第10話 『個人か、所属か』
件名:
【正式オファーのご相談】
差出人:大手VTuber事務所「星彩プロダクション」
みらいは、何度もメールを読み返す。
・所属契約
・サポート体制完備
・セキュリティ強化
・案件紹介
・3D化確約
喉が鳴る。
「……すご」
登録者数:18,320
個人勢としては、急成長。
でも。
あの封筒。
あの無言電話。
怖さは、まだ消えとらん。
「守られる環境……」
正直、欲しい。
夜。
非公開通話。
相手は――天音ルカ。
「どう思いますか」
みらいの声は、いつもより真面目。
ルカは少し沈黙する。
「正解はないよ」
「……」
「でもね」
声が優しい。
「みらいちゃんは、なんで始めた?」
原点。
思い出す。
暗い夜。
救われた画面の光。
「誰かの元気になりたかった」
「じゃあ、そのために一番いい環境は?」
考える。
事務所に入れば、守られる。
でも。
ルールも増える。
自由は減る。
案件中心になる可能性。
キャラ方向性の調整。
「……うち、わがまま言っていいですか」
「いいよ」
「うち、今のままが好き」
沈黙。
「でも怖い」
本音。
ルカが小さく笑う。
「両方やね」
「……はい」
「じゃあさ」
少し声のトーンが変わる。
「条件交渉してみたら?」
「え?」
「全部受け入れる必要ないやろ」
頭がハッとする。
そうか。
“入るか、入らないか”だけやない。
“どう入るか”もある。
翌日。
事務所とのオンライン面談。
画面越しのマネージャー。
「ぜひ、専属契約を」
みらいは、深呼吸する。
「条件、相談してもよかですか」
マネージャーが少し驚く。
「もちろん」
みらいは言う。
「今の活動スタイル、変えたくなかです」
「博多弁も、そのまま」
「配信頻度も、うちが決めたい」
静かな空気。
普通の新人なら、言わん。
でも、今は違う。
「あと」
一瞬ためらう。
「リスナーとの距離感、大事にしたい」
守られる代わりに、魂は売らん。
マネージャーは微笑む。
「……面白いですね」
数日後。
返答。
【準所属クリエイター契約】
・セキュリティ・法務サポートあり
・案件は選択制
・活動方針は本人主導
完全専属ではない。
でも、守られる。
「……これなら」
みらいは、配信ボタンを押す。
LIVE
同接:12,000
「今日は、大事な報告」
コメントが止まる。
「うち、星彩プロダクションと“準所属”になります」
一瞬の静寂。
そして爆速コメント。
《おめでとう》
《個人やめるん?》
《どうなる?》
「個人はやめん」
はっきり言う。
「うちは、うちのまま」
胸を張る。
「守られる環境は使う。でも、魂は売らん」
コメント欄が沸く。
《かっこいい》
《それがみらい》
《推しててよかった》
同接:15,300
登録者数:21,004
ついに2万人突破。
そのとき。
スパチャ。
【天音ルカ:後輩、かっこよくなったね】
みらいは笑う。
「先輩のおかげです」
少し間。
ルカの次の一言。
【天音ルカ:じゃあ次は、対等やね】
コメント欄がざわつく。
《対等?》
《ユニット?》
《なにそれ》
みらいの心臓が跳ねる。
対等。
もう守られるだけの新人やない。
並ぶ存在。
「……追いつきます」
笑う。
前より強い目。
炎上も。
身バレも。
恐怖も。
全部越えた。
次は――
“並ぶ”。
配信終了後。
事務所からもう一通メール。
件名:
【大型プロジェクト始動のご案内】
参加メンバー:
・天音ルカ
・星乃みらい
・???
物語は、次のステージへ。




