第6話 『15万人とか、聞いてないっちゃけど…!』
金曜日、21時40分。
みらいの部屋。
手が、ずっと震えとる。
登録者数:1,102 → 1,386(コラボ告知後)
「増えすぎやろ……」
机の上にはメモ。
・ゆっくり話す
・被せん
・無理にボケん
・深呼吸
「深呼吸……深呼吸……」
でも息が浅い。
スマホに通知。
天音ルカからメッセージ。
『もうすぐやね。
大丈夫、楽しもう。』
その一言で、少しだけ肩の力が抜ける。
21時59分。
ルカの枠が始まる。
同接:12,000
「……は?」
10秒後。
同接:18,000
「……は??」
開始1分。
同接:25,000
「15万登録者の“枠”って、こういうことなん……?」
みらいの喉がカラカラになる。
Discord通話が繋がる音。
ルカの明るい声。
「みらいちゃん、聞こえる?」
「は、はいっ!聞こえとります!」
声、裏返る。
本番。
ルカの配信画面。
「今日はね〜最近話題の博多女子VTuber、星乃みらいちゃん呼んでます!」
コメント爆速。
《例の子!?》
《バズってた子》
《新人?》
《かわいい》
「みらいちゃん、自己紹介どうぞ!」
心臓が耳の横で鳴る。
同接:32,000
「……こ、こんみらーいっ!
星乃みらいですっ!
バーチャル界に愛と笑いば届けるけん、よろしくお願いします!」
一瞬、静まる。
次の瞬間――
《声かわいい》
《博多弁いい》
《緊張してるw》
《守りたい》
みらい、ちょっと息が戻る。
ルカが笑う。
「緊張しとる?」
「バレとります?」
「バレバレ」
コメント爆笑。
同接:38,000
「え、増えとる……」
頭がクラクラする。
トーク開始。
ルカがうまく振ってくれる。
「みらいちゃん、なんでVTuber始めたと?」
一瞬、間。
でも今回は逃げん。
「誰かの元気になりたかったと」
コメントが少し落ち着く。
「うちが救われた夜があって。
だから、うちも誰かの“今日の救い”になれたらって」
静かな空気。
《いい子》
《泣ける》
《推す》
同接:45,000
数字がもう現実やない。
でもその時――
トラブル。
マイクにノイズ。
「……ザザッ」
音が割れる。
コメントが荒れる。
《音やば》
《聞こえん》
《事故?》
頭が真っ白。
“やっぱ無理やった”
冷や汗が背中を流れる。
その時、ルカの声。
「大丈夫大丈夫、ちょっと待ってね〜」
落ち着いたトーン。
「みらいちゃん、焦らんで」
その一言。
呼吸が戻る。
みらいはマイクを調整。
「ご、ごめんなさいっ!」
コメント
《新人あるある》
《頑張れ》
《可愛いから許す》
ルカが笑う。
「こういうのもライブ感よね」
場が和む。
同接:47,000
ピンチは、乗り越えた。
後半。
ルカが言う。
「じゃあさ、みらいちゃんの例のモノマネ、ここでやってよ」
「え!?ここで!?」
《きた》
《例のやつ》
《伝説再び》
喉が乾く。
でも。
“逃げん”
深呼吸。
担任の先生モノマネ。
「花咲〜また噛むぞ〜」
一瞬の沈黙。
そして――
コメント爆発。
《似てるww》
《クセ強》
《天才》
《新人でこれ?》
ルカも爆笑。
「これ伸びるわ」
同接:52,000
みらい、涙目。
「うそやろ……」
コラボ終了。
ルカが締める。
「みらいちゃん、これから楽しみやね」
「はい。うち、もっと強くなります」
配信終了
部屋は、静まり返る。
ばってん心臓はまだ暴れとる。
YouTubeを開く。
登録者数:1,386 → 5,902
「……は?」
更新。
6,440
「……え?」
涙が、ぽろぽろ落ちる。
怖かった。
逃げたかった。
でも――
「逃げんでよかった」
スマホが震える。
ルカからDM。
『今日よかったよ。
そのままでいいって言ったやろ?』
みらいは、静かに笑う。
「……そのままで、ここまで来れた」
ばってん。
急激に増えた登録者。
急に大きくなった視線。
光が強くなった分、
影もまた――濃くなる。
その夜。
とある掲示板に、新しいスレッドが立つ。
【新人博多VTuber、急に売れすぎ問題】
みらいは、まだ知らん。
本当の試練は――これからやけん。




