77:ダンジョンコアの回収
「フゥ、食った食った、食休みしてくれ、食べた直後じゃ動きたくないからな」
「ダンジョンの中で食べる食事ではありませんわね。
肉もですがあの魚は新鮮でしたわね、どの様に保存してるんですの?」
「今までの価値観が壊れそうですよ、腐らせず持ち込めるのはすごいですね」
仲間内になった事だし、少し情報を公開するか、ツガットが居るがあちらも俺に秘密を教えたようなものだからな、お互いに一つずつ秘密を握る訳だ。
「俺のはマジックバッグじゃなくてスキルだからな、外の影響は受けないよ、だから俺達に配布されたポーション類も無事に全部残ってるから安心して良い」
「それならば早くその情報があれば腐らせずに済んだものを」
ジト目でこちらを見て来るがその位気が付いてほしいよなぁ。
「それは駄目だろツガット、貴重な情報をもらったから堂々と話してるけど、聴いてなかった場合はツガットにも話してないぞ、意味は分かるよな?」
「情報の対価と秘密か、冒険者なら当然だった、失言だった」
「それは良いのじゃがな、先ほどの魔法で浄化さえすれば通常の魔法も使用可能じゃろ、布陣はどうするのかの?」
スキルとしてはシェルが熟練度が上だよな、対処可能ならツートップで先行したいんだが、どうだろ。
「それなんだがシェルは光魔法を使えるだろ、あの骨に効果のある魔法を取得してるか?」
「ありませんね、そもそも明かりと呪い浄化を主にして修業しましたから」
「うーん、そうなると高速で侵攻した場合は属性魔法の影響下にある地点に飛び込みかねない訳か、それだと三名の命が危険にさらされるな、出発前にちょっと今考えてる魔法を構築して来るわ」
一方的に告げ通路に出ておもむろに放つ、【ホーリライト】が全面ならこれからの魔法は点と面だな、まぁ在り来たりだが。
【ホーリーアロー】【ホーリーランス】【ホーリーブラスト】 を発動するもしっくりこない。
うーん、他の属性は混ぜちゃダメなんだよな、仕方ないか、ほぼ「ホーリーブラスト】のみで制圧可能だろう、それでも邪魔な場合は【エアブラスト】で押し込み猫達の攻撃を期待するかな。
考えに整理が付いたので部屋に戻った。
「先ずは断っておく、以前猫での移動はしない方向で取り決めたが、今回はスタンピートが発生する前に最下層まで到達する必要がある、だから今回は猫達に乗ってもらう。
先行するのは俺だけでトップを務める、敵への対処はほぼ俺だけで済むと思うからその点は心配要らない。
此処から先は臨機応変にだが、左右の後方にセレスとシェル、他は猫から落ちない様に気を配ってくれ、もしくは辛そうなら二人で乗っても構わん、クりニスは先ほど言ったようにアンナを頼むぞ、ツガットは誰に頼むかな」
「わらわと一緒に乗ればよかろう、前に座るゆえ捕まってもらうがの」
アレッサはちっさいからなぁ、そりゃツガットが後ろか、ある意味胸がデカいから腕が引っかかって落ちにくいだろ。
「それじゃ乗ってくれ、それと一時ストップ、もしくは休憩が必要だって時は俺に知らせろ、声が届きにくい場合は近くに居る魔法を使える者にお願いして俺に攻撃魔法を打ち込め、良いか?」
「あ、あの、本当に攻撃魔法を当てて良いのですか?」
「良いよ、気になるなら今試すか、ちょっと移動するんで待ってろ」
皆から離れて待機すると例の宮廷魔術師が使用していた詠唱だ、どうやら使用可能な魔法の中で最強のをチョイスしたようで爆発の範囲も中々、流石にSランクと言った所か。
密閉してる部屋じゃないとはいえ、部屋の中で使う魔法じゃないな、数十人入っても余裕のある部屋だから良かったものの、居るのがSランク以上で良かった、下手したら圧力でお陀仏だ。
「【エクスプロージョン】を使えるんだな、流石Sクラス、この分ならフレア系もそのうち使えそうだな」
「うそ、無傷!」
「いや、ちょっと防具が焦げちゃったよ、ただ、範囲魔法だとアンジェが巻き込まれるからな、単体用にしてくれ、それじゃ改めて出発するぞ」
