37:決着
翌朝、マグロが寝ている中、ギルド職員が臨時治療場へ駆けこんで来た。
「マグロさん、直ぐに冒険者ギルドへとお越しください」
「待つにゃ、昨晩に治療担当として働きづめで今は寝てるのにゃ、起こすのは許さないのにゃ」
「私が代わりに伺いますわ、案内してくださるかしら」
「シャルさんですね、マグロさんの奥様なら・・・申し訳ありませんが代理人としてお越しください」
シャルが戻ったのはそれから四十分程度経ってからであった。
(状況が不味いですわ、私たちが出なかった場合、確実に前線の部隊が壊滅しますわ)
(マグロを起こさないとダメですか)
(マグロさんに判断を聞きませんと私たちでは)
(仕方ないのにゃ、起こすのにゃ)
「マグロ起きるのにゃ! 状況がまずのにゃ!」
「ん~~、どうしたんだ? おちおち寝てもいられないのか」
「私が説明しますわ、騎士団チームは応援部隊が到着し何とか全滅は免れてるが、倒す手段が無く遠からず全滅する、との判断ですわ。
冒険者チームですが、Sランクがいる為少しは倒せるが被害が大きく、戦線が崩壊しつつある。
との事ですわ、そこで対ドラゴン戦にと考えられていた私たちに戦闘への参加要請ですわ」
「どの階層が相手になってるのか聞いてるか?」
「下層の比較的階層が上の敵だと言ってましたわ」
「大量で迫られればSランクと言えど攻めにはまわり難いか、完全に深層だとSランク以外は即倒されるはずだしな」
とうとうSランクでも苦戦する下層の魔物が到着したのか、予想の通り対応は無理だったな、早急に打って出て行かないと全滅と言うのも頷ける。
「それなら出るぞ、ティアはこの場で治療に専念、セレスは外壁上に移動して上部から支援、シャルとシェルは騎士団方面から殲滅、俺とシャロは冒険者側から殲滅する、俺のとこのスラちゃんの一体はシャロについてもらい。
シャルには恒久の魔法袋にすぐ食べられる品を入れて、それとマジックバックを二つ、四人にはマジックバックを三つずつ追加で渡しておく、余裕がある様なら倒した魔物のみ確保してくれ。
セレスの無限の矢筒にはミスリルに連結しておく、かなり押し込めたらセレスは俺と合流してくれ。
そしてティア、こちらが一段落ついたらシャルの方に合流してくれ」
各自に飲み物を渡して準備を済ませて出発する。
マップで確認したが、攻め寄せる敵を倒し切れない為に両チームは徐々に後退し敵が横へと広がっている、このままだと外壁門が突破されかねない。
冒険者達の後方へ辿り着くと毒をまき散らす姿が目に映る。
「これは敵がでかいな、手前はデカイ蛇のウロボロス、毒をまき散らしてるな。
さらに後方、龍の目で何とか判別可能な位置に単眼の巨人でサイクロプス、シャロは無理に止めをさそうとせずに目を重点的に狙って動きを阻害してくれ、ギガンテスが相手になった際は足を狙って動きを止める方向で頼む」
「了解しましたマグロ様」
冒険者の後方から【エアブラスト】を撃ち込み、吹き飛ばそうとしたが吹き飛ばない。
ん? あの面積にまともに受けたはず、なぜ後方に飛ばないんだ?
