11:自重しない買い物
翌日、着替えて朝食後、場所的に一番近い商業ギルド本部に向かう。
「セレス、既製品のMPポーションでは回復量が心もとないと考えてるんだが、一緒に作ってみるか? 作るならスクロールをPT予定の十枚購入しようかと思ってるんだ」
「確か、金貨百枚だったはず、十枚も買って良いんですか?」
「金銭面は気にせずに大丈夫だよ、と言う条件ならどうかな?」
「そうですね、作成するなら皆で負担する方が効率がいいですし、それに、特定の人にだけ作らせないとなった場合、不満が出るかもしれませんし」
「なら決まりだな、十枚と機材を五セット分ほど買おうか、それじゃ入ろう」
流石商業ギルド本部と言ったところか、石材で四階建ての建物だ、空間把握でわかる範囲では地下に後二階あるようだ。
冒険者ギルドと違って殺伐としていない、身なりの整った人が大勢いる、要件を伝えて職員らしき人に連れられて案内されてる者もいた。
「いらっしゃいませ、本日はどの様なご用件でしょうか?」
「大まかには二点ある、一つは明後日から開催のオークションへ競り人として参加したい、これが紹介状だ、それと目録が有れば売って頂きたい」
受付の職員は封を開封し、中身を検める。
「カエラ様のご紹介でしたか、競り人として入る方にはお一人金貨五枚お支払い頂きます、二日間開催されますが一日しか参加されない場合でも料金は変わりません。
予約されるのでしたら証明書を発行させて頂いてます、通し券ですのでご注意ください。
目録ですが金貨一枚となっております、ですが一点ご注意を、出品数が減る事はありませんが、飛び込みでオークションへ出品された場合、商品が増える場合がありますのでご了承下さい」
金貨十一枚渡しお願いした。
「了解した、では二名分の予約と目録をくれ」
「申し訳ありません、身分証の提示をお願いします」
「失礼した、これだ」
こんな時に役に立つ訳か、帝国内最大規模の商業ギルドだし、利用に身分証は必須なわけね。
「マグロ様並びにセレスティーナ様ですね、マグロ様は八十九番、セレスティーナ様は九十番で御座います、競りたい品が有ればこの番号札を掲げ金額を提示して下さい」
「了解した、すまないがオークションへ参加するのが初めてなんだ、何かルールはあるのか?」
「御座います、値段は下げる事は出来ません、ほしい場合は他の方より高い金額を提示して下さい。
開始直後の一番はじめに提示する場合いは、最低落札価格を付けるのが暗黙のルールになります、上げ幅は前者が提示した金額の1,1倍から2倍までです」
「なるほど、聞いていなければルール違反をする所だったな、感謝する。
それともう一点だがHPとMPポーションを自分で作ってみたいのだが、その為のスキルが有り、覚える為のスクロールがここで販売されてると聞いて来たのだ、十枚売ってほしい」
「お客様、確かに販売しておりますがスクロール1枚が金貨百枚と高額です、十枚も購入されるのですか?」
「そうだ、皆にも役割を与えて負担を分担したいと思っててな、可能ならお願いしたい」
「左様ですか、それでは十枚準備させて頂きます」
他の職員に取りに行かせるようなので、続けて会話をする。
「それとスキル使用での製作用キットも売って頂きたい、そうだな、5セット頼む」
「5セットですか、どの程度の規模での製作を考えておられですか?」
「逆に質問したい、何本まで仕込めるのがある?」
「一番小さいサイズから申しますと、百本、五百本、千本となります」
途中の工程は一気に可能だろうけど千本も瓶に詰めるのが手間だな、だが千本仕込める機材で百本仕込んでも問題無いなら大きいのを買っておくか。
まぁ入れきれなかった場合はそのまま収納してれば時間経過せずに劣化しないからな、その都度奇麗な柄杓で飲むって選択肢もあるし。
「もう一点、千本用で百本仕込んでも大丈夫か?」
「別に百本用の計量器と容器を購入して頂ければ可能です」
「では、千本用を五セット頼む、それと別に百用計量器と容器を一つ」
