44:決裂
精査前日。
俺はのんびり魔法書を眺めながら時間を潰した、例の時空間魔法書だな。
部屋などの空間を実際の広さから更に広くする方法や、次元に穴を開け別の空間に新たに部屋を設け、時間の進まない物置部屋の構築、それが可能となる手順も書かれている。
この空間拡張は、最低でもMP1000が必要との事、元の部屋の広さ、そして拡張の割合によってMP消費量が跳ね上がる。
攻撃面への応用も出来そうだ、次元に穴を開けられるなら、それを利用して【空間断裂】が可能になれば切り札になるだろう、空間を相手ごとすこーしずらせば、硬度や強度の概念すらなく切れるからな、最終的な奥義とも言えるかもしれない、対単体用のな。
正面を対象とするならば右側と左側で別々に認識しずらせば良い、この点、想像で無詠唱が可能な俺にはやり易い魔法のようだな。
ティアは例の検査で雷属性が習得可能なようで、現在進行形で俺に弱めの電撃を受けながら自身の魔力を同質化させる特訓中だ。
これが出来ても魔法の発動とはいかない、無詠唱のスキルが無いからな、可能なのは体に纏わせたり、相手に直接触れて流し込んだり、武器に纏わせて殴りつけるしかない、つまりは接触が必要って事だ。
建物に強引に流し込んで感電させると同時に発火とかの力技を発揮しそうだけどな。
カエラ達はアルヴァールの退職手続きに付き合ってカスタルへ赴いてる。
他の面々はシャルと同道してロンバルトで発注後、買い物と食事などをしてくると言っていた。
精査当日。
朝食後、3Fのテレポート部屋で待つ事30分ほどするとカサンドラさんと文官10名が到着し、1Fの大広間へとご案内。
ライネルの文官はシャルが案内して顔合わせだ、騎士も予定に入れてたはずだが精査には不向きな為に外したそうだ。
互いに大雑把であるが挨拶と調べるべき内容を確認した後、俺は奪って来た机や椅子などを中央付近に並べ、調べる対象は壁沿いに並べて配置した、机や椅子は対象外として、半分より少々多めだな。
軽くつまめる物や果実水のデキャンタをメイド役の嫁たちが準備する。
嫁たちも入れたら50人以上の大所帯だからな、精査中の大半は昼食を作ってる。
俺も精査する人員の一人だよ、サボってはいない。
前半戦が終了し、若干少なめの品と入れ替えて昼食が終わったら、カサンドラさんと元PTメンバーの6人を入れた7人で陛下との謁見に赴いた。
「待ちわびたぞ、カサンドラ殿にマグロと奥方よ」
「お久しぶりでございますユリウス国王陛下、お目道理が叶い、恐悦至極に存じます」
「この様な目的での謁見とは、喜ばしい限りとはいかないが、皆の活躍もあり、ストレイル内で蔓延っていた者達は完全に排除されつつある、順調でなりよりだ」
「私どもで対処すべき所を助けて頂き、感謝しております陛下」
「今回の件は此方も被害者と言えるのでな、乗り出したまでよ、それに、我は命じたのみで、実際に解決へと事を運んでるのは其処にいる者達だ、礼ならば彼らに頼む。
だが、完全に解決はしてないゆえな、途中での礼は不要だ、途中で言い出せば切りが無くなるからな」
「彼らには感謝してもしきれません、この方々が来て下さらなければもっと被害が拡大していたでしょう」
「して、今回の目的だったか、クラトルを除き、取り調べの終わった者達はカサンドラ殿にお返ししよう、ストレイル内での事故は、ストレイルの法で裁くのがスジであるからな。
それにだが、聖王国へと繋がる証拠品以外はそちらに引き渡そう」
「ご配慮感謝します陛下、ストレイルの法で裁き、その罪に釣り合う裁断を下す事を御誓い申し上げます」
「うむ、聖王国への対処だが、ライネル側としては、そこに居るマグロ達をライネル代表としてかの地に行ってもらおうと思っている、ストレイル側からも代表を出し、共同で進めるのがスジだと思ってるがどうであろう?」
「重ねてご配慮感謝します陛下、早急にふさわしい者達を選抜し、同行させるよう準備致します」
マズイ、非常にマズイ、俺はそのタイミングだと帝都に居るかもしれないな、時間を置くか、代理人をたてるかしないと。
