7:奴隷購入
2016/09/12:行間調整。
冒険者ギルドから出て道を横断する中、後ろから此方を見てる五人、青から赤に変色したな。
敵対意識持ちか、これまでで敵対したのはガランのみ、奴の知り合いだろうな、相手の出方次第で遣る事になるな、と考えながらカエラ商店に入って行く。
「いらっしゃいませ、奴隷の購入をご希望ですか?」
「そうだ、店主のカエラ殿はご在宅かな? 冒険者ギルド職員のキャロルさんから紹介して頂いたのだが」
「それでは此方へお越しください」
応接室に案内されたようだ、中央部にテーブルが設置され両側に三人が座れる程度のソファーが置いてある
「此方にお掛けお待ち下さい、ただいまカエラを呼んでまいります」
ソファーに座るとお茶と茶菓子が用意され、お茶を飲みながら考える、建物は地下一階、地上二階だが一階の人口密度はそうでもないが地下と二階は一部屋にぎっしりとまではいかないが、二畳に一人程度に詰め込まれているはいるが不当な扱いは受けていないようだな。
入ったエントランスも奇麗で不快な匂いもないし、と、数分後、店主らしき女性が先ほどの案内しれくれた店の者を伴い入って来た。
「ようこそいらっしゃいました、店主をしておりますカエラです、お見知りおきのほどを」
「マグロです、冒険者ギルド職員のキャロルさんからの紹介で参りました」
「冒険者の方でしたか、今回はPTメンバーを探して、と理解して宜しいですか?」
「ええ、数日前に来たばかりでして、現在活動中の冒険者の方の中からメンバーを探す為の情報は持ち合わせていない為、リスクを考えると、奴隷をと判断しました」
「それならば奴隷は最適で御座いますね、ちなみに奴隷の知識はございますか?」
聞くのは一時の恥、聞かずに適当に誤魔化すのは悪手だな、素直に聞こう。
「これまで奴隷と関わる事が無かったもので、わかりません」
「それでは説明致しますね、平均的な相場ですと、男性は金貨二十枚~四十枚ほど、女性ですと金貨五十枚から七十枚ほど、種族、年齢、容姿、LV、スキル、女性ですとこれらに加え処女であるかですね。
荒事に向いた女性は少ない為に高い傾向に有ります。
むろん、平均的な値段であって容姿端麗な女性はもっと高い事があります」
「容姿端麗な女性は男として憧れですからね、高いのも頷けます」
「どの様な条件の者をお探しですか?」
無茶な注文してみるか? ダメもとだしな、居なければ居ないで他の場所で探すって手もあるしな。
「種族は不問で、年齢は俺が十六歳である事と、冒険者登録する事を考えて下は十五歳から上は二十歳ほどまで、Lvは不問、戦闘は見ての通り今は一人である為、得意な攻撃方法が近距離遠距離どちらでも構いませんが、俺は戦闘経験が余りないので近距離だと巻き込みそうですから遠距離を重視で。
女性で容姿端麗、胸が大きく形のいい人が良いな、要求しておいてなんだけど、こんな無茶な要求でも問題ないのかな? 金銭的な糸目は付けないのでよろしくお願いします」
と頭を下げた。
「・・・それならとっておきの者がいますが、年齢のみ条件から外れ八十七歳です、ハイエルフと長寿な種族の為、不問でも良いかと思います。
オークションへ出品させる事が決まっていましたが、予想金額でのご提供になります、特別にご紹介いたしますから、割引など一切行わない、この条件を飲んで頂けるのなら紹介いたします、どういたしますか?」
ハイエルフか、エルフの上位種だったはず、なぜ奴隷に、との疑問もあるが、魔法を使う素質としては最高だろうな、ぜひお目に掛かりたいな。
しかし、出品が決まっていたって事はオークション運営者としては早め早めに品を確保し登録も済ませているはず、それを取りやめ店舗で販売すれば当然運営側は被害を被る訳だ、それなりの金額を提示して購入してもらい、迷惑かけた代金を先方にお支払いする、と考えれば予想金額の提示もあながち間違った行為ではない、それに運営側にも結構な顔が利くのだろう、そうでなければこのような無茶が出来るはずもない。
自らの名に傷が付くであろう行為だが、オークションで誰とも知れぬ輩に売るより、俺に売る方がその女性の為と考えているのだろう、相当気にかけているフシがあるな。
その前に一つ質問を。
「長寿とはどの程度の寿命なのですか?」
「平均寿命は約千歳と言われています、二十歳程度から容姿が老けずに九百歳頃までその容姿だと言われています。
実際には病気であったり魔物との戦闘で命を落とす者が多く定かではありません」