この時点でマグロは最大の失敗を犯していた。
通常の詠唱による魔法ならば、MP消費はそのままで、ステータスに比例して威力も自動的に上昇する為、この程度の魔物が相手でもLv七百オーバーなので【エアブラスト】でも瞬殺可能な威力なのだ。
だが、マグロは想像による無詠唱の為に想像では威力が上昇せず帝都のダンジョンで作成した威力のままだった。
仕方ない、とりあえず新しく覚えた魔法のみで押すか。
外壁側から冒険者チームの横を抜けて線で倒すことにする、十五°間隔で【フレアスライサー】×七で九十°分をざく切りに、切りこぼした魔物には【ライトニングランス】を頭に着弾させて即死させ、片っ端に倒したウロボロスは即収納だ。
一体が十mほどとデカイからぽっかりと穴が空く為、冒険者と魔物の距離が離れた所で、マップで魔物の位置を確認しながら倒しつつも冒険者に話しかけた。
「冒険者チームは現状維持で追撃はしないでくれ! 追いかけられると巻き込みかねないからな! 連戦で疲弊してるだろ、今のうちに休息をとってくれ! 警戒だけはしてくれよ!」
『俺たちは限界が近かったから助かる! すまないが休息する時間を稼いでくれ』
その間セレスは風を纏わせたアローレインで広範囲を叩き、撃ちもらした少数をソニックショットで手早く頭を貫通させていた。
【エアブラスト】が使い物にならないからな、幸い、覚えたての魔法は通用するから以前の魔法を途中に混ぜて威力の検証が必要だな。
一番威力がある【ファイアエクスプロージョン】を真っ先に撃ち込み、順次【ストファボール】【ファイアアロー】【ストーンアロー】【エアアロー】【ウォーターアロー】【ナパームフレイム】【アイスブラスト】【ライトニングブラスト】【爆圧水蒸気砲】まですべて撃ち込んだ。
【ファイアエクスプロージョン】では何とか動きが止まる程度の威力だが半殺し状態、【爆圧水蒸気砲】は外殻は無傷だが内臓が破壊されたのか、体液を吐き出して即死、他の魔法は軒並み損傷が無し、後で要相談だな。
外壁から三百mほど押し込めたから【フレアバースト】をダンジョン内だからと威力を落としてたのを通常まで戻して放つも、威力がありすぎて消し炭に、これは素材が取れずに労力が無駄になるからスタンピートでの使用は禁止した、この上位の【フレアストーム】も当然ダメだな。
残りの新魔法を片っ端に試して【アシッドストーム】も使用禁止にランクイン、他の単体魔法なら頭に当たりさえすれば一発で倒せることを確認した。
省エネの為に【ライトニングアロー】でどんどん仕留める、失敗しても麻痺が入るから次が楽なためだ。
相手も見ずに発動させては倒しながら片っ端に収納した。
シャロはと言えば、一発斬りこんでは他の魔物に狙いを変える為に一人でヘイトを集める為、俺が頭を狙うのが物凄く楽だ、横っ面に矢が刺さるからな。
連携しながら片っ端に倒しては収納を繰り返すと、セレスが合流して来た。
ちなみにシャル達とは直線距離で二百mほど離れている、あちらはシャルがフレアバーストからファイアボールに切り替えて収穫を重点に、シェルはサンダーストームで表面は焼けるが魔石は確保可能な損傷程度で殲滅していく。
魔法の発動数は俺の方が多いが多重で発動が可能なのと一発の消費が少ないから消費量はトントンだろう。
セレスは風魔法を纏わせた矢を使い、少数の場合はソニックショットで、多数の場合はアローレインで仕留めていく、すでにウロボロスは倒し終えて今現在はサイクロプス、そうして一km地点程度まで押し込み、昼頃。
「シャル! そっちはシェルと食事交代して倒してくれ! 後に休息する人は18時まで休息して夕食も済ませて交代な! そこから四時間で交代しようか!」
