25:脅威の表面化
翌日はメイド達お手製の朝食だ、パン、肉が中心の炒め物と何か良く分からない野菜のスープ、後は果実を絞った飲み物、貴族出身らしいし教育が行き届いているのだろう、かなりおいしい、調味料はそれほど種類が多くないのにな。
防具の素材にオリハルコンを使うかどうかだな、今は後衛中心の魔法重視PTだからな、重量はなるべく下げた方が良い。
オリハルコンは使わない方向で調整するか。
「防具一式、鎧、腰下、鎧下、籠手、ロングブーツ、頭は鉢金あたりか? それとマントだな。
素材は竜と聖銀か、何か具体的な要望ってあるか?」
「マグロ含めて全員が後衛みたいなものですから革主体で、主要部分のみ金属で補強でよさそうですが」
「ふむ、シャルはどうだ? 槍持って前衛もするんだろ? 聖銀なら鉄より軽いし金属主体でも良いと思うが」
「セレスが言うような装備で良いですわよ、今使ってる防具の強化版になりますから、重くなると移動速度が低下しますわ」
「ティアも軽いほうが良いにゃ、セレスの意見に賛成にゃ」
「反対意見は無さそうだし、同型を一括注文でいいか、先方が作れるかが問題だがな」
「ライネルは鉱物資源が豊富なため、腕の良い職人が多いのですわ、だから大丈夫ですわよ」
「シャルのお墨付きもあることだし、そろそろ行くか」
馬車で向かった防具屋にて。
「いらっしゃいませ」
「すまない、冒険者のマグロだ、オーダーメイドは可能かな? 竜の素材と聖銀でスケイルメイルと合わせて腰下、鎧下、籠手、ロングブーツ、鉢金とマントを合わせてフル装備で、尚且つサイズフリーで、龍族でも装備可能に作って貰いたいんだが」
「サイズフリーの件と種族最適化は可能です、素材を見せて頂いて宜しいですか?」
ストームドラゴンの革付鱗1㎡と翼部分の皮膜1㎡、聖銀1kgを渡す。
「それはサンプルだ、全員分作れる量は確保してるので、その他必要であればそちらで準備してほしいのだが」
「問題なく加工可能です、ですが聖銀は不味いですね、それでも使用されますか?」
「前にも聞いたセリフだな、魔道具店だったか? そもそも何で不味いんだ?」
「神殿が、神を祀る聖なる金属だとかで聖騎士以外の者の使用を禁止してるのです」
「ん、本当なのか? シャル」
「言ってるのは聖王国グランドですわね、単なる一方的な通告で本当かどうかも判りませんわ、それに関してのご神託もありませわね」
「なるほど、一方的に使うな宣言してるだけで、根拠が何も無いのか、それなら聖銀を使わない選択は無いな」
光属性を含んだ金属だからと神聖視したうえで他国に強要でもしたいんだろ、折角有用な素材があるんだそんな事は無視して利用すると言う選択以外に選択肢はない。
まったくこの手の宗教国家って厄介なんだよな、何でも神の意向だの神罰だの言い腐って何でもかんでもごり押しする奴が居そうだし、下手にトップが腐って来ると立場を利用して懐を温めるだけの害悪の温床になりやすいし、正直関わり合いたくは無いが相手次第ではどうなるか分からんか。
「マグロのことだから、トラブルになってもかみ砕いて終わりなのにゃ」
「それではどの部位に使用しますか?」
「まずは籠手は手首までで手の甲部分は作らないでくれ、弓を使う者が居るからな。
鎧は胸部と肩当部分、小手とロングブーツの全面にだが、足裏以外な、それと聖銀をネックレスのチェーンサイズに加工してチェーンメイルの形状に組み上げて鎧下に組み込めないか?」
「細工師に声を掛けて共同で製作すれば可能ですが、途方もなく期間が延びて金銭的な負担も増えますが宜しいですか?」
「一人分の大よその期間と一人当たりの金額をお聞きしても?」
「全身分とマントを含めて一人一ヶ月前後、金額で1着白金貨10枚から15枚の範囲でしょうか、何分細かいので断言出来ません、申し訳ありません。
鎧下以外でしたら一セット一週間ほどです、鎧下のみ後日引き渡しとなります」
「それは構わない、無理な要求してるのは此方だから、素材はどの程度必要か?」
「一人分で竜素材を十㎡とマント用に皮膜を三㎡聖銀は五kgほどでしょうか」
竜素材を六十㎡と皮膜を十八㎡ミスリルを三十kg、白金貨九十枚を取り出し。
「それでは素材と料金です、ではお願いします」
「確かにお預かりしました、出来上がりましたらお知らせに参ります、お住まいはどちらでしょうか?」
「お城を正面にして左手隣だ」
「なるほど、あの邸宅でしたか、うちの従業員が向かいますのでよろしくお願いします」
「こちらこそお願いします」
「注文は以上だが、龍族でも着れる革タイプの鎧は有るか? 普通に買ったのでは着れないんだよな」
「一種類のみございます、ウロボロスの外皮を使用した品になりますが如何でしょう。
見た目は小さな鱗状ですが、触った感じは肌触りがよろしいです、お買い上げになられるのでしたら金貨五十枚となります」
