68:治療の報酬
やっぱり受付にキャロルが居る、夕方で冒険者が大勢いる為長蛇の列になっているが俺はキャロルの対応する列へと並んだ、ゾロゾロ並ぶのも迷惑だろうとセレスとクリニスの3人だ、そして30分ほど待ちやっと俺達の番となった。
「今朝ぶりだなキャロル、色々と話したいが、時間は無さそうだな」
「この忙しい時間に来なくても良いでしょうに、セレスも元気そうで何よりね、それでツガットに用事かしら」
「それもだが一人クランに入る事になった、クリニスだ」
「紹介に預かりましたクリニス=ヴァンティユです、呼ぶ際はクリニスで結構です」
「もしかしてシャルの・・・」
「実の兄だよ、例の件には加担してない、あの時はストレイルに聖王国への使者として出向いてたからな」
「そこの事情は話さなくて良いわ、マグロと行動を共にしてるんですもの、加担してたらマグロの事だから生きていないでしょう。
セレスの身分証とクリニスさんの仮証明書を提出して下さい」
こうして冒険者カードとは違うランク分けされない身分保障のみのカードが発行された。
「そう言えば銀貨2枚必要無いのな」
「其方はクラン立ち上げ時の費用に込み、と言った所ね」
「それでツガットはどこ?」
スキルを公表するのもはばかられるので当然聞く。
「暁の宿に部屋を取って待ってると言伝よ」
「そうか、これお土産だ、後から食べてくれ、日持ちしないから早めにな」
2個渡した。
「これは??」
「バルカント諸島の特産品だ、それじゃまた来るよ」
表に出ると歩くのは面倒だと宿屋近くの裏路地へ転移し、宿へと入って行った。
そこでは一人の女性と食事をするツガットが居た。
「食事中にすまないなツガット、帰っても食事の準備が必要だからな、此処で食べようか」
「来たかマグロ、それなら食事を済ませてからにするぞ」
そして食事を済ませた、ツガットは壺に入った酒を飲んでいるが。
同じテーブルの席に俺が座って尋ねた。
「報酬の受け取りを頼んで悪かったな、俺達の誰も報酬の品が何なのか知らないんだよ、それで何処にあるの?」
「ほら、目の前にあるだろ、持って行け」
「なるほど、これか、なら頂いて行くぞ」
ツガットが飲んでいた酒壺を掴みあげ、一気飲みしてテーブルの上に置き一言。
「さて、頂いた事だし帰るわ」
「ちょっと待て、報酬が俺の飲み残しなんて訳無いだろ」
良く分からんな、それじゃテーブルか? これは宿の備品な気がするがわざと買い取って分かりにくい品にでもしたのか? それにしても生き物の様な言い方してたが何だったんだろうな?
「きっとそのテーブルにゃ、もらって帰るにゃ」
テーブルだけを収納したら壺が割れるので一緒に収納した。
「俺も同じ事を考えてたんだよ、それじゃツガット、屋敷を買おうと思ってるから明日来るわ、会えるか分からんけどね」
「待て待てマグロ、それは宿屋のテーブルだぞ、それじゃないこれだ!」
と目の前の女性を指さしたのだ。
しかしだな、女性一人を報酬として渡すなんて聞いた事が無い俺はあえてさらに後ろの壁を切り取り収納するために向かう。
「変わった趣向だな、宿屋の壁を報酬にするって奇抜だ、それじゃ切り取って帰るわ」
「マグロ待て! 壁じゃない、此方の女性が報酬として俺に預けられたんだ!」
宿の従業員が即座に駆けつけ注意を促して来る。
「お客さん、頼みますら他のお客様のご迷惑ですのでお静かに、それとテーブルをお返し下さい」
謝罪してテーブルを元に戻してツガットに話しかける。
「迷惑掛けたくないから外に出るぞ」
そして宿から出る、入り口を塞がない程度に離れた。
「それで、女性が報酬って何なんだよツガット」
「知るか、そんな事俺じゃ無く先方に聞いてくれないと分かる訳ないだろ」
「何考えてるんだあの馬鹿!」
「営業妨害は困ります! 静かにして下さい!」
怒られた。