確実ではないって事を入れても容姿端麗なまま九百年以上生きられるって凄いな、俺が死ぬまで姿が老けないのも魅力だな。
いや、そもそも俺の種族って何歳が平均寿命なんだろ・・・それは置いといてぜひ紹介して頂こう。
「なるほど、人族から見ると十代後半辺りですかね? それなら不問で良いですね、是非お願いします」
「例の子を連れてきて頂戴」
「はい、少々お待ち下さい」
しばらく待つこと十分程度、一人の女性を伴って入室し頭を下げ挨拶した。
「セレスティーナと申します、よろしくお願いします」
顔はロシア人風か金髪で目の色はブルーの物凄い美女だな、肌は雪の様に白く体型はスラリとして体型に似つかわしくない程の巨乳である、正面から見てこのサイズなら横から見たら凄そうだ。
足が長いなぁ、日本人からすると中々お目にかかれない体型である、好みで言えばドストライクだな。
だけど、それだけで気にかけるかな? そこは質問してみるか。
「マグロです、此方こそよろしくお願いします」
「彼女はセレスティーナ、武器は弓を、魔法は水魔法と風魔法を得意としています、ご提示金額は金貨七百二十枚です、如何でしょう?」
鑑定したいがどんな影響を与えるのか不明だからな、今回はするべきじゃないか、質問のみにしておこうか。
「3つ質問が有ります、宜しいですか?」
「何なりとどうぞ」
「冒険者として身を立てる事になる、むろんPT員として戦闘もしてもらう、この点は大丈夫か?」
「ご主人様になって頂けるのならお傍でお支えします」
「夜は貴方を抱く事もある、それでも構わないか?」
「夜のご奉仕もお任せください」
「それでは最後に、どうして奴隷に?」
「それは私から説明致します、彼女は元冒険者ですが、同じ所属していたPT員に裏切られ、野営の際に悪質な奴隷商人に売られたのです。
捕まえる為に野営をした、とも言えますね。
それで正規ルートの奴隷商に流れる様に何人もの人の手を介して私どもの元へ来た訳です」
悲劇の一言に尽きるな、だが軽々しく言える言葉じゃないな、カエラさんはこの事を知っていて気にかけていたのか。
「なるほど、なんと言えばいいのか分かりませんが、彼女は奴隷になったが、何一つ非は無い事が分かりました、彼女を購入したく思います」
「商談成立ですね、他にも見て行かれますか?」
「PTとして二人では心もとない、頼んでよろしいですか?」
三人候補の方を紹介してもらったが、セレスティーナを見た後では見劣りし買う事は無かった。
「金貨七百二十枚になります、登録費用は此方で負担いたします」
白金貨一枚を取り出して渡す。
「金額を気にせずご購入頂いた理由がわかりました、今後もPT員拡充の為にご購入の検討を?」
「ええ、最大十人ほどのPTを考えています、良き人材がいれば買う予定です」
そう言えばPTの最大人数が何人までか聞いてなかったな、まあいいか。
「それでは先ほどお話ししましたオークション、一週間後に帝都の商業ギルド本部で開催されます、そちらへご参加されますなら紹介状を準備させて頂きますが如何でしょう?」
ネットオークションなら何度か参加した事はあるが現地で直接参加は経験が無いな、これは良い体験が出来そうだ。
やっぱり他人を紹介できるほど顔が広いのか、店舗で買った俺を相手に知らせるには良い手だしな、その案に乗ろうか。
「それは良い情報を頂きました、ぜひ紹介して頂きたい」
「紹介状を準備致しますのでその間に登録をしましょう、此方に血を一滴頂けますか」
血を触媒の一部に使用し登録する様だ、ナイフを手渡され指にサクッと突き刺して血を入れて容器共々お返しし、こっそり奇麗な指を思い浮かべながら治療した。
セレスティーナの首元に塗り契約魔法が発動する。
「これで契約が完了しました、注意点ですが奴隷には首輪をお填め下さい、填めていませんと逃亡奴隷として捕まる恐れがあります、素材は何でも構いません、無論今填めてる首輪のままでも問題ありません。
命令ですが命に関わる命令は出来ません、奴隷に対し無体な対応は出来ない様に法律で守られています、主人が衣食住を与える事が義務付けされています」
ん? あんな犬の首輪同然なのを着けっぱなしって事か? 気に入らないな、奴隷といえども俺の手元に居る者に無粋な首輪は不要だ。
それに俺は犬が大嫌いだしな、あの吠える声を聴くと威嚇されてる気分になるんだよな、聞くたびにストレスが溜まる。
「と言う事は、セレスティーナの首輪は奴隷から解放されないと外す事が出来ない、と言う事ですか?」
