14:初日のオークション
そして翌朝、身支度を済ませて部屋を出る前に巾着に小分けしたお金を渡すのだった。
「いよいよ開催日だね、気合い入れて行こうか、その前にお金を渡しておくよ、白金貨百枚入り十袋と金貨百枚入り十袋。
競り落とす品が連続で出品されて競り落とせないのを防ぐためだ、マジックバッグに入れておいて」
「はい、お預かりします」
宿屋一階の食堂で食事を済ませた二人は宿屋を後にし、マグロは積極的にセレスと腕を組み先導し向かうのだった。
商業ギルドの中へと入ると居るわ居るわ歩くのもままならない、二百人程度居てもまだまだ余裕のあるエントランスだが競り人、見学者、野次馬でごった返している中、受付の列へと並び俺達の番となった。
「競りの参加予約したマグロとセレスティーナだ、これを頼む。
それと一つ聞きたいのだが、見学のみだと入場料はいくらだ?」
「見学者は金貨一枚となります、八十九番様と九十番様でございますね、お席までご案内いたします、此方です」
案内され席に着く、少し待つこと十数分、ちょっとギリギリだったか。
『お集りの皆さま、懐の巾着はゆるゆるにしてご参加下さい、世界中より集まった、またと手に入らない品でございます、それでは心行くまで楽しんでください。
本日は奴隷と武器と防具になります、明日は薬品と魔法道具とスペシャルな品になります、それでは1品目の紹介です』
奴隷も品扱いか、元日本人としては釈然としないが、この世界では一般的だものな。
住んでる以上慣れていかないとな。
『某国の元騎士で35歳と働き盛りの年齢でございます、剣と盾の扱いに優れ戦争経験もございます、最低落札価格金貨50枚からです、どうぞ』
『50枚』
『60枚』
『70枚』
『77枚』
『・・・・』
『五十七番様七十七枚、他にございませんか、武器防具を与えれば即活躍します、いらっしゃいませんか?』
『・・・・』
『金貨七十七枚で落札です、五十七番様おめでとうございます』
「なるほど、こんな流れなのか」
「駆け引きも必要そうですね」
「何とかなるさ、資金は潤沢だしな」
数人挟み、目当てのハイエルフが出品された。
『では五番、滅多に会うことが出来ないハイエルフの女性です、見た目も麗しくスタイルも素晴らしい、見た目だけではありません、優れた魔法の使い手でもあります、最低落札価格は金貨百枚からです、それではどうぞ』
「100枚」
『110枚』
「130枚』
『150枚』
「170枚」
『190枚』
(一騎打ちに成ってますわね)(あれほどの美貌と能力ならば納得だな)
『210枚』
「240枚」
『ぬぬぬっ』
『270枚』
「540枚」
『・・・・』
『八十九番様金貨五百四十枚、他にございませんか?』
『・・・・』
『金貨五百四十枚で落札です、八十九番様おめでとうございます』
スタッフから周りの会話を削がない程度で声を掛けられる。
(此方へお出で下さい、お支払いと契約をお願いいたします)
「すまないセレス、戻るのが遅くて間に合わない場合は落札しておいてくれ」
「はい、行ってらっしゃいませ」
別室に案内され、ハイエルフの彼女、シェルアスとその奴隷商人が待っていた。
「御落札頂きありがとうございます、シェルアスと申します、今後よろしくお願いします」
「他にも落札予定がおありでしたらお昼の休憩時間にずらしますがどうされますか?」
金貨五袋を取り出し、金貨十枚の山を四つ作る。
「冒険者のマグロだよろしくな、間に合わない場合は連れが落札する事になっているから大丈夫だ、では代金の五百四十枚だ、確認頼む」
「では確認させて頂きます・・・・確認いたしました、これに血を一滴頂けますか」
登録も終わり。
「彼女はなぜ奴隷になったのだ? 理由如何によっては彼女を解放して俺のPTに入ってもらう、教えて貰えるか?」
「それは私から話しましょう、彼女に話をさせるのは酷ですので。
彼女は元冒険者でPTの一員でしたが、魔物討伐でかなりの被害を受けたと聞いております、放置すれば死に至り、その治療の為の資金が無く、彼女は自ら奴隷となり資金を捻出し、重傷を負った者は命を取り留めました。
しかし、その傷が元で冒険者を続ける事が叶わず冒険者を引退しました、引退したPTメンバーは彼女を買い戻す資金を貯められず、今に至ります」
