74:Sランクとの対面
入口ギリギリに着地したのだが、足を着く直前、飛行に使っていた魔力を吸い取られる感覚があった、言うなれば着地の直前に落下する速度が増した、そんな感覚があった。
「セレス、魔力を吸われてないか?」
「はい、着地の瞬間に力が抜けるような感覚が有りました」
「気を付けないと不味いかもしれないな。
アンデッドの巣窟なんだよな、セレスは弓では辛いかもな、風魔法で粉砕する方が良いかもしれないが」
「そんな事より降ろしてくれ、手を塞いだまま下りる訳にいかないだろ」
「そうだったな、それじゃ行くぞ」
ダンジョンの中までは空間把握で見通せないが中に入る事で外の把握が出来なくなり中の把握ができるようになるのだがそんな事は不要とばかりに入った直後からスケルトンの群れに襲われた。
【エアブラスト】でとりあえず押し込み【ナパームフレイム】で焼き尽くそうとしたのだが、初手から失敗し魔法が発動しない、そのまま魔力を周囲に吸われている感覚がする。
仕方が無いのでハルバードを取り出して切り刻んで対応だ。
「おいおいツガット、中で魔法が使えないなんて聞いてないぞ」
「俺もそんな報告は受けた事が無い、詠唱失敗とかじゃないのか?」
「マグロ様の言う通りです、魔法を発動した場合、発動に使う量の魔力が周囲に拡散してしまいます」
「とりあえず此方に来る分だけ倒して退却するぞ、魔法が使えないんじゃいざ帰ろうにも【ゲート】が使えない」
「それもだが多すぎやしないか? 一昨日にスタンピートが発生したんだ、ほとんど空のはずじゃないのか」
「ツガットは目の前しか見れないんだろうけど、俺には空間把握がある、何時スタンピートが起こっても可笑しくないほどギュウギュウ詰めに沸いてるぞ」
「最下層まで分かるのか?」
「その最下層までびっちり魔物だらけだ、これを近接戦闘だけで倒せって、いくら強くてもそれはきついぞ」
「そりゃそうだ、一体一体手作業ではな、疲弊する方が先だろ」
「と、粗方倒したな、それじゃ一度帝都のギルドに戻るぞ」
目印にする為に外でストーンウォールを発動して入口周辺を固め転移する、冒険者がゴッチャと報告に戻って来る時間帯なので脇道へ、冒険者達が大量に並ぶ列に俺達も並び三十分程度してやっと俺達の番となった。
「戻ってたんだなキャロル、ギルドマスターのトロイア殿は居るか?」
「ツガットが一緒って事は例の調査報告かしら」
「そうだよ、寝てるなら叩き起こしてでも会わせろ、緊急事態だ」
「忙しい時間にすまんな、概要は追って連絡が入ると思うがこの場では話せん、マグロの言う通りにしてくれ」
キャロル自ら三階の執務室に案内し自身もその場に留まって俺達からの報告を受けた。
「厄介ですね、スタンピートを待ち対応すると言う手を使えば魔法を使える為ダンジョン内に入り込むよりは安全でしょうが、向かう地が分かっていない為に後手になる可能性が有りますし、その間冒険者達を拘束すれば他の方面で支障が出ますし」
「マグロの判断はどうなの? 入り込む? 迎え撃つ?」
「俺の判断は入り込みダンジョンコアを持ち出しダンジョンを破壊と言うのがお勧めだとは思う」
「マグロ殿、なぜその考えに行きついたのですかな」
「予想だがあのダンジョン、周囲の魔力を回収して自らの糧にしてるフシがある、俺のブレスを受けても欠片の影響も受けていない処か魔物の大繁殖だ、たぶんだが俺のブレスの魔力を吸収して力を増した感じがする」
「本来ならスタンピート直後であれば魔物は激減するはず、ですか、説得力がありますね、それで作戦もお考えでは?」
「魔力を吸収してる事から転移門があるかどうか分からないからな、無いとの前提でだ。
俺のクラン員を中心にSランクのみで突入する、階層のマップも全て分かるからな、殲滅は後に回し一直線にコアを奪還、そうすれば魔物は増えないだろ、そこから殲滅戦に移行する。