「左様です、奴隷であるかぎり義務と言えます」
「それはダメだな、犬の首輪同然の品をセレスティーナにはめさせるわけにはいかない、奴隷から解放する。
それに、彼女には奴隷となる理由が無い、非が無いんだからな」
「マグロさん、本当によろしいのですか、もし開放すれば逃げられる可能性がありますが」
「逃げられたらそれはその時さ、俺に魅力が無いって事で諦める、それに、彼女に首輪は似合わない、するならネックレスじゃないとな! すまないが解放をお願いする」
「マグロ様・・・・」
「決意は固いようですね、マグロさんのご要望の通りに解放致します、セテスティーナ、幸せになるのよ、マグロさんを手放しちゃだめよ、こんな男気溢れる人、なかなか居ないわ、元気でね」
改めて奴隷契約を破棄し、セレスティーナは解放された。
「はい、カエラ様、お世話になりました」
「セレスティーナ、俺は怪盗=マグロだ、マグロと呼んでくれ、今後よろしくな」
「セレスティーナです、マグロ様、セレスとお呼び下さい、よろしくお願いします」
「様は必要ない、ただのマグロで良いよ、奴隷からは解放されたんだ、今から俺と同じ立場で俺の同僚でもある、敬称は不要だよ」
「大変恐縮ですが、マグロ、と呼ばせて頂きます、改めてよろしくお願いします」
「よろしく、セレス」
話してると紹介状と残金の金貨二百八十枚が運ばれてきた。
「では、紹介状と金貨二百八十枚に帝都の地図になります。
オークションですが奴隷のみではありません、武器や防具、魔法道具や貴重なポーションなども出品され二日間に渡り開催されます、そちらもぜひご参加下さい」
この町しか知らないからな、帝都が何処にあるのかなんてさっぱりだし、交通手段すら知らないんだ、恥を忍んで聞かないと間に合わないって事になったら最悪だからな。
「貴重な品は手に入り難いですからね、ぜひ参加してきます、帝都へはどの様な移動手段がありますか?」
「馬車ですと一人銀貨五十枚で三日間掛かります。
町にあるテレポーターを利用しますと一人当たり金貨五枚必要です。
注意点ですが大きな荷物を持ってテレポーターは利用できません、大きくてもリュック程度ですのでご注意を」
「なるほど、貴重な情報を有難うございます、これで失礼します」
「失礼いたします、またのご来店をお待ちしております」
横に立つとセレスティーナも中々に背が高い、百七十cmほどか、道路に出たが先ほどの敵対心向けてくる五人組が脇道の陰から監視しているのが見て取れた。
「セレス、すまないが挨拶は後程だ、説明は後でするからまずは冒険者ギルドで登録を済ませよう」
「わかりました、マグロ」
セレスは積極的に腕を絡めて来る、胸の感触が圧巻だ、一分も掛からない距離を歩き、真向かいの冒険者ギルドに入ると昼が近い時間だからか冒険者が数名程度しか居ない、早速キャロルに話しかける。
「キャロルさん、彼女の登録をお願いできるかな」
「マグロさん、お隣の方はもしかして」
「説明は不要だろ? 考えてる事で間違いない、彼女はセレスティーナ、今後共にする」
「セレスティーナです、先ほどマグロに解放して頂きました、よろしくお願いします」
「解放? マグロさん、解放したの?」
「当然だろ、彼女に犬の首輪なぞ不要だ、すまないが会議室だったか? 部屋を使わせてもらいたい」
「マグロさんて、敵味方への対応が本当に両極端なのね・・・わかったわ、此方に二人ともついて来て」
と案内された。
驚愕されたのも当然だ、この世界では奴隷を解放する事はまずない、お金を出し購入した者を解放する事はそのお金をドブに捨てるようなものだ、誰が好き好んで売ればお金になる奴隷を解放するものか。
同時に、一度奴隷になれば抜け出す事がほとんど不可能と言われている。
買い戻すつもりで売られた者も当然いるが、商売人としてはさっさと上乗せして売却する方が維持費も掛からず利益が上がる為、いざ買い戻す資金が貯まりましたとなった時点で、他者に買われて居ない事もあり余計に奴隷から抜け出すのが難しくなる。
それに、無体な命令は出来ないと言われたが時と場所によっては当然破棄される、破棄される場合とは魔物との戦いにおいてである、全滅の危機などでは当然奴隷から切り捨てられる、主人を守る事を第一に命令されているからだ、魔物のはびこっている世界では人命は軽いのである。
そういう理由からマグロは命の恩人と言えなくもない、出会って早々に解放、セレスに最大の恩を与えた事を知らないマグロであった。
残金:白金貨四十九金貨三百三十枚、銀貨六十七枚