命の価値が低そうな世界だものな、魔物相手に命がけの戦いをしていれば不測の事態に陥る事も不思議じゃない、突然異常に強い個体が出たりだとかな。
命を取り留めたという当たり、値段は分からないがソーマ辺りを購入して金貨数百枚とか掛かったのかもな。
「ならば決定だな、大将はこの後も見学されるか?」
「要望があれば本日の終了時まで待機しますが」
「なら、お言葉に甘えさせてもらおうかな、彼女を奴隷から解放して、本日終了までオークションの見学をしててくれ、資金は出すよ」
「解放されるのですか? いえ、彼女の立場を考えると、貴方の様な方に引き取って頂けたらと思うのですが」
「なら決定だな、シェルアス、勝手に決めて悪いが、まだオークションで競る予定があるからな、見学して待っててくれ。
万が一はぐれたら、ここから近い暁の宿に部屋を取ってるからそちらへ来てくれ、話す必要があるが時間が無いのでな、行って来る」
「はい、お待ちします、マグロ様、行ってらっしゃいませ」
近くで見ると物凄い美人だが切れ長の目で力強さのある顔立ちだな、胸の大きさはセレスとどっこいか、背がセレスより十cmほど低いから特に目立つな、と金貨を二枚渡して会場へ戻って行った。
「戻った、ティルアは出たか?」
「まだです」
「そうか、間に合った様だな、あちらは彼女の理由を聞いて解放してもらった、あまり話してると周りに迷惑だから後程説明するよ」
それから二名の競りが終わり。
『次は十二番、猫人でございます、彼女は二十二歳、職業はプリースト、神殿で治療活動をしていた為レベルは低めですが、その回復力は皆様の命を助ける事でしょう、最低落札価格金貨百枚からです、どうぞ』
『100枚』
「200枚」
『220枚』
「300枚」
『・・・・』
『330枚』
「660枚」
『・・・・』
『八十九番様、金貨六百六十枚他にございませんか?』
『・・・・』
『金貨六百六十枚で落札です、八十九番様おめでとうございます』
(どれだけ資金が有るんだ)
(もう白金貨一枚と金貨二百枚も使ってるぞ)
(さすがに買う資金は尽きただろ)
(割り切って買ったんだろうな)
まだまだ買うんだよ、残念だったな。
ティルアへの挨拶と支払いを済ませて彼女も解放した、家計が火の車で彼女が売られたらしい。
ちなみにティルアはかわいい系で身長百五十cmほど、頭上の耳がチャームポイントか髪の色は白で目はブルー、胸は背の割には大きい方だがハイエルフの二人には負けてるのだった。
武器と防具のオークションが始まり。
雷鳴の弓は金貨五百枚
ウロボロスロッドは金貨八百枚
灼熱の魔槍は白金貨三枚と金貨二百枚
雷竜の杖は白金貨一枚
でそれぞれ競り落としその日は終了、エントランスでティルアとシェルアスを探し出して合流後宿屋に戻る。
「店長さん、二人部屋をもう一部屋か、大部屋を借りれませんか?」
「申しわけないな、オークションで人が集まってるから空いてないんだよ」
「では食事を追加二名分お願いします、それと二人追加で連れ込んで良いですか?」
「構わんよ」
夕食を済ませ四人で二人部屋に入り改めて挨拶をする、ちょっと狭いので俺とセレスはベッドに座り二人はソファーに座っている。
また説明が大変そうだよな、と考えているマグロだった。
「改めてよろしく頼む、俺は怪盗=マグロ、マグロと呼んでくれ、二人には冒険者ギルドに登録してもらい一緒に活動してもらう、大丈夫か?」
「私はセレスティーナ、セレスとお呼び下さい、マグロに解放してもらった元奴隷です、お二人と同じ立場ですね、よろしくお願いします」
「私はシェルアスです、シェルとお呼び下さい、解放して下さった事有難うございました、よろしくお願いします」
「ティルアですにゃ、ティアと呼んで下さいにゃ、解放してくれてありがとにゃ、よろしくお願いするにゃ」
ティルアの語尾はにゃか、何だか萌えるな、俺って猫は大好きなんだよな、犬と違って。
あの頭の上の耳をいじりたいなぁ、ピクピク動くたびに目線が行ってしまう。
「シェルは武器だと何を使うんだ?」
「攻撃魔法での攻撃のみですので杖かロッドです」
「ふむふむ、ティアはどうだ?」
「回復のみしかしてなかったのにゃ、だから武器は使った事が無いのにゃ」