防具からプスプスと煙が上がってるし、ウロボロス制の皮鎧だったから良かったものの、性能が低い鎧だったら俺は丸裸だったな・・・
MP消費二千/hの【ホーリーライト】を先行させるが猫達の速度を計算に入れ、俺達の通過時点では完全に浄化が済んでいなければならない、この調整がかなり手間取った、その穴埋めにするための光属性の攻撃魔法だったのだが。
敵の処理は余裕過ぎた、【ホーリーライト】で弱っている所を面で制圧していくだけだ。
面白かったのが移動だな、はっきり言って直角に曲がる事なんて頻繁に訪れる、この為猫達は遠心力を利用した壁走りをする事が頻繁にあり、普通に地面を走る事が少ない、肉球あってこそのグリップ力であり加速可能なんだろうな。
さらに凄いのが百八十度一気に方向転換を余儀なくされる場所だ、一気に減速し中央から外側の壁に向かってジャンプし壁走りを誘発、加速しながら斜め上に走り込み天井も使いUターンする。
この行為に出発後十分もせずグロッキーな人が現れた、例のツガットだ、アレッサが俺に単体水圧での魔法か、ウォーターアローだと思うが当てて来たので徐々に減速して合流すると吐いた汚物まみれだった、きたないので一応【クリーン】で奇麗にして話しかけた。
「ツガット、顔色悪すぎるだろ、ここはさ、帰って俺達を待つ方がよくないか?」
「そ、それは出来んが、おぇえええ!」
哀れなのは猫とアレッサだ、吐く人物を乗せ掴まれている為一緒にゲロまみれ、これじゃ話にならないので【クリーン】を掛けついでに【オールリカバー】を掛けると顔色が戻った。
「ふぅ、すまん、楽になったよ、もう少しだな、速度を落とせないか? 壁に激突して死ぬんじゃないかとヒヤヒヤものだぞ、それに揺さぶられて方向感覚が狂ってこのざまだ」
「ふむ、今の速度できつい人居るか? 帰ってもらうから」
「壁走りは楽しいのにゃ、ティアもしてみたいにゃ」
人じゃ無理だろうな、猫達の脚があってこそ壁でも加速できるのだし。
「ごめんなさい、あたしは無理そう、今の所吐きはしてないけど気分が良いとは言えない」
【オールリカバー】を掛けてあげる。
「他は居ないか?」
「・・・居ないようだな、なぁツガット、今回のクエスト完了をダンジョンコアの持ち帰りにしないか、それなら監督しなくても最終的な品の確認だけで済むだろ」
「それでは責任者としての立場がだな」
「その責任者が足引っ張ってクエストの遂行が遅くなってる自覚はあるか? ツガットもこれ以上無理について来れば体調悪化が酷くなる事ぐらいは理解してるよな?」
「それは自覚してるが」
「これが最後の指摘だ、納得しないなら付いて来ていい。
確かに順調に攻略は進んでるが今も魔物が沸いている、ここから下層の限界が来たら即スタンピートが発生するぞ、もちろん俺達が大半は倒すだろう、だけど俺達は最短距離で進んでる、下に行く道も一本じゃないから当然残してる、下から来る魔物の圧力に負け、上の魔物はあっさりスタンピートの仲間入りだ、後の説明は不要だろ。
この最悪の予想をどう見る?」
「・・・帰還しよう」
「ツガット、責任感があるのは認めるが、信用のおける奴が居るのなら投げるのも手だぞ、無理をすれば命を投げ出す結果になる可能性が高い事も考えろ、と説教じみたが、頻繁に体調不良ではきついだろ。
昔の俺も船酔いで何度死にかけたか分かったもんじゃないからな」
そう、船釣りに行った事があるがあれは地獄だ、船酔いしたら釣りどころでは無く早々に横になり寝るしかない、それも船から降りてもそう簡単には治らない、地上に戻って立っているが船に乗っている感覚が抜けずフラフラするのが少々の時間では治らず、一晩ぐっすり寝てようやく落ち着いたんだよな。
「そうだな、後は任せるぞマグロ」
「任されたよ。
アンナ、これをもって暁の宿に居るカエラって人と待っててくれ、事情を話さなくても察してくれるだろ」
と俺のギルドカードを渡した。
「どういう意味ですか?」
「俺からギルドカードを取れる能力のある人物は俺のクラン以外には居ないからな、託されたと直ぐに分かるって事だよ」
