23:発注
翌朝、王宮からシャルが帰ってきた。
「お帰りシャル、陛下の御予定は何と?」
「明日の昼食後に来てくれ、楽しみに待っているぞ、との事でしたわ」
陛下との会談の日時は決まったな。
それじゃ今日の予定の武器発注だが昨日作成したオリハルコンと聖銀を使用した複合素材の武器を作れる腕が在れば良いのだが、無理なら他国も含めて鍛冶師を探さないとな、その辺りは武器屋に行って聞くしかないか。
後は奴隷購入、それと服とアクセサリーだな、俺だけ別件で防具購入と、先ずは一応、皆に確認だな。
「そうか、ありがとう、それじゃ各自の武器を発注する訳だが何を作るか決めよう」
「マグロ、待って下さい、オークションの品を各自に持たせてますが作り変えるのですか?」
「そうだにゃ、まともに使って無いけど作るのかにゃ?」
「言われて当然だが、新たに新素材が手に入っただろ、前に妥協はしないと言ってたように、その都度強化する予定だ、ここライネルで作成してもらえばお金を落として経済の活性化にもなる。
だからと言ってお金をばら撒く訳にもいかないだろ。
それで、各自の要望を纏めておくか、直接鍛冶師の方に注文してもらおうと思ってな」
「マグロさんの考えは理解しました、それでは各自の使いやすい形状とかあるでしょうし、個別に頼む方が良いと思います」
「そうだな、素材だが、ミスリル、聖銀、オリハルコン、これにストームドラゴンの骨粉を混ぜて作って貰う事にしよう、ドラゴン1体丸々あるから他の素材を使っていいよ、もちろん先方が可能だと言うなら複合素材として発注しても良いよ。
それとセレス、ショートボウとロングボウの2種を発注してもらうけど、先にどちらを作るか決めておいてくれ」
「マグロ、そんな大量に発注してはご迷惑が掛かるのでは?」
「それは大丈夫だと思いますわ、製作期間が長くなるだけで、納期日を短く要求しなければ先方も受けると思いますわ」
「そこは鍛冶師さんと交渉なのにゃ、だけどこれだけの素材を扱える鍛冶師って居るのかにゃ?」
「それなら彼の所しかなわね、行きましょう」
シャルが行先をヨハンナに告げると、有名な鍛冶師なのか迷いなく到着した。
うーむ、店舗はそれほど大きくない様だが奥の別の倉庫らしき建物はかなりの大きさだな、素材置き場と出来上がった商品置き場を別途置いてるのだろう、ほとんどが一階だが一部が二階、たぶんそちらを家として使用しているのかな、地下室は無いようだ、重い物を置くのなら地下室は無い方が安全だからな。
「ロンバルトさーん、いらっしゃいますかー! ロンバルトさーん」
「そんなデカイ声で叫ばんでも聞こえてるぞシャル」
そう言って現れたのはゴツイ体系の竜人族、背の高さは百八十cmほど、年は四十台後半か、短く切りそろえられた黒い髪、こげ茶色の猫の様な瞳孔の目、服装は皮性のつなぎに革製の手袋と耐熱性を考えて作られた品だろう。
手袋を脱ぎ、台の上へと置いた。
「鍛冶の仕事中はハンマーの叩く音で聞こえないでしょ、仕方ないのですわ、それよりこちら未来の旦那様で怪盗=マグロさん」
「怪盗=マグロです、マグロと呼んで下さい、宜しくお願いします、彼女たちは同じPTメンバーで嫁になるセレスティーナ、ティルア、シェルアスです」
「セレスティーナです、セレスと呼んで下さい、宜しくお願いします」
「ティルアですにゃ、ティアと呼んでほしいにゃ、宜しくなのにゃ」
「シェルアスです、シェルとお呼び下さい、宜しくお願いします」
挨拶を受けるもマグロの翼を凝視してる。
「シャル、他にもエンシェントドラゴンがいたのだな」
流石地元の竜人族、一発で分かるか。
「そこは事情があるので聞かないでほしいですわ」
