18:敵は
帝都からサパンへ帰還する為に今現在は馬車の中だ、その移動中に騎士達から編成された追跡隊が追って来ていた。
(後方五km範囲内に二十二名の騎士団、うち敵対二十一名、場合によって殺すか意識を奪うかするが、手を出してはいけない一名を判断できるか?)
(私には無理です)(無理にゃ)(無理です)
(なら手は出さないでくれ、必要なら逃げる様に、だが、武器を振り上げてくる相手に対しては気づかい無用だ、倒してくれ、それと交渉は俺が受け持つよ)
そうこうと決めて一時間ほど経った頃。
『我らは近衛兵である、そこの辻馬車は止まれ!』
近衛兵か、名前からして帝都専属の部隊だよな、狙ってきたのは皇帝と確定の様だ、しかし、命令されたからと言っても、なぜ赤いマーカーになってるんだろうな。
徐々に減速し止まると。
『怪盗=マグロとその一味下りて来い!』
名指しでご指名受けちゃったよ、仕方が無いのでいそいそと馬車を下りて尋ねる。
「騎士様、どの様なご用件でしょうか?」
『貴様らには国家反逆罪の疑いが掛かってる、事情聴取する為おとなしく詰め所まで来い、それがお前の為だ』
「私への配慮など不要です、この場で事情徴収しましょう、私には聞かれて困る事は何一つ有りませんゆえ」
『駄目だ、これは決まりなのでな、拒否すれば強制連行する事になるぞ』
「国家反逆罪と言われましても、具体的な罪の内容は何でしょうか?」
『国家転覆だ』
「帝国へ入国して一ヶ月も経ってませんけど、どうやったら帝国が潰れるんですか?
それと名前を割り出すほど調べられたのでしょ、私が接触した相手と共謀した場合、帝国を脅かす、その様な人材が居ましたか?
それに今朝方騎士様が事情徴収に来られた際には、無罪であると太鼓判を頂いたのですが」
『つべこべ言わず来い!』
「無罪の者を力ずくですか、そうやって連れ込んだ後に、拷問で痛みに耐えきれず嘘の自供をすると、あなた方の常套手段ですね」
『侮辱罪確定だな、連れて行け!』
「貴族様相手では侮辱罪が成立しますが、騎士団相手では成立しませんよ」
「俺も貴族だ、侮辱罪は確定しているぞ」
「騎士団へ入団した時点で騎士団員の肩書が優先されますからね、嘘を仰らないでください、職権乱用ですね、それに罪をねつ造ですか、この方を確保して下さい!」
『強制連行だ! 身柄を確保しろ!』
「犯罪者はお前だろうが! 自分自身を捕まえとけ! 結局無実の者に対して力づくか、それなら正当防衛として対処するぞ。
命を奪いに来てるわけでは無い点だけ評価してやるよ、その分は配慮してやるから感謝しろよ!」
少々威力を弱めてと【エアブラスト】×6。
(グハッ)(ウゲッ)と吹き飛び転がる、馬ごと吹き飛ばしたから足の骨は確実に骨折だな、馬はそれほど負傷していないのか立ち上がるが。
近衛騎士でこの程度か、弱すぎるな、帝国兵と言ってもこの程度の集団か?
