70:敵対
二人とはすでに会ってるだろうに、3人とも呼ばれた、謁見の間は珍しく左右に大勢居並ぶ中で行われた。
「これはセル殿ごきげんよう、それで、何の御用でしょうか?」
「其方の二人から聞かれたのではないのですか? マグロ殿」
「この件での会見とは断言されておりません、それに何方からも聞いておりませんので」
「それでは改めてお聞きしましょう、恩賞として与えた屋敷を切り取り持ち去られたのは如何な理由ですかな?」
「持ち去るだと、人を盗人扱いか? あまりふざけた物言いをすると消し飛ばすぞ」
「国王陛下に対し何たる暴言、マグロ殿、それは言葉遣いが悪すぎですぞ」
「外野は黙ってろボケ」
「双方そこまで! マグロ殿申し訳ない、盗人扱いする気はない、なぜ持っていかれたのかお聞きしたかっただけです」
「・・・俺達のクラン員の人数が多くなり過ぎてそれまで住んでいた屋敷が手狭になりましてね、買おうと思っていた矢先にファサラが屋敷を頂いたので、買わずにそちらの屋敷に住むと決めただけですよ」
「そうでしたか、買う予定がおありだったのならその選択肢を選ばれることも無理はない、御足労お願いして申し訳ありませんな」
「陛下! それではライネルの資産が持ち出されます」
「おい、今言ったやつ前に出ろ」
列から1歩前にでて更に話してきた。
「ライネルの資産です、即刻元に戻して頂きたい」
「もっと砕いて話せ、あそこの土地建物込みでファサラが受け取った物件だ、個人所有がなぜライネルの資産になる?」
「ライネルの土地に建てられた屋敷です、ライネル国内で使用して頂きたい」
「だったら最初から使用条件も含めて契約内容に書いておけ、後から利用法の制限など持ち出すな」
「家屋を切り取り持ち出すなど前代未聞、その様な記載はせずとも当然の事でしょう」
「当然ねぇ、セルは俺が建てた皇宮すら切り取り持ち出せる事を知ってる、知っていて書いてないんだ想定の内だろ」
「特別な力を持つ方を想定してた契約書とはなっておりません、詭弁はそれ位にして頂きたい」
「個人所有の財産すら権力を振り上げて使用制限を強引に強制するつもりか?」
「建てた土地でそのまま利用くださいと言うのが強制になるのですか?」
「わかったわかった、それほど言うなら明日元に戻してやるよ、これで良いんだろ?」
「それなら此方は何も言う事は無い」
「権力を振りかざし書かれていない使用制限を強要するのなら、此方は力で対抗するまでだ。
宣戦布告する、返還した二日後にライネルに対し侵略戦争を開始する、首を洗って待ってろ、ああ、体ごと消し飛ばすから全身清めておけ、それじゃ帰るぞ」
「お待ち下さいマグロ殿、お持ちしたままで結構です、我々はマグロ殿と敵対するつもりはありません。
そこの馬鹿を捕らえて牢に放り込め!」
無視して踵を返し歩き去る、渡された通信水晶を握り潰し謁見の間に捨て王城を後にし、クララの休む宿屋へと向かった。
そして宿屋の者に訪ねて部屋に案内してもらった。
「待たせたな二人とも、それでセレス達はここに来るのか?」
「いえ、マグロ様は此方の位置が分かるので来られるまで買い物をするそうです」
「なるほど、俺は迎えに行くから先に帰って待っとくか?」
「宿を引き払い皆で行きましょう」
「わかった、支払いは済んでるんだろ?」
「はい」
「それなら転移しよう、行きつけの店だからな【ゲート】」
宿の前に待ち伏せされていたから丁度良い、さっさと離れるに限るからな。
そして鍛冶屋に転移した。
「こんにちわ~」
「マグロ様、体調は宜しいのですか?」
「マグロも来たんだな、クララって嬢ちゃんの武器の発注か?」
「体調は朝よりは大分良いよ、武器だけど俺は聞いてないな、作るの?」
「レベルが上がりましたので、魔法を覚えるまでの防衛手段を一つは確保しておこうと思いまして」
「なるほどな、だけど何を使うか本人が居るんだし決めてもらうか、と言う事で何か使ってみたいのって無いか?」
「それでは、杖を使いたいです」
ちらっとロンバルトを見ると首を横に振っている。
「やっぱり無理らしい、俺の杖をやるからこれを使え」
とミスリル製の暴風竜スカイロッドを手渡した。
「マグロらしいと言えばらしいが、初心者には勿体なくは無いか?」
「いやぁ、俺が使うと威力が有り過ぎて危ないからな、素手の方が良いんだよ」
「冒険者は威力を高めるべく高品質の杖を求めるものだがな」
「仕方ないだろ、【ファイア】使うと石も水並みにさらさらになるんだから、そうだ、何も買わずに単なる雑談になるからこれやるよ」
と両手に1個ずつチュリーロッサを手渡した。
「甘い香りだから果物だとは思うが見たことが無いな」
「例の群島の果物だよ、今はそっちに住んでる」
「転移が無ければ無理な選択だな、ありがとう、今晩早速頂く」
「俺達も帰るぞ、話す必要があるのが増えたからな、そう言う事でまたなロンバルト」
屋敷のエントランスに転移し、応接室にて話し合う、イライラ緩和の為にセレスを抱っこしてだ。