「なるほど、そう言う事ですか、ご武運をお祈りしております、アンジェ、気を付けていくのよ」
「ええ、アンナは宿で吉報を待っていて」
「今日を入れて三日で攻略する予定だ、遅くても四日だな、それで無理そうなら一度戻り体勢を立て直すと伝えてくれ【ゲート】」
二人を送り出して侵攻を再開、出発が昼から大分過ぎていたのでアレッサの腹時計に合わせて適当な部屋を確保して夕食にした、働いてくれた猫達も同様だ、結晶化させずにそのまま俺達の時間に合わせて運用する。
「明日からだが食事と食事の合間に休息を一度入れる、四時間前後乗りっぱなしも走りっぱなしもきついからな。
流石にベッドを出す訳にはいかないから毛布を出すよ、えーと四十四枚有るんで下に二枚ほど敷けばそれほど固くは感じないだろ、一人三枚渡すんで適当に休んでくれ」
「それは分かったわ、けどマグロちゃん、敵の持つ武器と防具だけど勿体なくは無いかしら、魔石もそのまま放置してますわよね」
倒しっぱなしで全部放置してるからなぁ、勿体ないと言えば勿体ないが時間優先だし拾う時間が惜しいんだよね。
ダンジョンコアを取りさえすれば途中を間引きした事でスタンピートの危険性はぐっと減る、後でじっくり倒して回収するもよし、魔石はストレイルのスタンピートで大量に魔物を倒してるから無理に集める必要も無いんだよね。
「確かにな、敵の残量としては一階層当たりで七割から八割残してる感じだな、その分倒して全部放置してる訳だけど、ひとまずこれの回収はしない、目的はコアの回収で魔物の出現を止めるのが最速での課題だからな。
これが完了し次第、あ、これ聞いとくの忘れたよ! コア取ってダンジョンが崩壊するまでの時間と中の魔物ってどうなるの?」
「崩壊の時間は中に蓄えている魔力次第と聞いた事が有りますね、短くて一週間、長くて一ヵ月と聞いた事が有ります。
そして立ち会った事はありませんが崩壊とともに地上に出る、とは聞いた事が有りませんね、殲滅するか放置するかお悩みですか? マグロ様」
「そう言う事だよ・・・・そうだなぁ、出るようなら全部排除して素材を回収する予定だったが、それなら上の方はどうでも良いけど下層当たりのは倒して回収しようかな。
ダンジョンに攻撃して寄せ集めれば相手の方から素材を持って寄って来るし、その分手間が省けるから楽だからね」
「確かに楽じゃの、七割とは言え暴走寸前にひしめき合ってるからの、相当に回収量が多かろうて」
後は言った通りだ、入り口と部屋の中央に聖銀の塊を鎮座させ正常に保つ、俺はシラタマに抱き着いて寝た、で、俺にアンジェが抱き着いて寝た、前はモフモフ、背中はムニムニと感じながら寝るのだった。
魔物処理だがレイスやリッチ系統が一番楽だな、浄化され纏っているぼろ布と使用していた武器と魔石を残して消えるので手間いらずだ。
骨の魔物は兎も角、逆に鎧が動いてるがごとくといったた感じのリビングアーマーやデュラハンなどはデカイ鎧を残すので本当に邪魔だ、エアブラストで跳ね除けしながら突き進む。
こうしてボス部屋に辿り着いたのは侵入から三日目のお昼前、ボスがやっとお目見えだ、鑑定してみるとエンシェントリッチと出た、古代の魔法使いって所か、年齢も千歳超えているしレベルも五百台と結構な強さを誇っていた。
まぁ浄化の光に照らされ目下白煙を上げているが。
『口惜しや、やっとこれほどまでに成長出来たものを、高々十数人程度に此処まで入り込まれるとは』
「へぇしゃべれるんだな、知識は持ってそうだけどダンジョンに引き籠ってるんじゃたかが知れてるのか?」
『その減らず口、叩けない様にしてくれる!』
「はいはい」
と言いながら【ホーリーランス】を連発し消えかかった所に【ホーリーブラスト】で完全に消し去ると装備一式に結構大きめの魔石を残して消え去った。
「なかなかに大きな魔石だにゃ、ストームドラゴンには少し負けてるけどにゃ」
「レベルはこいつが五百オーバーで強かったけど竜種の方が魔石って大きいんだな、それは兎も角、もう一つ奥に部屋があるって聞いてたんだが、俺の探知に映って無いんだよ、何処にあるか分かるか?」
