66:確保
転移で聖王都の宿屋に戻ると此方も此方で早く戻って来いという状態になっていた。
「ようやく戻って来たのにゃ、待ちくたびれたのにゃ」
「すまないな、なぜか決闘に巻き込まれて相手してたもんで、それで衛兵さん達が何で居るのさ? 今日は病欠だろ」
「お願いします、手を貸して下さい、今枢機卿を排除する有志が立ち上がり戦闘の真っ最中なのですが、何分人数に差があり押し込まれているのです」
「理由は・・・聞く時間が無さそうだな、それでティア司令官殿、作戦は?」
「細かく敵と判断可能なマグロは戦線の中央に突入して助けるにゃ、飛べるセレスとシェルは相手後方に回り込み此方と挟撃するにゃ、シャロは右から横腹を突くにゃ、ティアは左からにゃ、アレッサの実力は知らないからにゃ、とりあえずマグロにおぶさって行動するにゃ」
「了解した、とりあえずフレアストームを初弾で打ち込んで、エアブラストで戦線中央をこじ開けて、フレアスライサーで横方向に発動して切り刻むからティアとシャロは気を付けてくれよ、まぁ属性攻撃だから意味が無いが、当たれば気持ち良いもんじゃないからな。
それと衛兵の人、押し込んだからと追いかけない様に通達をお願い、接近されてない方が対処しやすいからお願いできないかな?」
「其方は指揮者に即連絡しておきます」
「それじゃ行動開始にゃ!」
おぶさってと言ってたが抱き抱えてる方が安全だからとアレッサをお姫様抱っこして宿屋を飛び出しフライで飛び立ち一気に南下、方角は聞いてなかったが、昨夜の騎士の行動から此方だと確信していた。
探知範囲内に入ると奇麗に青と赤のマーカーが分かれ、青いマーカーの方が若干包囲されてるが見て取れた、差があり過ぎるな、ざっと8対2と言った所か、これでよく戦闘を仕掛けたなと思うマグロであった。
一気に急接近し中央と左右に、それもこちら側の人員に影響が出ないよう結構な余裕を持たせ【フレアストーム】×3を打ち込み、最前線で戦っている敵の騎士2名を蹴り飛ばす形で強引に割って入った。
蹴り飛ばした相手と相対していた2名の内1名は攻撃しようとしていた為俺はそのまま左肩に片手剣による斬撃を受けた、まぁ防具は切れたが問題無い。
とりあえず前面に【エアブラスト】 左右に【フレアスライサー】を二発ずつ、合計4発を食らわせて後ろの兵士に声を掛けた。
「遅れてすまないな、大丈夫か?」
「も、申し訳ありません、大丈夫でしょうか?」
「防具は切れたが無傷だよ、問題無い、それより戦線を維持してくれ、押し込んでも追いかけない様にな、巻き込まれたくないだろ?」
「了解しました。
聞いたな! 戦線を維持せよ! 決して追いかける事まかりならん!」
「防戦に徹してくれ、倒すのは俺達に任せれば良い、その方が負傷者が出ないからな」
「了解しました」
ぽっかり3つの穴は有るが、あれは敵を委縮させる為に放っただけ、元より火力面の成果は気にしてない。
先ほど放った4発では端まで届かなかった為に風魔法を強化して調整、1歩踏み込むたびに左右へ【フレアスライサー】を放ち、前方の敵が邪魔になった場合だけ前方へ【エアブラスト】を放つ、これで俺から見て前方180度すべての敵が奇麗に片が付いた、まぁ1分も掛かっていない。
若干包囲されていたのでその分切り漏らしがあったが其方はティアとシャロが処理をした。
そこからはアレッサを地に降ろして負傷者の手当てに尽力した、其方の治療も終わった頃戦地から少し北に、聖王都側に行った場所で合流した。
「それで、そいつが枢機卿な訳ね」
「マグロ様の放ったフレアストームを見た直後に離脱しましたので真っ先に身柄を確保しておきました」
ロープで拘束され猿轡代わりにタオルを口に詰め込まれ芋虫の様になっている。
「良い判断だ流石セレス、それで処刑が確実だけど、ティアどうする?」
「先ずはセル殿に報告にゃ、其方の要望次第でこいつの処遇が決まるにゃ」
「それなら皆も居た方が良いな、転移するぞ」
ティアの判断は聞かずに宿へと戻る。
「此方は片が付いたにゃ、それでこいつが枢機卿だにゃ、セレスが身柄を確保したのにゃ、それじゃセル殿に報告にゃ」
ティアに通信水晶を渡した。
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「此方ティアにゃ、セル殿に報告するにゃ」
〈ティア殿、お待ちしておりました、それで戦果のほどは?〉
「そこは少々複雑だからにゃ、細かく説明するにゃ」
〈お願いします〉