「それで? どうされますか? 貴方だけは敵対心が無かった、だから対象から外しましたが」
『我らは皇帝陛下の命により動いていた、よって建前なぞ必要なく、元から強制連行対象だった、そう言う事だ』
「なるほどね、そうはっきり言ってくれた方がすっきりするよ、何せこっちに落ち度が全然ない事がはっきりするからな、で、その皇帝陛下とやらの目的は何だ? ここまで喋ったんだ、洗いざらい話しなよ」
『この状況では拷問されても止める者はいないか、辻馬車の連中も見てるから証人には事欠かないだろうしな。
わかった、周りの転がってる者の身の安全と、俺に一切危害を加えないなら答えてやろう、どうだ乗るか?』
「此方へ攻撃しないとの前提なら無論乗るさ、これで取引成立だな、これで良いか?」
『先ほどのやり取りはまったくもって貴殿が正しいと思っているからな、信用しよう、ザックリ言えば貴殿がオークションで落札した品の確保目的だ、全部が目的だが特にストームドラゴンだな』
「それだけでは無いだろ、ザックリ言うなら付けるべき言葉がもう一つあるだろ?」
『そうだ、証拠隠滅の為も含めて、貴殿らの命を奪う事も含まれている』
「そうだろうな、その言葉が聴きたかった、と言う事は生きている限りずっとつけ回し、命と品物を狙い続けるんだろうな、皇帝の面子の為にも」
『そう言う事だ、他には聴きたいことはあるか?』
「そうだな、罪を捏造した、今さっきまで話してた奴、こいつの処遇はどうなる?」
『任務失敗で騎士から除隊、もしくは処刑のどちらかだ』
「帝国の法律では、罪の捏造はどの程度の刑になるんだ?」
『捏造した内容による、罰金で済むほどの軽い刑から死刑まで様々だ』
「それじゃ相手の命を奪うほどの罪の捏造だ、当然皇帝の馬鹿は処刑なんだろうな?」
『皇帝陛下ともなればその程度では罪にもならん、国家を揺るがすほどの失態でなければな』
「質問は以上だが一つ伝言を頼めるか?」
『受けよう』
「もし、もう一度この様な事があった場合、今後一切手心を加えず対処する、そして俺のPTは帝国と戦争する、以上だ」
『然るべき相手に伝えよう、以上か?』
「ああ、では俺たちは行くよ」
『帝国相手に大したたまだよ、それではな』
馬を処分しとこうかとも思ったが、素直にはなしてくれたので見逃そう、こうして御者に近寄り。
「すまないな巻き込んで、それで乗せてもらって良いか?」
「構わないさ、帝国その物のが法を犯してるんだからな、きっちり送り届ける」
こんな所で放り出されたら移動が手間だったんだ、その点は助かったな。
馬車での旅も順調だったがサパンに近づくと騎士らしき百名が西門前に待ち伏せしているのが見て取れた。
(百名待機してる注意しておけ、今度は遠慮しなくて良い)
(やっぱりこうなりますか)(それを言うなら順当?)(まさしく順当にゃ)
『そこの辻馬車、怪盗=マグロを此方に引き渡せ!』
「確かに乗ってますが、引き渡す理由がありませんよ」
「御者さん、後は引き受けますよ、他の方が迷惑被りますので、俺たちは降りますから手早く通過してください」
「すまないな」
「いえいえ、ここまで乗せて頂いただけでも感謝してますよ」
『ようやく観念したか?』
「まさか、俺からの忠告を聞かなかったのか?」
『聞いたさ、だからどうと言うんだ?』
「そうかそうか、それを聞いて安心した、無実の奴に手を出した報いを受けろ、全員を叩き潰せ!」
『死体で引き渡すぞ、やってしまえ!』
【ライトニング】【ライトニングブラスト】【アローレイン】
シェルが直線に貫通する電撃魔法を、マグロが扇状に広がる電撃魔法を、セレスが矢の雨を降らす。
矢に水魔法力を多量に込め、上空に放つ事により頂点に達した際にウォーターアローとして大量に分裂し雨の様に降り注ぐ、絶叫が響き渡り一気に32名ほど一番近い者から死に至る。
『一気に距離を詰めて接近戦に持ち込め!』
「ほらほら、啖呵切った割には大した事ないな、もっと歯ごたえの有る奴はいないのか? どんどん行くぞ」
【アイスブラスト】【アシッドエクスプロージョン】【ファイアエクスプロージョン】
氷の散弾をまき散らし、酸を含んだ水球を爆散させて更に傷口を広げ、止めに熱と圧力で殺傷する。 少々魔法対策で離れていたとしてもセレスとマグロの連携で更に広範囲に魔法が行き渡り逃れられた者は一人もおらず全員死亡。
辺り一面見るに堪えない状態になった。
