△月×日
-昼-
雨が降る屋上は静寂に包まれていた。
雨音以外の音が存在しない屋上は、今も頭の中で鳴り響く、未明のサイレンや今朝の言葉を殊更に意識させてくれる。
俺は誰にともなく呟く。
そこにあった。
俺の望むものは、手の届く所にあったのに。
俺は、その手で全てを壊した。
俺が望む日常を握り潰した。
気付けば、雨の音に混じって何かの雄叫びが聞こえていた。
俺はそれから逃げたくて、力の限りに駆け出した。
浮遊感と、衝撃。
薄れゆく意識の中で、俺は謝罪の言葉を繰り返していた。
***
今朝はお母さんが倒れていて驚いた。
苦痛の呻き声を漏らす姿に慌てて救急車を呼んだけれど、どうやら寝ぼけて階段を踏み外しただけだったようだ。
まったく、心配して損をしたわ。
まぁ、それを口実に学校を休めたわけだけど…さすがに、あんなことがあった翌日じゃ気まずいし。
あんなにもあいつが思い詰められていたなんて気付かなかった。
彼氏が出来たふりをすれば動じるかなと思ったけれど、まさか、あんな事まで仕出かすなんて。
昨日、あいつに破られた所が今でも痛む。
何かが挟まっているようで歩き辛い。
あの瞬間の彼はまるで別人みたいで、思い出すだけで身体が震えてしまう。
それでも、私は彼と話し合いたい。
正直、今は彼のことが怖い。
それでも、私たちは向き合わなければならないと思う。
だって、ふたりの想いは同じはずなんだから。
まずは嘘を付いて追い詰めてしまったことをちゃんと謝って、次に昨日の暴走について謝らせて…
そして、お互いを許し合うことが出来たなら。
今度こそ、ふたりで想いを育みあっていこう。
私を力ずくで傷物にした以上、彼には責任をとってもらう必要もあるわけだし。
まずは彼とちゃんと話し合おう。
私は明日の事を考えながら、ゆっくりと家路を進んでいく。
今回の作品は、正直なところ掲載をしようか迷っていました。
やっぱり、報われない恋物語は書いていて辛いです…。
最後までお付き合い頂きまして、ありがとうございました。