「申し訳ありません陛下、此方の都合で申し訳ないのですが、帝国との和解の会談の為に3日後に赴かねばなりません、急な事で申し訳ないのですが、時期をずらすか、代理人を立てられないでしょうか」
「そう言えばマグロは帝都での一件のケリがまだであったな、元々此度の件は国を跨いでの陰謀とも思わずに依頼した訳だが、ストレイル内での平定はほぼ完了してる。
現在進行してる精査が終わり、捕らえた者達のストレイルへの身柄の引き渡しでクエスト完了。
と言う事にしよう」
「宜しいのですか? お引き受けした際に頭を完全に排除するまでと話し合い、受けた訳ですが」
「先ほども言ったが国を跨いでいる、この点でクエスト内容に合致しなくなっておるからな、ストレイルでの交易を妨害してる者達の排除、という点では問題ないだろう」
「ご配慮感謝致します、ユリウス陛下、一つ確認を宜しいですか?」
「何だ? 言ってみろ」
「かの地へ赴く際は、すべての証拠を持参なさらない様にお願いします、盗賊を装い、証拠品を奪う目的で襲い掛かってくるでしょう」
「なるほどな、奪われる事を懸念してるのだな、マグロの忠告を素直に受け取っておこう。
では、身柄などの引き渡しは本日でよいかな?」
「陛下との謁見後、精査に加わらずに受け入れ態勢を整えれば可能です」
「では、夕刻に軍部の者達に引き渡しに向かわせよう。
マグロへの報酬だが、2日間で習得は不可能だ、帝都より帰ってきたらその旨伝えるように、それと、マグロには伯爵の地位を与える」
「え? 俺は一般人が性に合ってるのですが」
「マグロは相も変わらず面白い男だな、本来なら式典を催し、正式に叙勲する所だが、3日後には帝都入りするのなら間に合わないからな、帝都での会談ではある程度の地位が役に立つと思うぞ」
「なるほど、箔のある方が対面的には好都合ですね、感謝します陛下」
「では、本日の引き渡しで正式にクエストの完了とする、それとマグロ、今回の件が決着するまで、そちのテレポーターを利用させてほしい、無論、報酬は支払うゆえな」
「現在地はセクタルのカサンドラ殿の屋敷に、それとカスタルの商店?とも繋がってますのでご利用下さい、セルか嫁達に聞いて頂ければ案内してくれるでしょう」
「うーむ、今回の規模と報酬ではつりあってないな、追加で報酬を考えるゆえ楽しみにしておれ、では改めて帰還後に呼び出すからそのつもりでな。
謁見はこれまでとする」
俺達は屋敷に帰り残りの精査で、カサンドラさんは一度帰還し、受け入れ準備だ。
夕刻前には精査も完了し、アレハンドロ=トランストとクラトルとの取引や、クラトルの今回の恩賞として特別な地位を確保する旨の書類が見つかった。
証拠品はストレイルへ送る犯罪者を護送して来た騎士に陛下へ渡す様に言づけた。
後は俺が一緒にセクタルへ行き、金品をカサンドラさんへ手渡して、残りの家財道具などは借りた倉庫へと搬入した。
「マグロ殿、そして奥様方、本当に有難うございました、何かあれば頼って下さい、少しでもこの御恩をお返しさせていただきます」
「いえいえ、俺たちの問題でもあったわけですから、そう恐縮する必要はありませんよ」
「そうそう、マグロは敵対者には容赦がないですから、この様な問題にはうってつけの人材だからと陛下も寄越したんでしょう」
「セレスの言う通りですわね、当人も被害者との側面もあって乗り気でしたわ、お気になさらず」
「では、スラちゃん帰ろうか、それと預けてたこの子の食料をお返しください」
「豪華な食事でしたね、金額を考えると倒れそうですよ、スラちゃんも元気でね」
「はい、カサンドラさんも、おげんきで」
こうして我が家に帰り、翌日はカエラさん達と馬を4頭買い、馬車の受け取りと発注を。
後はのんびり時間を潰して、セルからの報告を受けて5日後、サパンに10時前後に到着した。
メンバーは俺のPTが6名、カエラさん達が6名と元メイドの嫁達が5名、それとアルヴァールさんだ、彼女はおぶされて移動だがな。
とりあえず全員で冒険者ギルドへ直行だ。
半端な時間で良かった、殆どの冒険者は出払ってるようで3名程度しか居ない。
「やぁ、キャロルさん、元気してたかい」
「マグロにカエラさん、それに皆さんも、ちょっと見ない間にメンバーが増えたかしら?」
