病んだ二人の愛物語
この小説には若干のグロテスクな暴力描写が含まれます
申し訳ありませんが苦手な方は遠慮をしてくださるか、覚悟をしてくださると良いです
なお、作者は途中で気分が悪くなりました
某日、時刻6:00
『——愛してるよ!私の大事な紅くんだもん!この世のどんな——。』
ケータイから少女のラブコールが鳴り、ベッドの主は目をさます
「ん……」
少年は体を起こすとベッド脇のデスクに置いてあるケータイを手に取り、電話に出た
『あ、やっと起きたな!夜中の2:21分まで夜更かししてるから私の電話に出るのに6.2秒遅れたんだ!』
「ごめんごめん。とにかく、おはよう。茜」
『おはようー!』
少年の名前は、紅
幼なじみの少女、茜からの電話で起床した
この二人はいわゆる『恋人同士』で、親密な仲なのだ
『なんで夜更かししてたの?誰かとメールでもしてたの?電話じゃなかったのは知ってるよ。盗聴器でも音は拾えなかったから』
度が過ぎる愛が二人の間には存在する
それは、茜のラブコールをケータイの着信音にしている紅も
紅の全てを把握しようとしている茜も、同じだ
「昨日は茜の写真を整理してたんだ。またハードディスクが一杯になっちゃって、消さないといけなくなったんだけど、悩んでいたら遅くになっちゃって」
『なーんだ。それならよかった。それより、今、部屋の前にいるんだけど入っていい?』
「ああ、ちょっと待って、鍵開けるから」
紅はベッドから降りて、玄関に向かい、鍵を開けた
ここはいわゆる学生寮の一室で、住んでいるのは紅だけだ
「おはよう」
「やっぱり紅くんの生声は最高なのよね」
「俺も、茜の生声でようやく朝の実感がわくよ」
リア充
その言葉で片付けるのは不可能なほどに、彼らの愛は常軌を逸している
「わたし、朝御飯作るから、着替えてきてね」
「ありがとうな」
茜は台所に向かい、紅は自室に戻って着替える
この寮は風呂やトイレも完備で、友人を招くためのリビングフロアと、学習机や寝具をおく自室がある
割りと豪華な寮だ
少年はグレーのズボンとワイシャツ、ネクタイを締めて、着替えを終える
これは高校の制服で、茜もズボンの代わりにスカートになっている女子制服を着ている
「着替えたよー」
「きゃっ!……いたた……」
少年が台所に向かおうとすると、茜の悲鳴が聞こえた
少年は素早く足を動かし台所に飛び込むように入る
「どうした!?茜!?」
心の底から心配して紅が聞きつつ茜をみると、茜は手を押さえていた
その目の前にはまな板と、その上に包丁が置いてある
「少し、指を切っちゃった……えへへ、料理へただね……」
「大丈夫か!?見せてみろ!」
茜が困惑しつつ立ちすくんでいると、紅が茜の手首をつかみ、持ち上げた
そして――
あむ
紅は茜の指を口にくわえた
「ちょ、ちょっと紅くん!?何してっ……!く、くすぐったいよ!」
「舐めれば治るだろ?」
紅は茜の指を離しつつ答える
「そ、そんなこと言ったって……」
茜が戸惑っていると、紅は寂しそうな顔をして、心配する
「俺に舐められるの……嫌だったのか……?」
「え!?」
「ごめんな。俺、茜のこと大好きなのに、お前の気持ちなんか考えられなくて……最低だよな。ホント、悪かったな……。でも……頼むから、嫌わないでくれ……」
「え、ええええ!?わたしも、紅くんの事大好きだよ!ほ、ほら!」
茜は紅に舐められた指を自分でくわえて舐める
「紅くんの味がする……。興奮しちゃうな」
「茜……」
しばらく二人は見つめ合い、時間が流れる
やがて、トースターが音を鳴らして、二人は驚き、思い出したかの様に動き出す
「あ、パンが焼けたみたい。もうすぐこっちもできるから、リビングで待ってて!」
「ダイニングキッチンだけどな」
学生にしては豪華過ぎる
紅がリビングのテーブルの前の椅子に座り、リモコンでテレビをつける
「はいー。できましたー」
「おっ、美味しそうだね!」
茜が運んできた食事を見て紅が早速誉める
「食べて食べて!」
「そう急かさなくても食べるよ」
紅はテーブルに並べられた食事に向かい手を合わせて
「いただきます」
シンプルな、メープルシロップのかかったフレンチトーストだ