「こちらは1セット金貨三十枚になります、百本用計量器ですが、専用の容器もセットになっております、此方は金貨十枚です。
一緒に素材は如何でしょう? 無論ポーション用の容器とそれを収める箱も販売しております」
「処で必要な素材とは何が必要なんだ?」
「HPポーションですと薬草と純水です、MPポーションですと魔力草と純水です、純水とは不純物を取り除いた水になります。
通常の水でも作れますが、日持ちせずに腐る為、純水を提供しております」
同じ水なら聖水辺りを純水の代わりに使ったら面白そうだな、売ってれば試してみるか。
「個人で購入する場合の上限はあるか? それと制限なしなら在庫を知りたい」
「商業ギルド会員であればそれぞれ千本分が上限ですが、個人の方は五百本となります」
「なるほど、両方とも上限一杯購入する、二人居るから倍頼む、しかし五百本か、それじゃ五百本用の計量器も売ってくれ、それと純水と同量の聖水を購入したいが売ってるか?」
光属性があるんだ、呪い解呪の為の品を売ってても不思議じゃない、神殿があるようなので、此方に収められてるなら良いが。
「御座いますが何にお使いに? 失礼しました、お忘れください、ございます」
なるほど、客への詮索はご法度なのか。
「ではそれも含めて素材を千本分と同数の容器も込み、製作手順を書いてある本も合わせて購入したい、以上だ、料金はいかほどか?」
「製作手順書は製作キットに含まれております、全額で白金貨1枚と金貨331枚となります」
「これは通常回復用のポーション製作だよな、部位欠損すら治せる秘薬のような品は作れないのか?」
「作れはしますが、お教えする条件が御座いまして、お客様へお教えする事は出来ません、長年に渡りポーション作成に尽力し、毎月一定量の供給をされ、信用されてる者が対象となります」
「なるほど、それでは俺が対象外なのも頷ける、ではこれを。
すまない、魔導書関連を探してるんだ、ここでも扱っているのか?」
料金ぴったりに取り出して渡した、まぁざらざら出したので他の職員を巻き込み数えられたが。
そう、魔導書だ、俺は前世の記憶はあるが事魔法に関してはド素人だからな、前世の記憶からある程度は作れる自信はある、あるが本来の発動方法と効果を知るのも必要だからな、優先順位は一番とはいかないがかなり上位だと思っている。
「ここにはございません、魔道具店で扱っていますので、場所は此方になります。
唯今ご注文の品を別の職員に準備させておりますのでお待ちください、準備が整いましたらお呼びします」
帝都の地図を手渡された、無論貰う、別れて行動する事になった場合に重宝するからだ。
エントランスに用意された休息所でセレスと椅子に座りマッタリ過ごし、改めて職員に呼ばれ購入した品を受け取り後にした。
「ありがとう、それでは失礼する」
「ありがとうございました、またのご来場をお待ちしております」
商業ギルドを出るとセレスに話しかけられた。
「マグロ、水と風属性の上級まででしたら教えますよ」
「ごめん、失念してたよ、それじゃ教えてほしい、元の世界には魔法が無かったから、元の世界の知識で作ってたんだよ、無詠唱が無ければ使えないところだったがな」
「魔法が無いって想像できませんね、一時的でしょうけどマグロの魔法教師ですか、楽しそうですね!」
近い場所から片っ端に行く事にしていた為、防具屋に向かった。
「いらっしゃいませ」
二人とも後衛タイプって事もあるけど、プレート系の防具は重くて取り扱いが難しそうだしな、それと、足が遅くなるのは避けたい、ここは軽いのをチョイスだな。
「今在庫にある中で、軽くて一番防御能力が高いのはどれかな?」
「それでしたらワイバーンの皮を使った品になります」
「では彼女の分と合わせて二人分フルセットと同じ素材のマントがあればお願いする」
「申し訳ありません、お客様は竜人族で御座いますか? その、大変申し訳ないのですが、翼の部分の加工が出来ません」
「ああ、そうだったな、それは仕方ない、鎧以外を貰えるか」
やっぱり指摘されたか・・・・帝国の首都ならばあるいわと思っていたが、ここでも俺の防具は調達が出来ないか・・・