「増えたも何も、此方のアルヴァールさん以外の女性は皆マグロの嫁ですわよ」
「は? 何そのジョーク、こんな人数を嫁にしたの? マグロ」
お願いだからその話題に触れないでくれ、さっさと矛先を変えないとな。
「そんな事は良いんだよ、話をつめる必要があるんだろ、早速案内してくれるか、彼女達には色々と頼んでるから挨拶だけでもって思ったんだが、どうかな」
「積もる話はそちらでしましょう、こっちよ、付いて来て」
会って早々軽く挨拶して、俺を残して他のクラン員は全員が退席した。
「それで会談場所とかその席に同席する人数とか説明してくれるんだろ」
「先ずは会談するのは明日朝から、場所は帝都の商業ギルド本部の大会議室。
先方は新皇帝と、早々に彼に賛同して忠誠を誓った者達、と言う触れ込みの4名合わせて5名、それと護衛の者が10名で合計15名。
此方は俺とガイエン殿にキャロルとマグロの連れて来る者達なんだが、何人参加する予定だ?」
「あれからメンバーが1名増えて6人参加だな」
「此方は10名か、それとSランク冒険者に護衛を頼んで5名居るから此方も15名って事だな。
そして、進行役に商業ギルドマスターのアルサス殿に頼んである、彼は中立だな」
「中立って、商業ギルドからの賠償請求はどうなったんだ?」
「半端な金額を提示して睨まれては今後に支障をきたすので請求しない、との事だ」
「なるほどな、まぁそれも一つの手ではあるな、冒険者ギルドからの請求金額はどうなった?」
「元のままだぞ、ギルド側の要求金額は白金貨37000枚、あれくらいで手を打たないとマグロ達と差がつかないとダメだからな、
それと、マグロ達の116000枚も羊皮紙に纏めて事前に相手側に手渡してる」
「そんなものか? それより、そんな事して大丈夫か?」
「そんなものだ、先方もすり合わせが必要だからな、これが一般的だ。
それは良いんだが一つ気がかりがあってな、新皇帝の選出前からだが、大規模に騎士達が首都に終結してな、現在も居座ってる」
「複数の陣営があったとしたら、力ずくで皇帝の座を手に入れるんだから当然じゃないのか?」
「それぞれ別の騎士を率いて終結したとしてもだ、皇帝の選出がなされたんだ、元の持ち場に帰るのが当然だと思うんだがな」
「なぁ、5人で帝都を落とす様な奴が来るんだぞ、今回の会談が終わるまでは安心できないからって、終わるまでの待機を命じられてるんじゃないか?」
「そう言われれば、俺が帝位に着いてると考えたら、考えなくもない選択か」
「冒険者ギルドを敵に回すとは思えないんだがな、それをしたら帝国その物が崩壊しかねないんだぞ」
「ま、そうなんだがな、詰めておきたい話ってのは、相手が突っぱねてきた場合、どの程度まで譲歩するかって事だ」
「ん? 総額自体は下げる気は無いぞ、それとは別に物納するなら話は変わるけどな、先方が別の何かで代替え案を出すなら一考の余地はあるかな」
「強気だな、戦勝者としては当然の考え方か、明日の蓋を開けてみないと判らん事だからな。
移動はテレポーターが復旧してるからそれを使う」
「そうか、俺たちのPTの内2名が先行して、中間に俺達の内の2名と同時に二人は入ってもらう、最後に残り2名が移動する。
この3段階でどうだ?」
「それなら安心だな、それで、一緒に来てたカエラ殿達はどうするんだ?」
「俺達が戻るまで居てもらおうと考えてたがどうするかな、本人達に決めてもらうのが一番か」
「彼女の賠償金もこちらで請求しますから、それで良いでしょうね」
下手するとその残ってる騎士全てが排除対象か、例の件の対策も必要かもしれないな。
それも、相手に気がつかれる事無く仕込まないとダメだし、さて、どうするか。
「キャロル、すまないが一つ頼まれてくれないか。
先日、ライネルのユリウス陛下達が俺のクランに加入してな、俺は誰が加入したのか正確に把握していない、一番最近に加入したのは誰か調べられないか?」
「マグロは自分のクランメンバーすらも把握してないの? まぁ良いわ、少し待ってて、今調べてあげる」