「わかりましたわ、それでは交代しながらの戦闘に移行しますわ」
「それでいい! こちらも休息に入る! それぞれの場所の後方100m程度の地点に拠点を作るぞ! 状況が少しでも悪化したら休憩してる相方を頼るんだぞ!」
「すまんセレス、シャロ俺が先で良いか? シャルに食糧しか渡してなかったのでな、あちらに拠点を作って毛布を届けてそのまま休憩に入る。
それとシャロ、4時間交代に突入したら俺とセレスと2時間ずつ程度重なるように行動してくれ、四時間戦いっぱなしはきついからな、水分補給の手伝いとかお花摘みとか、シャル達から収穫物の回収とかのサポートを主にお願いする」
「了解しましたマグロ様」
「マグロ、行ってらっしゃい」
こうして休憩所を各チーム後方100m程度の地点に、魔物側から見えない様に【アースホール】で階段を作りながら掘り進め、【オリハルコンウォール】で補強して、地下約五mまで掘り進め、高さ二m、床面積三㎡の広さを確保、飲み水と果汁を樽に入れて置いた。
マグロ側も同じく設置した。
その日の夕刻にはティアが合流し、シャロと逆のタイミングでシャロと同じサポートに回ってもらった。 名ばかりのサポートだがな、自身の役割を確実にこなしながらもメテオブレイカーを使ってガンガン撥ね飛ばしてたけどな。
可哀そうだが即死じゃない分、苦しいだろうなと重なった二時間の内一時間程度眺めていた。
マグロが休憩時間にシャル達と合流し、マジックバッグの中身を根こそぎ受け取ったり、ボスが来た場合の対応を決めたりと動いた。
ちなみに、敵の種類は少ない、スタンピートの為に下層部の魔物を貯めに貯め込んでいたんだろう、サイクロプスの上位種のギガンテス、頭が二個の犬と頭が三個の犬とキマイラに属性別けされてないただのドラゴン、頭の数が八-十二とバラツキがあるがヒドラとサイズがデカイのばかりだ。
ヒドラだけは頭は狙わず【フレアスライサー】で胴体を焼き切る方が倒すのに時間は掛からなかった。
そうして翌々日の十五時頃。
「そろそろボスの到達時間だろう、セレス、すまないが話してた通り、後方の冒険者達に知らせて戦闘準備を整えさせてくれ。
ボスのドラゴンがここから500m地点に侵入したら倒しに行くからな」
「シャロを連れて後方待機します、お気をつけて」
ティアが入って無いって? 殴りたくてウズウズしてる姿を見るとだな、後方に行けって指示した場合、俺の命が危ないと思うんだよ。
各拠点の中身を丸ごとマジックバッグに詰め込み、スラちゃんを置いて二人は騎士団と冒険者チームに連絡に向かった。
オリハルコンの処分の為だよ。
それから一時間半ほどで予定地点にブレイズドラゴンが侵入する。
「シャル、ティア、俺はドラゴンを倒して来る、二人は徐々に下がりながら戦ってくれ、ドラゴンが倒れたら残りの魔物を殲滅するから押してくれ、逃げ出して分散する恐れがあるからその点だけ注意してくれよ」
「了解しましたわ」
武器を暴風竜エクスストームロッドから灼熱の魔槍に持ち替えて全力の半分程度の速度で接近する。
ブレイズドラゴンは接近する敵を確認するとブレスの為に空気を吸う行動に出た。
これが悪手だ、此方の速度からタイミングを計ったのだろうが致命的な隙が出来る。
マグロはその行動を把握すると全力疾走し肉迫すると、ブレスの準備を止め、ブレイズドラゴンが止まる。
『貴様は何者だ! 貴様のせいで計画が台無しではないか!』
こんなタイミングでなんだ?? ダンジョン産のドラゴンは喋らないのでは? 情報が間違っていたか? とりあえず鑑定だ。
鑑定
???
年齢:448
Lv:154
種族:老竜
職業:ブレイズドラゴン
状態:魅了
ん? 魅了って操られてるのか、Lv154もあるのに支配下にされてる?
