36:確定
現在時刻は翌日の早朝、ティアとマグロが寝て休息してる時、他のメンバーは食事してた、が、突然マグロが飛び起きた。
常時展開してるマップには攻め寄せる魔物が所狭しと向かって来てる、その中、地上部隊を追い越して飛んでくる空中部隊の存在が表示されたのだ。
現状、外壁の上からも地上へ攻撃が加えられているが、空中部隊が来れば援護射撃は出来ず、接近された場合に不安がある遠距離部隊、その接近された場合の手段を早急に構築しなければこの部隊が全滅しかねない、そうなれば一気に不利になり、魔物の空中部隊が町の中に侵入しかねない、そうなれば無防備な後方支援部隊が被害を受け雪崩式に被害が拡大する、何としてもそれだけは食い止めないと一気に事態が悪化する。
「不味いぞ、早急に手を打たないと事態が一気に悪くなる」
「マグロ、どうしたの?」
「魔物の名前までは分からないが空中戦可能な魔物が飛んで来てる」
「それは本当なの? 至急指揮所に伝えないと!」
「セレス、相手はここからの距離で七km圏内に侵入した直後だ、後三十分ほどで空中部隊が到着すると伝えて来てくれ」
「わかったわ、私たちが前線に出る?」
空中部隊も脅威だが、敵の規模も分からずに前線に出ると負傷者の治療が頓挫する可能性が有る、そうなれば死者の数が跳ね上がる、指揮官に委ねてみよう。
「それも一長一短だな、俺たちが離れたら救護班が潰れかねない、実力の説明はせずにそれとなく打診してみてくれ」
「マグロの判断に任せるわ、それじゃ行って来るわ」
それから四十分程度で空中部隊との戦闘が始まり、外壁上の部隊は地上への対応が出来なくなった。
その為に地上部隊は騎士団と冒険者の両チームとも三分の二が戦闘へ残りが休息へと割り振られることになり疲労度が増した。
それに追い打ちをかけるように、徐々に敵のランクが上がっていく、上層部の敵を倒しつくし、徐々に階下の敵にシフトしてる為だ。
マグロ達救護班の宿屋も治療者で溢れかえり、場所を中央広場へと変え、テントを張った臨時治療場と化していた。
規模次第では前線へ出なければならない、現在応戦してる人員で対応が不可能な規模ならば治療を放棄してでも戦場へ赴かないと前線が崩壊し、治療放棄より深刻な惨状になるからだ。
「ティア、すまないが少しの時間任せるぞ、セレス、指揮所へ行くぞ」
「わかりました、ようやく動く気になりましたね」
「状況がさっぱり分からないからな、情報を仕入れにな」
こうして二人は指揮所の冒険者ギルドに向かった。
「ギルドマスターのサイラス殿は居るか?」
「いらっしゃいますが手が離せない状態です、何の御用でしょうか?」
「救護班に配属されたクラン名【真摯の断罪者】 のマグロだ、現状の情報が欲しい」
「ご活躍のほどは聞いております、また空中の敵の件も有難うございます、少々お待ち下さい、話を通して来ます」
十分ほど待つと会議室へと案内された。
「そなたがマグロか、活躍は聞いてるぞ、おかげで死者がかなり減ってると報告を受けている、ありがとう」
「それは良い、敵の規模は分かったのか?」
「いや、まだ溢れ出ていると報告が来ている、二十万以上の大部隊だな」
「なるほど、更に底なしで増えてる訳か、ダンジョンとしてはかなり高ランクの部類なのか?」
「そうだな、深部だとSランクPTで二体同時がぎりぎり、三体同時で逃げる必要があるな、ボスが相手となった場合はSランク十PTでも倒せるか怪しいな」
「それで、ボスまで出てくると思うか?」
「そればかりは蓋を開けてみないと分からないな」
「俺たちのクランも参戦するか?」
「確かGとFランクのみだったな、流石に許可は出来ないな、無残に散られるより現状維持が良いだろう、マグロのPTが救護班から離れては確実にパンクする」
「そうか、だが、ランクのみでは判断を誤るぞ、実力が高くても最近登録したばかりとか、飛び級を使わずにのんびり活動するとか、常識外の人物は居るからな」
「それがマグロ達なのか? ん~、今は救護班で活動してくれ」
「わかった、今はその指示に従うよ、ただ、一つだけお願いがある」
「何だ? 言ってみろ」
「敵の規模、いや、一番厄介な相手が確定したら教えてくれ」
今の説明だとSランクが手を焼くほどの下層の魔物が出たら確実に壊滅だろ、もちろん壊滅されるのは此方だ、そこまで状況が悪くなる前には参戦したいからな、軍部が壊滅でもしたら、治安が悪化してそれこそライネルに被害がいくからな。
「教えるのは構わんが、無理に倒しに行くつもりじゃないだろうな?」
「相手次第だな、現状で倒せない相手だと判断した場合は出るぞ、それだと教えずに放置されそうだから一つ情報をやる」
こちらがエンシェントドラゴンだと分かればランク目線じゃなく、力量が把握できるだろ、教えておくか。
「何をだ?」
「俺のフルネームは怪盗=マグロ=ヴァンティユだ」
「ヴァンティユ・・・ライネル国王の縁者か?」
「そうだ、この場には居ないが嫁が国王の姪にあたり、おれは彼女の夫だな、ランクは低いが、強い事は保証する、見ての通りエンシェントドラゴンだからな」
「ん~~、友好国の、しかも国王の縁者を巻き込んだ挙句、死なれでもしたらそれこそ手の施しようが無いほどの国際問題に発展するな」
(セレス、俺達のレベルを伝え、前線に加えてもらうのも手か?)