案の状、奴が入っていた、たぶん、長男の枠に入れたんだろう、それらしい名前が無かったからな、対策としてこの場で抜くのは容易いが、それでは抜かした事がばれてしまう、どうしたものかな。
「キャロル、ちと手間だろうけど、俺、セレスティーナ、ティルア、シェルアス、シャロン、カエラ、アルヴァールをクランから外してくれ、俺の代わりにシャル=ヴァンテイユをクランリーダーに据えてくれ。
そして、今抜けた6人をPTにして、リーダーをセレスティーナで組む、PT名を【討伐者】で頼む。
それと、この件を絶対に口外するな、ばれると今回の帝国より悲惨な状態になりかねないからな」
「あのねマグロ、悲惨な状態になりかねないのを平気で頼むっておかしくない? お願いだから変な面倒ごとに発展させないでほしいわ」
「理由を話そうかとも考えたが、伏せてた方が良いだろう、今回の件が終わり次第に決着付けるつもりだからな。
先ほどの件はしてもらう、じゃないと、余計に質の悪い状況になる事が予想されるからな」
「キャロル、マグロの指示通りにしておけ、余計に悪化するなら少しでも手を打っておいた方がマシだからな」
「・・・分かりました、だけどまた厄介そうな名前を付けるのね」
「ああ、連中を叩き潰すからな、ピッタリな名前だろ」
「まぁ良いわ、本来ならギルドカードの提示を要求する所だけど、それをするのに集めたらまずいのでしょう。
こちらの権限で処理しておくわ」
「そうだ、よろしく頼むよ」
こうして、一応の対策はとれた。
カエラさん達は帝都側の特産物を選定して輸入するから残るそうだ、その購入先の商家に渡りをつけるそうなのでそちらはそちらで活動してもらう事になった。
そして、翌日早朝に朝食を済ませて冒険者ギルドで合流し、3段階のテレポーターで移動後だ。
「聞いてたが、軍の規模が大きすぎやしないか? 元々が10数万だったんだろ、互いに権力闘争した割には減って無い気がするが」
「だから昨日説明しただろ、手出しして来てる訳でも無いから今は様子見だ」
「大丈夫なのにゃ、敵対されようと叩き潰せば万事OKなのにゃ」
こうして商業ギルド本部に入ると異様さが際立った。
(シャルにシェル、気がついてるだろうけど何もするな、下手に敵対行動を取るとどんな結果になるか分かるだろ?)
(全面戦争に突入ですか、わかりました、相手がその手の行動を取らない限り静観しておきます)
(本当に救いようがありませんわね、しばらくは様子見ですわ)
「よくお出で下さった、私が今回仲介役を務めるアルサスと申します、ツガット殿にそちらは?」
「命を狙われてた本人のマグロとそのPTメンバーですよアルサス殿」
「ご紹介頂いた、怪盗=マグロ=ヴァンティユです、それにシャル=ヴァンティユ、怪盗=セレスティーナ、怪盗=シェルアス、怪盗=ティルア、怪盗=シャロンです」
「ほうほう、名前から察するに奥様方ですか、これはお美しい、羨ましい限りですな」
「申し訳ないが、ここの職員を建物外へ退去してもらえませんかね」
「何故だねマグロ殿、信用できる者達ばかりだ、退去させる必要性を感じないが」
「権力を笠に着るのは癪だが仕方あるまい、ライネルの伯爵として命じる、ここの職員を全員退去させろ、職員を全員だぞ、意味は分かるな?」
「伯爵様でしたか、これはとんだ失礼を、直ぐに職員を退去させます」
なぜライネルの伯爵が退去命令を出し、帝国の商業ギルドが従ったのか、それは国に属していないからだ。
正確には国と対等で独立した機関、対等とはいえ、相手の爵位次第では無下にもできずこの様な結果となった。
「では、退去が完了後に案内を頼む」
「マグロは伯爵になったのだな、いや、マグロ様と呼ばないと不味いか」
「そんな呼ばれ方すると鳥肌が立つよ、今まで通りで良い、しかし、そっちに食いつくとはね、てっきり退去させた件に食いつくと思ってたんだが」
「理由もいずれ分かるんだろ? それで良いさ」
20分ほど掛け職員の退去が完了した後、2Fの大きな部屋に案内されると、相手側15名と、護衛のSランク冒険者はすでに待機していた。
「お待たせした様で申し訳ありませんな」
「何、そう長くは待ってはいないさ、では挨拶から開始しようか、俺は今回帝位に着いた、タボルスク=スタンレットだ」