「火を吐くトカゲのくせに話せたんだな」
『そいつじゃない、上だよ上、こいつは俺の手足に過ぎない、こいつを傘下にするのにどれだけ苦労したと思ってるんだ!』
なんか、トカゲの上に飛んでるのが居るな。
鑑定
ブロッサス
年齢:1240
Lv:254
種族:魔族
職業:召喚士
・
『おっと、いきなり鑑定か、それ以上は見せんぞ』
鑑定を止めさせる事って出来たんだな、しかし魔族か、転生してからこっち、聞いた事無いしこんな所で会うとはな、トカゲを使って他の魔物を追い立ててスタンピートを起こしたとしたら、ろくな種族じゃなさそうだ。
「それで、貴様は何してるんだ?」
『陛下の御命令でな、この国を真っ新にして魔族の国を作るのさ』
魔族の親玉か? 人の殲滅が目的で人為的に起こしたスタンピートと確定したな、俺の敵決定だ。
「その陛下ってのは何者で何処に居るんだ?」
『話す訳ないだろ』
「カスタルよりリスタルが近かっただろ、なぜカスタルを一番に狙ったんだ?」
『この国ではカスタルに一番戦力が集まっているからだ、此処さえ落とせば後は有象無象だからな、真っ先に標的としただけだ』
各個撃破で疲弊させる手を使わず、急所に一直線で来た訳か、急所ならその場所を潰せば後は有象無象、そう考えたのだろう。
「なるほどな」
口が堅そうだがユリウス陛下ならば手があるかもしれないな、生きたまま連れ帰って引き渡すか。
速度を通常時の五倍、威力を二割に低下、両手両足に各二発ずつ着弾【ライトニングアロー】×八
唯でさえ速度の速い電撃と矢の組み合わせ、更に速度を上げる為にMPを注ぎ込んだ魔法だ、よけきれずに全弾命中、魔族は麻痺して落下した。
『ぐあああああ、貴様ぁ、ブレイズドラゴン、そいつを遣れ!』
ブレイズドラゴンは腕で攻撃すべく振りかぶるが遅いので無視する。
ブロッサスを左脇に抱えかっさらう、後は電撃を与えながらヒールも与えて常時麻痺を与えて反撃の時間を与えない。
ブレイズドラゴンから一端距離を取り、正面に陣取りブレスを誘発させる、ブレイズドラゴンにとってブレスを当て易い距離にいるため空気を吸い込む。
本当ならば避ける場面だが俺には火炎は効果が無い、視線を遮りそれを利用する為にブレスをまともに受ける、ブロッサスが死なないようにヒールは多めだ。
当然ながらブロッサスにはとっては効果覿面、ま、敵だし死ななければどうでも良い。
『うがあああ、俺ごと焼くんじゃねえ! 貴様も避けろ!』
ブレイズドラゴンに倒してほしいのか倒されてほしくないのか良く分からん命令だな。
ブレイズドラゴンはブレスで此方は見えない、その状況を利用して一気に距離をつめ、その速度を利用して首の根元のど真ん中にジャンプして槍を突き込んだ。
電撃を槍に纏わせ体内に電撃を流し込むとブレイズドラゴンは震えだし横倒しになる。
ブレイズドアゴンのブレス発射からの時間は三十秒程度、さっさと収納した。
ブレイズドラゴンが倒れた事を知った魔物達は我先にとバラバラに逃走を開始する。
後はシャルと挟み込み【フレアスライサー】でざく切りにしていく、正面からの戦闘中は犬とドラゴンは火を噴き。
サイクロプスやギガンテスは巨大な棍棒を投げてきたりと少々気を使ったが逃げる相手には楽なものだ、足の速さも違い過ぎる為回収しながらの作業であり、三十分程度で完了した。
回収した数の総数:161740匹
蛇:19732
ドラゴン:19248
頭2つの犬:12571
頭3つの犬: 22326
キマイラ:17354
サイクロプス:12567
ギガンテス:32560
ヒドラ:25382
「その脇に抱えてるのは誰ですの?」
「俺に触れるなよ、電撃とヒールを纏ってるからな、こいつだが、どうも首謀者らしくてな、ブレイズドラゴンが魅了状態だった、これを使って後方から追い立てて、無理やり大暴走を起こしたようだな」
