゃないけど四百八十六万kg程度だな〉
「はぁああああ! そんな量ありえんだろ!」
「あり得なくはないのじゃよ、想像してみい、暴走寸前に犇めき合っておるのをすべて倒して回収しておるのだぞ」
〈それは良いんだけどさ、それだけ有用ならダンジョン消滅は避けたが良いのか?〉
「いや、マグロ達だからこそ到達できたがSランクでも確実に辿り着く事は不可能だ。
メリットとリスクを天秤にかけた場合リスクが重すぎる、マグロの判断は間違っていないと断言できる。
それに、マグロ達ならそれだけの素材を抱えていようとぶれる事も無いだろう、既に上位ドラゴン2体も所有しているが悪用しようともしていない、問題はないと俺は考える」
〈持ち上げられてもねぇ、武器と防具以外に利用法がさっぱりだから死蔵してるだけだよなぁ。
どっか相談できないかね? 横着な奴が居なければかなーり良いんだけどさ〉
「商業ギルドで相談するのが一番ではあるな、帝国ならマグロの事も知れ渡っている。
無茶な提案をする馬鹿は居ないと思うがな」
〈ふむ、予定が詰まってるから時間が取れ次第行ってみるかな、それだけの知識のある人材が居てくれればいいが〉
「居なければカラミティに聞いてみるか? 忙しくても利用法の説明だけなら30分も掛からん、その位の時間なら開けてくれるだろ」
〈それで手を止めるのもなぁ、分らない時はライネルの商業ギルドにでも行くかなぁ、あちらはドラゴン所縁の地だし、他国より知識が上そうだしな〉
話す事も終わった事でそれぞれ挨拶をかわしツガットを冒険者ギルドのエントランスへ転移さる。
俺達も我が家に転移、四人が固まったと思ったら走り出し外へ、確認したと思ったら中へ戻って来た。
「マグロちゃん、これ一時帝都にあった皇宮? ですわよね」
〈そうだな〉
「消えたと思ったらこんな山奥に建ってたんですか!」
「山じゃないのじゃよ、バルカント諸島にある一番中心の島じゃな」
まぁ、海なんぞ見えないから分からんわなぁ、周囲一帯木ばっかりで密林を切り開いてますって感じだし。
「船での接近が不可能に近いため領有権を放棄されたあの群島ですの?」
「それで合っておるの、とにかくじゃ、四人の住む部屋を決めんといかんからの、一応わらわ達の部屋の位置を教えておくかの。
と言ってもじゃ、ほとんど利用してはおらぬから選び放題じゃがな」
アンナはクリニスのお隣をチョイス、アンジェは俺と嫁達の部屋をチョイス、バルドとエリーナは食堂の近くを二人で一部屋をチョイス、それぞれにベッド込みで寝具を提供だ、そして応接室に集まった。
改めて人数の確認でもしとくか? マグロ、セレスティーナ、ティルア、シェルアス、カエラ、シャロン、ファサラ、アンジェリカ、クリニス、クララ、アンナ、バルド、エリーナ、護衛5名で総数一八名だな。
〈俺達のクラン員も朝露の結晶に届きそうになって来たな〉
「実力は比べるまでも無いがのう、集まってもらったのはあれの対策じゃな」
〈そうだ、分かっていない者も居るんでそこから説明しようか〉
と神から依頼された事含めて説明した、無論神云云は省いてだ。
〈対象の名前と居場所もはっきりしてるんで奪還に関しては問題無い、鑑定を使える四名で乗り込めばいいって話だか、問題はその後だな〉
「そうですね、相互監視を敷いてありますので互いに信用が出来ない状態、どうやって振るいにかけ信用できる人材を確保出来るかですか」
〈一つは切り込みとして考えてはいるんだよな、助ければ当然王にまで情報が行き騎士達に捜索命令が下されるだろ、そこまではどんな馬鹿でもそうする。
その状態で狙う相手を絞る訳だが、ダイアンから聞き出すのは当然だ、王の側近かつ領地持ちで一番排除しなければならないって奴を真っ先に処理してその都市を解放する。
