19:発覚
外装を羽織、頭まですっぽり被ったマグロ達は今サパン東門の外である。
「一時間ほどを目途に走って野営地を探しそこでキャンプするぞ、ペースはティアに合わせる、何か意見はあるか?」
「ありません」「ありませんにゃ」「よし、行くぞ!」
流石常人より数十倍足が速い為、二時間と掛からず商隊の一日目の野営地着いた、道中では通行人もおらず人目を気にしなくて良かった事が幸いか、馬車より移動速度が速いからな、不審がられるところだ。
「丁度良い場所まで来れたな、これなら準備が楽だ、さっさと準備と行きたいがテントは何人用かな」
「これです、五人用でしたから二張買ってます」
とシェルが一セット出してくれた。
「それなら全員入れるな、土台を作るから待ってくれ」
四つ分繋げて【ストーンウォール】 横倒しに作った石材の上にさっさと組み立てを完了し、石材の上に直接テントを張ったものだから下が堅い。
中には毛布を敷き詰めてクッション代わりにしておいた。
出来立ての料理を取り出して食事も済ませてクリーンも済ませ、スライム達に護衛を任せて寝たのだった。
その夜中、マグロだけが寝静まった頃。
(そろそろ寝ましたか? 主の事どう思います?)
(そうだにゃ、見た目は前衛職なのに魔法職なのがギャップがあって面白いにゃ)
(そうですね、普段は凛々しいのに、夜になると大きな子供のようですね、スライム達をスラちゃんと呼んで撫でまわしたりムニムニ揉んだり、私たちの胸もそうですけどね)
(主は寝るとき胸に顔を埋めて、相当執着がありそうですね、普段と違う面を見られる私は幸せですよ)
(解放してもらって、感謝しかないのにゃ、ティアは旦那様を釣り上げるのにゃ!)
(抜け駆けはダメですよ、私たちの旦那様になってもらいましょう、そしてずっと支えます)
(主に出会う為に奴隷になったような、不思議な気持ちです)
(奴隷になるときは覚悟もしてましたが、いざなると随分落ち込みました、ですがマグロさんに救って頂きました、行動で示します)
翌朝。
「おはよう」「おはよう」「おはようですにゃ」「お早うございます」
「テントはばらさなくて良いぞ、そのまま入れておくから」
「わかりましたにゃ、はい、朝食ですにゃ」
「ありがとう、でだ、馬車で五日と聞いていたがこのペースだと昼頃着くか?」
行儀が悪いが仕方ない、食べながら会話といこう。
「着きますね、驚異的なペースです、これで相手も追って来れませんね」
「そうだな、それで竜人族の里って所に向かう訳だが、情報が何もない、何か知ってる事は無いか?」
「余り里から出ない、としか聞いた事がありませんね」
「全員が未知の場所と言う事か、心配でもあるが楽しみだな、俺はその地に拠点を作るつもりなんだ」
「マグロさんが竜人族であることと、帝都に戻る事を考えると隣国が都合が良いですね」
「決定なのにゃ」
「食後三十分休息して出発する、各自装備品の確認をよろしく」
お腹がこなれてきたので出発し、町の入り口が見え始めたあたりで昼食を済ませて町に向かった、そして西門前にて。
「ようこそ龍族と竜人族の国ライネルへ、私はシャル=ヴァンティユ、シャルとお呼び下さい、さんも様も不要ですわ、よろしくお願いしますわ」
そう挨拶するシャルは185cmほどの身長で赤い髪のポニーテール、スラリとした体だがかなり鍛えられてるのかがっしりしているが不釣り合いなほど胸が大きい、腰は細く腹筋が割れてお尻は小ぶりだ、もっと注目を集めたのは背中の赤い翼だった、マグロと同じである、色は違うが。
もしかして同族か? これで竜人族(特殊)の疑問が解決しそうだな。
「俺は怪盗=マグロ、冒険者だ、マグロと呼んでくれ、我らにも敬称は不要だ、よろしくお願いします」
「セレスティーナです、セレスとお呼び下さい、よろしくお願いします」