「次は俺かな、元皇帝が狙ってた怪盗=マグロ=ヴァンティユだ、現在はライネルの伯爵だ」
「我らの紹介は不要だと思うが、冒険者ギルドの代表として来た、俺がツガットで、横に居るのがガイエンだ」
「紹介はこの位で良かろう、決定権はこの4名しか持ち合わせてはいまい、余計な口数が増えるとその分長引くだけだからな」
「ほう、タボルスク以外は挨拶すらしないのか、とんだ見上げた忠誠心だな」
「貴様! 皇帝陛下に対して呼び捨てとは無礼であろう!」
「そうでも無かったようだ、先ほどの言葉の一部は取り消すよ、とんだ忠誠心だと、な」
「双方止めよ、この場は和解の会談の場である、その事にのみ中正されたし」
「とりあえず此方からの請求を伝えねば事は進まんな、全部白金貨換算だと思ってくれ。
俺たちの要求額は116000枚、ギルド側の要求金額は白金貨37000枚、拷問を受けた者達への賠償額が合計で35000枚、合計で188000枚だ。
一括では不可能な金額だからな、10年分割でどうだ」
「貴様らが我らに請求だと! 皇帝陛下の住まう皇宮を破壊し、あまつさえ、その宝物庫を荒らした連中に賠償など不要だ!」
「名は名乗らんが、いっちょ前にお前の部下は、意見のみは怒鳴り散らして述べるのだな、見苦しい、それでタルボックだったか、お前の意見はどうなんだ?」
「タルボスクだ、部下の意見ももっともだと思ってる、銅貨一枚たりとも支払う必要は無いとな」
「で、俺や被害者の件は置いておくとして、冒険者ギルドへの和解金すら突っぱねるのか?」
「ふはははは! 当たり前だろ、不当に掠め取った帝国の秘宝の数々、貴様らから奪い返さねば我らの恥になる、冒険者ギルドも一度完全に潰して我らが新たに打ち立てる!」
「正気かタボルスク殿、和解の会談の為に赴いて頂けたのではありませんか」
「この会談の場を利用させてもらったのよアルサス、貴様も用済みだ、知った貴様も排除対象だ」
「本当に学習能力のない連中ばかりですわね」
「そうだにゃ、救いようのない馬鹿だにゃ」
「お山の大将なら、自ら出て来てはダメなんですよ、自身が弱点だと言う事を理解できない程の馬鹿なのですか」
「貴様らも馬鹿だな、我らが手ぶらで来てるとでも? それに冒険者の粗方は捉えて人質は確保済みだ。
それにな、この部屋はすでに包囲済みだ、観念するんだな」
「お前は面白いな、タルボック、人質なんぞお前らを捕らえれば即解決だろ、それにな、俺たちを囲むなら100万以上の軍を連れて来い、100や200じゃ全然足らんぞ」
「タボルスクだ! 威勢が良くてもこの人数を同時に相手は出来まいよ、それに、そんな事をすれば人質の命は無いんだぞ」
「5人のみは生きたまま捉えろ、他の有象無象は殺して構わん、交渉は決裂だしな」
下方のみ対象外、壁を含めて外周部を全て吹き飛ばせ【エアブラスト】×5
天井を含めて外壁ごと敵を纏めて吹き飛ばす、きれいさっぱり無くなって外が良く見える吹き曝し状態だ。
残りは護衛を含めて15名だな。
「さてさて、きれいさっぱりした所で、10名はメッセンジャーとして解き放つ、5人は人質解放の為に一応は生きててもらうかな、生け捕れ!」
欠伸が出るほどあっけない。
「おい、そこの護衛、此方には人質交換する用意がある、そちらにも交換する意思があるなら人質全員を連れて来いと伝えろ、では解き放て」
「相変わらず規模の違う対策だなマグロ、しかし、職員を退去させたのはこの為か」
「ああ、取り囲んで配置してたのが分かってたからな、巻き込む訳にはいかんだろ、しかしどうするかな、帝国をまとめ上げられる真面な人材が居ないって事だぞこれは」
「マグロ、お前が帝位に着けよ、それなら俺達も安心してこの地で冒険者ギルドで働けるんだがな。
今の腐った状態だと、何時寝首を斬られるか心配でおちおち寝る事すらできないぞ」
「クソ! なんでこんな腐った連中しか居ないんだよ、えーと、そこのSランク冒険者の以前一度会った、ミストル殿だったか」
「覚えてくれていたか、ストームドラゴンの時は高値で買い取って貰ったな」
「なぁ、俺の代わりに帝位に就かないか?」