「はい、料金は金貨九十枚になります」
「ちょっと待て、サイズ調整しないのか?」
「この手の希少品には自動で調整する魔法が掛けられていますので調整不要です」
「身長百四十cmでも二mオーバーでも一つを使いまわせると言う事か?」
「さようです」
「驚愕な性能だな」
「恐縮です」
それなら予定の十人分買っておくか、増えるたびに買いに行くのも手間だしな。
「それならフルセットとマントをもう八人分頼めないか?」
「金貨五百七十枚となりますが宜しかったですか?」
白金貨を一枚渡し、お釣り金貨四百三十枚を受け取り、フルセット九つと鎧無し一セットを受け取り収納した。
「毎度ありがとうございました」
店を出ながらセレスに声をかける、いや、買う前に声をかけるべきだったか、また独断で決めてしまったな。
「セレス、勝手にワイバーン製の防具を揃えたが大丈夫だったか?」
「軽いタイプですので私にはピッタリの品です」
「それは良かった、先に聞くべきだったよ、すまないな」
次は武器屋さんへ向かう、さすが帝都と言った所か、品ぞろえが半端じゃない、それに希少そうな品が有った。
「いらっしゃいませ、どの様な品をお探しですか」
「品もだがどの様な素材の品があるのか見たいんだ」
「それでしたらこの弓はどうでしょう」
鑑定
風切りの弓
素材:エルダートレント
品質:高品質
「エルダートレントか」
「さようです、二本しかない腕の一本を使った品になります」
木の魔物だよな、エルダーって事は上位の魔物って事なら結構な貴重品かもな、買っとくか?
「セレス、使うか?」
「良いのですか? かなり値の張る品にお見受けしますが」
「良いさ、命が掛かってるんだからな、ケチって死んでは元もこうも無いだろ?」
「ありがとうございます」
「それではもう一品、今現在の在庫中で一番の高額品になります」
「ほう、それは期待できそうだな」
鑑定
光輝牙槍
素材:ミスリル
品質:最高級
「柄までミスリル製、刃が二枚とは扱いが難しそうだな」
柄の長さは約二百三十cm、刃の長さは約二十cmだが、その名の通り刃が二枚に分かれており、並んでいる方向に対して刃がある為、薙ぎ払った場合はこん棒の様に叩きつけるのみで切る事は出来ない、これが九十度向きが違っていれば相当治療が難しい裂傷になるのにもったいない。
「軽く丈夫で切れ味は並ぶものが無いほどです、魔力操作に長ける方が使えば通しやすい素材ですので更に化ける品です、長さが有るので近接戦闘では有利かと思います。
そして刃の別れてる部分ですが間も刃がついております、刃の長さ以上に突き込めない、といった事は御座いません」
「さすが商売上手だな、だが言うだけの品ではあるな、先ほどの弓と合わせて売ってくれ」
「有難うございます、二点も買って頂けるのであれば金貨十枚を割引し、金貨四百四十枚で結構でございます、ですが値段も聞かずにお決めになる辺り豪胆な方ですね」
白金貨で支払いお釣りをもらう。
「すまないが情報がほしい、ミスリル以上の硬度や強度がある鉱物はどんなのがある?」
「アダマンタイトやオリハルコンでしょうか、ですが鉱山を掘りつくし、現在は採掘で出土しないと考えて下さい。
オリハルコンですが少数ではありますが、ダンジョンから完成品として稀にではありますが産出する場合があります。
アダマンタイトですが、そのダンジョンからの出土すらありません、現存してる品のみになりますので購入は不可能と考えて下さい」
「ならオリハルコン製でショートソードの様な金属量が少ない品での値段はいかほどか?」
「最低、金貨五百枚ほどでしょうか」
「それだと両手剣とかだと白金貨二枚以上って所か」
「さようですね、オークションだともっと跳ね上がると思います」
「貴重な情報が聞けた、有難う失礼する」
「ご購入有難うございました、またのご来店をお待ちします」
一ヶ所行先が増えたが魔道具店に向かった。
「いらっしゃいませ」
「魔導書各種と見かけ以上に荷物が入る入れ物って扱ってるか?」
「魔導書はどの属性をご所望でしょうか?
