第9話 『画面の向こうやなかったと?』
深夜0時12分。
部屋の電気は消えとる。
スマホだけが光っとる。
みらいは、留守電をもう一度再生する。
———
「…………」
ザ……
微かな、呼吸音。
———
ゾワッと鳥肌が立つ。
「……考えすぎよね」
そう言い聞かせる。
ばってん。
通知。
非通知着信:3件。
背中が冷たくなる。
翌朝。
ポストに、白い封筒。
差出人なし。
震える手で開ける。
中には、紙一枚。
【応援してるよ。昨日の制服、似合ってた】
思考が止まる。
昨日の制服。
それは——学校。
「……うそやろ」
膝が抜ける。
ネットじゃない。
リアル。
繋がっとる。
全部。
その日、学校。
いつもより周囲が怖い。
誰が?
どこから?
見られとる?
前の席の男子(拓海)が振り向く。
「顔色やばいけど」
みらいは紙を見せる。
拓海の表情が変わる。
「……これ、先生に言え」
「でも」
「これはネット炎上と違う」
声が真剣。
「リアルは、別」
その言葉で、やっと現実を理解する。
怖さが、一段階上がる。
夜。
配信時間。
開始ボタンの前。
今日は、迷う。
言うべきか。
黙るべきか。
ばってん——
「隠す方が怖い」
LIVE
同接:5,800
「こんみらーい」
少し間。
「今日は、大事な話があると」
コメントがゆっくり止まる。
封筒の話。
留守電の話。
正直に、全部話す。
チャット欄。
《警察》
《事務所入った方がいい》
《マジで危ない》
《笑えん》
同接:7,200
みらいの声が少し震える。
「うち、正直怖い」
本音。
「でも、やめたくない」
沈黙。
「怖いからやめる、ってなったら」
唇を噛む。
「負けた気がする」
その瞬間。
スパチャ。
【天音ルカ:それは“負け”じゃないよ】
同接:9,100
コメント爆速。
《ルカきた》
《守ってやれ》
続けて、ルカ。
【天音ルカ:一人で背負わなくていい】
みらいの目が潤む。
「……先輩」
通話リクエスト。
配信中。
ざわつくコメント。
「出ていい?」
《出て》
《神回》
カチッ。
ルカの声が入る。
「みらいちゃん」
優しい、落ち着いた声。
「怖いときに続けるのは勇気やけど」
少し間。
「守る選択も、同じくらい勇気」
みらいは、黙る。
「一人で戦わんで」
ルカの声は、強い。
「君は商品じゃない。人間」
チャット欄が静かになる。
その一言が、重い。
みらいの肩から、力が抜ける。
涙が溢れる。
「……うち、ちょっと無理しとった」
やっと言えた。
「ちょっとだけ、配信ペース落とす」
コメント。
《待つ》
《生きててくれればいい》
《推しは健康第一》
同接:10,400
数字が、今は怖くない。
「ありがとう」
「うち、ちゃんと守りながら続けるけん」
その夜。
配信は短めで終了。
翌日。
学校側と保護者、警察へ相談。
掲示板の書き込みも一部削除。
非通知は止まる。
封筒は、今のところ一度きり。
嵐は、少し静まる。
数日後。
みらいのチャンネル。
登録者数:18,320
減らんかった。
むしろ、増えとる。
コアファンが、強くなった。
みらいはカメラの前で、静かに言う。
「うち、ちゃんと生きる」
笑う。
前より、少し大人びた顔。
光だけじゃない。
闇も知った。
それでも——
「バーチャル界に愛と笑いば届けるけん」
声は、前より強い。
ばってん。
裏で動き出す存在。
大手VTuber事務所からのメール。
件名:
【正式オファーのご相談】
物語は、次のステージへ。