物資だが食料は言うまでもないが、回復魔法も使えない可能性が高い為HP回復薬と聖水を大量に持って行く、MP回復薬はほどほどで良いだろ、使い物にならないからな」
「それでマグロ殿のクランからの参加人数は?」
「俺とセレス、ティア、シェル、シャロ、ファサラ、アレッサ、クリニス、これにカエラさんから護衛を借り受けて五名だな」
「マグロ様、私やシェルは兎も角アレッサさんを加えるのは良くないと思いますが」
「魔法が使えないと言ってもあの性格だぞ、来ないって選択肢があると思うか?」
「ありませんね」
「それは兎も角十二名かな、それでトロイア殿はどんな作戦で挑みますか?」
「・・・・マグロ殿の作戦にしましょう、今回ダンジョンを潰せば脅威が無くなります、そして集合時間ですが明日早朝食事後一時間程度、少しお時間を頂きます。
緊急招集と言えど今からでは時間が掛かり物資の準備も間に合いません、その時間に合わせて準備しておきます、全員の分としてHP回復薬を各自百本、万能薬十本、MP回復薬十本、聖水は在庫全て、回復薬ですが全て上級で揃えます。
最後に食料ですが一人三十日分準備します、これで足りますかな?」
「ダンジョンは三十二階層だし行き帰りを考えたら十分じゃないかな、殲滅する時間を入れると全然足りない気がするが、その分物資を準備されてもそれだけの期間入りっぱなしってのは正直きつい、一度出るべきだろうな、ま、コアを取るだけならそこまで時間が掛かるとは思えないけど余裕は必要だからな、物資はクラン単位で分けておいてくれないか」
「それは当然ですね、何名参加可能か確認も含めて通達しておきます、以上ですかな?」
「マグロ、突入している最中にスタンピートが発生した場合、どの様に対処するか決めておかなければ自殺行為だぞ」
「そうだな、潜り込んでいる階層次第だが、浅い場合は俺のクランが殿を務めて脱出、粗方魔物が出て来た時点で上空から一方的に殲滅すれば被害は無い。
そして深層まで到達していた場合は袋小路になっている部屋でやり過ごし、空になったダンジョンなら壁を抜いて最下層まで一気に行く、それなら魔物は寄ってこないしな」
「魔法を使っての壁抜きは出来ないが可能なんだろうな?」
「鉄程度なら余裕と思うが試すか?」
「いや、それならいい、無理な無理でも到達可能だからな、それでは以上だな」
「そうだな、後は全員集まったうえで配置を決め俺の【ゲート】で一気に傍まで移動する」
「では明日お待ちしております」
「それじゃセレス、武器の調達に行くぞ、骨が相手なら鈍器が一番最適だからな【ゲート】」
その場でゲートを発動しロンバルトの鍛冶屋に直接乗り込んだ。
「こんばんわ~、時間遅いけど大丈夫か?」
「おう、マグロか、鍛冶仕事は終わってるが販売ならしているぞ、それで今日はどうした?」
「相手がアンデッドなんだよ、それで鈍器が欲しくてな」
「骨や鎧相手では切るより叩き潰す方が効率的ではあるな、在庫全てを持って来るから待ってくれ」
「材質をダマスカス以上に限定して持って来てくれ、全部買う」
「おいおい全部かよ、片手用も両手用もだよな?」
「両方だよ、どれが手に馴染むか分からないからな、十人に選んでもらう予定だから結構な量が欲しい」
「わかった、二十本近くはあると思うから持って来るぞ」
こうして手元に並べられた鈍器達、両手用の品で鉄球付きのフレイルからオーソドックスなハンマー形状、バットのような形状に棘付きなど特殊な品を入れて全部で十八本だ、片手用十二本、両手用六本。
合計金額白金貨一枚と金貨二十枚のところを白金貨一枚に値引きしてくれた。