「で、どうするんだ?」
「あの、マグロ様、此方の方ですが、私が治療を施した女性です」
「その節は命を助けて頂き有難うございました、これより誠心誠意お仕えさせて頂きます。
申し遅れました、私クララと申します」
大切な家族だろうに、本当に何を考えてるんだかあの馬鹿は。
「こうしよう、血を提供したのは俺だが治療したのはセレスだ、処遇はセレスに任せるよ、それじゃツガット迷惑をかけたな」
「マグロがセレスに丸投げしたにゃ」
「・・・・・はぁ、とりあえず島に戻るぞ、此処で話してても迷惑なだけだからな、クララ、挨拶はとりあえず後まわしだ、すまないが来てもらうぞ」
「はい、お供いたします」
クララを中間に挟んだ形で島の屋敷前に転移、中の荷物を全て回収し外に出てもらった。
そして地面ごと家を収納し、今度はライネルの屋敷を設置すべく地面を切り取るが、木が半端に入り込まない様に微調整、木ごと地面を収納してすっぽり屋敷を設置すれば完成だ。
そして応接室だった部屋にソファーとテーブルを並べて全員着席、そして話し合う。
「これで一応屋敷の問題も解決したな、そういえば下水の設置してないな、お隣の家にあるのを使てくれ」
「今頃いうなんて遅すぎるにゃ、皆とっくにそうしてるにゃ」
「あー、俺外でしてたからな・・・クララ、ここは気温が高いからな、体調が悪くなるようなら言うんだぞ」
「マグロ、それならこの屋敷内に居れば問題ないですよ、湿度も温度も管理できるよう魔方陣が設置してありますから」
「そうなの? それじゃクリニス、調整ってできる?」
「それは無理です、流石に魔方陣に手を加えるほどの知識はありません」
「あちらでもメイドさんは不調を訴えてなかったし、少し様子を見ようか、少しでもレベルを上げればVITが上がるし体力もつくだろ、それは良いけど本当にどうしたもんかな。
この場合は本人が奴隷商に売却され、そのお金で治療をして完治したって状況だよな」
クララは美人だ、だが、後余命いくばくもない時期まで患っていた為か結構痩せている、寝たきりの上に食事もままならない状態では仕方ないだろう、栄養を付け体力を付ければ本来のベストな体型に戻るだろう。
「例えが良くありませんがその様な状態ではありますね、それとですが、私達の行動ははっきり言いましてかなり体力を使います、病み上がりの彼女を連れまわすのは憚られるのですが」
「確かにな、魔法依存の行動が目立ってるがかなり強行してるのは確かだし、それなら報酬は不要だと彼女を実家まで送るか?」
「その様な事はおっしゃらずご恩をお返しする機会をお与えください、治療前から家族で話し合いこのように行動すると決めておりました」
「ご家族含めて了承済みか、だけど俺達って何処の国にも属さず、帝国、ライネル、ストレイルと定住せずに動き回ってるからな、如何したものか」
「本人がこうして目の前に居るのじゃ、聞いたが早くは無いかの」
「うーん、それじゃ一つ聞くぞ、今後生活するうえでかなりの影響があるから慎重に答えてくれ、将来何か成したいとかしたい事とか無いか? 具体的には商人になって大成したいとかな」
「それは・・・・発病前ですが魔法の適性がある事が分かり病気の際にも魔導書を読み勉強しておりました、魔法を覚えお役に立ちたいと思います」
「と言う事は今現在はスキルとして覚えてないのかにゃ?」
「はい」
「なるほどな、俺達が教えるにしても其方の特訓はとりあえず体力をつけてからだな、俺達のクランに入ってもらった上でこの屋敷内を歩いて回り基礎体力を付けるといいだろ、と言っても明日は買い物だし数日後からだな、それで身の回りの品はそれだけかな?」
「はい、MPポーション代金で負担を掛けた為に身の回りの品を整理したのです」
そう、彼女の手荷物は魔力を有していないバッグ1つのみ、見た目通りの量しか持ち合わせていない様だ。