「枢機卿の行いを知った有志が集まり枢機卿と敵対したのにゃ、そこでティア達が加勢をし枢機卿に従う兵達を壊滅させたのにゃ、その際だがにゃ、セレスが枢機卿の身柄を確保したのにゃ、それで処遇はどうするにゃ?」
〈それはお手柄ですね、かの者を尋問し、戦いに参加していない者達も釣り上げましょう、最終的にそちらの陣営に引き渡し自浄作用に期待するのも手ですか、マグロ殿はどう判断されますかな?〉
「枢機卿の屋敷のガサ入れも必要ですからね、それに合わせて尋問すれば相当な抜けを埋める事が出来るのでそちらは賛成です。
そしてもう一方ですが事後処理の方向性が変わりますね、今回は戦争したのですから聖王国をライネルとストレイルで併合する事も可能ですね、此方の陣営で処理すれば併合へと舵を切り、引き渡せば何とか聖王国としての対面は保たれるという所でしょうか。
国1つの将来に関わってきますからね、セル殿お一人の判断ではお答えできないと思いますよ」
〈マグロ殿の指摘はもっともですね、それではこうしましょう、屋敷の調査はその地の有志の方々にお任せし、尋問に関しては此方で行いましょう。
その間にストレイル首脳部と協議しどの様にするか決めさせて頂きます。
そしてもう一つお願いがあります、有志の方々に此方が拘束し尋問する旨を証拠を見せ納得させたのち帰還して下さい、宜しいですかな? ティア殿〉
「承ったのにゃ」
こうして通信を切った。
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「丁度良い所に来られるようだな、先ほど来られた方がもうそろそろ到着するよ」
「それじゃこの場で待機して待つにゃ」
「婿殿はそんな事まで分るのじゃな」
まずったかな? あまり手の内をほいほい話すべきでは無かったか? まぁ嫁にするのだし手の内知られようと問題無いか。
「その手のスキルを所有してるからな、其方の説明は後でするよ、そう言えば確認してなかったけど、無事にクランに入れたか?」
「其方は問題無く入れたのじゃ、そう言えば忘れておったのじゃ、婿殿の身分証明じゃ」
と渡してくれた、其処へ衛兵の方が到着した。
「突然の要請にも係わらずの加勢、ありがとうございました、そして治療も施して頂き感謝の言葉もございません」
「感謝の言葉はありがたく受け取っておくのにゃ、それでだがにゃ、例の証拠があるからにゃ、枢機卿の身柄は此方で受け取っておくのにゃ、こいつにゃ」
と芋虫の枢機卿を足の先で軽く小突いた。
「枢機卿でしょうか?」
「そうにゃ、それで此方で身柄は引き取るにゃ、反対しないかにゃ? その代りじゃないのだがにゃ、此方が枢機卿の屋敷にガサ入れする予定だったのをそちらにお任せするにゃ」
「ご配慮感謝します、此方には選択肢は有りません、其方の調査を回して頂けるだけでも感謝いたします」
「とりあえずだにゃ、其方の代表者を決めておいてくれないかにゃ、こいつの身柄をどうするのか決めたら其方へ連絡が行くからにゃ」
「数日中に選定しておきます」
「それじゃマグロ、帰るにゃ」
「ちょっと待ってくれティア、帰るってライネルとストレイルの合同チームだからそれぞれ送るのかそれとも何処かに一度帰るのか確かめないと行きようが無いぞ」
「そうだったにゃ。
クリニス殿、こちらが完了し次第帰還する場所が決まってたはずにゃ、何処だにゃ?」
「マハタルです、其方に到着し次第、めいめい別れ主へと報告するようにとなっておりました」
「なるほどな、カサンドラ殿の屋敷前で良いかな? 領主の住んでる所ってそこしか知らないんだけどね」
「ストレイルの都市であれば何処でも送っていただければ幸いです」
「それじゃそうしよう、カサンドラ殿によろしくな」
ストレイルの者達を送り俺達はライネル東門前に転移し、並ぶ交易商の最後尾に並んで待った。
「ちょっと話しておく事が有るんだけど、セレスの治療のおかげで帝都の病気だった人が助かった様でな、お礼の品がツガットの元に届いてるそうだよ」
「それは治療の甲斐がありましたね、それでお礼の品って何でしょう?」
「それが言伝だったから正確には聞いてないらしくてな、面倒を見きれないと言ってたそうだから、どうも生き物らしい」
「なるほどにゃ、それはそれで楽しみなのだがにゃ、飼うとなったら知識も必要にゃ、大丈夫なのか心配だにゃ」
「しかし、価値が白金貨2枚分ほどだろ、相当珍しいのじゃないかと思ってるよ」
「対価を用意しましたと言ってましたからね」
「それじゃ行った先でセレスはその生き物見てないの?」