そして宿へとはいかずライネルと帝国の街道沿い、一度野営した場所へ転移し鉄を千倍【アイアンウォール】で作成して収納、直径三十cmの鉄球を五万六千七百六十一個作成しておいた、殲滅戦に移行した場合の投げっぱなしの使い捨て武器だ。
今度こそ暁の宿へ転移し大部屋を追加で一部屋借り受け皆を呼んで説明、武器を配布した。
休む前に猫達十五匹を実体化させ食事を与え休ませる事も忘れない、部屋がかなり狭くなるが問題無い、俺は抱き着いて寝るからな。
そして翌日早朝、猫達は部屋で、俺達は宿の食堂で食事を済ませた、十二名で冒険者ギルドへ。
受付をするまでも無く入った直後に声を掛けられ地下一階の個人練習場に案内され準備されていた物資を回収、そして二階の大会議室へと案内された。
俺達が一番遅かったらしい、ギルド職員とツガットを除けば総勢三十九名が待っていた。
うーん、魔法が役に立たないって説明したのかね、それらしい杖持ちが七名は混ざっている。
流石Sランクの者達と言った所か、最低でもミスリル製の武器持ち、そんなもんマジックバッグに入れとけばいいのにな嵩張るのに、それとも誇示したいのかね。
「すまない、俺達が一番遅かったようだな」
「まだ定時じゃないから大丈夫だぞマグロ、全員そろったようなので時間は早いが始めさせてもらう」
「なんでツガットが仕切ってるんだ? トロイア殿はどうしたの?」
「皆が攻略中の期間、監視員を置く事になった、其方の指揮のためだ、それでは来た順番に代表者が挨拶してくれ、先ずはザンジール殿だ」
「PT【漆黒の剣】リーダーのザンジールだ、全員Sランクで総勢十二名、今回の作戦には全員参加だ」
「次アルフォンス殿」
「クラン【朝露の結晶】リーダーのアルフォンス=アーデルハイトです、全員Sランク、総勢二十二名全員参加です、よろしくお願いします」
「次ミストル殿」
「紹介に預かったミストルです、PT名は特に決めていません、全員Sランクの五名で参加します」
「次はマグロだ」
「クラン【真摯の断罪者】の怪盗=マグロだ、俺のチームはAランクと一般の混成チームで十二名参加だ」
「Aランク? 一般? 正気か? そんな低ランクと一般の者を連れて来られて足を引っ張られても困るぞ、そいつらは不要だ、追い出せ」
「黙ってもらおうかザンジール殿、俺が必要と判断し無理を言って来ていただいている。
戦闘戦開始すればマグロ達のクランの実力を嫌でも実感するだろ」
「チィ、だがそんな奴と肩を並べて戦闘するのはごめんだぞ」
「と言う事らしいぞマグロ、作戦はどうする?」
「嫌われようとどうでも良いが連携を考えるとそのPTやクランごとに運用するのが得策だろ。
敵を撃退し進路をこじ開けるチーム、後方を警戒しそちらの排除をするチーム、そしてどちらにも参加せず体力を温存するチームに分ける、これを交互に運用し攻略する」
「その案を取り上げようか、最初は小手調べだ、一時間交代とし先行は漆黒の剣、後方は真摯の断罪者、次の時間は先行と後衛を入れ替え真摯の断罪者を先行とする。
休息は他の二チーム、ミストル殿率いる五名と朝露の結晶、朝露の結晶の方はミストル殿率いるPTへ人数配分をお願いする、次の二時間は先ほどの逆だな、その後はその場で話し合い決める、質問は?」
「ツガット、確認だ、他の三チームは全員参加してるんだよな」
「そうだ」
「魔法の事を話してないのか? それとも知った上で参加してるのか? 見た所魔法を主軸にしてる者が結構居るようだが」
「後者だ」
「はぁ、まあ良いか、以上だ」
「それでは早速行動に移してもらう、今回は俺も突入組だ」
「本当に参加されるのか? ツガット殿」
「マグロのストッパーは必要だろ?」
ちらっとこちらを見るミストルだが何も答えなかった。
前に皇帝を人質にした際俺達の実力を見せているからな、何とも言えない顔をしている。
「それじゃマグロ、ゲートを頼む」
「はいはい【ゲート】」




