35:大暴走
「ほう、他にも何か知ってそうだな」
『話してませんでしたが、そいつがリーダーです』
『・・・・』
「それは良いな、話させて下さいと言わせてやるよ。
そうそう、治療魔法の特訓をしたかったんだよ、なるべく耐えてくれ、その分俺が成長するからな」
ダガーで刺しては治療し刺しては治療し、気絶したら水を掛けて同じことを繰り返し、とうとう折れた。
『話すから、いっそ殺してくれ! クラトルを利用してライネルの疲弊を狙ってるのは聖王国グランドの枢機卿だ』
「そいつの名前は何だ? そいつが直接お前に指示を出す訳ないよな、間にどの様な人物が入ってる?」
『枢機卿の名前は分からない、俺みたいな下っ端は此処のリーダーを任されてるだけだ。
枢機卿に賛同してる神官が何名かいるが、直接動いてるのは枢機卿の手下で諜報部の人間だ』
「まったく、腐った連中がなんでこうも多いんだ」
「マグロ、愚痴を言っても仕方ないのにゃ、ライネルの被害が酷くなる前に潰すのにゃ」
「そうなんだけどね、こうもトラブル続きだとうんざりするんだよな。
ティア、彼は骨折も含めて治療してくれ、全員を連れて一度帰還するぞ」
外の適度な場所に大型のテレポーターを設置して、拘束した全員をライネルの我が家へ。
シャルにお願いして護送車を送ってもらい、一人残して全員を引き渡し、証拠の指示書である手紙と領収書を全て預けた。
洗いざらい話してくれた一人をカエラさんに会わせて奴隷であったことが確認され解放することに。
「これであんたは自由の身だ、この地はライネル、活動資金を渡すからそれを使って冒険者にでもなって生活してくれ、戦闘経験もあることだし、腕はあるんだろ?」
「ライネルか、なるほどな、あなたが請け負て調査にきてたわけか、無理やりだったが当事者として謝らせてほしい、申し訳ない事をした」
金貨十枚を渡し、冒険者ギルドの位置を教えて別れた、傍には宿屋もあり、情報を集めるには困らないだろうからな。
「盗賊達の調査は陛下に任せるとして、俺たちは戻ってカスタルに向かうか」
他の冒険者が移動の為に乗ってる馬車を追い越し、夕方に到着した。
今、何処まで対策が進んでいるのか確かめる為に冒険者ギルドに入って近くに居た冒険者に話を聞いた。
「すまない、セクタルから今到着したんだ、状況はどうなってる?」
「確実に此方を目指してる様だが規模は不明だ、リスタルからの報告によると、今現在もダンジョンから溢れてるらしい、予想到達時間は明後日の夕方位らしい」
規模が不明なのは相変わらずか、到着予想時間は変わって無いな。
「数万以上の大軍団という感じだな、それで編成などはどうなってる?」
「現在進行形で調整してるよ、得意な戦闘方法で分けて運用する様だ、受付がまだなら早めにした方が良い」
「ありがとう、早速済ませて来るよ」
受付嬢の前に並んでるのが、あまりの長蛇の列だった為、俺が代表としてに並んで待つ事二十分ほど、やっと順番が回って来た。
「セクタルの方でランクに関係なく受けられると聞いたのでな、クエストは受けて来てる、戦闘方法で編成すると聞いたから来たんだ、お願いする」
「申し訳ありません、説明する時間が有りませんので手早く済まさせて頂きます、ギルドカードとPTかクランの加入者であればその名を、それと得意な戦闘方法をご提示お願いします」
他の五人から冒険者カードを受け取っている為纏めて六枚渡す。
「まずはこの地に来ているのは俺を含めて六名、列が長い為に代表してる。
俺はクラン名【真摯の断罪者】のリーダーでマグロだ、戦闘方法だが近距離がシャロン、遠距離が、セレスティーナ、シェルアスだ、遠距離と回復可能なのが俺とシャル、回復がティルアだ、なるべくなら俺のクランは分散させずに一塊で運用してほしい」
冒険者カードを返される。
「確認致しました、要望は上にあげておきます、明日の昼食後に中央広場にお集まりください、マスターから説明と編成内容が発表されます」
「了解した、宿屋は空いてるかな? 空いてれば寝る場所を確保しておきたいんだが」
「宿は治療場として借り上げています、申し訳ありませんが避難されている民家を貸し出す事になってます」
「それなら家を建てられる程度の広さを貸してもらえるか、野営可能な準備はできてるからな」
「それでしたらここから東部にある公園をお使い下さい」
「了解した、ありがとう」
マップで更地で何もない場所は直ぐに把握できたので直ぐに向かい、端の方に貰った家を出し、夕食を済ませて就寝した。
翌日、全員で最上級MPポーションを四百本作り分けておいた。
現在までに作ったMPポーションは六百本、その内使用したのは六本、材料の残量は九百本分。
HP用ならば作っていないので千本分素材が余っている。
四百本しか作らなかったのは時間が無い為だ、瓶詰めさえ無ければ十分も掛からないんだけどな。
鍋から直接飲むか? それなら柄杓でも置いておけば即飲めるからな、代金さえ払ってもらえるなら提供しても良いな。
昼食後、家を回収して中央広場にて。
『俺はギルドマスターのサイラスだ、基本、ギルドは国にも属さない中立的立場なのは諸君も知っていよう。
だが、今回は国家存亡の危機である為、国からの要請を受ける事となり、強制クエストを発行する事となった、この点を理解してほしい。
我らは国の軍部と合同で事に当たる事になる、だが戦闘方法があまりに違う為、命令系統は一本化するが軍の部隊とは別に冒険者のチームを組む事となる。
Bランク以上の者達は主に戦闘部隊に、Cランクの者には後方支援をしてもらう、回復スキル持ちの者は後方支援の中の救護班に所属してもらう。
それぞれのチームにはリーダーとしてSランク冒険者が配置される、その者の指示に従い動いてくれ、今より名前を呼ぶので広場の東西南北チーム分けされ集合してほしい、では、短時間だが質問を受け付ける』
『国家存亡の危機と聞いたがどの程度の規模なんだ?』
『今もダンジョンから溢れ出してると報告を受けている、現時点で十万以上、正直上限は把握していない』
(国中に強制依頼を出して集結中だと聞いてはいるが)
(ああ、不味い状況だな、半数以上が死ぬんじゃないか)
(縁起でもないな、俺たちが踏ん張らないと国ごと全滅だぞ)
(それは分かるが持ち堪えられるか不安だな)
不安な声が辺りを埋め尽くす、士気はかなり低いな。
『他に質問は無いか?』
「援軍が集結中と聞いている、どの程度で到着するんだ?」
『早くて明々後日の明朝だ』
(それなら少しは希望が持てるか?)