やっぱり弱いな、帝国兵は弱小軍団確定か? 魔法をレジストする程度はやってほしいが。
「本来なら勝者に資産が移るのだろうが、必要ないからな、冒険者ギルドに直行するぞ」
「はい、行きますにゃ」
門の近くに居た者達から白い目で見られながらも手を出して来る者は居ない、マップで赤い者はいない、堂々と進み冒険者ギルドに入った。
「キャロル久しいな、すまんな、こんな品しか用意出来なかった」
一方的に告げ、マジックバッグにストームドラゴンの肉を五百kgばかりを入れて手渡した。
「マグロ! あんた何てことしてるのよ! 事を起こす前に相談しろとあれほど念を押したでしょ! まぁ、これは頂いておくわ」
そんな事言われても、あれをどうやって回避するんだよ、無理だって。
「突発的に狙われたんだから相談のしようがないだろ、説明もするからさ、こんな所で叫ぶのは不味いんじゃないの?」
「それもそうね、こっちにいらっしゃい」
案内された部屋、そこは会議室ではなくギルドマスターの部屋だった。
「よく来たな、ここのマスターをしてるツガットだ、粗方は帝都ギルドマスターから聞いてる」
「それなら説明の手間が省けて早いな、キャロルを保護してくれ、宿の襲撃から始まり三度も狙って来たからな、俺が登録したこのギルドが狙われかねない」
「なんで私が保護されなきゃいけないの? と言いたい処だけど可能性が有るか」
「保護を頼んだが、俺たちに付いて来るならきちんと守るぞ、どうだ?」
「私はこの町を離れるつもりは無いわよ、それとも、ここに滞在してずっと守る?」
「それは無理だな」
「ギルド職員だからな、無実と分かってるんだ、キャロルを守るのは任せてくれ」
「そちらの二人とはどんな関係なの? ここを出る際は二人だったよね」
「帝都のオークションで出会ってな、購入して解放した、今は俺のPTメンバーでお嫁さん候補って所かな、ちなみにセレスは婚約者な」
「会った直後でしょうに、モテるのねマグロさん」
「そこは何ともいえないな、三人と結婚したらどんな家庭になる事やら」
「ティアから迫ったのにゃ」
「私もそうですよ」
「のろけ話はそれ位にしておけ、それでどうするつもりだ?」
先ずはレベル上げる事を優先、それで対処可能なレベルまで上がったと判断したら取って返し皇帝の首を取る、というのが俺の考えている対処法だが、頭が居ないままってのも駄目だよな国として、その辺りはどうなのかな。
「俺たちが皇帝の首を取った場合は、挿げ替える事は可能か?」
「継承権持ちの陣営に入るならば可能だろうな、野心家ってのはいるもんだ」
「人の所持品が欲しいからって軍部まで使うような底抜けの馬鹿には退場願って、まともな人格者に就いてもらいたいがな、だからと言って手足の様に使われるのもシャクなんだよな」
「それなら自力で皇帝の首を取って、後は放置するか? 厄介な事態になるのは間違いないんだがな」
「それだと軍部の者を大量に倒す必要が出て来るからな、近衛兵以外の軍部は出て来ると思うか?」
「騎士団は国境を中心に守ってるから大量には来ない、と思うが長期間帝都に張り付いていれば確実に呼ぶな、察知されない様に接近して短期間に落とすほか無いだろうな」
「常時帝都に張り付いていて、特に厄介な奴っているか? 出来れば大よそのレベルが分かれば良いんだが」
「それなら近衛騎士団長と宮廷魔術師、それぞれの取り巻き位か、レベルで七十-九十って所か」
「なるほど、今の俺たちでは即返り討ちだな、予定どおり進める事にするよ、長ければ一年ほどを目途に遠征して来るよ」
「登録時はレベル八だったか?」
「そうだ、だいぶ上りはしたが装備が不味い、鎧が着れないんだよ」
「翼か、なるほど、行先は竜人族の里か、そこしか手に入らないだろうな」
「到着前にまた捕捉されたら厄介だからそろそろ行くよ」
「そうだな、戻て来たら真っ先に寄ってくれ」
ドラゴンの肉五百kgのブロック肉とエリクサー一本取り出し台に置く。
「そうだ、マスターにもこれをやるよ、それとエリクサーだ、有事の際には使ってくれ」
「嬉しいが、肉を直接置くのは・・・エリクサーは預かておく、良さそうな陣営が見つかれば交渉材料にも使えそうだからな」
「使い方は任せる、それじゃ、元気でな」
一応警告はしておいたから何とかなる事を祈っておくか、帝国が無茶な事をしてきた場合はレベルが心もとないが、下っ端を倒していれば余裕で対処可能なレベルになるだろ。




