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第13話

「おしまい」


隣を見やると、娘は気持ちよさそうに寝息を立てながら、ぐっすりと眠ってしまっていた。娘の髪をサラリと掻き上げる。こうなることは大体想像していたが、最後まで話したことにだいぶ満足している自分を感じていた。この話をするのは、もう一生ないだろう。


「あなた、お友達が待ちくたびれているわよ」


妻は私に苦笑しながら、キッチンからひょっこりと顔を出す。そうだった、いけないいけない……。


 僕は頷くと、ダイニングに向かった。一つのテーブルを囲むようにして、四つの椅子が並べられている。そして、その中の一つの椅子に、背広姿の親友が僕に背を向けるような形で座っており、酒のつまみをちょびちょびと口に運んでいる。僕は向かい側の椅子に座ると、同じようにしてつまみをひょいと掴んで口にした。


 親友は明らかに不機嫌そうな顔をこちらに向けて、


「まったく。親友が来ているというのに……本当に親馬鹿だね、君は」


と、憎まれ口を叩いた。


「ごめん。あのときの話を娘に聞かせていたんだ。大事な思い出だからさ、どうしても話しておきたくって」


そう僕が言うと、貴紘は少し驚き、しばらくしてからふっとあの頃と変わらない笑顔で微笑んだ。


 貴紘は天国で試験に合格し、再会を果たすと、僕と一緒の中学に通うことになり、登下校を共にできるほどの距離に住むことになった。家に遊びに行ったとき、貴紘の母親を見たことがある。やはり、前の母親ではなかったものの、とても優しそうな人で、僕は内心すごくほっとしていたのを未だに覚えている。


 高校も同じところを選択して、見事二人とも合格することができ、登下校を共にした。思春期だった僕らは、お互い恋の相談に乗ったり、好きな異性のことも隠さずに何でも話し合った。不思議なことに、好きになる異性は一度も一緒になったことがなかった。もし同じ相手を好きになっていたら、どうしていたんだろう。そう考えても、喧嘩するぐらいで、親友を止めることなんてこれっぽっちも考えられなかった。それぐらい二人はお互いを理解し合い、信頼していた。


 大学はさすがに進路や夢などで同じ大学を受けることはなかったけれど、僕と貴紘は毎日のように連絡を取り合った。今、貴紘は大学の研究室で働き、僕はIT関係の仕事をしている。


「あ、ビール持ってくるよ」


僕はそう言い、冷蔵庫から缶ビールを二本取り出して、一つを貴紘に渡した。冷え切ったビールは、指の体温を素早く奪っていく。


「掛け声、何にしようか」


僕が言うと、貴紘は得意気にニヤリと口角を上げた。君、わかんないの?とでも言っているかのような挑発的な顔が視界に入る。あぁ、わかったよ。あれだろ?


「じゃあ、言うとするか」


僕と貴紘は息を吸い込むと、缶ビールを大きく振りかぶって天井に向け、


「Heaven!!」


と言いながら、カツンっとお互いの缶をぶつけ合った。そして、缶をプシュリっという音と共に勢いよく開け、ゴクゴクと喉を鳴らしながら一気に飲み干した。口が泡だらけになっている貴紘が可笑しくてたまらず、僕は大声で笑った。人のこと言えないぞ、と貴紘は大人げなく僕に指を指して腹を抱え、椅子を揺すりながら笑った。


 電球の光と僕らの顔が缶ビールに反射し、キラキラと煌く。政流のデスクに大切そうに置かれているカードが、一瞬七色に発光した。


 僕の大切な思い出の場所、天国。それはどこか寂しくて、儚く、けれど温かかった。僕の大事なお話は、こうして静かに幕を閉じられたのだった。

とうとう完結してしまいました!あぁほんと寂しい、なんだか泣きそうです(泣)ここまで読んでくれた方々、本当にありがとうございました。政流パパのお話、どうだったでしょうか……?この物語を読んで、何か心に残るものや、心が温まったり、安らいで頂けていれば幸いです。

またどこかでお会いできれば嬉しい限りです。

ありがとうございました!

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