「ティルアですにゃ、ティアとお呼び下さいにゃ、よろしくなのにゃ」
「シェルアスです、シェルとお呼び下さい、よろしくお願いいたします」
「シャルさんは竜人族なのですか?」
「それは後から説明致しますわ、先ずは陛下にお会いして頂きます、注意しますが、決して鑑定しない様に、相手の実力を調べる事は敵対に等しいと考えられてますわ」
「ご忠告痛み入る、しかし、なぜ見ず知らずの俺達とお会いを?」
「それも含めてお会いすれば解決しますわ、どうぞ、こちらの馬車にお乗り下さい」
窓付きの馬車に乗り込み観察がてら外を眺めているが行けども行けども石づくりの建物ばかり、重量が有って扱いずらいだろうに、山間部の頂上とも言うべき土地に町を作る辺り、石が豊富なのか? 答えられる人材が目の前に居るので質問してみた。
「石材が豊富なのですね、重量があるので切り出しは大変そうですが」
「そうですわね、と言いたい処ですが、その点の疑問は今後ご理解できますわ、と返答させて頂きますわ」
全部答えて貰えないんだな、後から解決するにしても、今教えてほしかったな。
しかし、待ち伏せされた挙句に陛下への謁見を強制か、少し注意しておく必要があるな。
「はぁ」
城の中に案内され、その一室に通される、その城がデカいのなんの四十mは余裕でありそう。
それもそのはず、城の入り口が特大だった、横幅二十mほど高さが三十mほど、何が通過する事を念頭に作られたのやら、俺たちが通ったのはその扉ではない、脇にある人用と思われる横幅五m、高さ三mほどの扉だ。
「此方の部屋でお待ち下さい、何か御用が有れば傍のメイドに言って下されば対応致しますわ」
丁重に案内され、茶と茶菓子が振る舞われる。
流石一国の城と言った所か、悪趣味ではない程度に調度品が整ている、俺達としては場違い感が半端じゃない、一生縁が無さそうな部屋だ、まあ、住みたくも無いが。
「なぁ、俺は礼儀作法を全然知らないのだがどうしたものか・・・、とりあえず土下座して挨拶すれば良いのかな?」
全員判らなかった、竜人族の貴族階級の方と縁が無いので当たり前である、二十分程度した頃シャルが呼びに来たので聞いてみた。
「気さくな方だから、そこまで堅苦しい挨拶は必要ないですわ」
「王家の方に対してそれはマズイでしょ」
もう出たとこ勝負だ、開き直らないとしょうがない。
「私の後に続いてください、後ろに一歩ずつ離れて二列縦隊ですわ」
案内された場所の扉がこれまたデカイ、当然だな、一階の正面の門から少し奥まった所の扉なのだからドアを軽く三回ノックし。
「シャルです、お客様をご案内致しました」
「入れ」
シャルを先頭に入って行き、シャルと同じ動作をする、右足を一歩引き膝を地につき頭を下げる、右手は手の平を左胸に添え、左手は腰に。
場所は謁見の間だろう、だが、何故か陛下のみで他の側近達がいない、謁見の際は重鎮達が居並ぶものとばかり思っていたが当てが外れた。
注目されるのに慣れてないから好都合と言えば好都合だが。
「よく来てくれたマグロ殿、我が名はユリウス=ヴァンティユ=ライネルだ、ユリウスと呼んでくれ」
この返答をする際にも頭は上げずそのままの姿勢だ。
「お初にお目に掛かります、冒険者をしております怪盗=マグロと申します、ご尊顔拝謁し恐悦至極に存じます」
「堅苦しい話し方はしなくて良いぞ、普段の言葉使いで構わん、楽な姿勢をとれ」
この言葉で立ち上がり楽な姿勢をとる。
「ユリウス様、お言葉に甘えまして、崩させて頂きます」
「ここへ呼んだのは、そち自身の事を教える必要があったのでな、無論、それに我らも関係してるゆえな」
「具体的にはどの様な事ですか?」
「竜人族なのに翼が有る、通常の竜人族には翼が無い、変だとは思わなかったか?」
「それは感じていましたが、判断材料が無いので放置してました」
