第11話
ピーンポーンパーンポーン
急に、デパートで流れるあの例の機械音が辺りに響き渡った。誰か迷子にでもなったのかと僕は瞬時に思った。妹が僕とデパートに行ったとき一度だけ迷子になり、迷子センターまで走った記憶がまだ鮮明に残っていたからだ。あのときの僕の焦り様は尋常じゃなかった。エスカレーターでこけた傷は、未だに僕の膝に嘲笑うかのように居座っている。
「あーあー……」
僕の予想に反して、若い女性の声ではなく、しゃがれた声が耳に入った。ジリジリと雑音もかなり聞こえてくる。その声の主は息を吸い込むと、何回も同じ言葉を繰り返した。
「小僧、おい、小僧。……え?小僧じゃわからんて?黙っておれ、鬼!わしに指図するでない!!」
あれ、この声ってもしかすると。鬼が後ろで意見を言っているのだとすれば、間違いなく閻魔大王だと思った。騒がしく鬼と閻魔大王が何か言い合っている。
しばらくして閻魔大王の大きなため息が聞こえると、咳払いをした後わざとらしい声が響いた。
「こぞ……いや、政流くん。今すぐこちらに来なさい。もう一度言う。今すぐこちらに来なさい」
それだけ言うと、ブチっと音がして雑音も何も聞こえなくなった。天国の住人が心配そうに僕を見ている。僕は不安になって貴紘の方を向くと、貴紘は嬉しそうに、でもどこか寂しそうに微笑んでいた。僕はその貴紘の微笑みだけで、この後何が起こるか悟った。
「行こうか」
貴紘は静かにそう言うと、いつの間にか大きく開かれた門に向かって歩き始めた。僕は慌てて貴紘の後を追う。
僕は門を目の前にすると、不安そうに僕の姿を見ている住人全員に向かって、頭を深々と下げながら言った。
「少しの間でしたが……ありがとうございました!」
そう言った瞬間、クラッカーがパコンパコンと音と共に弾けた。僕は訳が分からず、その場に立ち尽くす。そんな僕の元へ佐藤さんが嬉しそうにニコニコとしながら歩いてきた。先ほどの不安そうな顔は微塵も感じられなかった。
「あ、あの……」
僕は戸惑ったまま佐藤さんに言った。すると、佐藤さんは悪戯が成功した少年のように笑いながら言った。
「政流くん、おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
僕は再び頭を深々と下げた。
「政流くんに会えなくなるのは寂しいけれど……どうか長生きしてほしい。もう若いうちに、この世界に来てはいけないよ」
「はい。気を付けます」
「では、そろそろ行くといい。タカが待ちくたびれておるだろう。政流くん……元気でな」
そう言うと、佐藤さんは僕の肩にポンッと触れた。
僕は住人みんなに大きく手を振ると、門へ歩を進めた。手を振るときに見えた天国は、白い光を全面的に受けて、住人を明るく照らし出していた。天国は大きくて、温かい場所だったなと僕は思った。半ズボンに入っているカードはキラキラと七色に輝いていた。
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僕と貴紘は閻魔大王のところに着くと
「待ちくたびれたわ」
とブツブツ小言を言って椅子に座っている閻魔大王の前に立った。閻魔大王は背が高く、座っている閻魔大王の肩ぐらいまでしか僕たちの身長は届かなかった。
「まぁ小僧。ここでこの世界とはお別れだ。後はわしがあっちの世界にお前を吹っ飛ばすだけじゃ。あっちの世界の準備はもう整えておいたからな」
「ありがとうございます」
僕は閻魔大王に礼を言った。
「小僧、そこに寝転がれ」
「ここ……ですか?」
閻魔大王が指し示している場所は、明らかにほんのりと赤い床だった。
僕はいそいそと寝転がると、貴紘が僕の元へ膝を着いて言った。
「政流」
貴紘の目は潤んでいて、今すぐにでも泣きそうだった。
「大丈夫。また会えるじゃないか」
と僕が貴紘を慰めるように優しく言うと、貴紘は
「うん」
と言って嬉しそうにふわっと微笑んだ。
「では始めるとしよう」
閻魔大王は大きくそう言うと、僕の元へ来て、何か唱え始めた。そうして最後に
「はぁっ……!!」
と一声発すると、意識がぼんやりとして、やがてプツンと何も見えなくなり、聞こえなくなった。
船酔いと同じ感覚に襲われた後、頭が激しく痛んだ。貴紘の顔が脳裏にちらついたと同時に、僕の意識は途絶えたのだった。
この世界ともお別れ。長かったような、短かったような。
天国の世界観は完全に私のオリジナルですが、書いてるうちに本当にこんな世界だったら面白いなとついつい思ってしまいます(笑)
あ、この話で完結ではないのでご注意!(笑)