見た目以上に品が入るのはマジックバックの事ですね、現在一種類しかございません」
「属性は火、土、回復、光、闇、召喚、時空間、マジックバックは九個くれ」
「火と土は初級、中級、上級、が御座います、回復と光は初級、中級が御座います、闇、召喚、時空間はございません」
「無いのは仕方がないな、では各一冊ずつくれ」
「マジックバッグの単価ですが金貨五百枚ですので、全部で白金貨4枚と金貨520枚になりますが、宜しかったでしょうか?」
白金貨5枚取り出して支払いお釣りをもらった。
「ありがとうございました」
そうだ、俺達はMPが命だからな、最大MPが増えるようなのって置いてないかな?
「すまない、最大MPが増えるのって置いてないかな、アクセサリーだとなお良いんだけど」
「あるにはありますが、指輪のみしか在庫が御座いません、サイズは自動で調整されるので問題は無いのですが、この手の品は重複不可能です、他の部位に同じ効果を持つ品を装着されましても、効果が高い方が優先されます」
なるほどな、PTメンバーがどうなるか分からないけど魔法使える者をもう少し増やす予定だし、そっち含めて買うにしてもフルメンバー用に買っとくかな。
「それなら十個売って頂けないか、俺も装備するし、とりあえず効果と金額を提示して頂けないか?」
「効果は二十%アップです、金額は、申し上げにくいのですが白金貨三枚と金貨五百枚となります」
「あのマグロ、資金は大丈夫ですか?」
金を売却すれば良いからな、全然余裕だ、だがこれを余裕で払えるから大丈夫だとは言わない方が良いだろうな。
「ギリギリとはいかないが一応足りる程度には持ってるかな、金塊で払って良いならそちらで払うって手もあるが、その前にその指輪を見せて頂けないか?」
「色々な形状がありますので、全てお持ちします、その中から選ばれるのがよろしいでしょう、少し外しますのでお待ち下さい」
持ってこられた指輪は全部で十五個、さま様な形状であり装飾品としての価値が高そうな品もある。
とりあえずすべて鑑定すると名前は統一された物、効能も同じだがやはりそこは資材は違う、オリハルコンやアダマンタイト製は無いがミスリル製が有ったので俺はそれをチョイスした、宝石の類がついておらず単なるリングでシンプルだったからだ。
鑑定
名前:リングオブマジックエンハンスト
素材:ミスリル
効果:最大MPを二十%増やすことが出来る、重複は不可能、同時に装備した場合には効果が大きい方が適用される。
残りの九個はセレスに選んでもらい白金貨三五枚を支払い、購入した品全てを収納して後にした。
次は雑貨屋に向かった。
「いらっしゃいませ」
ここはあれだよな、品を全て指定して丸投げ、用意された品を収納、これが一番手間が掛からない買い物だ。
「タオルを四十枚、毛布を十六枚、高級HPポーション十本と高級MPポーションを二十本、万能薬を十本、硬貨を入れる巾着を二百枚売ってくれ。
セレス、何か必要なのは無いか?」
「冒険には関係ない品でも良いですか?」
「必要なんだろ、遠慮しなくて良いぞ」
「それでは、店員さん、避妊薬を百本下さい」
「ブフォ! ゲッホゲッホ・・・そうきたか、確かに、必要? かもな」
こっちの世界って女性が積極的なのな、それとも俺の覚悟が足りないのか? まあ何にしろ、拠点を確保して安定的な基盤が出来てからじゃないと子供は作れないからな、避妊は必須だし必要な品だよな。
と自身に言って聞かせた。
「えーと計算しますのでお待ちください、おい、品を準備して差し上げろ!」
(これだけの品数だからな計算も面倒か、今のは意表突かれたぞ)
(ありがとうございます、そうでしょうね!)
「金貨四百二十枚になります」
「ではこれから」
「毎度ありがとうございます」
「お昼を食べて冒険者ギルドに向かおうか」
「はい、ご一緒します」