「うーん、フルセットだとおいくらです? マント込みで」
「それでした金貨八十枚となります」
「シャロの分も必要だし2セットお願いする」
金貨百六十枚を手渡しシャロとそれぞれ受け取る。
蛇皮か、財布じゃないがなんとなくヌメヌメした手触りが・・・はっきり言って着たくないな。
「シャロ以外は解散だ、自由にしてくれ、シャロは武器屋行って次に冒険者ギルドに加入してPTへの加入な、では行くぞ」
シャロンと二人で歩きながら鍛冶屋へと歩いて行く。
「二刀流だったな、何を得物にしてたんだ?」
「左手にダガーと右手にショートソードです」
「変則的なんだな」
「ダガーは主に攻撃受けたり受け流したりと防御面が主ですから」
「円形盾ではダメだったのか?」
「潜入する際に盾は邪魔ですから」
「言われてみればその通りだな、おっとここだ、それじゃ入るか」
「ロンバルトどのーーー、いらっしゃるかーーー!」
「声がでけえよ! そんな叫ばなくても聞こえるって、ってマグロか、殿もさんもいらんよ」
シャルの言動からこれがデフォだと思ってたんだがな、鍛冶場が併設してあるし、普通に会話するのもけっこう大きな声を出さないとはっきり聞こえずらいんだよな、言っておくが難聴じゃないぞ、あくまでも鍛冶場で作業してる金属を叩く音がうるさいのだ。
「はぁ、彼女はシャロン、彼女の武器の発注を、それと完成までの繋ぎの武器を買いに来たんだ、シャロンは魔法攻撃はしないからオリハルコンと骨粉のみでお願いする、形状とかは本人に聞いてくれ」
「それじゃ注文を聞こうか、どんなのが欲しい?」
「一本はダガータイプのソードブレイカーを、もう一本ショートソードを両刃でお願いします」
「ソードブレイカーだと厚みが必要だから鉄製ダガーの倍ほどの重さになるが良いか?」
「はい、お願いします」
「後は繋ぎか、予想だと前回の製作も含めてだから一月ほど掛かるか、マグロ、何処で戦闘してるんだ?」
「ここのダンジョンだよ、罠利用してがっつり戦ってる、まぁ忙しすぎて行ったのは一回だけなんだけどな」
「そんな事してるのか! それなら生半可な武器だと1日持たずに潰れるな、一ヵ月で何階層まで行く予定だ?」
「可能なら八階層の罠利用でがっつり倒したい所だな」
「がはははははっ、今うちにある武器だと全然ダメだな、ダマスカス相手にダマスカスで切り掛かっても刃が潰れるだけだ、最低でもミスリルクラスが必要だ、マグロの判断は?」
「俺の格言にはこんな言葉が有る、見る事も勉強とな、ダマスカスを引き合いに出すんだからダマスカス製品が有るんだろ? ダマスカス製のダガーとショートソードを頂こう。
シャロは同ランク以上の敵が出てくるようになったら、武器が完成するまで見学な、材料は何kg位必要だ? それと手数料な」
「そうだな、手数料込でオリハルコン七kgと骨二kgでどうだ?」
「俺は良いけど物納で良いの? 前回もお金取らなかったし資金面は大丈夫なのか?」
「俺はその方が良い、もう素材として手に入らないと諦めていたからな、そこにマグロが持ち込んで来る、頼むのが当たり前だろ」
オリハルコン七kgと骨二kgを出して渡す。
「ロンバルトが納得してるなら良いんだ、それじゃお願いする」
ライネルでは龍族は知れ渡っているのか冒険者ギルドでトラブルも無く登録を済ませて帰る。
「お帰りなさいませ」
「ただいま、セレス達は?」
「お帰りになってからは魔法の講習会をされてます」
「なるほどな、俺も魔法書を解読しないとな、執務室に行くから夕食時になったら呼んで、シャロも自由にしていいぞ」
そう伝え、執務室で時空間魔法の書を読み進めると、移動に関する魔法には魔法陣が必要で、その構築用塗料にミスリルの粉末、魔石大の粉末、トレントの樹液が必要な事が判明した。
連結した魔法陣間と帰還専用の魔法陣の2種ある事が分かった、前者は町から町へ行ける固定型テレポーターで、後者は場所を選ばず帰還可能なテレポートだと分かった。
この屋敷に設置するしか選択肢無いよなぁ、図の説明だと直径約2mほどか、ミスリルと魔石は何とかなるとしてもトレントか、まずは生息場所のは「【バーン!】」
「どうしたんだ? そんなに慌てて」
扉が壊れるんじゃねえのと言うほど豪快に開けて入って来たのだ、壊れても直すだけだし痛くも痒くもないが。
「ご主人様、冒険者ギルド経由で急使が到着し、緊急に渡すようにと手紙を所持しております」
「わかった、使者は玄関か?」
「執事のセルラルファが応接室に案内しております」
「そうか、そちらは任せろ、行って来る、それと五人に来るよう伝えてくれ」
そう伝えると返事も聞かず執務室に向かう。
嫌な予感がするな、ギルド経由となれば他の国からから、当然ライネルは一都市しかないからな、となれば帝国がらみ、軍が動いたか?