「そうか、お前さんが旦那と呼ぶんだ、それ相応の立場なんだろ? しかも別嬪さん四人が嫁さんか、羨ましがる連中がかなりいそうだな、それで作ってほしいのがあるんだろ、言ってみろ」
「各個人で注文するがまずは俺からお願いするよ、結納の品にする竜騎士用の突撃槍を三本、それと長槍を一本」
「素材は何にする? それとも持ち込みか?」
オリハルコン、聖銀、ミスリル、ストームドラゴンの骨をそれぞれ1kgをサンプルとして取り出して台の上に乗せる。
「持ち込みです、これはサンプル、此方の要望を伝えるので量を言ってくれたらその分渡します」
「また厄介な素材だな、どうやって調達した?」
「俺は冒険者です、飯の種ですからね、お教え出来ませんよ」
「そうだろうな、要望とやらを聞こうじゃないか」
「わかりました、全ての金属には骨粉を混ぜる事を前提で、竜騎士用の武器の長さは見た事が無いので任せます、オリハルコン製は芯に聖銀を使って下さい、後の2本は其々の素材のみで。
長槍は聖銀を芯に外殻をオリハルコンで、可能でしょうか?」
「これだけの素材を打てる事は喜びだが厄介な依頼だな、突撃槍は嬢ちゃん所への結納品か、製作は可能だぞ、それじゃ他の要望も聞こうか」
「次は私が、正直、金属で弓が作れるのか判りませんから素材はお任せします、ショートボウとロングボウの二張ですが、先にロングボウをお願いします」
「弓は板バネを柔軟性のある木材で補強する形にするしかないな、足りない素材は此方で用意する、俺じゃなければ作れないところだな、それじゃ次だ」
「次はティアにゃ、聖銀で全体を、コアに手に入る最高の魔石を使って杖を作ってほしいにゃ」
「すまないな、嬢ちゃん、杖は専門外なんだ、魔道具店に発注してくれ」
「そうなりますと、私の杖も魔道具店ですね」
「私の分はマグロと同じ仕様の長槍でお願いしますわ」
「確認するぞ、突撃槍を三本、長槍を二本、弓をロングボウが先でショートボウも一張、以上だな」
「突撃槍3本を先にお願いします、それができないと婚約すら出来ませんので、それで、素材はどれほど必要ですか?」
「扱た事が極端に少ない品が混ざってるのでな、多めに置いて行ってくれ、残ったら無論返品する、オリハルコン百kg、聖銀二十kg、ミスリル二十kg、骨を十kg、それと料金だが物納で頼めるか? オリハルコン十kgとミスリル十kgでどうだ?」
依頼の素材と報酬用素材を別に取り出して渡す、1kg単位のインゴットと1kg単位の骨だな。
オリハルコンだけは台の上に乗りきらないので邪魔にならない脇に積み上げた。
「現金でも物納でも構わないからそれではこれを」
「では2週間後以降に来てくれ、突撃槍はそれまでに完成させておく、他のはそれから着手になるからその時説明する、弓が鬼門だからな」
「それではよろしくお願いします」
行先が追加になった為先に魔道具屋に行く事にした。
此方は二階建ての建物のみ、別に倉庫を持っているのだろう。
「シャルも杖かロッドか作っておくべきだな、俺の分も入れて四本か、極端に仕様が違うって事は無いだろうから一括で注文しても良いか?」
「お願いします」「マグロさんにお任せします」「任せるにゃ」「お任せしますわ」
馬車で乗り付けて、そのままだと邪魔だろうからとヨハンナに後は任せた。
「いらっしゃいませ、どのようなご用件でしょうか?」
「購入がマジックバッグを三つと、それとは別に作成の依頼をしたい、杖かロッドを四本、素材から作れるか?」
「マジックバッグはございます、ロッドでは敵に接近された際に叩けませんから杖をお勧めします、それで素材とは?」
聖銀1kgと骨粉1kgとストームドラゴンの魔石を取り出した。
「お客様、聖銀は神殿関係者に見られれば厄介な事になりますよ、それと初めて見ましたがこれほどの魔石、攻城兵器でも作られるのですか?」