「結論から言うと、我は雷属性のエンシェントドラゴンでな、この姿は竜語魔法を使い人化した姿だ、我の髪の色が金髪であるのが属性を表している」
「もしかして」
「そうだ、其方もエンシェントドラゴンだ、前例は無いが、そちの場合は通常が人化した姿で、竜語魔法で龍化を覚える必要があるな。
頭髪と翼の色からシルバードラゴンであろう、それを踏まえてだ、そちは転生者であろう」
「・・・それを知るのは我がPTのみ、なせ陛下が知ってるのです?」
「簡単だ、この世界に存在してるエンシェントドラゴンを全て把握してるのでな、そこへ人化した姿のそちが現れた。
それともう一つ、そこに控えてるシャルは巫女でな、神よりご神託を頂き、そちが来る事を予め知っておった。
それで首都の入口へ迎えを寄越した訳だ」
「なるほど、辻褄は合ってますね、タイミング良く待って頂いてたのも納得できます、ですが俺を招き入れて宜しかったのですか?」
「ん? どうしてだ」
「ある理由から俺たちは帝国の皇族から狙われてる身です、招き入れてはご迷惑が掛かるのでは」
「うはははっ! 全然気にしなくて良いぞ、粗方事情は知っている、サパンのギルドマスター、こう言えば分かるかな、この都市にも冒険者ギルドがあるのでな、行先が分かってるからと連絡を受けた訳だ」
知ってたのか、情報を貰っておくべきだったな、てっきり内情を知らないと決めつけていたな、失敗だ。
「龍族の方が住んでる、そうなると、今俺が所有してるストームドラゴンはかなり不味い品なのですか? 陛下の立場では保護すべき仲間であったりとか?」
「どうだろうな、この場に出してみてくれるか?」
「はい此方になります」
後方にかなり下がり、場所を確保して取り出す、解体はしてないが、肉を切り取った為に少しえぐれている。
販売証明を出してシャルに渡す。
「陛下、これが証明書ですわ」
「ストームドラゴンにしては、かなりの大きさだな、ふむふむ、かなり高めの値段で買ったのだな、相場の軽く1,5倍ほどだな、我らと違い会話が不可能な竜だな、これなら問題ない。
この都市で加工すると良い、特殊な魔法を施さなければそちは着れないからな、不便では無かったか?」
「装備品処か普段の服すら買った品が着られず困っておりました」
「そうであろうな、ここでは手に入るから安心すると良い、逆に言えばこの都市以外では手に入らないとも言える。
予備も含めてかなりの量を買って置くべきだな、ずっと留まる訳でもあるまい?」
「そこで、ご相談があるのですが、この地を拠点として活動して良いでしょうか? 力を付けて帝都に戻り、我らの命を狙った事を後悔させたいと考えております」
「拠点の件は一向に構わん、それに、そちにとって最適な場所があるからな、仮に帝国の全軍が攻めて来たとて、我一人で蹴散らせるから安心して留まってくれ」
「拠点の件ありがとうございます、それと快く迎えて下さり有難うございます、この御恩に報いたく存じます、この場では準備不足の為に差し上げることが出来ませんが、後日持参致します」
「気にしなくて良いのだぞ、だが、その品とやらには興味が有るな、間者が入り込まぬ様に入口での審査を厳しくする様申し付けておこう」
「ご配慮感謝します陛下」
「では、事の詳細はシャルより聞いてくれ、と会談を終わる所だが、本人の希望でな、もう一件ある、そちには嫁がおらぬであろう」
「確かに今現在は居ませんが、一人は婚約者で二人から求婚を受けています」
「なるほどな、ではシャルを候補に入れてくれ、余の姪に当たる、そちの今後の行動で絶対に足は引っ張らないと宣言しておく、まあ、帝国に対しては過剰戦力だろうがな、はっはははは!」
「受けるかのお返事を今する事はできません、申し訳ありません」
「初対面だしな、それとなく心に止めておいてくれ、それではシャル、後は任せたぞ」
「お任せください、陛下」
退席し現在城門前。
「ご迷惑でしたか? 申し訳ありませんわ」