当然軍部も群がって来るが賛同する者も人目を忍んで部下を送り込んで来るだろ、当然此方の動向を探りに来る諜報員も来る訳だが、此方かも探りを入れる為にそいつの元まで一人で乗り込み本音を探る。
捕らえて情報を聞き出そうとするか、もしくは本当に協力するのか、その時点ではっきりすると睨んでる〉
「なるほどにゃ、相手が一人なら数で潰せば済むと大胆になる訳だにゃ、それにのこのこ相手の本拠地に乗り込む事から立地的にも支障が無い訳だからにゃ」
〈その件とこの群島の調査を同時進行するつもりだ、調査の期間が分かって無いからな、あまりに長引く様なら開発が遅れる〉
「其方の依頼にはマグロとティアで事足りるにゃ。
ここまで話したのだがにゃ、側近にする人材をダイアンが選べるなら振るいにかける必要が無いからにゃ、頭を潰して早期解決だにゃ、そこも含めて奪還しないと決められないよにゃ」
〈そう言う事だ、明日を休みにして明後日カラドラスに乗り込むぞ、乗り込む人員はどうするかな、いきなり戦闘にはならないと思うけど用心するに越したことはないし〉
「そう言う事ならじゃ、加入直後で国と戦争は無理じゃろ、アンジェが問題無く転移魔法を使えるようなら調査の指揮を頼んだらどうじゃ?」
「レベルは上がりましたが戦争への参加は抵抗ありますわね、転移魔法の知識は受けついでいますの、ですから其方は任せて頂いて構いませんわよ」
「ははっ、漆黒の剣に居た時と話のスケールが違い過ぎて頭が追い付いてない気がするのは俺だけかな?」
「奇遇ですね、同じ事を感じてますよ、現在進行形で」
俺はセレスの元を離れパタパタと飛んでカエラの元へ行き抱っこされる。
〈カエラはどうする?〉
「カラドラスは税が高く市民の方が苦しい状態なのだとか、マグロさんの対応前と対応後を比べてみたい気もします」
〈なら決定だな、彼方にも一時活動拠点を作る予定だし、都市部含めて見て回ると良いよ〉
「それでマグロ様、あのダンジョンの魔物は放棄されるのですか?」
〈いや、放棄はしない、ダイアンを助けた後、ここにお連れして一日匿うんだが、その一日でレベルを上げる予定だ、暗殺者に来られても返り討ちにできる程度の実力は付けてもらう〉
「守られる対象が強くあればこちらとしては楽で良いの、その案に乗ろうかの」
〈前回の時はティアに指揮を執ってもらった、誰か指揮するか?〉
「マグロちゃんが指揮するのではないですの?」
〈俺が執っても良いけどかなーり人死にが出るけど良いのかな? どっち転んでもかなりの戦闘は予想されてるから少なく見積もっても二十万や三十万程度は死人が出ると思うけど〉
「2・30万人・・・・」
「マグロさん、クリニスの勉学の為にも指揮をしてもらいたいのですが」
〈それじゃそうしよう、最終的な指示を出すぞ、リスタル方面は決めた通りアンジェがトップでバルドとエリーナが補佐を。
彼方に向かうのはその他全員だが時期を二つにずらす。
シャロ、クリニス、クララ、アンナはこちらで待機、魔法の勉学を進めてくれ、シャロに魔法の勉学は不要だと思うけど俺の知識を三人に教えてやってくれないか。
王国内で情報の拡散を願いしたいからな、俺達と一緒に居る所を見られたくないって訳だ。
ダイアンを旗印に一つの町を手中に収めた後転移でその町へ呼び寄せる、その後は市井に混ざり情報の拡散を担ってくれ〉
「私の持つ恒久の魔法袋をアンジェに渡しておきますね、食料が入っていますので分かれて活動するのでしたら必要でしょう」
カエラさんはダンジョンに行ってないから中身は無事か、肉は大量にあるが、そのほかを買い足さなくて良いのはラッキーだな。
とカエラの持つ恒久の魔法袋をアンジェに手渡した、今後カエラは俺のスキルで取り出し可能だから不要という訳だ。