日本では食パンで作ることも多いフレンチトーストだが、茜はフランスパンをつかって作っている
紅が一口食べる
「どう……?」
「うん!美味しいよ!」
「よかったあ。紅くんが喜ぶからいつものお店でメープルシロップ買って、いつもと同じ店の卵でいつもと同じフランスパンをつかっていつもと同じ作り方をしたんだぁ」
「ありがとうな。茜」
紅は茜が作った食事を食べて、茜はその間に紅の洗濯物を干し始める
昨晩の間に紅が洗濯機の中に入れて回しておいたものを、茜が干していると言うわけだ
何て言うか、完全に夫婦体制だ
「ごちそうさまでした」
紅は食事を終えると食器を洗い、ラックに置く
その後自室に移動して学校のブレザーを着て、学校鞄を持ってリビングに戻った
「さて、学校いくか」
「そうだね!」
茜がちょうどいいタイミングでリビングに戻ってきて、登校する時間であることを確認
「あ、でも待って」
茜が素早く紅に近づき、その首もとに両手を伸ばす――
「ネクタイ、曲がってたよ」
「ああ、ありがとうな。それじゃ、行くか」
「うん!」
二人は学生寮を出て、登校する
寮は学校から徒歩で10分ほど歩いたところにあるため、少し歩かなければならない
「手、繋ごうか」
「紅くんの手、暖かいから大好き!」
「俺も、茜以外の人間の手なんか握りたくない」
朝から手を繋いで歩くリア充二人
「爆発すればいいのに」と思う男子高校生たちの眼差しが突き刺さりつつも二人はいつも通り登校する
普段から手を繋いで登校しているため、同じ高校の人たちはもはや呆れて爆死すらも望まぬほどに見慣れた光景になっているが、やはり朝から見ていると非リア男子高校生たちの精神健康にはよろしくない
「ねえ、紅くん」
「なに?」
「今日の紅くん、他の女のことみてる。どうして?もしかして、私以外の女のこと気にしてるの?」
茜は歩きながら紅に問う
確かに今日の紅は周辺の女子に視線を向けている
だが、やましいことはないので、紅はすぐに弁明する
「いや、なんか他の女子はカーディガンのやつ多いかなって。茜はまだブレザー着てるのにな」
「わたしは、紅くんとできるだけ同じ格好をしたいから。ほか、うちの高校、女子はカーディガンOKだけど、男子はブレザーの冬服か半袖の夏服しか無いじゃん?だから、紅くんはカーディガン買ってないだろうし、わたしもカーディガンは買ってないんだ」
「ああ。なるほどね!」
「気になるのは答えたから紅くんはもう他の女のことなんか見ちゃダメ!わたしだけを見て!あんな汚いゴミたちに絡まれたりでもしたら紅くんがおかしくなっちゃうから」
「そうだな。俺にとっての宝は茜だけだし、他のやつらはみんなゴミ同然だ。茜にとっての宝も俺だけだよな?」
「もちろんだよ!」
二人は愛情を確かめるように会話をして、通学路を進む
やがて、高校が見えてきて、二人は入る
校門を越えても手は繋いだままで、会話をしながら下駄箱に向かう
下駄箱に着くと手を離し、自分の上履きを取り出して履く
「あれ……?」
紅が上履きを履き終え、茜の方を見ると、なにやら困惑した表情で下駄箱を見ていた
「どうかしたの?」
「うん……。なんか、手紙が入ってるの」
「手紙?貸して」
紅は茜の前に立ち、下駄箱から手紙が入ってると思わしき封筒を取る
「……重さからさて、爆発物じゃなさそうだな」
封筒のなかに信管と火薬をいれて作る爆弾もこの世には存在し、日本国内でもそれらをつかった爆発物を利用した事件は起きているため、紅はそれらを警戒している
「開けてみるか」
封筒の中身はどうやらただの紙のようなので、封を破いて開ける
「……ラブレターか」
「え!?ラブレター!?」
「2年B組……佐藤とか言う男だ。知ってる?」
「ううん。紅くん以外の男のひとの名前なんて覚えてないからわかんない……」
「そうか……佐藤と言うやつか。残念だが、茜は俺のものだ……」
紅は呟き、軽く思考する
「紅くん?教室いこうよ」
「ん?ああ、そうだな。いこう」
「なあ、お前、2年B組の佐藤って知っているか?」
「佐藤?佐藤って言ったらあの、真面目野郎だろ?」