(それは控えていた方が良いでしょう、手の内を晒し過ぎては警戒されるか利用されるかどちらかになる恐れがあります)
(警戒されるかもしれないな、これが拡散して困るのは俺たち自身か、分かった)
「俺たちのクランなら今この地に居る全軍相手にしても倒せるんだがな、情報だけは送ってくれ、それまでは大人しくしてるよ」
「わかった、情報が入り次第職員を寄越す、場合によっては出て貰うかもしれん、全滅する様な状況になればどのみち一緒だからな」
こうして二人で臨時治療場の中央広場に戻った。
「ただいま」
「マグロにセレスおかえりにゃ、こっちの治療は順調にゃ」
こうして交代しながら治療を施し、夕刻にギルド職員が呼びに来た。
「マグロさん、最終的な敵が確定しました、シャルさんとお越しください」
ふむ、ヴァンティユと言う名を出したからシャルが陛下の姪だと割り出したのか、それでセレスでは無く彼女を呼んだのだろうな。
「了解した、ティア、すまないがまた少し離れる、この場は任せるよ」
「了解したにゃ、いってらっしゃいにゃ」
ギルドの会議室へ直行で案内される。
「マグロ、来たな、最終的な敵が確定したぞ」
「それで何が出て来たんだ?」
「ダンジョンボスだ」
とすると、一匹でSランク冒険者の十PT以上の戦力が確定か、俺たちが出ないと全滅確定だな、それ以前に下層部の雑魚で全滅しそうだが。
「ボスなのは分かったが、具体的には何が出て来たんだ?」
「ファイアドラゴンの種類は知ってるか?」
「いや、知らないな」
「最下級が属性別けされていない普通のドラゴン、下位がファイアドラゴン、上位がフレイムドラゴン、さらに上に老龍、言いかえたらエルダードラゴンであるブレイズドラゴン、最上位にエンシェントドラゴンであるフレアドラゴン、更に上位のエターナルドラゴン、確認されてないが龍王とも呼ばれているな、そして基本属性+無属性を兼ね備える龍神、これも居るかどうか確認はされてない、まぁ一部の老龍から上の種族は言葉が通じるから敵じゃないがな」
「炎属性のドラゴンがボスだとして何が出て来たんだ?」
「ブレイズドラゴンだ」
とすると、一部意思疎通が可能な種族って事だよな、ダンジョンの魔物だがこの枠に当てはまるのかね? この場は専門家が居る事だし聞くのが早いな。
「シャル、この場合は陛下の庇護下のドラゴンになるのか?」
「それは無いですわ、ダンジョンの魔物はダンジョンコアが生み出すのですわ、地上の龍とは別種類なのですわ」
それなら美味しい敵だな、陛下にお願いして四年間の待ち状態が即解決か、どのみち俺たちのPTが出ないとどうにもならない状況だけどな。
「それなら容赦なく倒せるな、それならサイラスさん、その個体、俺たちで倒して遺体はもらって良いか?」
「倒した者の所有になるのは当たり前だが今は不味い、ボスが倒れては群れを率いる者が居なくなり離散してしまう恐れがある、そうなると近隣の村が全滅だ。
相手が一点集中してるこの状況下でほぼ全てを倒さないと別の意味で国が崩壊する」
「ふむ、ならどの程度接近して来たら倒して良い? 接近され過ぎても脅威だろ?」
「ブレスの射程が届かない、尚且つ圧力を感じないとなると、一km程度が妥当か?」
「ならその付近で倒して回収するか、後は俺のPTが後方から畳みかけて挟み込めば収束するな」
「本当に倒せるのか? 無謀な突撃だと思うと冷や冷やものだぞ」
「悪いな、マスターとシャルを残して全員席を外してくれ、これから言うのはなるべく伏せておきたいからな」
「・・・皆出てくれ、十分時間をやる」
三人になり話し出す。
「帝国の皇帝が城ごと吹き飛ばされたの知ってるか?」
「ギルド経由で聞いてる」
「あれを吹き飛ばしたのは俺だ、近衛騎士団長も倒したし宮廷魔術師も倒した、これで少しは信用できるかな?」
「そんな事一人では無理だろう」
「本当なんだがなぁ、何なら今から俺のPTで残りの魔物を全部倒そうか? それに、この地にSランク十PT以上の戦力があるか?」
「・・・無いな」
「なら、俺たちが出ないと前線の者達が全滅するぞ、判断を下さずに死なせるのか?」
「それを言われると辛いが、死刑宣告するような命令を出せるはずないだろ、だがそれほどの事を断言してるんだ、ボス討伐は可能だと前提で作戦に組み込むぞ、良いんだな?」
「それで良い、それで予定地に到達する時期は割りだされてるか?」
「飛んで来られた場合は今晩中に来るな、他の魔物を追い立てて来る場合は明々後日の昼頃だと予想してる、今の所は他の魔物を追い抜くつもりは無さそうだと報告を受けている」
「了解した、その予定でこちらも準備しておく」
「では、それまで救護班の任務をお願いする」
その夜は問題なく治療を施し運ばれた者に死者は出なかったが、翌朝、状況が一変する。