「これとは見せて頂けませんでしたから、他の場所で飼育されてたのかもしれませんね」
「今日の夕方か、明日の朝受け取りに行くって言伝を頼んだからその時分かるか、皆も行くよな?」
当然行く事になった、話す事も無くなり大人しく並ぶのもな、アレッサは背が低いので高い目線で回りを見るのも楽しいだろうと思って行動する。
ちょいちょいとアレッサを招き寄せ肩車してあげて待つ事にした、やっぱ鍛え方が半端じゃないよな、この太腿に脹脛に、端から見るとそうでもないが触ると分かる、すごく締まってるな。
こうして待つ事30分ほど、直接転移も含め、何方からでも帰還して良い様に待って居たと暴露され馬車にて王城へと向かいセルとの謁見となった、まぁ枢機卿とクリニスだけが別所へと連れて行かれたが。
「結局お世話になってしまいましたか、ティア殿に【真摯の断罪者】の皆様方、人的被害も最小限に抑えられ敵対していた者の身柄を確保できたのは皆様方のおかげです、其処で報酬をと考えていたのですが、金品は不要と思いまして、どうでしょう、以前の屋敷をお使い頂けますか? 無論直接転移も不問と致します」
「マグロどうするのにゃ? 今回はファサラの依頼を受けたのにゃ、当然今回の報酬はファサラが受け取り、ファサラからマグロが受け取るのが筋にゃ」
「そう言う事だね。
セル殿、今回の報酬はファサラに支払って頂けませんか? 他のメンバーはファサラから報酬を受け取りますのでと言いたい所ですが、屋敷以前に交易用に作ったテレポーターや倉庫があります。
屋敷を譲り渡してはカエラがそちらに残した交易路が潰れますがどうされるので?」
「テレポーターに関しては転移を不問と申し上げましたので一向に構いませんが、土地内から出る場合は許可を取った者以外が出歩かなければ問題ありません。
そして倉庫ですがマグロ殿ならば移設する事も簡単かと思い後程依頼を出そうと考えておりました」
「なるほど、テレポーターも切り取り移設してしまえば大丈夫ですかね」
「ご納得いただけたようで幸いです、それでは話を戻します。
先ほどおっしゃられた事が皆様の御意向でしたらファサラ殿と協議したいと思います、少しお時間を頂けますか?」
「マグロさんがそれでよろしければ、セル殿、よろしくお願いします」
「ではその様に、それと今回【真摯の断罪者】と別に聖王国へと赴いた者達には別途恩賞を与えます。
謁見はこれまでとします、ファサラ殿を客間にご案内を」
「ファサラ、クリニスと話す必要もあるだろ、夕刻前に迎えに来るからゆっくりしてると良いよ」
こう言い残し王城の前から転移でバルカント諸島へと戻った。
そして家に入り客間のソファーに寝そべる様に座り嫁達と会話だ。
「今日はさすがに疲れたな、魔法連発してMPが枯渇気味だし、今日は迎えにいくまで まったり過ごそうよ」
「お疲れ様でした、アレッサさんもマグロさんの嫁になりますし、この家も手狭になりますね」
「そうだな、リスタルの屋敷が完成するまでとも思ってたけど流石に狭いな、今の帝都になら貴族が激減してそれらの屋敷が開いてそうだから購入するのも手だと思うけど。
今日ツガットに会いに行くしちょっと聞いてみるか」
「カエラさんにも伝える必要がありますけど見当たりません、何方に居るか分かりますか?」
「此処から南方向に出かけてるみたいだな、護衛も一緒だから安全だろう、そうそう倒されるようなレベルじゃないからな。
なぁアレッサ、押しかけて来て以来、家に帰って無いだろ、帰らなくて大丈夫か?」
「とうの昔に自立してるからの、心配は無用じゃが、結婚の報告と身の回りの品を取って来る必要はあるの」
「それなら結納の品を選定しないとな、何が適当かな?」
「それなら食料が良いかもしれないの、何せ魚ばかりの食生活じゃからの」
「なるほど、魔物の肉も食べられるそうだし、アレッサに選定してもらって、一度帰る際に渡すよ」
「それは両親が喜ぶのじゃ、しかし良いのかの、本来なら押しかけるわらわが準備する所なのじゃがな」
「嫁さん貰うのに手土産も無しだと見限られるからな、まぁ、俺の感覚ではだけど。
明日買いに行くか、雑貨と服だな、一度帰るにしてもそれまで一着だと不便だからな」
「それは良いの、是非買うのじゃ」
「と言う事で明日は買い物に行こうか、例の屋敷を切り取って持って来るのも良いな、別の品になってた場合は買うか。
さてと、部屋に戻って仮眠でもむさぼるかな」
そう言い残していつも寝ている部屋へ行き、シラタマを実体化させ抱き着いて寝た。