「そう、あいつが今日の昼休みから消えたらしいんだよ。噂だと、野球部の部室の裏で血まみれで見つかったらしいぜ」
「血まみれ!?なんだおい……まさか、リンチか?」
「犯人はわかっていないらしいけど、今は野球部の部室の辺りは近づけないらしい。さっき来てた救急車もたぶん佐藤を運んだんだろ。凶器は転がってた金属バットだってわかっているみたいだけど、やったやつは絶対やべぇよ」
「なんでそんなことがあったのに一斉下校になんなかったんだ?」
「学校が隠そうとしているのかもな。どうせ救急車を呼んだんだから警察も動くだろうし、情報の漏洩は避けられないだろうけど、少しでもうちの高校の評判を落とさないように必死なんだろ」
「いつ俺たちが殺されてもおかしくねぇのか……さっさと帰ろうぜ」
「そうだな」
放課後の学校で、二人の生徒が奇妙な噂話をしていた
理由も犯人も一切の不明の暴力事件
その話を聞いていた少年は静かに、思考する
紅は朝のホームルームの前に、茜の真似字で2年B組の佐藤を呼び出す文章をメモに書き、2限目の授業で佐藤が体育のため体育館に言っている間に佐藤の教室の机の中に入れた
呼び出した場所は、野球部の部室裏
昼休みにそこで話し合いたいと書いておいた
そして、昼休み
紅は野球部部室の近くの物陰に隠れて待機した
「茜さん!?いますか!?」
しばらくすると、佐藤は現れて茜を探し始めた
そこに、茜はいないのに——
「お前は、茜の彼氏に値しない」
紅は佐藤の後ろに静かに近づき、その手に握ったバットを振り下ろした
「……!」
後頭部を殴られて一瞬にして意識が途切れた佐藤を、何度も殴打した
「お前は!茜の彼氏に!値しない!俺だけが!茜の!彼氏だ!」
くぎりくぎり、何度も殴る
やがて血があたりに溢れ始め、紅はバットについた指紋を拭って、教室に戻った
「紅くん!どこに行ってたの!?見失っちゃって心配してたんだよ!」
「悪かったね。先生に呼ばれてただけだよ」
「そう。じゃ、お弁当食べよ!今日は紅くんの好きな物をいっぱい入れてきたんだよ!」
「おぉ……凄いな」
「ほら、これは紅くんの好きなホウレンソウの胡麻和えで、こっちは——」
茜は次々と説明していき、それを素直に聞く
「あ、ごめん!早く食べたかったよね!はい、お箸!」
「ありがとう」
茜と紅は一緒に弁当箱をつつき、食事をしていのた
その後、一台の救急車が学校に来た
恐らく、佐藤は死んだだろう
あれだけ殴られたら神経はとっくに壊れ、出血の量からも死んだと見て間違い無い
「ねぇねぇ、今日救急車が来てたみたいだけど、何かあったのかな?」
下校中に、茜が紅に今日あった事を聞く
「熱中症でも出たんじゃないのかな?茜も気をつけろよ?厚着してると危ないぞ?」
紅は一応、暴力については語らない事にした。嫌われるのもごめんである
「わたしはだいじょーぶ!それより、今日、どこか遊びにいかない?」
「いいけど、どこ行くんだ?」
唐突の話題変更で紅は戸惑いつつ、聞き返す
「昔よく行った工場の跡地行かない?あそこ、今も取り壊し進んでないみたいだから、面白いかも」
「あー。行ってみるか」
紅と茜は幼い頃から友達で、よく二人で遊んでいた
実は、紅がはじめて告白をした場所もその廃工場だったりする
茜色の夕暮れの下、少年少女は下校する
「昔のまんまだね」
「そうだな。懐かしいよ」
茜が率直な感想を呟き、紅がそれに答える
夕焼けが差し込む工場内は薄暗く、埃っぽかったが、昔のままの形であった
「ねぇ、紅くん」
「ん?なに?」
茜が表情を真剣なものにして、紅の目を見ながら名前を呼んだ
「幸せの赤い糸って知ってる……?」
「ああ、知ってるよ。小学校の頃によく聞いたな」
幸せの赤い糸
誰かと誰かの手の小指に、赤い糸を結ぶことで、その二人は永遠に愛し合える
小学生でも知っているような、メジャーなおとぎ話
「紅くん、手、出して」
「はい」
茜が何をやるかを悟った紅は自分の右手の小指を差し出す
「……」
茜がポケットのなかから赤い糸を取り出して、紅の小指に結んだ
「紅くん。わたしに結んで」
「うん」
茜に渡された糸のもう片方を手に取り、茜の小指に結びつける
「できたよ」