転生者と知っていてなお嫁にとなれば俺の近辺調査、もしくは俺の知識を探るつもりか・・・・警戒しておくに越したことは無いか、ここまであからさまだと警戒してくださいと言ってる様なものだからな。
「いや、それは良いのだが、俺がシルバードラゴンと言われていたが、どんな存在なんだ?」
「そうですわね、陛下と私を例にあげて説明しますわ、陛下は雷属性のドラゴンですが、ドラゴンにとって最大級の攻撃は何と言ってもブレスですわ。
その属性が陛下は雷なのですわ、ブレスが雷だからと言って他の属性の魔法が使えないって事はありませんわ。
そして私は火属性のドラゴンで、ブレスも火属性、ブレスはそれぞれ一種類の属性しか発動できないのですわ。
そしてマグロはシルバードラゴン、決まった属性が無く無属性、ブレスも無属性で純粋な破壊のみですわね」
「見た事も無いから判断つかないけど、威力で見たらどうなんだ?」
「エンシェント種で、無属性のブレスを発動可能なのは、マグロが龍化を取得してない現在ではゴールドドラゴンのみですわ。
そして言えることですが、互いにブレスをぶつけ合った場合、条件を同レベルかつ他の属性でしたらゴールドドラゴンが確実に勝ちますわ、属性を乗せると言う手間が省けてる分、かどうか判りませんが優劣は無属性が上ですわね」
「うーん、唯でさえ強い龍種な上に無属性か、実感が無いが気をつけておかないとな」
「そうですわね、この話は後々にと言う事で、本日は宿屋に泊まって頂きますが、明日にでも拠点の確保に不動産屋にでも行きますか? 資金が足りなければ陛下がお話しされた最適な場所で稼いで頂きますが」
「資金は問題ないのだが、その最適な場所って何なのです?」
「この地にあるダンジョンですわ、そこにあるトラップを利用して強制的に魔物を沸かせ、短時間で大量に倒すのですわ、資金を貯めるなら最適な場所ですわ」
「もしかして、普段からそんな無茶な事を?」
「マグロから無茶って言葉が出るって事はよほどなのね」
「そうだにゃ、マグロは規格外なほど強いのににゃ」
「ティア、マグロさんに規格外は言い過ぎですよ」
「トラップを利用して沸かせるって事は、効果が切れるまで沸き続けるって事だよ、殲滅力が足りなければどんどん不利になり確実に全滅する。
だから無茶だと言ったんだよ」
「確かにそうですね、マグロさんの忠告を受け入れず、短期で稼げるからと飛び込んでは死に至りますね」
「この地最大の資金源ですわ、私たちはダンジョン産の素材とそれを利用した武器や防具を販売する、その資金で食料品を買い付ける、東の商人達の連合国家ストレイルとの交易が主ですわ」
「なるほど、ダンジョン産の素材であれば恒久的に取れますからね、資金源としては最高でしょう、それで明後日以降のシェルさんのご予定は?」
「陛下の言葉を聞かなかったのですか? ずっとご一緒しますわ」
「拠点にも同じく住むと?」
「ダメですの?」
「いえ、俺は構いませんが」
「なら決定ですわね、今晩は実家へ戻りますが、明日朝にお迎えに上がりますわ」
宿屋に案内され、シャルと別れ夕食も済ませて借り受けた大部屋へと入る。
何だか結婚の話がどんどん膨れ上がってくるな、この調子でどんどん増えたりして?
「結婚の件だがシェルとティアからの求婚を受けるよ、二人ともよろしくな」
「不束者ですがよろしくお願いします」
「宜しくなのにゃ!」
「ありがとう、だけど彼女も、となると彼女が正妻となると思うが大丈夫か? だが、俺としては順位も優劣もつけたくないんだがな。
なし崩し的にその辺りをぼかしたまま進めれたらいいのだが、出来なかった場合はすまないな」
「同じ種族ですし、その方がマグロには都合が良いはずです、私は賛成です」
全員賛同した事で角が立たずに結婚の件が進められる事に安堵し、その日は寝るのだった。