「なるほどにゃ、マグロはこいつを冒険者ギルドに突き出すのかにゃ?」
「いや、千二百何十年だったかの年齢でな、レベルも二百オーバーの魔族でもあるから、ユリウス陛下に引き渡そうかと思ってる、魔族って何者だ?」
「以前に大戦をひき起こして敗れたとは聞いてますが、詳細は知りませんわ、なるほど、ユリウス陛下へ引渡したが良さそうですわね」
「この場に小さい方のテレポーターを設置して全員で向かおうか、ティアは二人を連れて王宮まで来てくれ、それまでに手続きをしておくよ」
「了解にゃ、冒険者には少し帰還が遅くなるとついでに伝えて来るにゃ」
テレポーターで我が家へ帰還して王宮へと向かった。
王宮警備の騎士から話しかけられた。
「これはシャル様にマグロ殿、今回はどの様なご用件でしょうか」
「ストレイルで大規模なスタンピートが起こってな、それの鎮圧は完了したんだが、蓋を開ければ人災のスタンピートらしくてな。
この脇に抱えてるのが自分が引き起こしたような事を言ったので確保して来たんだ」
「そうでしたか、それはお手柄でしたね、では、こちらで背後関係も含めて調べますのでお引き取りします」
「それは無理ですわ、Lv二百オーバーなのですわ、それでマグロが常時電撃とヒールを常時展開して無理に押さえつけてますの、事情をユリウス陛下へ伝え、陛下御自身にご足労願えませんか?」
「早急に伝えて参りますので、少々お待ちくださいますよう」
応対した騎士は走り去り、代わりの騎士が門番となり、五分程度経過して他のメンバーが集まり、更に五分程度経過するとユリウス陛下が直々にやって来た。
「話は聞いた、お手柄だなマグロにティア、それに皆も大儀であった、して、脇に抱えてるのが首謀者か?」
「そうです陛下、空を飛んでいたため、風魔法のフライを取得してるかと、逃げられない為に常時電撃を与えてます、では、置きます」
仰向けに降ろすも足を握り電撃とヒールは止めない。
「ふははは! なるほどな、ブロッサスか、生きたまま捉えるとは、さすがマグロだな、拘束方法も見事だ」
「それで陛下、この魔族は何者なんですか?」
「かれこれ五百年ほど前か、魔族による侵攻があり、人族や獣人族などで結束してこれに対抗した、辛うじて勝ったものの、被害は甚大でな、魔族の主要メンバーには逃げ失せられた、その中の一人だな」
「陛下の命令でストレイルに魔族の国を作ると言ってましたね、スタンピートで殲滅させるつもりのようでした」
「なるほどな、五百年前の侵攻で失敗した為に手を変えてきた、と言ったところか」
「陛下、この者達の拠点に心当たりは?」
「無いな、この様な手を使う事からあまり人数は居ないのかもしれない、そうなると、紛れ込まれては探しようが無いからな、だが、幸いとして情報源がここに居る訳だ」
「並みの実力ではない為、通常の牢屋では逃げ出しかねませんね、オリハルコンで牢屋を作りますか? 材料でしたら提供しますよ」
「それは面白い提案だな、魔石で麻痺と回復を同時展開させれば逃げ切れんだろう、それに、アグニスに牢番を頼むか、では二千kgほどもらえるか?」
運びやすいように五十kg単位で四十個取り出す。
「ではこちらを、話は変わりますが、今回はダンジョンボスまで利用されてまして、それがブレイズドラゴンだったんです、ですので、骨の件は取り消させて頂きます」
「ほう、老龍か、マグロが倒したのであろう? 出して見せて貰えるか」
「証拠として見せる必要があるかもしれないので解体してませんから、とりあえず出します」
九十mクラスの為、門から入った広い場所に取り出す。
「このサイズだと、かなりの期間討伐されなかったようだな」