「これで……永遠に愛し合えるね」
二人は感動しながらその糸を眺める
数秒なのか数分なのか、時間が過ぎて、紅が言う
「でも、はずさないと生活できないよ。そろそろはずす?」
糸で結ばれていては色々と支障が起きる
「えー……でも、赤い糸が外れたり切れたりするのは不吉だよー。もしもそれで紅くんと愛せなくなっちゃったら……」
茜は外すことを拒み、どうにか考える
赤い糸を切らず、外さず、なおかつ今まで通りの生活を送れる方法
「あっ……」
そこで、茜の目に写るものがある
それは、ここが工場として機能していた時に活躍していた鉄板を裁断する、裁断機だ
「糸を切らなくても、私たちの小指を切り落とせばいいんだ」
「茜!?何を考えているんだ!?」
「一瞬の痛みで、永遠の幸せが手に入るんだよ?これだけやれば死ぬまで。ううん、天国にいってもずっと一緒だよ!」
「ずっと……一緒……」
紅は茜の提案を黙って吟味する
冷静に考えれば、確かに、茜の言う通り
この状況を打破するには自分の体を切るしかない
赤い糸を外せないのなら、自分の小指を切り落としてしまえば、小指同士は赤い糸に繋がれたままだ
「わかった……でも、動くかな」
紅と茜は互いの小指を寄せつつ裁断機の前に立ち、見てみる
この裁断機は旧式で、今の電動でカットするタイプでも、油圧式でもない
自分の足で目の前のペダルを踏み、テコの原理で刃が強く動き、ギロチンのように裁断する機械だ
「じゃあ……」
「うん……」
二人は静かに、手を伸ばし、刃が落ちて台に当たらないように入れられた切り込みの上に小指の根元がくるように調整する
「一緒に踏も」
「そうだな」
躊躇いはない
これで永遠に愛し合えるなら、二人にとって安い代償だ
「せーの」
ガチャン!!
「……!」
「……!」
機械が正常に動作する音がして、二人は声にならない悲鳴をあげた
裁断された材が行く位置には、細い糸で結ばれた二本の小指が落ちている
「痛かった……」
「いってぇな……」
骨ごと裁断したのだ。痛くないわけがない
赤い糸は混ざった二人の血で染まり、深紅の色に変わっていた
紅く、なっていた
「なぁ……茜」
紅が、茜に声をかける
「ん?どうしたの?紅くん」
痛みになれてきた茜は
「お前、俺のこと愛してるよな?」
「なにいってるの紅くん……?わたしのこと信じてないの?」
「いや……ほら、今日だって、お前の下駄箱にラブレター入ってただろ?お前が優しくしたんじゃないか?」
「そんな……わたしは今も紅くんのこと愛してるよ!だから赤い糸も結んで……」
と、そこで紅は自分自身の間違いに気付く
「あ……すまない……茜。俺……どうかしてた。そうだよな……」
紅は一日の負担や、痛みで正常な思考を失っている
「死ぬときまで愛し合えるはずなのに……」
「紅くん……」
と、そこで紅は考える
死ぬまで愛し合った状態でいるには——
「そうか、愛し合いながら死ねば良いんだな」
この先、愛し合いながら生きていけるか
これ以上茜に悪い虫がつくなら、耐えられないだろう
「茜。聞いてくれ」
紅は、決意を示す
「俺と一緒に、今すぐに死のう。愛し合ったまま、死のう」
「紅……くん……?」
戸惑いを見せる茜だが、すぐに表情は穏やかなものに変わる
「いいよ。紅くんと一緒に死ねるなら。わたしはそれで良い」
紅は返答を聞いてから周辺を見渡し、先ほどと同じ裁断機に目が止まる
鋼鉄でも、5ミリくらいなら切れる裁断機だ
恐らく、人間の首ならとばせるだろう
「茜」
紅は名前を呼び、茜を抱きしめた
手から流れる血が相手を汚すが、気にせず抱きしめる
「紅くん」
茜も抱き返す
二人はゆっくり台に横たわり、キスをした
「紅くん。愛しているよ」
「俺も、お前が大好きだ。茜」
二人はもう一度キスをして、ペダルを踏んだ
ガッチャン!
ゴトゴトッ
茜色の差し込む部屋
深紅の糸で繋がれた指と、少年と少女の頭部
血に染まった制服を着た頭の無い二人分の体が残された
こんにちは 永久院です
はじめましての方ははじめましてです
ちょっとグロテスクですが、書いてみました
ラブストーリーと呼ぶには綺麗で、病みすぎましたね
感想等、頂けましたら嬉しいです