「厄介ごと? まぁそれはどうでも良い、性能が高いのであればそれを追求したいからな、武器が貧相て死にました、じゃ話にならんしな。
しかし面白い話を聞いた、もう一本追加で作るとしよう、それで、通常戦闘に向くような魔石は手に入らないか?」
「九階層のゴーレムの魔石でしたらかなりの性能になるでしょう、あれほどの巨体を支える魔石です、性能は保証致します」
「ではそれでお願いする、取り回しのしやすいサイズで4本を、そのコアを使用してくれ、それと特注で持ち込んだ魔石で作ってくれ、聖銀と骨はどれほどの量が必要だ?」
「聖銀は三十kgと骨は三kgお願いします、それで料金ですが白金貨三十枚です、宜しいですか?」
聖銀二十九kgと骨二kg白金貨三十枚を取り出す。
「ではお願いする、何時頃出来上がる?」
「十日ほどで仕上がります、後程お越しください」
鍛冶の様に刃を作る訳でもなく、その分手間は掛からないのかやけに期間が短いな、ま、願ったりかなったりだが。
「ではよろしく頼む」
今日の残りの予定は奴隷商と服と防具屋か、昼食をすませて行く事にした。
「また、皆に確認しておくが、理由如何で解放しようと思うが大丈夫か?」
「私たちもマグロさんに助けられた立場ですからね、その判断はマグロさんに委ねます」
「そうか、なら問題があるような場合にまた聞くよ」
到着し中へ入る。
「これはシャル様、本日はどの様な人材をお探しですか?」
「久しいな、此方は私の未来の旦様で怪盗=マグロ、彼から説明がありますわ」
「紹介にあった怪盗=マグロだ、よろしくお願いする」
「これはご丁寧に、宜しくお願いします、それではお部屋へご案内します」
応接室に通されハーブティーと茶菓子が振る舞われる。
「それでどのような人材を?」
「女性で年齢十五-二十五歳、近接戦闘に長ける者、それと索敵や敵地に潜入可能なスキル持ちだな、優秀であれば遠距離主体の者でも構わんがハードルは高いと思ってくれ、資金は潤沢なのでな、その辺りは気にせず優秀な者を頼む」
「その条件でしたら平均額を軽く超えるほどの優秀な者が2名おります、直ぐに連れて参りますので少々お待ち下さいますよう」
店長自ら迎えに向かい約十分後に入室してきた、一人は竜人族で2mほどの長身で、かつ筋肉質、いかにも近接職、もう一人は白狼族、顔は可愛いが背は百五十cmほどと小さく小柄で胸は絶壁であった。
「一人ずつご紹介します、一人目に紹介するのは近接職で戦闘スタイルはタワーシールドと片手剣による近接戦闘です、守備重視の為、PTの守りの要になってくれる事でしょう、如何でございましょう」
「うーん、タワーシールドってあれだろ、体を覆うほどの大きさでかなりの重量がある」
「その認識で間違いございません」
「それならダメだな、だがその言葉のみでは納得できまい? 商品にケチつけられた訳だからな、俺と摸擬戦しようか、装備は有るのだろ?」
「いえいえ、装備は御座いますが、お客様にお怪我を負わせる訳には」
「ほう、なるほどな、それでは俺が傷を負う心配をしてるのだな、ならばこうしよう、そちらはフル装備、俺は普段着のまま素手、俺が死んでもお咎めなし、そちらが傷ついた場合は完治させる、俺が負けたら2倍の金額で買い取ろう、もし俺が勝ったら、今現在考えてる金額を下げて販売しろ、そうだな3割落とせ」
「いえ、それでは余りにもマグロ様が不利な上に私どもが好条件過ぎです」
「その言い方だと俺が納得していれば受けると取って良いのだな? お前はどうだ?」
「お客様とは言え、ここまで侮辱されたのでは受け無い訳には参りません、その摸擬戦、受けたく思います」
「なら決定だな、準備をしておけ、此方の用事が済み次第冒険者ギルドに行くぞ」
