△月○日
-朝-
ペットボトルを受け取ったあいつは、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「今朝は寝不足なんだ」
そう言って顔を背ける俺をじっと見つめてから、「今朝もでしょ」と小さく呟いて頬を膨らますあいつ。
苦笑を返す俺に背を向けると、あいつは更に文句を続ける。
「最近は昼もさっさと消えるし…夜は勝手に帰るし…」
頭の上がらない思いで小言を聞き続けていた俺は、ある言葉を聞いたときに身体が硬直するのを感じた。
「彼はちゃんとしてくれるのに」
止めろよ。
そう叫ぼうとしたけれど、声にすることが出来なかった。
彼女は更に言葉を続ける。
「彼は…」
「彼なら…」
止めてくれよ。
朝だけは、まだ『いつも』が残っていたんだ。
「彼なんて…」
「彼みたいに…」
それなのに、そんな男の話をするなよ。
――おい、止めろっ!――
気付けば倦怠感が全身を包んでいた。
物音がする方へと目を向ければ、彼女の姿があった。
胴着をはだけ、袴を血で濡らして、嗚咽を漏らして涙を流す彼女の姿はとても痛ましくて、とても扇状的で…
俺は、まるでこれが初めてじゃないように自然に彼女の両腕を掴むと、ぐっとその身体を押し倒した。