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第10話

僕は泣き終わり、貴紘は泣き叫び終えた後、僕らは先ほどいた個室がある建物の屋上へと移動した。佐藤さんと慶子さんはおらず、いるのは僕たち二人だけだった。屋上はごく簡単な作りになっており、正方形の床の周りに、縦に柵が張り巡らされているだけだった。もちろん柵の上部には幼い子供が落ちないよう、横に柵が張ってある。僕らは柵から両足を出し、足を空中にぶらつかせる格好になって座った。僕は光でほんのり暖まっている床に手を付き、貴紘は柵を握った。貴紘の頬には涙の跡がくっきりと残っており、目は少し赤かった。


「タカは…、貴紘だったんだね」


貴紘は小さく俯きながら頷いた。風がそよそよと貴紘の前髪を揺らしている。


「僕のこと…いつ政流だって知った?」


貴紘は少し顔を上げた。


「…閻魔大王に渡された資料を見た瞬間に。政流って君の名前が書いてあって、まさかとは思ったんだ。でもこんな珍しい名前、君しかいないって。それから閻魔大王に呼ばれたからそこに行くと、見覚えがある君の顔をした少年が立っていたんだ。この世界に来てしまったことを信じたくなかったけれど、あぁやっぱり政流なんだって思ったよ」


貴紘は僕の顔を見て、最終的に政流だと認識した。けれど僕は、あのときタカは貴紘とはまったく異なった、別人だと思っていた。どうして僕の脳内で、タカは貴紘だとイコール付けされなかったか。それは小学校で一緒に過ごしていたとき僕に見せた、あの元気で明るい顔ではなかったからだ。雰囲気もあのときはまだ幼く無邪気で、今のように大人びてはいなかった。


 僕は一番引っかかっていることを聞くことにした。風が少し強く吹き付ける。


「貴紘…僕に何か嘘付いていることない?」


貴紘が時々沈黙していたことがどうも気にかかって仕方がなかった。風がビュっと一瞬強く吹き付け、僕は反動で目を閉じた。目を開けると、貴紘の被っていた帽子がヒラヒラと空中を泳いでいるのが見えた。貴紘は目を大きく見開き、帽子なんか眼中にない様子だった。貴紘はゆっくりと口を開くと語り始めた。風は二人の頬を心地よく撫でている。


「嘘…付いたよ。どうしてこの世界に来たかっていうことに関して。僕は病気で死んでしまったわけじゃない。…僕ね、いじめられている男の子と引っ越してきたとき一番最初に喋ったんだ。無視されたり、陰口を言われているような子だったけれど、僕と話が合って本当に面白い子だと思ったんだ。僕はその子と友達になって、いじめについてどうにかしてくれないかって相談を受けるようになった」


そうだ、貴紘はそういう偏見を何も持たない、優しい心を持つ人間だ。僕は頷きながら話を聞いていた。


「どうにかしなくちゃいけないって僕は真剣に思って、とうとう言うことにした。ある日そのいじめを始めた大柄な男の子に僕は言ったんだ。もうやめろって。その一言だけでその子は理解したらしくて、いじめられていた男の子の胸ぐらを突然掴んで、こう言うんだ。お前、あいつに何か言えって助けを求めたか?って。大きな声だった。胸ぐらを掴まれていた男の子は今にも消え入りそうな声で、何も言ってない、そいつが勝手に言っただけだって言った。僕は驚いた。あれは勘違いだったのかとも思ったし、なぜか裏切られた感じがした」


僕にはそのような経験がないけれど、なぜか貴紘の気持ちがよくわかった。友達と思っていた子にこう言われてしまったら、誰でも驚愕するし、相当なショックを受けるだろう。


 貴紘の声は微かに震えている。


「けれど大柄な男の子はその子の胸ぐらから手を離すと、何事もなかったかのように椅子に座った。いじめられていた男の子は自分へのいじめが終わったと安心しきった様子で僕に駆け寄ろうとした。すると急に大柄な男の子は僕とその子の間に瞬時に立ちふさがり、その子に耳打ちをした。その子はおずおずと首を縦に振った。その日から僕へのいじめが始まったんだ。その子とはもう一度も口を聞いていない。話しかけようとしても避けるからね」


貴紘の目には涙が溜まっていた。今にも零れ落ちそうだ。


「僕は…僕は耐えられなかったんだ。あの子とは友達だと思っていた。信用していたんだよ。それなのに、それなのに…。僕、楽になりたかったんだ。あのような苦痛から逃げ出したかったんだ」


「貴紘、それって…」


「あぁ、僕は自殺したんだ」


そう言った瞬間、貴紘の目から涙が零れ落ちた。涙は頬をゆっくりと濡らしていく。その伝う温かな水は、光に反射してきらめいていた。僕の目からも涙が零れ落ち、半ズボンに灰色の染みを転々と付けた。僕は貴紘に正面から抱きついて言った。


「貴紘は悪いことなんて一つもしていない。それなのにこんな目に合わせた奴らが僕は本当に憎い。でもどうしようもできない。貴紘が負った心の傷は僕には大抵理解することができないほど、ひどくつらいものだっただろう。でもこれだけは言わせてほしい。僕は貴紘を信用している。親友だと思っている。とても大切な存在だ」


貴紘は大声で泣いた。わーんわーんと嗚咽混じりの泣き声で。僕は貴紘が泣きやむまで優しく抱きしめていた。



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貴紘は泣きやむと僕に言った。


「僕、今年は試験を受けると言っただろう?あれは政流とこの世界で会ってから決めたことなんだ。生き返って、政流と同じ中学に行きたいから。だから受験申込用紙には、政流が現在通っている中学校名を書いておいた。もし試験に受かったら、この中学に行けるかもしれない」


「それはいいね。絶対受かってほしい」


「うん。それでさ、僕たち二人だけの合言葉を決めて、再会を果たすことができたときに、決めた合言葉をお互い発するっていうのはどうかな」


「それはいい考えだね。何にしようか。うーん」


合言葉は何にしよう。二人に共通する単語がいいかもしれない。本はどうだろう?いや、少し短すぎるか。グラタン?二人の共通した好物だが、これもなかなか。天国?これもなんだか…。あ、待てよ。天国って英語で何て言うんだ?


「ねぇ貴紘。天国って英語で何て言うんだ?」


「えっと…確か<Heaven>だったような」


「それだ!合言葉は<Heaven>にしよう!」


僕と貴紘は同時に大きく頷いた。







貴紘がなぜこの世界に来てしまったか、とうとう明らかになりましたね。本当にこの二人は良い親友だと思います。合言葉って素敵な響きで、どこか秘密めいた印象を漂わせていてワクワクしますね。

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