(そうだな、内と外から挟撃すればかなりの成果が出せるだろ)
(少しはマシになったかな)
(少し、程度ですわね)
(上がらないよりはマシにゃ)
『それでは明日の同時刻に、各班で所定の位置に集まってくれ』
俺たちは後方支援部隊に組み込まれた、正確には救護班だ、セレス、シェル、シャロは護衛兼回復魔法使い手の助手だ。
まだ時間があるからな、ポーションを大量に作っておく、材料が無いから残りは最上級MPポーションが九百本と最上級HPポーションが千本だ。
回復魔法が使えない三人にはHPポーションを多めに渡しておいた。
開戦は翌日の、早めの夕食後まもなくだった、あちこちに篝火が焚かれ外壁門は閉じられ外壁上から弓と魔法で応戦し。
外は右側からは冒険者の近接職が、左側からは騎士達が挟み込む形で横腹を突く、援護するように外壁上から攻撃が加えられていく。
俺はこっそり抜け出して騎士団の戦いぶりの見学だ。
騎士達の戦闘方法は独特だ、前衛がタワーシールドの横隊で敵の突進を止め、隣同士の間を絶妙に開けている隙間から二列目の長槍部隊が仕留めていく。
この盾部隊と槍部隊が三セット分縦隊として配置され、後方の三,四,五,六列目は一列目と二列目に比べて半分の人数だ、さらに後方には弓部隊が控えている。
それとは別に後方支援部隊と、一,二列と同等の人数が休息している、三交代してる形だな。
交代方法も独特だ、弓部隊の弾幕を厚くし、偶数と奇数で別れてるのか、一つ飛びで一,二列目の者が後方に下がり残った者がフォローしてる間に三,四列目の者が穴を埋める。
残り半数の者が後方に下がり、元の五,六列目の者が穴を埋める、そして休息してた者達が三,四,五,六列に加わる、これを一定時間ごとに繰り返し消耗を分散させてるのだ。
当然負傷者も出る、その場合は二列目の長槍部隊の人員が後方へ引きずり出し、その間は左右の盾部隊の人員がフォローし、三列目と四列目が穴を埋める、当然三,四列に穴が空く為、更に予備へと回された実力の低い者があてられる、負傷者は後方支援部隊へと引き渡され救護施設へと運ばれる。
冒険者部隊はもっと簡単だ、長槍持ち以外の近接職は盾であって剣でもある、受けて良し倒してよし、騎士部隊程の規律がなくとも入れ替わりはスムーズに終わる。
圧力が上がれば徐々に後退しながら倒し、薄くなったと感じれば攻めに転じて討ち取っていく。
と言っても全体の半数の人数である、敵の規模が分からない現状、完全に疲弊する愚行を犯す訳にはいかない、六時間交代で運用されていった。
マグロは負傷者が出始めると救護班に戻り本来の役割へ。
俺たちはと言うと、部位欠損治療は禁止し、状態異常回復のキュアとハイヒールまでの使用と制限を決めていた。
「貴方たち凄いわね、どんな量のMPしてるんでしょうね」
知ったら驚愕するだろうな、一番MPの少ないティアですら1時間にMP八千七百少々回復するからな、ハイヒールならMP消費が十だから、時間当たり八百七十回使っても減らないからな。
「まぁまぁ、片っ端に回復しますんで、こっちにじゃんじゃん回してもらって良いですよ」
傷は治るが出血した血までは増えない為、治療所の宿屋は満杯で臨時テントを建てて寝かしてる始末だ。
ついでにとばかりに治療を終えた兵には【クリーン】も掛ける、血の匂いが充満しては環境が悪化するからな、MPの余裕があるから可能な行動だった。
「それより皆さんは極力MPを温存しててください、一気に患者が増えた場合に治療できませんでは話になりませんからね。
シャルとティアは先に寝ておけ、今は俺一人で十分だ、ダンジョンの大暴走なら今の敵は弱い部類のはずだ、時間が経つほど患者が増えるからな」
こうして救護班はマグロとシャルとティアは三交代、三人を中心に運用されていった、それも大暴走と衝突の翌日、事態が動いた。