「俺の方は長くなるからなぁ、セレス達の方はクララがマジックバッグを持ってる事から買い物は済んだのか?」
「買う予定の屋敷以外は購入済みです」
「そうか、ありがとうな、俺個人で報告するのが2点ある。
1つは彼らが自立した、屋敷を購入した事で早速と言った所だ、皆へ感謝の言葉をと言伝を受けている。
2つ目は帝国内でスタンピートが発生して俺が駆り出された、その対処をしたから皆のレベルが上がってるはずだ」
「婿殿は体調不良の状態で向かったのか、気合いが入っておるの」
「帝都に入場する際に引き留められたけどな、事情を話して少しは寝れたんだけど叩き起こされて行く羽目になったんだよ、その対応後に宿に戻ったら彼らが挨拶に来てたって訳だな」
「それで先ほどの件ですね、屋敷を元に戻せと強要されお約束されましたが、マグロさんはそれに合わせて宣戦布告しました」
「どういう事にゃ?」
「そのままだよ、この屋敷はライネルの資産だから元に戻してライネルで使えだとさ、所有権は此方にあるうえに利用方法の明記無しだけど、その点に見向きもしていない」
「結局、強制されたのだにゃ」
「それは国王の判断かの?」
「別の奴だ、セルの側近だろうな、謁見会場に居た事から結構な地位なんだろ、セルは俺達の力を知ってるからな、そいつを捕まえて牢屋に放り込んだ、それで、此方の常識ならどう対応するのが普通だ?」
「それなら戦争仕掛けるほどではないの、国王の謝罪としては良く対応した方であろうな」
「ふむ、ファサラとクリニスは俺より前に会って話したんだよな、具体的に何を言ってたんだ?」
「何の相談も無く持ち去られたとご立腹でしたね、あの騎士の言葉を途中で止めなかった辺り、ご自身も思っているのかもしれません」
「それで、俺達の戦力を考え敵対はしてませんよと表面上の謝罪って事か?」
「断言はできませんがネチネチと釘を刺していた辺り、マグロの言う事で間違いないかもしれませんが」
「潰すのは簡単だが、また頭が不在になるな、冒険者ギルドの対応はドラゴンの件であまり良い対応とはいかなかったからな、商業ギルドに丸投げしてみるか?」
「本当に潰すのですか? マグロ」
「潰した後を考えると面倒なんだよな」
「それでしたらマグロさん、とりあえず私の顔を立て戦争は取り消すが絶縁する事で関係を断ってはどうでしょう?」
「故郷を思うファサラに懇願されたので矛を収めたか・・・そうしよう。
明日朝食後に中身を全部回収後皇宮を設置する。
その後俺は屋敷を元に戻しに行って後はこっちに戻ったらゴロゴロしとくよ、明日は休日にしよう、流石に今日は疲れた」
「予定は兎も角あれを出すのですか?」
「そりゃ、家が狭いんだから仕方ないだろ、昨日まで使ってた家って元々10人用の家だぞ、容量オーバーなんだから仕方ないだろ、踏まれる覚悟で通路で寝たいか?」
「それは・・・・」
「嫌だろ、俺も嫌だし」
「返却に行く際は私もついて行きます」
「良いよ、だけど設置したらすぐ帰るから何処にも寄らないぞ」
「構いません」
「それじゃ、明日の予定も決まった事だし、本調子じゃないから軽く食べてさっさと寝るわ。
あ、その前にクララの適正を調べて誰が教えるか決めないとな、それで調べたか?」
「買ったその場で使用しまして、クララさんの適正は風魔法と時空間魔法です」
「それはまた、教えにくい魔法だな。
シェル、無詠唱込みで教えられるか?」
「無詠唱を教える知識がありません、私では無理です、何か手は有りませんか?」
「それじゃ魔力操作はどうだ?」
「それでしたらクララさんの魔力に感応させ感じさせれば可能です」
「それじゃそれを覚えさせた後に無詠唱込みで俺が風魔法を教えるよ、時空間魔法に関してはこの点が終ってからになるかな、だけど時空間魔法は魔法書見ても敷居が高いからな、シェルなら教えられるか?」
「其方は私が教えますよ、適性があったシャルに教えたのは私ですから」
「それは頼もしいな、それじゃ3段階で教えよう、それとクララ、レベルはいくつに上がってる?」
「な、763です」
「それなら当面大丈夫だな、今夜一晩休めばフルに回復するだろ、身の振り方が決まって無いから一時的にクランから脱退してもらうからな」
「はい、勿論です」
「ところで、この場合はカード返却は必要か?」
「・・・・・」
「誰も経験が無いか、それじゃ明日聞いて来るわ、本人確認が必要そうなら後程向かうって事で」
その後セレス達が露店で購入してきた品を軽く食べ俺は先に休んだ。
そして翌日、朝食を済ませ皆で家具をしまい込み屋敷を収納。
皇宮のサイズは更に輪をかけた面積なので更に土地を木ごと収納し、支える為の杭の位置に穴を空け、岩盤まで長さが足りないのは先に穴に設置、余るのは収納してる中で切り取り後はすっぽり収めれば完了だが何分微調整が必要なので昼まで時間が掛かった。
そして適当な応接室にテーブルとソファーを取り出し昼食を済ませた。