「あちらの件が済み次第、解体しておすそ分けをお持ちしますね」
「待っているぞ、これの肉は旨いからな」
「では陛下、スタンピート収束の報告もまだですから、この辺でお暇させていただきます、例の盗賊の事もお聞きしたかったのですが時間が無い為、またお伺いしますね」
「そう言えばそうであったな、あちらは取り調べと書類の精査も終わってるゆえ、何時でも聞きに来い」
「了解しました、失礼いたします陛下」
テレポーターで帰還し、魔法陣を回収して町へ戻ると大半の者達は撤収作業を行っている、治療を施していた臨時治療場も解体作業が開始されている辺り、あれだけ時間があったのだ、復調して皆散開したのだろう。
町の様子を観察しながら冒険者ギルドへ向かいギルド内に入ると長蛇の列とはならず、撤収作業に勤しんでいるのだろう、少数の者しかいなかった。
後はギルドで報酬貰って、とストレイル側に拠点の確保だな。
「クラン名【真摯の断罪者】 のマグロだが、ギルドマスターのサイラス殿に面会を希望する」
「マグロ様とクランの方々ですね、お越しになったらすぐに部屋に通すように言われております、此方へどうぞ」
案内され会議室に。
「よく来てくれた、マグロ達のクランが居なければ全滅していたよ、本当に世話になった、此方はこの都市の領主でラインハルト殿」
「ラインハルトだ、其方のおかげで命拾いした、この国を救って頂き感謝の言葉もない」
「Fランク冒険者で【真摯の断罪者】 リーダーのマグロです、当然の事をしただけです、お気になさらず」
同じく五名も名乗りを上げる。
「そして今回、騎士団チームを率いていた、騎士団長のロンベルト殿と冒険者チームを率いていたSランク冒険者のカイサリス殿だ」
「下層の魔物が来た時にはもうダメだと思っていたよ、貴殿のおかげで大勢の命が助かった、本当にありがとう」
「それで報酬なのだがな、マグロとそのクランメンバーにはSランクになってもらう、Sランク冒険者が手を焼いてた相手をたった六人で全滅させた功績は大きい。
それと救護班での支援とボス討伐に対する評価としての対価だな、金額はまだ決まっていないので待ってほしい、五都市の領主とギルドマスター五名で決めさせてほしい」
上位ランクになると指名依頼が来そうで正直面倒だからランク上げはボチボチで良いんだがな、これで断ったら何と言われるか、だが言うんだよ、俺だからな?
「上げて頂くならば六名全員をBランクに上げて下さい、対価ですが此方に決定権はありませんからお任せします」
「なぜ断る? 試験も省きSランクに上がれるのだぞ、それに、実力に見合うランクになってほしいのだがな」
「いえいえ、試験も無しに上がれば周りから何を言われるか分かりませんからね、直ぐにAランク試験が受けられるポイントを含めて頂ければ十分です」
「むー、本人に拒まれては此方は従うしかないか、だが、Bランクとポイントはマグロの言った件で進めるとしよう」
「それでは、報酬の件は後程と言う事で、この場で話す事は以上でしょうか?」
「まだだ、有象無象の魔物は良いが、倒したとは言えドラゴンの持ち出しはダメだ、ストレイルの魔物だ、こちらへ引き渡してもらおう、そのまま国外へ持って行かれては困る」
「倒した者に所有権があるのは、あなた以外は理解されてるようですが、どんな了見でしょうか?」
「そのドラゴンはストレイルの資産だ、国外へ持ち出すなと言ってる」
頭が悪すぎて話にならんな、それとも税金の話でもしてるのか? それなら支払うのはなんとか理解できる範囲だな。
「倒したら素材は冒険者ギルドに買い取って貰い、そこから税金を引かれるのが冒険者の税金の納め方でしたよね」
「そうだ」
「ならばこうしましょう、一頭丸々の販売額を査定し、全体量の三割は販売します、その金額から税金をお支払いします」