「マグロだ、お待たせしたようだな使者殿、どのような要件か?」
「サパンギルドのキャロルからの緊急との事で手紙を預かっております」
当たりか、普通なら時間を掛けずに即連絡可能な通信水晶で連絡が来るはずだが・・・
キャロルが攫われたのなら通信水晶でツガット殿が連絡するはず、だがそれがなされてない以上キャロルのみが拘束されたわけでは無いだろう。
通信水晶が使えない状態にまで陥っているとしたらギルドその物がおさえられた状態だと判断できる。
冒険者ギルドが押さえられた場合を想定して、知人に預けていたのだろう。
これは時間が無いな、到着まで数日経過してるはず、用済みと見なされれば処刑されても可笑しくはない、当然もみ消す為に知られた相手全てが対象だろう。
失敗したな、帝都の冒険者ギルドマスターのガイエン殿に頼んではいるが動けないだろうな、遠征など考えず、あの場に留まりジワジワと削るべきだったか。
「ギルドには通信用水晶があったはずだが、使用不可能なほど状況が悪いのか?」
「水晶にて通信が出来ない事態になった場合を想定して、知人に手紙を渡していたようです。
此方から連絡をするも相手が答えず反応がありません」
「そうなると、早馬使ったとしても三日か四日ほど経過しているな、手紙その物より、サパンの冒険者ギルドが襲われた事態を知らせたかったのだろうな」
そこへ五人が入って来た
「マグロさんどうしたのですか?」
「サパンのキャロルから緊急の手紙が届いた。
先方へ通信水晶による連絡をするが反応が無いとの事だ。
この事から、帝国のどの部隊かは分からないが、軍部がサパンの冒険者ギルドを襲った事は確かだな、そこから先は不明だ。
冒険者ギルドは国と同等の権利を有してるから襲われないと思っていたが、俺の判断ミスだ、早急に手を打って助け出さないとな」
「策はあるのですか?」
「策もだが、ここに連絡が来るまで数日経過してる、時間との勝負だな」
「それではどうされます?」
「今できてる食料を全部持って行く、メイド達には悪いが全員外食してもらう、俺達は食後、フル装備で雑貨屋へ、MPポーションのみ高額品から買える上限数まで買い込み、明日の昼頃までに町から五km地点へ移動する。
夜間に闇に紛れ込んで外壁に穴を開けて侵入、冒険者ギルドに急襲を掛ける、シャルとシャロは来るな。
シャルは陛下へ説明と武器屋と魔道具店に遅れる旨を伝えてくれ。
シャロは加入直後だ、PTの連携が取れない、それと今のお前では足を引っ張りかねない、おとなしく待っててくれ」
「未来の旦那様が出撃するのについて行かない嫁はいませんわよ、陛下への連絡などはセルに任せましょう」
「私も連れて行って下さい、斥候の為に購入されたのですよね、こんな時こそ必要です」
「ダメだ、主人として命令する、この場に残れ、反論は禁止だ」
「マグロ様・・・」
「あら、私には命令出来ませんわよ、こんな時の為に嫁になったようなものですもの」
「・・・わかった、シャルはきてくれ、すまないがそう言う事だ、セル、後は任せるよ、使者殿、手紙を貰おう、連絡手段を構築してるかもしれないからな。
各自に三十日分のスラちゃんの食料を渡しておくぞ、別れて行動するかもしれないからな、一日五十kgだ、三十個渡しておく、シャロのスラちゃんは俺について来てくれ、では行動開始だ!」
食事を済ませて完全武装し、雑貨店で百本の高級MPポーションを購入し、夜のライネルを出るのだった。
そして翌日早朝にサパンから五km地点の山中にて、魔法で木を切り倒し地面を整地した後、頂いた家を取り出して中で話し合った。
「日が昇ってる間は監視が厳しくて入り込めないな、町の外壁上もだが主要な道路は封鎖されてる、屋敷から持ってきた食料を出しておくから食事は各自取ってくれ」
「マグロ、冒険者ギルド内はどうなってるんです?」
「二階の一部屋に軍部の者が三人と人質一名が入ってるな、それが五部屋で、残りの人質は全て地下だな、取り調べてる最中のようだからまだ死人は出てないだろう、だが楽観視は出来ないな、不要だと思われたら殺されかねない」
「それなら今すぐにでも」
「ダメだ、入口の騎士に通信水晶を持たせていたら俺たちの到着が即座に冒険者ギルドに連絡が入る、そうなれば分かるだろ、闇に紛れて気づかれないようにギルドまでつかないとダメなんだ、焦ると人質が危ないんだ、わかってくれ」
目の前なのに助け出せないってのはイライラするな!
こんな事ならヒットアンドウェイで削りながら引き付けるべきだったな。
人を倒してもレベルが上がる事は分かってたんだ、離れるべきじゃなかった・・・
「わかったのにゃマグロ、それまで英気を養って待機するのにゃ!」




