自殺倶楽部
エス氏は社畜である。来る日も来る日も働き、特売の賞味期限切れ惣菜しか買えない程の薄給しか貰えない不憫な生活をしている。妻にも逃げられ、この世の果てのような気概である。
何時ものようにサービス残業を終え、ふと虚無感を憶える。
「俺は何のために生きている?一層の事死んでやろうか。」
そのように思い、唯フラフラと都会の喧騒から逃げる。
渋滞する交差点を抜け、少しモダンな路地裏でふと立ち止まる。洋食亭のような外観の其処は《自殺倶楽部》と名打たれていた。
エス氏にはこの店を怪しむ程のキャパシティは無い。寧ろ好奇心の赴くままにノッカーを鳴らす。
ギャルソンと思しき黒服の華奢な男は恭しく首を垂れ、
「ようこそいらっしゃいました。」と云った。彼の手首に深い切り傷があることをエス氏は見逃さなかった。
「此処はどんな店かね?」
「お客様に幸福な時間と永遠の眠りを提供させて頂いております。」
「なるべくリーズナブルなコースは無いかね?」
「此方の刺殺コースはいかがでしょう?少し痛みを伴いますがドリンク付きでございます。」
「痛いのは嫌だな。苦しめない方法は無いかね?」
「此方の薬殺コースはいかがでしょう?少々料金はお高くなりますが、最高級のお料理と共に眠ることができます。」
エス氏は薬殺コースを注文した。最後くらいは高価な料理を食べて眠りたいものだ。
テーブルに盛り付けられた高価な料理を見てエス氏は絶句した。早速箸をつけよ…いや頭ではわかっているが身体がいうことを聞かない。箸を持つ手が震える。
まだ死にたく無いんだな…エス氏は苦笑すると席を立ち、お金を払い爽やかな笑顔で倶楽部を出、交差点を走り抜けた。もう怖いものは何も無い。エス氏は光に包みこまれるような感覚を憶えた。
「あの人、可哀想に。車に轢かれたんだって?」
「まだ若いのにねぇ…」