ストームドラゴンで四十五cm程度、ブレイズドラゴンで九十cm程度、そして今倒したリッチの上位種が三十cm程度。
ストームドラゴンのレベルは分からないがブレイズドラゴンよりレベルは上、それよりも小さいのだから種族の壁がかなりのウェイトを占めているのだろう、ま、元々のサイズの違いもあるのだろうが。
「ご、五百! それをこうもあっさりと、マグロちゃんて何者よ?」
「ちょと隠し通路が無いか傷つけない程度に叩いて調べてくれ。
それはだな、あの場では多数居たから話さなかったけど実は俺って異世界からの転生者なんだ」
と例の説明を話して、ステータス開示し見せてあげた。
「ご、ごご、ごせん470! 何なのよこのでたらめなレベル!」
かなりの期間見てなかったけどこれはまた上がってるねぇ、と思うマグロであった。
「自分のレベルも確認したらどうだ? 結構戦ったんで200や300程度は軽く上がってると思うが」
カイトウ=アンジェリカ
年齢:22
レベル:1765
種族:狐族
職業:ハイウィザード
状態:良好
HP:741330
MP:387001
STR:116474
VIT:79410
DEX:132435
INT:95296
LUK:37056
フリーポイント:88200
ユニークスキル:限界突破、超越者、種族制限突破
パッシブスキル:全属性無効、全異常無効、最大MP上昇5、MP回復速度上昇4、消費MP減少5、魔力操作3、魔力探知4、無詠唱
アクティブスキル:火魔法6、風魔法5 氷魔法3、雷魔法3、鈍器術3
その指摘で表示して見るアンジェだったが気絶したので受け止め、仕方が無いから毛布を取り出し寝かしつけた。
ついでにボスの装備と魔石も回収し、猫達も水晶化して収納した。
ハンマー形状の鈍器を取り出し打音検査だな、音の違う部分を探し出すべくボス部屋の外周で壁と床を叩いて回っているとアレッサが部屋の中央に見つけた様だ。
「ここの音が違うのじゃ、きっとこれでは無いかの?」
と床をゲシゲシ蹴っているが壊れる気配を見せない。
音の範囲を確かめど真ん中に魔力を込めたハルバードを突き刺し、九十°回して思いっきり引っ張り上げると力をいれ過ぎたようで、蓋代わりの床材を斜め後ろに投げ捨ててしまった。
一応【ホーリーライト】を先行させると案の定と言うべきか大量の煙が立ち込める。
収まった頃、仕方が無いのでアンジェを抱き抱えて全員で降りると横幅二m高さ一m奥行一m程度の金色に輝く宝箱が鎮座していた。
「これって見たまんまだよな? 初めて見るけども」
「そうだにゃ、ティアも見るのは初めてにゃ、それじゃ早速と言いたいのだがにゃ、お決まりの罠があるかも知れないにゃ」
「誰か開けれるか? 罠解除も含めてって意味で」
「流石にその技術は持ち合わせてはおらぬのう」
「マグロ様、この様な狭い場所で爆発でもすれば危険です、技術のある者を雇う、もしくは宝箱ごと持ち帰るのがよろしいかと」
「下手に動かすのってどうなのかな・・・・この三十二階層の敵が来るかもしれないから後方に注意な、切り取って持って帰るよ【ホール】」
ダンジョンの地面を少々切り取り宝箱を収納した。
「これで良いな、帰ってから広い場所で俺が強引に開けるわ、罠が発動しない様にね」
「それで今回の目的だったコアがそれですか?」
「だな、これもまた俺は初見だけど、こんな太いもんなのか?」
「ダンジョンの深さに比例すると言われていますが、私も初見なので判断は無理ですね」
と、約一mもあるドデカイ真珠の様な輝きを放つ若干縦長い宝玉が台座に寝かせてあるのだ。
「まあ良いか、回収しよう、それにしても後ろから魔物が来ないな?」
「空間把握でも探知不可能だった事から別空間だったのでは?」
「それなら丁度良いな、例の倒し方をするんでアンジェの意識がある方が安全だからな、ここでついでに食事にしようか」
「それは良いにゃ、小腹がすいて来てたのにゃ」