「勘弁してくれ、俺はそんな器じゃない、ツガット殿が言うようにマグロ殿が就くのが一番安心できる配役だろう」
「うがあああああああ! なんでどいつもこいつも俺に帝位に就けって、最悪な状況になってるんだよ! いっそ、ユリウス陛下にこの地を献上・・・・」
「マグロがとうとう可笑しくなってきたのにゃ」
「マグロ、いくら何でも、この地を献上とか行き過ぎですわよ」
「マグロさん、諦めて帝位に就くべきですよ、この地の民が哀れです」
「うわああああああん><」
「あら、泣いちゃいましたね」
「それほど嫌なのですわね」
「就けばいいんだろ就けば! やらかした責任とってやるよ!」
「開き直りましたわね、ですが、それでこそマグロですわ、全員でサポート致しますわ!」
「おし、皇帝として命じる! シャル、俺の代わりに全てを代行しろ!」
切れたシャルに掴みあげられる。
「冗談ですわよね、マグロ様」
「無論冗談だとも、シャル=ヴァンテイユ様」
「よろしい、ですが、サポートの件は本気ですわよ、マグロ」
「ああ、頼もしい嫁で俺は鼻が高いな、では、目下の問題を片付けるとしますか、例の連中が来てる様だしな」
1時間も掛からず使者が訪れた。
「今回の交渉に応じてくれたと見て良いのだな使者殿」
「左様です、人質となってた者達全てを集結させるのに手間取りましたが、全て連れて来ております」
マップでも騎士の赤いマーカーに混ざってる者は見受けられない、本当の様だ。
「引き渡す前に確認がある、時間を貰うぞ」
「はっ、それでご確認とは?」
「今度の一件でこいつらに帝位を任せる事は出来ないと強く感じた、よって、和解ではなく、俺がこの地を頂く、何か問題があるか?」
「大ありだ馬鹿者! 俺が皇帝であって貴様は単なる冒険者にすぎん!」
「それじゃ、今の内にこいつら殺してスッキリさせるか、居なくなれば問題ないだろ?」
「人質交換の為に生かしておるのだろ、約束を反故にする気か!」
「ふむ、お前らの部隊は4か所に集結中だよな、俺たちが分散して1時間後に行くから、その地で決戦としようじゃないか、俺たちは6人、お前たちは10数万、正確な数は知らんがそれで勝った方がこの地を収める、これでどうだ?」
「何を馬鹿な事を、実力は先ほどの事で把握してるが、16万の人数を相手に疲弊もせずに倒せると思ってるのか。
良いだろう、貴様らを殺して今回の決着としよう」
「そうそう、言うのを忘れてたよ、お前らが負けたら現在の統治者は全員殺された上で財産没収だからな、肝に銘じて置けよ、貴族連中も同じく真っ新になるまで根絶やしコースだ、構わんよな?」
「戦争だから当たり前だろ、そう言う貴様のライネルも討伐対象だと言う事を念頭に入れておけよ」
「交渉成立だな、今回唯一の合意ができたってもんだ、では放してやれ」
こうして人質交換も完了し、後は1時間後に戦闘開始するだけだ。
後は配置のみか、俺は一人として、もう一ヶ所一人で戦ってもらう事になるな。
本陣であろう場所が一番多く、他の三ヶ所の合計人数と同等だな、そこには2人送り込もう、同じくその手前のも2人で早く終わらせ合流する方向で。
「さて、俺は一人で戦うとして、もう一ヶ所一人で向かってもらう事になる、誰か立候補は居ないか?」
「それなら正妻として私が赴きますわ」
「正妻か、なら一ヶ所は任せるとして。
ティアとシャロはペアになって南部を任せる、南門の部隊の更に南だな、対象人数は多いが平地ばかりで見通しが良いし、魔法の飛び交う中での活動よりはその方が安全だろ、接近戦には向いてるだろうからな。
俺は東門前を、シャルは西門前を、セレスとシェルは南門前を。
全員の作戦だが、外周部を削る様に一方向へ周回しながらどんどん中心部へ削って行け、それで一人もとり逃がす事なく殲滅が可能だろう」
「えげつない作戦だな、一方向からのみの攻撃では分散されて逃げられるからその対処も含めてだろうが、全員を殺しては今後の運営に支障をきたすのでは?」
「全員が敵意持ちだぞ、俺にそんな連中は使いこなせんよ、いきなり後ろから切り掛かられたいか?」
「それは無理だな、納得した、俺たちが動く訳でも無いのに口を出してすまなかったな」