「それなら身の回りの品も買いに行くぞ、魔法適性が分かって無い様だし、魔法適性水晶だったか、魔道具店にも寄って買おうか、それと一時的に護衛が必要だな、シャロ守ってやってくれ」
「それは良いのだがにゃ、服屋に装飾店に冒険者ギルドに雑貨店に魔道具店に不動産屋だよにゃ、時間が足りなく無いかにゃ?」
「予定が入ってるのは明々後日だろ、屋敷の件はこの家持ってきたんで保留にしておこうか、買うに越したことはないけど後に回そう、2日掛かっても良いから皆で行くぞ。
この家って地下に冷蔵設備があったよな、例の果物を数個置いとくから好きなだけ食べてくれ、残り1個とか2個になったら言ってくれ、出すから」
「予定が決まったのならこの屋敷の中を案内した方が良くないかにゃ、それに部屋の割り振りも必要にゃ」
「当然だな、俺の家族は3Fで護衛は2Fな、で、ファサラが俺の嫁だからクリニスは俺の義理の息子だろ、だけど年齢的にはお兄さんだろ、そこは複雑だから置いといて3Fで良いだろ、クララの扱いがはっきりわかって無いからとりあえず3Fで。
シェル、家財道具をごっそり回収するの頼んだだろ、ベッドってこの人数になっても足りるか?」
「メイドの方達の分が有りますのでかなり余裕があります」
「あら、持って行かなかったのね」
「再建した皇宮に搬入予定でしたが、マグロ様が離婚宣言をされましたのでそのままになってます」
「あー、そう言えば1泊もしてなかったな、というより、あれを出せばこの屋敷も必要無かったのか」
「皇宮を出すには場所的に不釣り合いでは」
「それもそうか、まぁ東の島を完全に手中にしたらど真ん中に据えようかな。
前置きはそれぐらいにして、地下室から順に回ろうか」
護衛達の部屋とクリニスの部屋は苦も無く決まり、俺は執務室の隣を選んだのだが、嫁達が自分のベッドを俺の部屋に順に並べて置いてしまった、一面覆いつくされたベッド、部屋に入ったらベッドの上で過ごせと言った具合だ。
ここの部分は取りあえずスルーだな、結界を施している屋敷なので魔物は入ってこないとは思うが絶対では無いのでクララの部屋は俺の隣になった。
そして俺と嫁達だけになる。
「で、何でこんな事になってるの?」
「ティアが自分のベッドを隣に置いたからですよ、抜け駆けはいけません、それが全員の意見だと思いますよ」
「で、ソファーすら置けないんですけど、と言うよりあれだ、タンスが置けないって、別に衣裳部屋を決めるべきかね」
「マジックバッグがあるからにゃ、不要だと思うにゃ、それにソファーに座りたい時は隣の部屋に行くのにゃ」
「いやいや、とりあえずだな、ベッド1個減らして荷物置き位は置こうよ、整理棚をさ、確かにマジックバッグに入れれば良いけどマジックバッグ位は置く場所を確保しないとそこらに放置になるぞ」
「それなら誰のベッドとか関係ないのじゃ、婿殿と嫁達の部屋で良いのじゃよ」
「まぁ良いか、それでクララの扱いだけど、とりあえずクランに加入させてレベルを51オーバーまで上げた上で一度抜けさせるか? それから魔法の特訓だな、しかし、それ以降が未定なんだよな、例のマジックバッグを預けてメイドさんに徹してもらうか?」
「知識と技術を詰め込んで後はメイド、ではあの娘も納得しないのじゃないかの、結論は出さず経過を見る方がよいと思うのじゃよ」
「ですね、事を急く必要はありませんよマグロさん」
「それもそうか、それじゃ寝るぞ」
「婿殿、忘れてやしないかの? 今夜は初夜じゃぞ、寝られる訳あるまいて」
「あー」
「まだお相手していないカエラさんとファサラさんもご一緒に、私達はクララさんの部屋で休ませてもらいます」
なぜか理解の良い嫁達、3人残して出て行き、俺は避妊薬を呑み相手をする事に、それも徹夜で。
日が昇った翌朝、マグロは疲弊しきっていた。




