第8話 『それ、星乃みらいやろ?』
月曜日。
教室の空気が、なんか違う。
みらい――本名:花咲みらいは、机に座った瞬間わかった。
ヒソヒソ声。
視線。
スマホを隠す動き。
「……気のせい、よね」
ばってん違った。
昼休み。
後ろの席の女子が、小声で言う。
「ねぇ、これ見て」
スマホ画面。
そこに映っとるのは――
星乃みらい。
切り抜き動画。
タイトル。
【炎上中VTuberの正体、学生説?】
血の気が引く。
「……」
隣の子が振り向く。
「ねぇ花咲さん」
笑っとるけど、目が笑っとらん。
「それ、星乃みらいやろ?」
世界が止まる。
「……違うよ」
反射的に出た言葉。
ばってん声が震えとる。
「声、同じやん」
「博多弁も」
「モノマネも」
逃げ道が、どんどん塞がる。
そのとき――
ガタン。
椅子の音。
前の席の男子が振り向く。
「別によくね?」
空気が止まる。
「VTuberやろ?犯罪じゃないやん」
教室が静まる。
「炎上って言っても、ネットの話やろ」
みらいは顔を上げる。
「……」
「俺、普通に面白いと思ったけど」
一瞬の沈黙。
ヒソヒソ声が止まる。
女子は肩をすくめる。
「別に責めてないし」
そう言って話題を変える。
嵐は、一旦過ぎた。
ばってん。
完全に、バレた。
放課後。
みらいは一人、帰り道。
心臓がまだ速い。
「終わった……」
もう、学校でも普通には戻れん。
スマホが震える。
通知。
例の掲示板。
【星乃みらい、リアル特定か】
手が震える。
「やめて……」
スクロール。
住所は出とらん。
学校名も出とらん。
ばってん時間の問題。
涙が溢れる。
「うち、やっぱ甘かったと?」
夢見すぎとった?
バーチャルとリアルは別やと思っとった。
でも違う。
繋がっとる。
全部。
その夜。
配信時間。
開始ボタンの前。
手が止まる。
“今日は休む?”
言い訳はいくらでもできる。
でも。
「……逃げたら、終わる」
LIVE
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増えとる。
「こんみらーい」
少し間。
「今日ね、学校でバレたっぽい」
コメントが一瞬止まる。
《え》
《まじ?》
《大丈夫?》
「怖かった」
正直に言う。
「でもね」
深呼吸。
「うち、悪いことしとらん」
コメントがゆっくり流れる。
「VTuberしよるだけ」
声が少し強くなる。
「好きで始めたこと、隠れてコソコソするの、もう嫌や」
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「バーチャルやけん、うちはうちやろ?」
一瞬の静寂。
そして。
《かっこいい》
《推しててよかった》
《強くなったな》
涙がにじむ。
「強くなったんやなくて」
小さく笑う。
「強くなるしかなかっただけ」
コメント欄に、見慣れた名前。
初期ファン。
炎上後も残った人たち。
その中に――
天音ルカの名前。
スパチャ。
【天音ルカ:堂々としてる後輩、好きだよ】
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一気に跳ね上がる。
コメント爆速。
《ルカきた》
《公式認定》
《最強の後ろ盾》
みらいは、画面を見つめる。
「……先輩、ずるい」
笑いながら泣く。
「うち、もう逃げん」
炎上も、身バレも、怖さも。
全部抱えて。
「バーチャル界に愛と笑いば届けるけん」
声が、はっきり出る。
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数字が、恐怖やなくて――
覚悟に変わる。
配信終了後。
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1万人、超えた。
炎上も。
身バレも。
全部越えて。
でも。
スマホに、見知らぬ番号からの着信。
留守電。
無言。
ただ、呼吸音だけ。
みらいの背中に、冷たい汗。
光は、強くなった。
その分――
闇も、近づいとる。




