第4話 『強くなりたかって言ったやん、うち』
月曜日の朝。
教室のざわめきが、いつもより大きく聞こえる。
みらいは机に座りながら、スマホを握っとった。
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「……まだ増えとる」
あの切り抜き動画は、ついに5万再生を超えとった。
コメント欄は賑やか。
《博多弁かわいすぎ》
《この子伸びる》
《推し見つけた》
ばってん、その下。
《今だけ》
《典型的な一発屋》
《声無理》
スクロールする指が止まらん。
「……見んどけばよかった」
胸がざわざわする。
「花咲ー」
急に後ろから声。
心臓が跳ねる。
振り向くと、クラスの女子二人。
「昨日さ、TikTokで博多弁の子流れてきたんやけど」
みらいの喉がカラカラになる。
「めっちゃ似とる人おったよ?」
笑いながらスマホを見せられる。
画面には――
自分。
星乃みらい☆
音声つき。
世界が止まる。
「……似とるだけやない?」
必死に笑う。
手のひら、汗びっしょり。
「ふーん。まあ、花咲も博多弁やもんね」
そのまま会話は流れた。
ばってん。
みらいの足は、ずっと震えとった。
夜。
LIVE
「こんみらーい……」
声が少し固い。
同接:56
「……多っ」
コメントが一気に流れる。
《待ってた》
《昨日バズってた子や》
《有名人》
有名人。
その言葉が、やけに重たい。
雑談を始める。
笑う。
モノマネもする。
ばってん、頭の片隅にはずっと不安。
その時。
コメント欄が急に荒れる。
《バズって調子乗ってね?》
《昨日よりつまらん》
《声作ってる感ある》
胸がギュッてなる。
同接:63
増えとる。
でも、怖い。
《どうせすぐ消える》
《本物の実力じゃない》
息が浅くなる。
「……」
一瞬、言葉が止まる。
コメント欄がざわつく。
《大丈夫?》
《無視しよ》
みらいは、マイクを握る。
「正直ね」
声が少し震える。
「怖かよ」
画面の向こう、60人以上。
「急に人増えて、期待されて、
ちょっとでも失敗したら“やっぱり”って言われるの」
コメントが静まる。
「うち、強くなりたかって言ったやん」
目がうるむ。
「でもまだ、そんな強くなか」
数秒の沈黙。
心臓の音だけが響く。
その時――
《そのままでいい》
《無理せんで》
《応援してる》
《調子乗ってもいいやん、頑張った証拠やん》
涙がぽろっと落ちる。
「……ありがと」
鼻をすすりながら笑う。
「うちね、消えんけん」
アバターがにこっと笑う。
「一発屋って言われても、
二発目も三発目も撃つけん」
コメント爆速。
《それでこそ》
《かっこいい》
《推す》
同接:78
「え、なんで増えると!?」
泣き笑い。
震えながら、でも前を向いとる。
「うち、続けるけん」
配信終了。
OFF
部屋は静か。
ばってん、心は嵐のあとみたい。
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「……600いきそう」
嬉しい。
でも、それ以上に――
「逃げんでよかった」
スマホを胸に抱く。
今日、少しだけ。
昨日より強くなった気がした。
でも。
通知が鳴る。
――新着DM
差出人:???
「……誰?」
画面を開く。
そこに書かれとった名前に、
みらいの目が大きく見開かれる。