「それではもう一人、白狼族の少女で15歳です、レベルは8と低めですが、気配遮断と気配探知、鍵開け技能持ちです、戦闘では二刀流スキル所持の為、両手それぞれに武器を持ちます」
「それは良いな、小柄な事がなお良い、それで、奴隷に落ちた経緯を教えて貰えるか?」
「それは、その・・・彼女は某貴族家へ無断で侵入し捉えられた犯罪奴隷です」
「それで、侵入した理由は?」
「生活資金を稼ぐ目的です、貴族家ならば資産が多いだろうと、狙ったとか」
状況判断の下し方が甘いのか、悪いのか、購入しても経過観察が必要だな。
レベル八もあれば帝国での魔物狩りなら余裕で倒せるはず、気配遮断を取得してるなら尚の事余裕で狩れるだろうに、それとも武器を買う資金さえ無いほど追い詰められたのか、ま、今更か。
「よく首が飛ばなかったな、それは良いが、例の件、俺はダメだと判断する、そして、更生は可能だと思うか?」
「更生の判断のみでしたら、生活の為だった事とマグロの近辺なら、また手に染めることは無いと思いますが」
「ふむ、この少女を購入しよう、名と値段を教えてくれるか?」
「名はシャロンです、金貨百五十枚でございます」
「俺はマグロだ、今後よろしくな」
「シャロンです、宜しくお願いします」
金貨百五十枚渡し契約も完了する。
外に出てヨハンナに今後の予定を伝えた。
「ヨハンナ、これから冒険者ギルドに向かう、場所も近いからこの場で待機よろしく」
「了解しました」
ギルド受付で使用許可を取り訓練場にて相対する。
相手はフル装備、片刃の片手剣、タワーシールド、鉄製ブレストプレート、鉄製ブレストゲートル、鉄製の小手、鉄製のグリーブか、よくもまぁ動きが鈍くなるセット装備だな。
「ルールは物理攻撃のみ魔法無しアイテム無し、勝敗条件は負けの宣言と気絶等の戦闘続行不可能になった場合、後は取り決めどおり、他にあるか?」
「ございません」
「では互いに準備完了してる、シャル、審判を頼む」
「それでは開始します、始め!」
マグロは一気に接近し攻撃を誘発させながら剣の持ち手側にバックステップや横方向へのサイドステップで避ける、相手攻撃は散漫になって行き、横なぎに首筋を狙って来る。
マグロはこの高めの攻撃を待っていた、剣側へ逃げる事で其方へ意識を持っていかせたのだ。
しゃがみ込みながら盾の死角へと入り込み盾と地面の隙間から足首を掴んで引き倒すと、一気にマウントポジションを取り顎を横殴りにフックを放つとあっさりと意識が飛び決着がついた。
「勝者マグロ!」
治療を施し意識が戻った頃。
「店主殿、欠点が理解できたか? この手の盾を利用した横一列に並ばれた状態での戦闘なら脅威だ、軍が一番の手本だな、だが少数精鋭でのPTだと逆に不利になる。
突出して戦闘する為に周りがフォローし難い上に視線を盾で塞いでる、入り込まれたらそれで終わりだ、彼女の活躍の場は騎士団だろうな、冒険者には向いて無い、そう言う事だ」
「理解致しました、それと貴重な助言有難うございます」
奴隷商店に戻り馬車に乗り込み服屋に向かう。
「店主殿、俺が着れる服を全部くれーーーーーーーーーー!」
「如何なさいました?」
「すまない、この一着しか着れないのでな、ストレス溜まってたんだ」
「なるほど、理解しました、思う存分ご購入下さい」
「今度結婚するんだ、それで俺と彼女たち四人に式で着る婚礼服と、それに合わせてサクセサリーを、国王陛下との面会にも耐えうる礼服を、彼女はシャロン、結婚はしないが礼服は頼む、それと普段着と下着も頼む」
全身採寸された後、全員から着せ替え人形扱いされ、解放されたのは夕刻、ぐったりしながら改めて彼女たちの強さを実感した、別の意味で。
防具屋に行く予定だったがパスだ、帰って食後も明日の謁見に着る服をコーディネイトの為の更に着せ替え人形に、翌日は見事に寝坊したのだった。