「ダメだ全量販売して頂く」
なるほど、俺が譲歩しても自分の意思をごり押しか、俺の嫌いなタイプだな、敵対したら即刻潰してやる。
「何故ですか? 所有権は此方に在り、それに対する税金は支払う、無論譲歩はしますから三割で手を打ちましょう、と言っている」
「この国の魔物だ、この国から持ち出しは禁止だ、全量売って頂く」
「サイラスさん、ラインハルトはこう言ってるがギルドとしての見解は?」
「正直、査定してくれと言われても初物だから値段が出せないんだ、そこでだ、オークションを開催し、その売価から税金を引いたのち、残りをマグロに支払いたい。
確保したければ自身で競り落とせば良い、この案で二人ともどうであろうか?」
「それなら何とか妥協できるな」
「査定が無理なら仕方ないな、その案に乗ろう、ただ此方も暇じゃないんだ、テレポーターを使えば一時間も掛からず集結する事は可能だよな?」
「オークション参加に関しては移動は一時間も掛からんが、通達から準備も含めて一週間もあれば事足りるな」
「決まりだな、一週間後の朝八時から競りを開始するぞ」
「一つ確認しておく、誰が競り落としてもグダグダ言うなよ」
「無論だ、俺が買うから言う必要が無いからな」
「言ったら即殺すから肝に銘じておけよ」
俺の資金力を舐めきってるな、だが、これで言質はとったぞ。
「サイラスさん、でかすぎてかなり広い場所が必要だ、広場に三十m×百mクラスの台座を準備してくれ、開始前に出せばいいだろ、そうだなサイズ的には九十mクラスだな」
「貴様、持ち逃げする気だな!」
ラインハルト、お前は敵確定な、暗殺してでも確実に殺してやるよ。
「おい、ラインハルト、下手に出ればつけあがってるが、死にたいのか?」
「ほう、俺に喧嘩を売る気か」
「売ってるのはお前だろボケ、死にたくないなら黙っておけよ、ミンチにするぞ」
「マグロがその気になったら一秒もかからないのにゃ、いっそ、ティアがボコボコにするかにゃ?」
「いえいえ、ティアには譲りませんわ、私がブレスで灰も残らず焼き尽くしますわよ」
「ダメです、シャルにも任せません、私がじっくり溶かしてあげますよ」
「双方それまでにしろ! ラインハルトさん、今回最大の功労者に対し失礼だろ、もっと敬意をもって接しろ!」
「調子にのりおって、サイラス、貴様も俺にたてつく気か?」
「ギルドマスターの連名で抗議しても良いんだぞ、それ以上は黙っておけ」
「・・・・」
「サイラスさん、修練場で一度取り出してサイズ確認するか? それと持ち逃げだのなんだの言われるのは釈然としないからな。
俺のクランを冒険者ギルドに宿泊させてくれ、そうすれば見張り放題だろ、これ以上の妥協はしないぞ」
「そうだな、台座を作る為にも一度出してもらおうか、防腐処理として氷で覆う方が良いだろうしな。
宿泊は構わんぞ、ただ、住み心地が良いとは言えんからその点はすまないな」
「では、お言葉に甘えます、それじゃ腐敗処理もかねて向かいましょうか、セレス達も一緒に行くぞ」
「案内するからついて来てくれ」
ラインハルトも来るようだ、来なくて良いのにな。
「改めて見るとでかいな」
「迫力がありますわね」
「こんなの倒したのかよ」
「やけに奇麗だな、何処を攻撃したんだ?」
「首の下側から一突きだよ、槍一本分丸々埋まったから二,五mほど突き刺したかな」
「傷もこの一点のみで極上品だな、それも上位種を上回るエルダードラゴンか、それじゃ氷漬けにするか」
「俺がするから良いよ、造作もないから」
氷漬けにして収納し、この時より寝起きは冒険者ギルドで一週間を過ごす事になった。
その日は交代で戦闘した事も有り夕食後さっさと寝た、セレスの胸に顔を埋めて。