それじゃ弓は余るが競り落としたのを使う方が良いだろうからセレス用で、杖は二人に渡せば辛うじて足りるな、俺は槍で良いか、杖無しでも問題無く魔法を使えてるしな。
「ハイエルフなら弓かと思ったが違ったか、それなら俺は魔槍を、武器を頻繁に変えて大変だろうけどセレスは雷属性が自動で乗る雷鳴の弓が良いだろう。
シェルには属性が付いてる杖が威力が上がるだろから雷竜の杖を、ティアには無属性が使いやすいだろうからウロボロスロッドを使ってくれ。
防具はワイバーンの革製のフルセットとマントだな、それとMPを増やす指輪を選んでもらう。
それと各自にマジックバッグと金貨百枚を渡しておく、不測の事態で離散した場合の資金だと思ってくれ、まだ拠点を決めていないから帝都から出るまではこの宿屋だと思ってくれれば良い」
説明しながらそれぞれの前に渡していく。
「あの、よろしいでしょうか」
「どうした、シェル?」
「総額が物凄い事になるのですが、私には分不相応と言いますか」
まぁ確かに白金貨四枚以上の販売価格だからな、当然かもしれない。
それは兎も角死ぬまで一緒と考えてるからな、死なれでもしたら俺が凹む、俺のPTから死人なんて出したくないしな、その為にエリクサーも買う予定だし。
「今後死ぬまで一緒と考えている、そうなれば家族と変わらないだろう? 生き残る為に装備に妥協はしなくて良いし、その為の努力もする、これで説明になるかな?」
「有難うございます、そのお気持ちにこたえる為に最大限努力致します」
「うーん、もっと砕いて話せないか? やたらと硬く感じるんだよ。
見下げる言い方はダメだがタメ口で様なぞ必要ないぞ、その方が本音で話してる様に聞こえるしな、他者がいる時だけ立ててくれれば良い、どうだ?」
「過分なご配慮感謝します、末永くよろしくお願いします」
「硬いよ、と言っても会って短時間だし仕方ないのかな。
それと伝えておかないとダメな事があったな、俺とセレスは結婚する約束をしてる、まだ時期は決めてないが拠点を築いてからと考えてるよ」
「解放した相手でも問わずに結婚の対象として考えてくれるのかにゃ?」
「ん? セレスの場合は確かにそうだな、その認識で間違ってないな」
「それならティアも立候補するのにゃ!」
「ティアさんずるいです、それなら私もマグロさんの嫁に立候補します!」
「マグロ、賑やかになってきましたね、楽しい家庭になりそうです!」
「ちょ、その言い方だと問題なく二人を嫁に、と聞こえるんだけど」
「マグロは甲斐性あるんですから当然ですよ」
「わかったよ、即決は出来ないけど検討するから時間が欲しいです」
女性の方が積極的だ、だがマグロも満更でもない、二人ともタイプは違うが美人だしな、と考えていた。
一夫多妻なのかな、確かに魔物の相手をするのは男性が多そうだし、そうなると必然的に男の人口が減り女性が余る、そうなると人口の減少に歯止めが掛からなくなり将来的に不安が残る、そう考えると当たり前と言えば当たり前か。
「えーとそれじゃ次に移ろう、俺のスライム1匹とセレスとこの1匹出てきてくれ」
ニュルニュルと服の間から出て饅頭の様な形を取るスライム達。
「銀色ぽいスライム?」
「ミスリルスライムで俺の召喚獣だ、今後ティアとシェルには1匹ずつつけるから共に行動してくれ、かなりの防御力を誇る個体だから命を守ってくれるだろう、では全部出て来い、これを食べてくれ」
そう言いつつミスリル50kgの塊を6個出して与える、今後の日課になった瞬間だった。
「え?」
「この色は、もしかしてミスリルにゃ?」
「そうそう、これを食べさせたから変質したんだよ、この子達に欠かせない食糧だな」
「あの、値段を考えた事がおありですか?」
「心配ないですよ、マグロが作れるから取り放題なんです」
「そうそう、ちなみにだがそれの応用で金塊を出してな、今の所持金は白金貨四十万枚以上あるから金額なんて気にせず生き残る為に貪欲になってくれ、これが証明だ」
白金貨入りの巾着を出しひっくり返す
「ブフォ!」「ああああ」
「汚いなティア、そう言う事だ、白金貨出して普通に買い物なんて無理だからな、金貨を預けておく、お互いにステータスを見せ合って実力を確認しておくぞ」




