第6話
真っ暗な教室。そこには学校の椅子と机があって、悲しそうに下を向いている小学4年生ぐらいの少年が座っている。ん…?貴紘?どうしてそんなところに…?こっちに来て一緒に遊ぼうよ。前みたいにボール遊びしよう。すると急に貴紘は席を立った。そして、教室の奥にある黒いブラックホールのようなところへ走っていく。待って。待って、貴紘。どこに行くの?僕は必死に問いかける。でも貴紘は振り向かず、黒い渦上の空間に向かって、全速力で走っていく。僕は声を張り上げて、貴紘を一生懸命に呼ぶ。貴紘っ!!待って!!貴紘が一瞬こちらを振り向いた。え…?タ…カ…?振り向いた顔は貴紘ではなく、タカだった。どうしてタカが…?そう問いかけると、タカはすごく悲しそうに笑って、何も言わずに黒い空間に飲み込まれていった。
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「政流くん、起きなさい。君を歓迎する準備が整ったよ」
僕は軽く揺さぶられたので、目を覚ました。いつのまにか1日が過ぎていたらしい。僕が完全に目を覚ますと、佐藤さんの顔が近くにあったので内心驚いたが、それ以上に驚いたことがある。なんと大きなダイニングテーブルの上には御馳走がたくさん置いてあり、住人は皆、クラッカーを手にしていたからだ。さらによく見ると、僕の好物ばかりだ。ハンバーグにグラタン、天ぷらまで。そして、ひと際自信あり気にニコニコ笑っているおばあさんが目に入った。佐藤さんはそのおばあさんのところへ行くと、僕をこちらに来るよう手招きした。僕は立ち上がり、すぐにおばあさんのところへ行った。
「この方がここの料理を全部作ってくれた、慶子さんだよ」
「あ、ありがとうございます!僕は政流って言います。よろしくお願いします」
そう言って僕が手を差し出すと、慶子さんは勢いよくがしっと掴み、力強く握手をすると
「政流くん!良い名前だねぇ。わたしゃ生前、小さな定食屋をしていてね。見た目は不格好だけれど味の保障はできるさ。たーんとお食べ」
と自信たっぷりに足を広げて、腰に腕まくりをしている手を当てて言った。
「あ、はい!あの、僕の好物ばかり作ってもらってすみません。でもどうして知っているんですか?」
「ああ、それはタカくんが持っていた資料を見たからさ。ほれ、あそこにいるよ」
と言ったので慶子さんの首の方を見ると、確かにタカがいた。コップを持っていて、チビチビと何かを飲んでいる。僕は慶子さんに軽くお辞儀をすると、タカのところへ行った。
「タカ。ありがとう」
「何が?」
「タカが持っているその資料に、僕の好物が載っているんだろう?わざわざ慶子さんに見せてくれて、ありがとうと言っているのさ」
「…別にいいさ」
そう言ってタカは僕にオレンジジュースが入ったコップを渡した。その時、僕はさっきの夢を思い出した。さっきのはいったい何だったんだ?あの夢は何かを意味しているのか?そう考えを巡らせているうちに、佐藤さんは右側の建物の屋上らしきところに行き、高々とコップを掲げて言った。
「政流くんがここの住人になったことを歓迎して!かんぱーいっ!」
すると他の住人たちはクラッカーを再び手に持ち、一斉に紐を引いた。パコンッパコンッと音があちこちに響き渡り、皆笑っていた。僕もこんなに盛大に祝ってもらったことが嬉しくて、笑った。その後僕はタカと一緒に住人1人ひとりのところへ行き、挨拶をした。僕は生前の話をたくさん聞いた。皆それぞれ生前は色々なことをしていて、床屋さんを営んでいた人もいれば、社長さんだった人もいた。僕は生前の話をたくさん聞いて廻った。中にはまだ幼い男の子や女の子もいた。でもその子たちも楽しそうに笑って、御馳走を嬉しそうに頬張っていた。僕たちもその子たちに混ざって、御馳走をたくさん食べた。タカはグラタンを一番多く口に運んでいた。どうやら好物らしい。僕もグラタンは一番好きな料理だった。慶子さんが作った料理はどれも美味しく、懐かしい味だった。もう腹にこれ以上入らないといったところまで食べて、僕たちは席を立ち、奥へ進んでいった。タカが案内をすると言ったからだ。
だんだんと奥の方へ行くと、もう食べ終わって昼寝をしている人がたくさんいた。こうして見ると、ここは時間がゆっくりと進んでいるような気がする。そして白いキッチンがあった。ああ、ここで慶子さんは調理をしたわけか。僕は納得して前を向くと、黒くて大きな液晶画面が目に入った。そうか、これが天国に入った時一番最初に見た黒い物体だったんだな。これはいったい何だろう。
「タカ。これは何だい?」
「ああ、これは雲テレビと言って、自分の過去や未来を、画面に向かって言えば見ることができるんだ。まぁ、死んだ人間が自分の未来を見ても悲しくなるばかりだけどね。でも君みたいな、まだ生き返る可能性のある人間は未来が見れないけれど」
「そうなんだ。他人の過去や未来も見ることができるの?」
「知らない。でも誰が好き好んで他人のものを見るんだ?」
「あ、そっか」
確かにそうだ。自分の娘や息子の未来を見る人はいるかもしれないけれど、他人のものを見る人はそういないだろう。また変な質問をしてしまった。
「次は図書館に行こうか」
そうタカが言い、僕たちはすぐ左隣にある図書館へと歩みを進めた。相変わらず暖かな光が降り注ぎ、天国を優しく照らしていた。
さて、歓迎パーティ。なんだかあっさりと終わってしまったような気がしますが、まぁいいでしょう(笑)そして政流が見た夢。重要なところです。