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第3話

とうとう着いたか。誰が座っている?なんだ、普通のおじさん……って、え!?え、え、ちょ、えぇ!?


「やっと来たか、小僧め。遅いんじゃ、待ちくたびれたわ」


僕は仰天した。目の前には絵本によく登場する、お馴染みの閻魔大王が椅子に座っていたからだ。絵本は幼稚園以来読んだことはないけれど、閻魔大王はだんとつで印象強かった。あんなに怖い人がいるのかと、幼いながら思ったものだ。


 明らかに閻魔大王はイライラしていた。ひじ掛けを指で何度も叩いたり、貧乏ゆすりもしていた。だから歩いている途中で、カタカタ音がしていたわけか。金棒が鬼の肩に当たる音だとすっかり思っていた。でも今考えるとおかしい。そんな音が出るはずもない。僕の頭は作動していないみたいだ。当たり前だ。絵本に出てくる鬼や閻魔大王が、立て続けに登場したからだ。驚かないわけがない。


 鬼はというと、そそくさと椅子の右側に行き、金棒を肩に担いだまま、まるで番をしているかのように立っていた。


「おい、何をぼ~っとしている!」


またも罵声が飛んできて、僕と鬼は背筋を伸ばした。


 閻魔大王が座っている椅子には、まるでスポットライトが当たっているみたいに、なぜか上から光が細く降り注いでいた。その周りの空間はというと、ほんのりと赤くて、大きな看板が立っている以外、何もなかった。看板には「()地獄行き 天国行き()」と達筆な字で書かれていた。毛筆だ。これは閻魔大王が書いたものなのか、鬼が書いたものなのか、わからなかった。


 急に閻魔大王の声が高らかに響いた。大きな口を開けて、鉛筆の長さぐらいの大きな歯を見せながら言った。文字を読むのか、いそいそと、丸いお盆ほどある眼鏡を付けた。


「では、始めるとしよう。小僧。お前は死んだ」


…は?死んだ?僕が?信じられない。あ、でも…待てよ。閻魔大王と鬼…。ここはもしかすると、死後の世界かもしれない。そうだ。間違いない。でもどうして?


 なぜ死後の世界に来てしまったのかを考えれば考えるほど、頭痛がひどくなった。何かキーワードとなる言葉を言ってくれないか、僕は期待した。


「交通事故で死んだそうだな?」


こう…つう…じこ?


 僕はやっと思い出した。そうだ。僕は交通事故で死んだんだ。あの日…


「あ、はい、たぶん…」


「えーこの資料にはお前が悪事を働かせた…とは書いていないな」


書いてあったら逆に困る。悪事なんてしたことがない。妹とたまに喧嘩をして少しひどいことを言ってしまったことはあるけれど、それは悪事にはならないらしい。でももっと卑劣なことを言い、妹を傷つけてしまっていたら、きっとその行いは悪事になっている。僕はそう思った。


「お前は不幸中の幸いじゃ。天国に行ってもらうことになる」


内心ほっとしていた。もうこの状況を把握できている僕にとって地獄行きにならなかったのは、本当に安堵できる事柄だった。でも悪事を働かせていたらどうなっていたんだろう。地獄行きなのはわかったが、いったいそこで何をするんだ?もしかすると絵本通り、釜茹で!?針山を歩かなければならない!?しかも死んでいるのに、痛みを感じるというまさに地獄…。


「あのー」


「なんだ、小僧」


きっと資料に僕の名前が書いてあるはずだが、小僧というのは変わらないみたいだ。


「もし僕が悪事を働かせていたら、どうなっていたんですか」


しばらくの沈黙。大きな口がゆっくりと開いて言った。


「地獄に行って、働くんだ」


「働く?」


「そうだ」


見当していたこととはまったく違っていた。意外と絵本通りにはいかないものだな。もっと詳しいことを聞きたかったけれど、遠くからパタパタと羽を動かすような音が聞こえてきた。何の音か気になり、その音のする方に首を向けた。


「おお、来たか」


「誰です?」


「お前を担当する天使だ。おーい、タカ!こっちに来い!」


「はい」


小さく天使が返事をした。するとパタパタという音がだんだん近づき、その天使は閻魔大王の左側に着地した。しばらく2人が話をした後、閻魔大王は立ち上がり、天使は僕の傍までやってきた。僕より少しばかり背が小さいけれど、雰囲気は大人びていた。


「タカ。お前は今日からそいつの担当をすることになる。よろしくたのむぞ」


「はい。わかりました」


タカは軽くお辞儀をすると、僕の方に顔を向けた。顔は僕よりも白く、透明感があった。外見はというと、白いコートと白い長ズボンを履いていて、頭にも色が白い帽子を被っている。さらに、靴も白い。帽子から出ている前髪の黒色と、顔と袖から少し覗かせている手の肌色以外は全部白色なので、人間が白い布を被っているかのようだった。僕が想像していた天使とは、大きくかけ離れていた。


「えっと、僕は政流(まさる)。よろしく、タカ…くん」


「あはは。タカでいいよ」


その2言しか話していないのに、周りを見るといつのまにか閻魔大王と鬼はいなくなっていた。ただ椅子がぽつんと置いてあるだけ。相変わらず空間内は淡い赤色だったが、僕たちの右側には、自ら光を放っている階段が、上にどこまでもどこまでも続いていた。淡い赤色の空間の上には空が広がっていて、雲が所々に浮いている。階段からは雲が透けて見えていた。どうやらこの階段を上って天国に行くらしい。体力には自信があるので、さほど嫌だなとは思わなかった。


「じゃあ、行こうか」


「うん」


タカが僕の少し前を歩くことになり、階段を上がり始めた。天国ってどういうところなんだろうと、胸を弾ませながら。

やっと閻魔大王と天使の登場です!閻魔大王は鬼と同様、外見は怖くても心は優しいという設定です。この2人(?)はいいキャラしていると思います(笑)タカくん!私のお気に入りの子です。これからは政流とタカがメインですね。感想はお気軽にどうぞ!

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