第2章 第4話『追い風じゃ、足りない』
みらいの世界ソロデビュー成功。
ニュースは連日その話題。
《Emotional Star from Japan》
《Mirai’s Global Rise》
数字も結果も出した。
Lumière登録者も伸びとる。
でも――
レイは、静かにモニターを閉じた。
「……足りない」
数日前。
レイの元に届いたメール。
海外ボーカル専門レーベル。
件名:
“Solo Vocal Project Proposal”
条件。
・高難度楽曲中心
・完全歌唱力勝負
・世界的作曲陣
・ユニット活動は“調整可”
調整可。
曖昧。
つまり、優先はソロ。
みらいとは違うタイプの誘い。
“感情”ではなく。
“技術”。
世界はレイの“完成度”に目を付けた。
スタジオ。
レイは一人、マイク前。
海外レビュー記事を思い出す。
《Technically unstable》
みらいのこと。
でも同時に。
《Rei’s tone is impressive but lacks spotlight》
刺さる。
スポットライト不足。
隣にいると、光は当たる。
でも。
中心ではない。
レイは、歌う。
難曲。
超高音。
正確無比。
録音終了。
エンジニアが言う。
「完璧です」
でも。
レイはヘッドホンを外し、首を振る。
「つまらない」
空気が凍る。
“完璧”なのに。
何が足りない?
レイは、椅子に座り込む。
みらいのアカペラを思い出す。
少しかすれた声。
完璧じゃない。
でも。
観客が動いた。
「……感情か」
でも自分は。
感情を表に出すのが苦手。
弱さを見せるのが、怖い。
夜。
屋上。
レイはみらいを呼び出す。
「契約、来た」
みらい、目を見開く。
「え」
「ソロ」
沈黙。
風が強い。
みらいは少し笑う。
「さすがやん」
無理してない。
本気で嬉しそう。
それが逆に刺さる。
レイは問う。
「もし私が本格的に外出たら」
「うちは応援する」
即答。
迷いなし。
レイの胸が少し痛む。
「なんでそんな強いの」
みらいは首を傾げる。
「強くないよ」
空を見上げる。
「怖いもん」
本音。
「でも三人やったら戻る場所あるやん」
その言葉。
レイの心に落ちる。
戻る場所。
じゃあ。
挑戦しても壊れない?
レイは、初めて少しだけ笑う。
「……ずるい」
翌日。
レイ、単独配信。
珍しい。
タイトル:
「歌う理由」
同接:18万 → 27万。
静かに語る。
「私は完璧を目指してきた」
チャットが静まる。
「でも最近、気づいた」
間。
「完璧は、刺さらないこともある」
そして。
アカペラ。
感情むき出し。
声が、少し揺れる。
わざとじゃない。
本音。
歌い終わる。
沈黙。
チャット爆発。
《Rei crying??》
《I’ve never heard her like this》
《She’s evolving》
同接:34万。
自己最高。
レイは息を整える。
「私も、世界で戦う」
静かに宣言。
翌日。
レイ、ソロ契約締結。
条件。
・ユニット活動最優先明記。
みらいと同じ道を選んだ。
でも。
ここからは。
“誰が上か”ではなく。
“誰が先に突き抜けるか”。
静かな火花。
Lumièreは強くなる。
その代わり。
競争も、激しくなる。




